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545 目覚めと帰還


「……リョー……リョー」


 う、なんだ……


 なにか、声が聞こえ……


「たのむ……目を覚ま……」


 静かに、静かにしてくれ、もう、疲れたんだ……


 あれだけの、無茶を、したんだ、もう静かに眠らせて……


「こんなの、こんなの、ボクはどうしたら……」


 俺みたいな雑魚が、『勇者』を返り討ちにしたんだ、これだけの手柄なら、このまま死んだって悔いは……


「そ、そうだ、まだ薬が有ったはずだ」


 ん、何を考えてるんだ俺は、ヤスエイを倒したぐらいで、我が人生に一片の悔いなし、なんて事になる訳ないだろう。


 俺はまだやる事が有るんだ、少なくともウチの子達が路頭に迷わないように、出来る限りの事をして日本に、まだ向こうに残ってる案件だって……


「ん、うう」


 重たい瞼をなんとか開けたら、目の前に斧を持ったまま中腰で覗き込んでくる、ゴツイオッサンの顔が。


「む、ラーン卿、使節官殿が目を覚まされましたぞ」


 いや、オッサンじゃないトマホークか。


 というか、トマホークを持ったまま話しかけられるのは怖いんだけど、いやトマホークはコイツのアイデンティティみたいなものだから、仕方ないのか。


 でも、俺が壁にもたれて座り込んでるような状況で、見下ろすように覗き込まれるっていうのは迫力がさ、しかも目覚めた直後にとか……


「え、リョ、リョー、よかった、よかった、お前にもしもの事が有ったら、ボクはボクは」


 少し離れた所で、荷物を漁ってたヤッカが、半泣きの顔で俺の方を向き、いきなりこっちに向かってダッシュしてくる。


 てっ、えええ


「よかった、ほんとうによかった、ホントに、ホントにどうしようかと思ったんだ」


 ヤッカがいきなり俺に飛びついて来て、俺の胸元で泣いてって、どういう状況これ。


「いやはや、我ら一同肝が冷えましたぞ使節官殿、貴殿の護衛を命じられておりながら、万が一の事態と成れば、我ら伯爵閣下になんとお詫びすればよい事か、ラーン卿などはこのまま貴殿を追って殉死しかねぬほどの勢いで有りましたしな」


「殉死って、そのような事ある訳が無かろう、何を言われるかトマホーク卿、ボクは、ボクはただ、一族の恩を返す事だけを考えているだけで、別に個人的に、コイツの事をどうこう想ってるわけなんかじゃ……、ん、あれ……」


 俺に抱き付いたまま、顔をトマホークの方に向けて反論していたヤッカが、途中で言葉を止め、何かに気が付いたかのようにゆっくりと俺の方へと顔を戻し、俺の顔を見て、抱き付いていた胸元を覗き込み、また俺の方を見上げて来て。


「こ、こ、こ、こ、これは、これはちが、ちがう、ちがうんだあああああ」


 あ、跳び起きると同時に走って行っちゃった、って、不味くないか『迷宮』の中で一人、いや何人か追いかけて行ったから大丈夫なのかな。


「まったく、この程度の事で取り乱すなど、精神鍛錬が足りませぬな。トマホークを投擲する時には冷静かつ迅速に狙いを定めねばならぬと言いますのに」


 トマホークが呆れたようにヤッカを見送ってるけど、いいのかあれ。


「おや、旦那、ごゆっくりお休みになられてたようで、いやー、心配したんですぜ、隠し場所候補の見落としがねえか、一人で隠れながら迷宮内をまわってたら、一番怪しいと睨んでた部屋の方からとんでもねえ量の煙が流れて来て何かと思ったら、その部屋の手前で旦那が寝込んでるんですから」


