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50 奴隷娘の三者三様とプラス2 ~ サミュー

お待たせしました、やっとサミュー編が出来ました。

また長くなってしまいました……

ごめんなさい。

しかし、偶然とはいえ記念すべき五十話をサミューさんで飾ることになるとは……

「ご主人様、アラちゃん、食事の用意が出来ました」


 ご主人様に言われた通り馬車に残っていた食材を全部使いました、もしかするとこれが最後の食事になるのかもしれないんですから、一生懸命美味しい物にしたつもりです。


 なにしろ私たちはこれから『迷宮』に入るんですから、まさか私が『迷宮』に入る日が来るだなんて思ってもいませんでした。


 やはり少し緊張しますね、亡くなったお父様も初めて『迷宮』に入った時はこんな気持ちだったんでしょうか。


 作った料理を盛り付けると、ミーシアちゃんがみんなに回してくれるけれど味はどうでしょうか。


 料理には自信が有りますけど、まだみんなの好みを把握しているわけではないので、気付かないで嫌いな物を出したりしてないといいんですけど。


 解っているのは、ご主人様は精進物しか食べないこと、ハルさんとミーシアちゃんは逆に肉類を好んで食べる事、アラちゃんは今のところ好き嫌いが無いみたいだけど。


 こうも正反対の好みですと献立を考えるのが大変そうですね。


 とりあえず今日は上手くいったみたいです。みんなが美味しそうに食べているのを見るのは、作った方としては嬉しい事ですね。


 見る見るうちに料理が減って行ってますし。


 あら、ご主人様の食が止まってますね、お口に合わなかったんでしょうか。


 いえこれは何か考え込んでいるみたいですね、もうみんな食べ終わって指示を待っている状態なんですが、声をかけるべきでしょうか。


 みんな待っている事ですし、ここは最年長の私が代表して声をかけるべきでしょうね。


「ご主人様」


 反応が無いですね聞えてないみたいです。声だけではだめそうですね、とはいえ主の体を揺すったり叩いたりするのは問題が有りますし、となると仕方ないですね。


 ご主人様の手を取ってわたしの胸に当てます、この感触で気付いてくださるといいんですけど。


「ご主人様」


 どうやら気付かれたみたいですね、目線を動かしてわたしの胸と御自分の腕を確認されてますし間違いないでしょう。もしも、このまま揉まれたらどうしましょうか、色仕掛けとしては成功ですけど、お子様たちの目もありますし。


