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54 聖馬の報酬

うーん、なかなか話が進まないです。

 さてと明後日には薬が全部上がるそうなので、それまで待機になったんだけど。


「と、とっとと」


「遠くを見てバランスを取るんだ、振動に無理に逆らうな」


 今俺は、カミヤさんの訓練所で乗馬の練習をしてるんだけど、これがなかなか。


『寒暑の岩山』から来た時はヤッカにしがみ付いていただけだから問題なかったけど、今回は自力で早馬を走らせてレイドの街まで行かなきゃならないから、こうして練習してるんだけど。


「手綱をしっかり持て、姿勢を崩すな」


 なかなか上手くいかないな、これはラクナに頼んで夜に特別訓練するしかないな。二晩だから二年分かそれだけ有れば何とかなるだろう。


「リョー殿、頑張ってください」


 訓練所の隅からかけられた声は多分、キリちゃんだろうな。カミヤさんの娘で御年13歳、何でそんな子がここに居るかというとこのあと俺と剣の練習をするためなんだけど。


(すっかり懐かれてしまったのう)


(ここ数日は、ずっと俺が剣の指導したからな、しかしなんでまた俺なんだ)


 カミヤさんが直接教えればいいんじゃないかな、あんなに強いんだし『勇者』なんだし。


(アキラなどは高いステータスやスキル頼みになってしまい、基本自体は雑になって来ておるからな。初心者に教えれば悪い癖が付きかねん。領軍の兵士も高レベル者になればなるほどそういった傾向が出やすいのじゃ)


 だからってなんで俺なんだ。


(それに比べてお主は、ステータスも低くスキルも無いゆえ、熱心に儂の訓練を受け技術だけで言えば一流と言えるまでになったからのう。初心者に基礎を教えるのならば申し分ないじゃろうて)


 どうせ俺は雑魚ですよ……


(ええい、人が珍しく誉めていると言うのに、悪くとって拗ねるでない、お主の悪い癖じゃぞそれは)





 乗馬の訓練でくたくたになってから、キリちゃんと数本の練習試合をしたり型の復習をしてから俺はやっと自室に戻った。


「リャーおかえりー、あれーリャー疲れてるー」


 ドアを開けると同時に抱き着いて来たアラを抱きとめる際、少しふらついた事で俺の疲れに気付いて心配してくれるとは、やっぱりいい子だなー


「お疲れ様でした、お茶が入っております」


 アラを下ろすと同時にサミューが大きな器に入った緑茶を出してくれる。


 この館に来るまでは紅茶しか出てこなかったんで、緑茶は無い物だと思ってたんだけど。カミヤさんに言わせれば紅茶も緑茶もウーロン茶も発酵のさせ方が違うだけで、元は同じ茶葉だから紅茶が有れば緑茶も飲めるって事なんだけど。


 ファンタジー世界で緑茶やウーロン茶ってのは違和感あるなー、まあかき揚げうどん食べといて今更な気もするけど……


 それに、カップだけは洋風ってのは違和感あるけど。ミーシアやハルは気にしないで飲んでるなー


「ありがとう、お、冷えてるね」


「はい、領主様の侍女さんから運動後等は冷やして飲まれる場合もあると聞きましたので、魔法の練習を兼ねて冷やしてみました」


 あーなんか自販機で買ったペットボトルのお茶を思い出すなー


 夏場の営業の時なんかは、何度あれに助けられたことか。


「ところでリョー、乗馬の訓練をしているらしいですけれど、サミュー達は良いのかしら」


 お茶を飲み終えたハルがこちらに向き直って聞いてくる。向かいの席に座ってるミーシアは御茶うけに出されたお菓子を幸せそうに食べてるけど、うーん見ているだけでこっちも幸せになる様な笑顔だなー


「そうだな、必要になる時が有るかもしれない。機会が有れば皆にも練習してもらおう」


「そうではありませんわ、今回はどうするのかと聞いているのですわ。わたくし達には詳しく聞かされておりませんけれど、急がなければならないのでしょう。あなただけが馬に乗れてどうするのかしら。わたくしはともかくサミューやミーシアに乗馬の経験などないでしょうし」


 ああ、そう言う事か。


「それなら大丈夫だ、レイドの街には俺一人で行く、みんなは馬車で後から来てもらう。と言ってもレイドに行くのではなくどこか別の街で落ち合うことになるだろうが」


「またですの、ほとほと単独行動がお好きですのね」

「リョー様、そんな、わ、私もお供します」

「御主人様、ミーシアちゃんの言うとおりですよ」


 やっぱりこうなったか、あれ、アラの声が無かったな。ん、足に感触が、アラがしがみ付いてるな。


「リャー、一人で行くのはめーよ、アラも一緒に行くの」


「ダメだ、レイドの街にはユニコーンで稼ごうと冒険者が集まっている、特に『寒暑の岩山』で会った連中も向かっているはずだ。解るだろう、あそこで鉢合わせるかもしれないんだ」