 そうか、俺はヤスエイを倒して、そのまま、いや、何とか部屋の外まで移動して力尽きたのか、ヤスエイが苦しんで倒れたのまでははっきり覚えてるんだけど、その後の事はクスリを吸い込んだせいか記憶があいまいだな。このままじゃヤバいと思ったのはなんとなく覚えてるけど。


「それで、慌てて、他の場所へ向かってた騎士様方を呼びに行って、来てもらったんですが、こんな所で寝るたあ、流石余裕ですねえ、ですがあっしは本気で心配したんですぜ、旦那に何かあったらと」


 いや、寝てたんじゃなくて、死にかけて倒れてたんだけどな。しかしコイツも俺の事を心配してくれたのか、ちょっと意外だったかも。


「何せ、もしも旦那が死んじまったら、伯爵様から貰える報酬の大半がパアになっちやいますからねえ、何とか必要経費を回収できれば御の字みたいな状況じゃあ、あっしも食っていけやせんから」


 そうだよな、お前はそう言う奴だよな、金が第一って、まあそいう言う奴だからこそ、払った金の分だけはしっかり仕事をしてくれるって信用できるんだけどさ。


「しかしまあ、旦那も無理をしやしたねえ、目標をはっきりさせるための偵察だってえのに、一人でやっちまうんですから。たぶん護衛の連中を全滅させて、クスリを丸ごと焼き払っちまうたあ、旦那はやる事が違いやすねえ」


 たぶんって、あいまいな言い方をするな。まあ、俺が全滅させたわけじゃないから、逃げ延びた奴がいても、いやあのヤスエイの口ぶりじゃあり得ないか。


「まったく、あの部屋に小さな穴が幾つか開いてて、それが通気口や煙突の代わりになったのか、結構な火力で丸ごと全部燃え尽きちまったようなんでさあ。おかげで死体も何も灰になっちまってて、骨も大半が熱やらなんやらで崩れたり砕けてたりで、まともに残ってるのが少ねえんでさあ。んなもんで、ここに居た連中の正確な人数も身元や所属もさっぱりでしてねえ」


 そんなに燃えてたのか、あの部屋に居たら俺も間違いなく焼け死んでただろうな。


 しかしそうなると、ヤスエイが死んだっていう根拠は、俺の記憶しかない訳か、神官長さんを納得させるにはもっとしっかりした証拠が必要そうなんだよな。


 それこそ生首とか、まあ斃せたのは間違いないんだろうけど、アイツが無事だったら気絶してた俺に止めを刺さない筈はないだろうから。


 いやでも、ヤスエイ倒した時には、その死体が誰かに悪用されないようにしてほしいっていうのも前に言われてたか。なら結果オーライなのかな。


「とりあえず金属類や耐火耐熱系の効果が付いていた物品なんかだけが残ってて、それで何となくの人数は予想できましたけどね。ああ、そうだ、そこら辺の物は旦那が倒したんですから旦那の戦利品って事で、灰の中から見つけれた物は回収してそこに纏めて有りやす」


 そう言って、テトビが指さす先には金属製の装備品や幾つかの装飾品、硬貨なんかが置いてある。


「まあ、大半は熱で歪んじまってるんで、そのまま使うのは難しいでしょうね。一度鋳潰してインゴットにしてから再利用って感じにすりゃ、そこそこの金にはなるんじゃねえですかい。ああ、そうだそうだ、熱にも耐えれた業物っぽい装備品が幾つかあったんでさあ。見た目も名品ぽいんですが、あっしの熟練度の低い『鑑定』じゃ読めませんでしたし、護衛の方々も『鑑定』を持ってねえらしくて、ああ、そういや旦那も『鑑定』をお持ちでしたね。どうですかいこいつ等が何なのか読めやすか」


(おお、なんともこれは、これで十分な証拠になるのう)