「何をしているサミュー」


「ご主人様がぼーっと考え込まれていましたので心配しました、こうすれば気付けの代わりになるかと思いまして」


 予想通り大成功でしたね、色仕掛けの効果はなさそうですけど。


「次からはもっと別なやり方で頼む」


「そんな、ご主人様ったら、もっと過激な方法を取れとおっしゃるんですか、アラちゃんやミーシアちゃんもいるっていうのに」


 今度は直接素肌を当てるべきでしょうか、それともいっそ下の方で……


「全員食べ終わってるなら『迷宮』に行くのに必要な準備を始めよう」


 誤魔化されましたね、この位の誘惑ではだめですか。





「ま、魔物ですか、頑張ります」

「『迷宮』の中で生きているのは、初めて見ますね」

「がんばうー」

「わたくしの魔法を見せて差し上げますわ」


 まさか『迷宮』に入ってすぐに魔物に襲われるとは思いませんでした、『迷宮』がこんなに恐ろしい所だとは。


「壁を背にしろ後ろを取らせるな、俺とミーシアで壁になる」


 ご主人様はともかくミーシアちゃんは大丈夫なんでしょうか、まだ子供と言っていい歳なのに。


「この距離でしたら、届きます」


 こちらへ向かって来ようとしていた蝙蝠を狙ってムチを振るいましたが、ずいぶんと簡単に当たりましたね。しかも一撃で落ちて動かなくなるとは思いませんでした。


 まさか倒したんでしょうか、これでしたら私でも戦えそうですね。


 こうしている間にも皆さんはどんどん魔物を倒していきますけど、何よりもご主人様が広間を縦横無尽に飛び回って蝙蝠を叩き落としていくのは凄いですね。


 冒険者さんの戦闘を見るのは初めてですけど、皆さんこんなにすごいんでしょうか、いえそれは違うでしょうね。


「なんですのあの非常識な動きは、ありえませんわ」

「す、すごいです、私なんて……」

「りゃー、アラもアラもー」


 皆さん驚いてますからやはり普通ではないのでしょう。ハルさんやミーシアちゃんは以前、冒険者として『迷宮』に潜った事もあるそうですから。


 ですけれど。


「あんな動きで攻められたらどうなるんでしょう」


 あんなに早く連続で突き上げられたら壊れてしまうのでは、いいえマイラス様にされた事と比べれば何ともない事ですね。


 そんな事を考えている場合じゃなかったですね、魔物はわたし達の方にも来ているんですから。


「アラちゃんに近づかないでください」


 何とか鞭で倒せましたけど、無理な時はわたしが身代わりにならないと、こんな小さな子が魔物に噛まれるだなんて見過ごせません。





「あなたが魔物に群がられて死にそうになっているのを放置すれば、わたくし達の首輪が締まってしまいますのよ、そうなったら戦いどころじゃありませんわ、それを解ってらっしゃるの」


 ミーシアちゃんに回復してもらったハルさんがご主人様に食って掛かってますね。


 確かに先ほどの戦闘はわたしも不安になりましたから、ハルさんの気持ちも分かります。


「奴隷の扱いがわからないのでしたら『迷宮』になんて連れてこないでちょうだい、そんなにボロボロになって、って、あら怪我がありませんわ、これはどういうことですの、こんなのは非常識ですわ」


 確かに、さっきまでは血まみれだったはずですけど、今は何ともなさそうです、ミーシアちゃんは回復魔法を使ってないですよね。


「ああ、俺の持ってる『魔道具』の効果だ、大抵の怪我ならすぐに治る」


 もしそんな『魔道具』が有る事をマイラス様が知ったなら、とんでもない事に使いそうですね、考えたくもないですけど。


「そう言う大事な事はきちんと教えて下さらないかしら、それさえ解っておりましたら助けたりはしませんでしたのに」


「そうだな、すまなかった、これは伝えておくべきだった許してくれ。それとさっきは助けてくれたんだろう、ありがとう」


 これは夢でしょうか、ご主人様がわたし達に頭を下げるなんて、普通ではこんな事はありえないはずですが。


「わ、解ればいいんですのよ、あら、ひょっとしてあの非常識な動きなども全部そうなのかしら」


「ああ、『軽速の足環』という『魔道具』の効果だ」


「あの三つの指輪でしたり、その『魔道具』でしたり、ただの冒険者が『魔道具』を何個も持っているなんて非常識ですわ、ですけれどここまで非常識が続きますともう何があっても驚けないような気がいたしますわ、ところで他にも何か隠しているんじゃありませんこと」