 出来れば言いたくなかったけどさ、実際に会うよりはましだよね。サミューがあのマイラスとかってクソガキに会った時の事を思い出せば、また同じ事になる可能性があるし、そうなったらどうなるか。


 ハルにしても、あの兄貴に何を言われるか解ったもんじゃないし。


「それは……」

「そうは言いますけれど、わたくしは」


 うん、やっぱり連れて行けないよな、二人も解ってるみたいだし、なにが有るか解らないから精神的に無理はさせられないよね。


 それにレイドの街はみんなが売られていた街のすぐ隣だしね、いい思い出は無いだろうなー


「ミーシアも残って皆を守ってくれ、俺のいないときに何かあればミーシアの盾が頼りだからな」


「は、はいわかりました」


「すぐに戻る、薬を届けて金を貰うだけなんだからな、『薬師の森』近くの街に行っただろう、あそこで待っていてくれ」


 あそこなら、ちょうど通り道だし、そんなに離れてないから終わればすぐに合流できるもんね。


「分かりました。お待ちしていますので、出来るだけ早くお戻りください」

「仕方ありませんわね」

「ど、どうか御無事で」


 あれ、また足りないな。


「リャー、アラはやーよ、アラも一緒に行くの」


 うーん、いつもいい子なのに、今日はどうしたんだろう。


「アラ、すぐに帰ってくるから良い子で待っててくれ」


「いい子じゃなくていいもん、悪い子ならリャーと一緒に行けるの」


 あれ、そんな……


「アラ、頼むから、それに馬に乗れないだろう」


「乗れるもん、それにアラ重たくないもん、リャーが軽くなればお馬さんも大丈夫だもん」


 う、うちの子はいつの間にこんなに賢くなってくれたんだ、この子は天才だ、きっと将来は学者か大臣に、そうじゃなくて。確かに『軽速』を使えば馬の負担はアラの体重分だけだし……


 いやいやダメだ、なにが有るか解らないんだから。


「ほらサミューと一緒の方が美味しい物食べれるぞ、ミーシアと一緒なら夜フカフカだし、ハルは色々お話ししてくれるかもしれないぞ」


「なぜわたくしがそのような」


 黙れ鳥、ここは空気を読め。


「やー、リャーとがいーの、サミュが来る前はリャーとアラで一緒だったもん、それでもアラよかったもん、リャーが一緒なら大丈夫だもん」


 な、なんてうれしい事を言ってくれるんだ、うんうん、やっぱりこの子と離れるなんて考えられない。一緒に連れて……


 じゃなくて。


「ダメだ、なにが有るのかわからないんだから、アラは連れて行けない」


「だから、アラが行くの、リャーは一人で居なくなるといっつも怪我してるんだもん」


 う、いやそんな、アラが俺のこと心配してくれるなんて。


「リャーが怪我しちゃめーなのー、リャーはみんな守ってるけど、いっつもボロボロだもん、そんなのめー、アラがリャー守るのー」


 そんなうるんだ瞳で見つめてくるなー、決心がー決心が鈍るー


「アラちゃんそんなに御主人様のことを。周りが子供だと思っていてもしっかり成長して、物事をきちんと見ているものなんですね。御主人様、アラちゃんを連れて行く訳には行かないんですか」


 エロメイドー、お前はどっちの味方だー


「だめなのー」

「御主人様」

「リョー、そろそろ諦めたらどうかしら」

「リョー様、アラ様がかわいそうに見え……す、すいません」


(四対一じゃな、もう無理じゃろう)


 いやでもね……







「リョー殿、少しよろしいか」


 朝、ため息をつきながらサラダを突いていた俺に、長老が話しかけてくるがなんの用だろ。


 ちなみにアラは俺の片腕を掴んだままニコニコしている、昨日の夜に俺が折れてから、ずっとこのままだ、絶対に逃がさないと言った感じでトイレに行った時ですら付いてきた……