 そう言ってテトビが持ってきたのは『薬師の創薬刀』と『騎士の消撃盾』の二つだった。








「それじゃあ旦那、無事に目的も達成した事ですし、早いところ地上に戻るとしやしょうか」


「そうですな、急ぐといたしましょう使節官殿、今この時もミン村の民達は『紅熱鶏蜱こうねつワクモ』による病魔で苦しんでいるはず。早く助けねば、者ども出立だ」


 トマホークが、全員に指示を出し兵士達が慌てたように動き出す。いつの間にか戻って来てたヤッカも自分の荷物を担いで立ち上がってる。


 そうだよなそもそも俺達はミン村を救うための薬を取りに来たって名目で、この『迷宮』に入ったんだもんな。いや待てよ……


「テトビ、急ぐのなら『授翼の雫』を手に入れた時点で、誰かに届けに行ってもらえばよかったんじゃないのか」


 この『迷宮』を『鎮静化』してから、各所に偵察を放って、結果としてヤスエイと戦う事になって、その後どの位かは解らないけど寝込んでたっていうのなら、かなりの時間を無駄にして来たんじゃないのか。


 本来なら、病気との戦いは時間の勝負になるはずだろう。


「ミン村だけの事を考えれば、確かにそうなんでしょうが、お忘れなく。旦那の現在の最優先は、今行われている戦いを止めることでしょう」


 いや、それはそうだけど。


「旦那や騎士の方々がこの『迷宮』に入る事となった表向きの理由は、確かにこの『授翼の雫』の入手でさあ、だからこそこの薬を手に入れた旦那等が、この『迷宮』に留まる事は出来やせん。それなのに一部の部下に薬を託して、旦那が『迷宮』に残るってなりゃ、何か別な思惑があるんじゃねえかって事になるでしょう」


 まあ、実際クスリの廃棄って目的がメインなんだから……


「たまたま、貴族達が入って欲しくないこの『迷宮』に旦那が入る理由が出来て。たまたま、旦那がこの『迷宮』にいる間に集積所が壊滅した。まあ、これに関しちゃヤスエイっていう異常事態が有りやすが、それでも、二度もたまたまが続きゃあ、怪しく見えて来るもんでさあ。だっていうのに、それに追加して、たまたま、旦那には薬以外にもこの『迷宮』に用事があったようだ。なんてなりゃ疑ってくださいと言ってるようなもんですぜ」


 ああ、確かにそう言われるとそうか。


「てなわけで、先に薬を外に出していれば、ミン村で助かる人間を数人増やせたかもしれやせんが、その分だけ、貴族達から痛くもねえ腹を探られ、おっとこれじゃ意味が違いやしたね。腹に一物どころか二つも三つも抱え込んでる所を探られて、神殿と王女様の交渉の席を用意するのに影響してたかもしれやせん。それで戦争が継続すりゃ被害や死者は村人数人の比じゃありやせん。損得で考えりゃ、間尺に合いやせんぜ」


 そうか、いや迷っている暇はないか、少しでも早くこの薬を届けて、そして神官長さんとの交渉を進めないと。


「ご安心ください、勇者様は御自分の能力の許す限りの中で、現状では最も被害が少なくなる、最良の道を選ばれています。いえ、戦争の引き金を引く様に勇者様へお願いした、神殿の傘下であるわたしの言える事ではないですか」


 なにか、テトビが口を小さく動かしてるけど、声に出してないからわからないな、まあコイツの事だから儲け話でも考えてるんだろうけどさ。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、そうやって誤魔化しましたか。 リョーは勇者の武器が手に入って、神殿は勇者の死体を手に入れた。最良の結果といえるでしょう。勇者の遺体、鑑定結果さえ誤魔化せれば、様々なことに使えそうで…
[一言] 相変わらず塩梅が良いですな。ウサギさんは。
[良い点] 最後のテトビがなんかかっこよく見えた [一言] ヤスエイのなめし革 ヤスエイの肝の秘薬 ヤスエイの骨剣 ヤスエイのヤバジュース などなどやばいのが思いついてしまう。
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