 そんなに持っているんですか、確か『魔道具』は高級品だったと思ったんですけどわたしの考え違いだったんでしょうか。


「いくつか話せない事もあるが、戦闘に関してならハルも知っての通り剣の他に魔法を練習中だという事くらいだろ」


 なにかご主人様には秘密が有りそうですね、もしかするとあれもそうなんでしょうか。


「ひょっとして、ご主人様のお食事も何か理由があるのですか」


「ああ、僧侶の資格を貰った時に、酒、なまぐさ、後は他者との粘膜に触れあうような行為は避けるように言われてな」


 ああ、ご主人様は名目だけではなく本当に聖職者だったんですね。ですけど粘膜に触れるのはダメですか、色仕掛けの方法も考えないとダメですね。


「という事はその手前くらいなら問題ないという事ですね、それでしたら」


 実際の行為やお口などはダメでしょうし、となると服越しなら大丈夫でしょうか、これは色々工夫が必要そうですね。





「ハル、俺の食器を使え」


「な、何を言っておりますの」


 自分の食器を壊してしまったハルさんにご主人様が言われた言葉に少しホッとしました。せっかく作るのに食べられない人がいると言うのは残念ですから。


「俺は肉を食わないし、代わりに果物を取れば茶も必要ないからな、ほとんど使ってないし、しっかり洗っているから安心しろ」


「作りの脆い高級品を買って『迷宮』で困る事になっても知らないんじゃなかったかしら」


 ハルさんももう少し素直になってもいい気がします、これでご主人様が考えを変えたらどうするんでしょうか。


「こんな所でへばられても困るからな、これに懲りたら少しは贅沢を控えるんだな」


「ふん、そこまで言うのなら使ってあげますわ」


 無事におさまりましたね。もしも食器が無いなら食べさせないなどとご主人様が言われたら、わたしの食器を渡すつもりでしたけど、優しいご主人様でよかったです。


 やはりこのご主人様は大当たりだったみたいですね。




「まりゃくが、まうないよー」


「焔よ、我が風に乗りて燃え上がれ、敵をその……きゃっ」


 背後から押し寄せてきた蝙蝠たちがわたし達を取り囲みます。ミーシアちゃんが必死に守ってくれてるけど数が多すぎて抑えきれてませんね。


 ご主人様は鎧の相手で手いっぱいみたいですし、ハルさんやアラちゃんは魔法を使えずに蝙蝠にまとわりつかれています。


 このままでは。


「どいてください、アラちゃんに近づかないで」


 乗馬鞭を振るって、この子達に近づく魔物を叩き落とします。わたしに噛みついて来る蝙蝠もいますがそれは後です、革の服がほとんど防いでくれます、仮に噛まれても痛くないですし私ならそのうち治りますから。


「がんばりゅ」

「道をお開けなさい、呪文さえ唱えられたのなら」


 何とか防げていますけどこのままだときっと。


 子供たちを守りながら戦っていたわたしの視線の先では、ご主人様が鎧に囲まれて……


 このままでは、ご主人様が。


「ご主人様」


 肩とお腹を切られて血を流すご主人様に、ミーシアちゃんが気付いて急に駆け出していくけど、どうするつもりなの。


「ミーシア、どうした」


「わ、私が鎧と戦います、あ、あああ、ガアアア」


 大きな熊の姿へ変身したミーシアちゃんと入れ替わるように、ご主人様がこちらへ来ますけれどこの数ではどうしようも。


 ここで死ぬんですか、それも仕方ないですね。死ぬのは嫌ですけど、思い残すことはもうほとんどないですし、やりたい事もやらなければいけない事も、もうなにも。


 出来れば子供たちだけでも逃がしたいですけど、わたしが囮になれば何とかならないでしょうか。


「ハル、魔法が使えないか」


「非常識な事を言わないでちょうだい、きゃ、この状況では、うっ、呪文なんて唱えてられませんわ」


 それなら、わたしが魔物を引き付けてそこへ魔法を撃ちこんでくだされば、なんとかなるでしょうか。魔法への耐性スキルは無いですけど、火や熱なら耐えられますし魔法防御力も高いはずですから。

 

 そう考えていたわたしの視界の半分が急に赤い光で覆われます。


『火炎旋風』


 この炎はご主人様の魔法ですか、でもたしかハルさんの話だと、ご主人様の魔法はかなり弱いはずです。という事はこれも『魔道具』の効果ですか、こんなにすごいなんて思いませんでした。


「ぐうう」


 いえそれよりも、ご主人様の手が。


「ご主人様、大丈夫ですか」


 血まみれの手に包帯を巻こうと近付きますけど、ご主人様はそれを止められます。そんな早くしないと出血が。


「こいつらを倒してからだ」


 そのままミーシアちゃんを助けに行きましたけれど、大丈夫なんでしょうか。







「回復魔法なんてかけるだけMPの無駄ですわよ、『魔力回路』の暴走でできた傷は簡単には治りませんもの」


 ご主人様に回復魔法をかけるミーシアちゃんにハルさんがそう言いますけれど、やらないよりはやった方がいいのではないんでしょうか。


「ミーシアちゃんはご主人様が心配なんですね、でも無理はしないでね」


「サミュー何を仰ってますの、ここは『迷宮』ですのよ体力も魔力もいざという時の為にとって置かないといけませんのに、治らない傷の為にMPを使うなんて止めるべきですわ、ただでさえ回復魔法はミーシアしか使えませんし」