 今は子供だから良いけど、大きくなってこれをされたら俺はどうすればいいんだろ。


 いやそれよりも、今は長老の話だよな。


「大丈夫ですが、どうしたんですか」


「うむ今迄に出来た分の薬を渡しに来たのだが、ついでに報酬の話もしておこうと思ってな」


 長老が出してきたのは『馬のふん(略)』と『聖水(略)』がそれぞれ数個、これだけ有れば十分かも、今日中に出発しちゃおうかな。


 まあいい、報酬か、これからはユニコーンも豊かになるんだから期待できるかな。


「報酬ですか、一体なんでしょうか」


「うむ、現金は無いので物納ですましたいのだが」


 物納、やっぱり角かな、でもあれは禁制品だし、それとも他にお宝が有るのかな。


「いったいどんなものでしょう」


「伯爵の話では、最低でも金貨40枚分にはなるらしい、今回の者は質が良いと思うので数倍はするだろう」


 それはなかなかの代物だよな、金貨数百枚分のお宝っていったいなんだ。


「実はだな、ヤッカを贈ろうと思っている」


 は、なに、このジジイ今なんて言った。


「これほどの御恩を返せるほどの、価値あるものは我らの一族の者自身を除いては他に無いのでな。リョー殿の好みに合いそうな年代で未婚の者となるとヤッカのみだが、あれはそれなりに整った容姿をしておるだろう」


 まさかこのジジイ、うちの奴隷達を見て俺の事を勘違いしやがったな、違う、断じて違う、俺はそんな好色じゃない。


「必要ならば、伯爵に頼んで『隷属の首輪』も用意してもらえる」


 ふざけるなよ、そんな勝手に人の事を物みたいに。


「ヤッカに悪いでしょう、報酬としてだなんて」


「いやこれは本人も納得している」


 まさかそんな事がある訳ないだろ、ヤッカだぞ、あのヤッカなんだぞ。


「その証拠に、リョー殿はヤッカの上に乗ったのだろう」


 なんだ、その勘違いされそうな言い回しは、確かに伯爵領に来るとき『獣態』をとったヤッカの背中に乗って運んでもらったけどさ。


「本来ユニコーンは乙女しかその背に乗せぬ物なのだ」


 そう言えば、みんなの事は乗せてたけどサミューだけは乗せなかったな、そう言う事なのか。じゃあ俺はどうなるんだ。


「例外は主として認めた相手だけだ、つまりお主はヤッカの主となる資格が有る」


 そんな急に言われてもさ、なんか裏が有りそうだな。


「どうじゃ、リョー殿から見ても容姿は悪くないだろう、ああ見えて料理も出来るし、わが一族の者は主と認めた相手には従順だぞ」


 なんだよこれどうなってるんだ、従順ってうそだろ。


「そんなにヤッカを俺に押し付けたいのか」


「リョー殿はそんなにヤッカが嫌なのか」


 いや、そうではないけどさ……


「本人も望んでいるのだ、好きに扱うと良い。子が生まれた際はユニコーンの血を継ぐ子を連れて歩くのは危険だろうから、村で預かろう」


 なんだその段取りの良さは。


(なるほどのう、話が見えたぞ)


(どういう事だ、なにがどうなってこうなってるんだ)


(子が欲しいのじゃろう、アキラが相手の候補を探すとは言え、どんな相手が来るか解らぬ、その点お主は数十人を一人で倒した実績が有るからのう、『魔道具』頼りと知らぬ者からすれば、お主が高ステータスだと思うじゃろう)


 あれか、親のステータスが高いと、子のステータスも高いって……俺は種馬か、いや相手は確かに馬だけどさ……


(ユニコーン族にとって期待の若手であるヤッカの相手としてふさわしいと思われたのじゃ、光栄な事じゃろう。受け取ってはどうじゃ、『幻術』を扱うユニコーンに、お主の異常な魔法系ステータスが加われば、どれほどの物になるか)


 このバカ首飾り、他人事だと思ってふざけた事を、そんなことしたら身の破滅じゃねーかよ。


 サミュー一人でも押し倒されそうだってのに、そんな目的でヤッカを押し付けられて、万が一にも迫られようものなら……


 うん、受け取れないな、とはいえ理由はどうしよう。正直には言えないし。


「たとえいらぬと言っても、無理やりにでも受け取ってもらうぞ」


 これは言葉じゃ無理かなー





 その夜、俺達はカミヤさんだけに挨拶して、ユニコーン達にばれない様に、街を脱出した。


『ヤッカとうちのパーティーメンバーではレベル差が有るので、危なくて受け取れません。もっと自分を磨いてから合流するよう伝えてください』


 とりあえず理由としてそんな書置きだけは残してきたから、これで諦めてくれるといいなー


H27年2月16日 誤字、句読点、一部台詞修正しました。

H27年4月23日 誤字修正しました。

h27年6月10日 キリの説明から末娘という部分を削りました。

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