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498 足りない薬


「やはり足りないな」


 あの薬はカミヤさんの所で作ってるから、この間追加で貰ったんでそこそこの量が有ったけど、それでも数はきちんと把握してたからね。


 サミュー達に渡してある分や今回の護衛任務で使った分、それに逃がした馬の荷物に入れてた分を計算すれば、俺の小物袋やポケットなんかには19個残ってたはずなんだが、今ここには16個しか残ってない。


 なら足りない3個は何処に行ったんだ。


「こ、この件に関して、弁明させて頂くと、こちらの薬はクレイモア子爵令嬢が事件現場で、近衛副長をだまし戦利品名目で貴殿より略取した物で、我ら法務部へ証拠品として提出された貴殿の持ち物の中には含まれていませんでした」


 ああ、そう言えば、確かに俺がマインにやられた時にあいつがそんな事を話していたか。


「事態が判明して、我らは直ちに盗品売買事件として捜査し、クレイモア子爵家に残されていた三つを始めとし、売却あるいは譲渡された薬を回収いたしました。中にはかなりの額や利権をクレイモア家に渡していながら、それをクレイモア家がライワ伯爵家への賠償に当ててしまい、回収不能となって返還を渋る家や、ライフェル神殿との戦に向けなんとしても薬を確保し続けようと、脅迫や賄賂を持ちかけようとした家も有りましたが、何とか説得しこれだけの数を回収する事が出来ました」


 まあ、この薬の効果を考えれば相当な額になったんだろうし、戦争に行くんだから何かあっても助かる薬を保険に持っておきたいっていう気持ちはわかるか。あのラッドやフレミラウみたいなのを相手に戦うんだからな。


(ふん、偉そうなことを述べておるが、お主の背後にはカミヤが居るのじゃぞ、その名を出せばこの国の貴族がいくらあの薬を手元に置いておきたいと思ったところで、あ奴が敵に回るかもしれぬと考えれば最後には折れるのは目に見えておろうて)


 そう言われると確かにそうか、あのカミヤさんを怒らせたくないから、クローニ達もこうやって俺に便宜を図っているっていうのにあの人からもらった薬を返さないなんてなったらね。


(死にかけても助かる薬と言えども、一度きりの物じゃからのう。それを失うよりも、戦いとなれば薬を使う間もなく絶命、あるいは回復できてもその度に半死半生の身にさせて来るような相手を敵に回す方がよほど恐ろしかろうて)


 うわあ、カミヤさんってどんだけこの国に恐れられてるんだろう。まあいい、今はこれを利用しないと。


 いや、ちょっと待てよ、今気づいたけどこれって不味くないか、足りない3個がもしもヤスエイの手に渡っていたら、アイツの持ってる勇者の武具『薬師の創薬刀』に、馬のふんが登録されようもんなら……


ただでさえシャレにならないラスボス位に強い『勇者』だっていうのに、追い込んだらフル回復するとかくそげーなんてレベルじゃなくなるぞ。以前に襲撃された時だってせっかくサミューが隙をついて毒を食らわせたっていうのに、あっさりと回復されて、『剣狂老人』が来なければどうなってたか分からなかったもんな。


「それで、足りない三つの薬のありかは解っているのか」


「ひっ」


 あ、ヤバい、ヤスエイを気にして焦ったせいで口調や態度がきつい物になっちゃってる。これじゃあ、俺カミヤさんの影響力を利用して偉ぶってる、チンピラみたいじゃ、いや俺はそうやるべきだから問題ないんだろうけど、それでも交渉相手を意味も無くビビらせるようじゃさ……


「じ、実は、その三つの薬なのですが、購入の時点で既に使用用途が決まっていたらしく、我らが調べ終えた時点でもう使われた後でした。一応回復した者の名前と以前の状態、回復後の現状は調べていますが」


「そうか」


 使われたって事はもうないって事だから、ヤスエイに複製される恐れはなくなったって事かなら問題はないか。いやでも、これはこれで交渉の上では問題というか手札になるのか、ライワ家側としては盗品を勝手に使われたって事になるんだから。


 この世界の常識、というかカミヤさんとこの国の連中との力関係で考えれば、盗まれた物とは知らなかった私達もマインに騙された被害者だから、なんてふうな話をされても、突っぱねられそうな気がするから。


「それでなのですが、三つの薬のうち二つを購入し使用した家であるカイライ伯爵家が、弁明と謝罪の為に『使節官』殿を自宅に招待したいとの事でして。いつ御来訪頂いても構わぬよう、歓迎の用意を整えているとの事、またもう一つの家であるフリム公爵家も同じように歓迎の用意をしているとの事です」


 あ、もうそう言う風に話が出来てるんだ、こういう揉め事になりそうな交渉事のセオリーだと、向こうの事務所とか家みたいな相手のホームに行くのは、それだけで向こうに主導権を渡す事になるから避けるべき、なんて教わったけど、まあこの状況なら大丈夫かな。






「カイライ伯爵家にフリム公爵家ですかい、どっちも大物ですねえ」


 馬車に戻って、次の行き先を言った瞬間にテトビが反応してきたけど、コイツは良く調べてるな。


「有名な家なのか」


 まあ、マインはあの薬によっぽどの値段を付けたんだろうから、それだけの金持ちか、でなきゃアイツの実家が伝手を欲しがるような実力のある家って事なんだろうな。


「そうですねえ、フリム家は建国時からの大貴族でして、初代国王の妹夫婦が起こした家で、何人も王家の姫が当主の妻として降嫁してやして、中には王子が婿養子として入った事も有るそうで初代王から数えた血の濃さで言えば、王家よりも濃いんじゃねえかと言われてやすし、降嫁が有る度に持参金代わりに領地やら権益やらを下賜されて、それらを全部合わせた領地面積や財力・兵力は貴族でも随一と言われてやす。まあ領地が色んな所に分散されてやすんで、一纏めで運用するのは難しいようで、実際に動かせる戦力はそれほどでもねえようですが。分散している分いろんな地域や家に顔が利くようですがねえ」