 治らない傷、そういえば魔法の暴走だと言ってましたね、以前のご主人様、イツェリス様が寝たきりになったのも、たしかそのせいでしたね。


 あの炎の時ですか、こんな反動が有るなんて恐ろしい『魔道具』ですね。


 ご主人様は、わたし達を助ける為にこんな怪我を、それなら。


「それでも、多少は痛みが減るんでしょう、わたしはこうして多少寝やすくする事しかできないですから、それにミーシアちゃんも納得しないでしょう」


「おやめなさい、それ以上やれば『魔力枯渇』を起こしますわよ」


 ハルさんが急に怒鳴り出したんですけど、どうしたんでしょう。


「ちょ、ちょっとお腹が空いたんで、外にいってきます」


「え、ミーシアちゃん、さっき食べたばかりなのに」


 廊下でかなりの量を食べて来たと思いましたが違うのでしょうか、育ち盛りであれだけ動いたからお腹は減るでしょうけど、もしかすると、普段は量が足りなくても我慢しているんでしょうか。


「まう、ぺこぺこなお」


「は、はい魔力を使ったからかもしれないです」


 そういう物なんですか、わたしは魔法が使えないのでよく解らないですね。でも、そんなにお腹が空いているのだったら魔物の肉を使って何か料理した方が良いでしょうか。


 熱を加えた方が食べやすいですし、ミーシアちゃんも飽きないかもしれませんし。


 とはいえ、今はご主人様を膝枕していますし、下手に動くと起こしてしまうかもしれませんね。


 どうすべきでしょうか、あらハルさんが追いかけましたね、追いかけると邪魔になるでしょうか。


 でしたらこのまま膝枕を続けた方が良いですね。


 腕の傷はかなり痛々しいですし、せめて寝ている間だけでも安らかであって欲しいですから。


 黒いサラサラの髪をゆっくりと撫でていると、わたしまで気持ちよくなってきましたね。


 心配そうにしているアラちゃんも眠そうですし、やはりみんな疲れているんでしょうか。


「こうしていると、ただの少年にしか見えないんですけどね」


 この方が高位の僧侶で、たくさんの『魔道具』を使いこなす冒険者だとは到底思えませんね。


「苗字が有るのですから、ご主人様は騎士か地方貴族の家の出なのかもしれませんね」


 騎士ですか、ですがそれならなぜ冒険者のまね事などしているのでしょうか。騎士なら騎士団の仲間同士でパーティーを作るでしょうし、貴族なら家臣を連れてもっと大きな規模で攻略を進めるはずです。僧侶なんですから僧兵の一人や二人連れててもいい気がしますけど。


「考えても仕方ありませんか、あら包帯が」


 大分血がにじんできてますね、交換した方が良いでしょうか。


 布は先ほど使った物の残りがまだありますけど、大きいので切らないとだめですね。


「ハサミは確か先ほど使って、あら」


 失敗しました、裁ちバサミをテーブルの上に置きっぱなしです。


 取りに行くと、膝枕を外さないとダメですね、仕方ありませんあれを使いますか。


 アイテムボックスを探して小刀を取り出します。


「何をしてらっしゃるのかしら」


 顔を上げるといつの間にか戻っていたハルさんが、こちらに手を向けて構えています。


 それも仕方ないでしょうね、ご主人様の枕もとで小刀を抜いた私は寝首をかこうとしているように見えるでしょうし、彼女の立場では問いたださない訳には行かないですよね。


「包帯を作ろうとしてました、ハサミをそこに忘れたので」


「ああ、そう言う事、ところでそれはどうしたのかしら、見た事が有りませんけれど」


 それはそうでしょうね、この小刀はご主人様から買っていただいた物では無く、もともと私が持っていた物ですから。


「親の形見の品です」


「その紋章は、騎士の家かしら」


 さすがですね、一目でこの紋章に気付きましたか、その上で私の身の上も想像が出来たみたいですね、まあ彼女も同じような境遇だからかもしれないですね。


「わたしの事は、気にしないで下さい、もう関係のない家の話ですし」


 ええ、もうラースト家とわたしは何一つ関係ないんですから、そうでないといけませんから。


 ハルさんが怪訝な顔をしてますね、彼女としてはわたしの境遇が気になるのかもしれません。


「そう、余計な事を聞いてごめんなさい」







「ご主人様、ご主人様」


 またご主人様が何か考え込まれてますね、いくら休憩中とはいえ『迷宮』の中でボーっとされるのは危険ではないでしょうか。


 これは早急に正気に戻っていただかないと、ですが胸を触っていただく方法は嫌がりそうですね。それでしたら。


「ご主人様、解りますか」


 スカートの裾をまくり上げて頭から被せてみます、これなら気付くでしょう。


 ミーシアちゃんが目を丸くしてますね、アラちゃんはよく解ってないみたいですね、ハルさんは呆れた顔ですか。


 あら、ご主人様、急にそんなところを触るだなんて、大胆になられましたね。


 ここは声を出したほうが、ご主人様も興奮されるでしょうね。


「あん」


 今まで多くの方を籠絡してきた自慢の声です、これならいくらご主人様でも興奮するはずです。


「サミューーーー」


 あら、怒られてますね、だめでしたか。


「大丈夫ですよ、『迷宮』の中では下に革の全身服を着ていますから見えないでしょう」


 やはり、何も穿かないでした方がよかったですか。


「そういう問題じゃないだろが」


「それとも宿でした方がよかったですか、その時なら中は下着だけの光景になりますよ、もしもご主人様が望まれるのなら何もはかずにでもいいですけど」


 なんでしたら、やはりその方が色仕掛けとしては正解でしょうね。あからさま過ぎる気もしますけど。


「宿でも『迷宮』でも同じことはやらないように」


 だめですか。


「それなら馬車の中で……」


 これもだめそうですね。





『迷宮』での収集品が思ったほど売れず、ご主人様が落ち込んでいますね、これでしたらわたしも役に立てるかもしれません。


「ご主人様、もしお金が足りないのでしたら私が稼いできますか」


 このままお金が無くなって、ハルさんやミーシアちゃん達までが春をひさぐような事になっては彼女たちがかわいそうですから、今のうちに私が稼いでおいた方が良いでしょう。


 わたしなら今までもそういった事をしてきたんですから、気にすることは何もありませんし。


「却下だ、お前たちに体を売らせるつもりはない」


 まさか、ご主人様がこんな事を言われるとは思いませんでした。


 奴隷を持った冒険者が小遣い稼ぎにたまにすると聞いていたんですが。


 このお言葉はうれしいですね、ですが、悟られるわけにはいかないですね、色仕掛けで籠絡するために弱みは見せられません。


「ご本人は不能でも、他の人の痴態を見て楽しむのもなかなかいい物らしいですよ」


 以前から疑っていた事を言ってみましたが、この心外そうな表情は違うみたいです。という事は、やはりわたしに魅力を感じてないという事でしょうか。


 これでは自信を無くしてしまいそうです。





 馬車馬を休ませる合間に草地でお茶の用意をしたんですが。


 ご主人様がまた何か考え込まれてますね、このままでは皆さんがお茶を飲めませんし、早くしないとせっかくの淹れたてがさめてしまいます。


 仕方ありませんね、気が付いて頂きますか。今までで一番効果が有ったのはやはりスカートですね。


 ここなら魔物も出ないでしょうから、少し大胆に攻めてみましょうか。アラちゃん達に気付かれないようにスカートの中に手を忍ばせて、下着の留め紐を外します。


 さて、ご主人様はどんな反応をされるでしょうか、楽しみです。色仕掛けで籠絡する事だけが目的だったんですが最近はうろたえるご主人様を見るのが楽しくなってきました。だって可愛いんです。