 それは確かに有力者だな、王家と近くて、いろんな貴族に影響力があって、金も持ってると。


「誰が薬を使ったかは、解るか」


「おそらくは当主のシルバー・ティア・フリム公爵閣下じゃねえかと思いやすぜ。八年前に『大規模討伐』の指揮をとっていた最中に、直ぐ近くでいきなり湧いた魔物に襲われちまいやして、返り討ちにしやしたが両足と左腕、右目に深手を負って潰されたそうでして、長年、高価な薬やら回復魔法やらで治療を続けて、形こそ元に戻ったそうでやすがね機能はまだ戻らねえんで、車椅子を配下に押してもらわねえと、自分の部屋から出る事も出来ねえらしいでさあ。とは言え片手と片目それに口は無事なんで、指示を出したり書類を確認して署名するなんてのは出来るそうですんで、未だに家督を息子に譲らずに当主のままらしいんですが、それでも社交やら式典やらの場に行くのは難しいですし。野外の視察や戦争や迷宮対策なんかの荒事で陣頭指揮を執るってのもきついでしょうからねえ」


 ああ、多分現役バリバリで働いてた人なんだろうな、なのにそんな状態になったっていうんじゃ、そりゃ元に戻れるなら大金も惜しくはないか。


 いや、今重要なのは……


「その、公爵は今回の戦争に関してどういった姿勢で当たっているんだ」


 相手が主戦派なのか、神殿派なのか、それとも中立なのか、それ次第で交渉の内容が変わってくるかもしれないからな。


「そうですねえ、主戦派よりの中立と言ったとこでしょうかねえ、お家自体は相場なんぞに手を出さねえでも十分金がありやすから、家計も安定して神殿から借金をしてやせんが。付き合いのある家に泣きつかれてるんで、戦争に表立って反対しにくいって感じでしてね」


 うーん、それならこの一件で貸しを作っておけば上手くすれば、公爵とその派閥を神殿側に引き込むのは無理だとしても、中立にさせる位は出来るんじゃないだろうか。そうすれば主戦派の影響力を削る事にもなりそうだし、参戦する家が減れば終戦が速まるかも。


「もう一つの家、カイライ伯爵家の方はどうなんだ、知ってるんだろう」


 考えてみれば今から行くのはこっちの家なんだから、こっちを先に聞いとくべきだったかも。


「へい、もちろんでさあ、こっちの御家も名門でして、過去に5回、宰相を輩出して一時的に侯爵家になった事も有りやす。もっとも、ここ数十年は宰相位と一時的な侯爵位はモナ家が独占してやすが、それでも過去に歴代当主が政略結婚を繰り返して築いた人脈ってのは相当なもんですし、宮中でも相当な影響力がありやす」


 それならこっちの家も、交渉次第では色々といい流れを持ってこれそうな気がするな。


 確かにテトビがどっちも大物という訳だ、しかしカイライ伯爵家は二つも薬を買ったっていう事だが、本当に二つとも使ったのかな、実は一つしか使ってなくてもう一つはイザって時の為に取って置いてるとか、いやクローニ子爵は薬を使った人物も服用前後の状況も調べてるって言ってたよな。


 てことは、あの薬が必要になるような重傷者が二人いたって事か。


「テトビ、カイライ伯爵家は誰に薬を……」


「おや、もう霊亀れいき門が見えてきやしたね。王宮の北門であるあの黒い門が見えて来たって事は、そろそろカイライ家の屋敷に着きやすね、詳しい話をしてる暇はありやせんが、まあ問題はねえでしょうや、あの家の御当主は善人らしいですし、詳しい話は時間が無くてできやせんが、薬を何に使ったのかも想像がつきやすから」


 テトビがそこまで言ったところで馬車が止まってドアが開けられたんだけど……


「え、これって」


「おやおや、こりゃあ旦那はともかくあっしは不味いですかねえ、伯爵閣下と御婦人をこんな風に見下ろすってのは」


 じゃあ、やっぱり、馬車の真ん前で真っ白な服を着て土下座してるのって、カイライ伯爵夫妻って事なのか。


 しかもこの白い服、アニメの王子様とかが着てる真っ白なスーツや礼服って感じじゃなくて、どっちかっていうと時代劇で見そうな……


(これは、白装束、かつての『勇者』が持ち込んだ死に装束じゃのう)


 やっぱりか。


R2年5月25日 誤字修正しました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「そうですねえ、フリム家は建国時からの大貴族でして、初代国王の妹夫婦が起こした家で、何人も王家の姫が当主の妻として降嫁してやして、中には王子が婿養子としては言った事も有るそうで初代王か…
[一言] めちゃくちゃ気になる所で終わった。。。(lll __ __)バタッ、色々なパターンが考えられるけど、どうなるか楽しみ
[良い点] ヤスエイに行かなくてよかったな。 そして傀儡……おっとカイライ家は初手土下座。 しかも死ぬ覚悟有りか。 まあ下手したら治したのにカミヤさん敵に回して割りに合わないにも程があるもんなぁ…
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