 初心な男の子をからかって楽しむなんてわたしも変わってきましたね。


「何をしようとしていた」


 今回はずいぶん早く気付かれましたね、危機回避能力でしょうか、これでは面白くないです。


「ご主人様にちょっとした気分転換を」


 嫌そうな顔をされていたご主人様の表情が急に変わって慌てて視線を明後日の方向へそらされましたね。どうやら、ワザと見えやすくしていた下着に気付かれたみたいですが、この位でそこまで動揺しないでください、本当にへタレですね。


 まあそこが可愛く見えるんですが。


「それで、何の用だ」


 誤魔化してきましたね。まあ今回はこの位で満足しておきますか。


「お茶が入りましたので」


 次は何をしてみましょうか。





「そうだ、いろんな種類があってな、イチゴ、メロン、ブルーハワイ、レモン、オレンジ、マンゴー……」


 ご主人様が聞き覚えのない『かき氷』という食べ物の種類を挙げてくださいますが、どんな食べ物なんでしょう、わたしが作れれば喜んでくれるでしょうか。


「小豆、抹茶、練乳、みかん、しろくま、それと」


「し、しろくま」


 ご主人様の言葉に私もドキリとしてしまいますが、それ以上にミーシアちゃんが怯えてますね。それも仕方ないでしょう、名指しで食材と言われたんですから。何かの間違いだと信じたいんですが。


 ですが、平然とユニコーン狩りを提案される方ですから、もしかしたら。


「ああ、甘い練乳をたっぷりかけてな、上に果物とか甘く煮た豆を載せて食べるんだ」


 こ、これはまちがいなさそうです。いえ噂にはそういう目的で奴隷を買う人もいるとは聞いていましたし、マイラス様はわたしの血を舐めて喜んでいましたが。


「ご、ご主人様はそれを食べられるんですか」


「そうだな、夏には毎年よく食べたな、このくらいの小さなカップに小分けにしてあるのが売っててな」


 小分けに、切り刻むという事でしょうか、そんな、これは何とかしてわたしが身代わりにならないと、こんな若い子にそんな死に方はさせられないです。


「ひっ」


「そんな非常識なことが、まさか、わ、わたくしもですの」


 ミーシアちゃんだけでなくハルさんまで、そうですよね彼女たちは一緒に買われたんですから、同じ目的だとしても。


「わ、わたしは、リョー様の命令なら……、でも、できたら痛くないように一撃で止めを……」


 いけない、ミーシアちゃん自身がそんな事を言い出したら、ほんとうに……


 あら、ご主人様が怪訝そうな顔をされてますね、こういう時は怖がる私たちを見て楽しんでいる場合が多いはずですが。


「いや、俺の説明が悪かった、かき氷とは細かく砕いた氷に果物の汁なんかをかけた食べ物で、シロクマというのも練乳をかけて具を載せた氷が白熊の顔に見えると言うだけで、肉類は一切使っていない」


 なんだそう言う事ですか、紛らわしいですね。


「それはほんとうですの、わたくし達を油断させるためではないでしょうね」


 さすがのハルさんもこれには、怯えていますね。


「あ、安心しました」


「よかったです、さすがの私もそこまでの嗜好にはついていける自信がなかったので」


 それでも、万が一誰かを食べるとなればわたしが立候補するつもりでしたが、そうならなくてよかったです。






「落ち着きなく飛び回って、まるで子供のようですわ」


「ご主人様には何か目的が有るのでしょう、ユニコーン狩りが無くなったので他の稼ぎ方を考えているかも」


 それにしてもご主人様がユニコーン狩りに行くと言われた時は何とかして止めなければと思いましたが、魔物だと勘違いしていただけだと聞いたときはホッとしました。


 やはり優しい方みたいですね、ユニコーン達にご自分の食料をすべて渡してしまったり、あんな人攫いまで見逃すくらいですから。


「暑いです……」


「ねむいよお……」


 お子様たちは、だいぶ疲れてきてるみたいですし、機会を見て休憩をお願いした方が良さそうです。


「崖崩れだ、逃げろ」


 ご主人様の声に被さるような地響きを立てて大量の土砂が、このままではアラちゃん達が。

 

「くっ『岩壁結界』早くここまでいらっしゃい」


「アラちゃん、しっかり掴まってて」


 すぐ近くにいたアラちゃんを抱き上げて必死に走り、何とかハルさんの防壁の中に入りましたけど、急に走ったせいで息があがってしまって……


「ミーシア」


 ご主人様の声にふり返ると、まだたどり着いていなかったミーシアちゃんが楯で岩を防いでいますけど、このままでは、なんとかしないと。


「ミーシアも非常識ですわ」


 なのに。


「いえまだです、あの岩が」


 小屋ほどの大きさのある岩が、あれじゃあミーシアちゃんでも。


 なにか、何か方法は……


 ミーシアちゃんの方を見ていたわたしの頬に何かがかかり、見上げた先には血まみれの腕が、まさかまた『魔道具』を使われたんですか。


「うわああああ」


 大きな声に視線をミーシアちゃんに戻すと盾で何とか大岩を支えています。ですけど。


「ミーシアその岩をどうにかして崖下に落とせないか」


 このまま持っていると、足元が先に崩れ落ちてしまいそうです。


「や、やってみ、きゃああ」


 やっぱり崩れて、ミーシアちゃんが。


「ミーシア、くっ、サミュー、アラの事は任せた、ハルは二人を安全な所まで守れ」


 血まみれの腕をそのままにご主人様が駆け下りていきます。


「ちょっとお待ちなさい」

「ご主人様なにを」

「りゃー、アラも」


 いくらご主人様でもこの崖崩れの中、しかもあんな怪我をした状態でなんて。助けに行かないとこのままではご主人様まで。


 暴れるアラちゃんを片手で抱きしめながら、ロープをとりだします。これを何処かに固定して……


「サミュー何をするつもりですの」


 近くにあった立木に端を固定しながらハルさんに答えます。


「ご主人様とミーシアちゃんを助けに行きます」


 アラちゃんが付いて行かないようにハルさんに手渡そうとしますが、受け取らずに睨みつけてきました。


「冗談を言わないでちょうだい、こんな崖崩れ貴方じゃこの結界から出た途端ひとたまりもありませんわ」


「ですけど、そんな状態の中に二人は」


 だからこそ私が助けに行かないとダメなはずです。二人ともまだ若いんですから、こんなところで死なせる訳には行きません。


「ミーシアは立派な重歩兵ですわ、この程度ではびくともいたしませんし、あの男ならそもそも巻き込まれたりいたしませんわ」


「それでも」


 それを言うならわたしでも、耐性や自動回復のスキルが有りますから巻き込まれても何とかなるはずです。それにわたしなら万が一の事が有ってもかまいませんし。


「第一貴方が行ってどうなるのかしら、それにわたくしに子守をさせるつもりですの、それともアラも巻き込むつもりじゃありませんわよね」


 確かにそれは、わたしの腕力では二人が埋まっていれば何もできないでしょうし、ご主人様と離れて不安になっているであろうアラちゃんをこのままにするのも、でも……


「それならどうするのですか、このままでは」


 誰かが助けに行きませんと、二人がどうなってしまうか。もし怪我でもしていたら早く手当てしないと。


「とりあえず馬車まで戻りますわよ、あの男の命令でもある事ですし、アラや貴方の安全を確保しましたら、わたくしが『鳥態』になって空から捜索いたしますわ、あなただってこんな『迷宮』の中にアラを置いておくのは不安でしょう」


 それしかないでしょうか、確かにアラちゃんの安全だけでも確保しないと、彼女に万が一の事が有ってはご主人様が悲しむでしょうし。





 泣き疲れて寝てしまったアラちゃんの頭をなでながら、周囲を見回します。


 つい先ほどまで三人で、魔物狩りをしていたのでこの周囲には危険な魔物は残ってないはずです。それでもここは『迷宮』の中なのですから警戒はしないとダメでしょうね。


「うー、りゃー」


 夢の中でもご主人様の事を考えているんですね、こんなに慕われているという事はやはり血縁なのでしょうか、黒髪黒目のご主人様とはあまりにてませんが。


 ふわふわの金髪を撫でながら、少し悪戯心を起こして尖った耳を軽くさすってみます。


「んーんっ」


 やはり耳を触られるのはくすぐったいみたいですね。


 こうして、小さな子を寝かしつけていると、昔を思い出しますね。ラメディ家のお子様方はお元気でしょうか。


 男爵家のリャン様やテル様は、無事に騎士に成れたでしょうか、もう十年以上前の事ですから。もしかするとアラちゃんくらいの御子がいるかもしれないですね。


「アラは、寝たみたいですわね」


「ええ、疲れてたんでしょうね、あんな事が有った後ですし」


 簡単な夜食をお皿に盛って渡すと、普段なら行儀を気にするハルさんが、勢いよく食べていきます。彼女も疲れてお腹が減っているのでしょうね。


「もうすぐ夜明けですわね、明るく成り次第、空から二人を捜索しますわ」


 こう暗くては、飛ぶのも危ないでしょうし、仕方ないでしょうね。だいぶ冷えてきましたけど二人とも無事だといいんですが。


 



 ご主人様たちを探しに行ったハルさんを見送ってから、アラちゃんの為に朝食を作っていると、後ろから泣き声が聞こえてきました。


「おはよう、アラちゃん」


「さみゅー、りゃーは」


 起きてすぐに泣きだした理由はやはり、ご主人様がいないせいですか。


「ご主人様は、ハルさんが探しに行ってます。きっとすぐに見つけて帰ってきますよ」


「ほんろ、りゃー、かへってくりゅ」


 これだけでだいぶ泣き止んできましたね。そんなにご主人様の事が好きなんですか、少し妬けますね。


「もちろんですよ、ご主人様はアラちゃんの事が大好きなんですから、アラちゃんがこんなに泣いてたら、心配ですぐに帰ってきますよ」


「アラも、りゃー、だいしゅき」


 やっといつもみたいな笑顔になってきましたね。


「それじゃあ、ご飯を食べながらご主人様を待ちましょうか」


「うん、あ、はりゅだ、りゃー」


 アラちゃんの見つめる方向には、確かに小さな点が飛んでますが。小さすぎでハルさんかどうかはわたしにはわからないです。


 けれどアラちゃんにははっきり見えているのか、抱き上げた私の胸元から勢いよく飛びだします。


「はゆ、りゃーはー」


 アラちゃんのすぐ近くにハルさんが降り立ってきましたけど、ご主人様やミーシアちゃんの姿は無いですね。


「見つけましたわよ、これからあなたたちを載せて合流いたしますわ」


 よかった、二人とも無事だったみたいですね。


「ほんりょ、りゃーのとこー」


 アラちゃんの声も、はっきりと明るくなりましたね。ただこれだけの事でこんなにも変わるなんて、やっぱり子供には親が必要なんですね……


「ええ、もちろんですわ、それとサミューこれをお付けなさい」


 ハルさんが渡してきたのは、いつもご主人様が付けてらっしゃる足環、これは確か。


「この『魔道具』は、まさかご主人様が」


「あなたを載せてくるにはわたくしの力が足りないと言ったらすぐに渡してきましたわ」


 それだけの為に、貴重な『魔道具』を奴隷に貸して下さるなんて。


「そうですか、ご主人様が、これは何かお礼をいたしませんと」


 さてと、ハルさんに運んでもらう前に用意しましょう。ご主人様がどんな顔をされるか楽しみです。






「りゃーあーーーー」


「おおった」


 ハルさんの背中から飛び降りたアラちゃんが、ご主人様に受け止められて、そのまま抱きしめられています。


「やりますねアラちゃん、わたしも負けていられませんね」


 同じようにわたしも、ハルさんの背中から一気に飛び降ります、この『魔道具』が有れば怪我をしたりはしないでしょう。


「ご主人様ー」


 両手を大きく広げて風を感じながら、ご主人様へと向かって行きます。


 わたしの格好を見た、ご主人様の表情が驚きの感情を浮かべていますね。狙い通りです。


「受け止めてください」


 下着姿にして正解だったみたいですね、いい表情が見れました。このまま一気に……


「私のすべてを受け止めてください」


「ミーシア」


 あら、御主人様が避けられてそこにミーシアちゃんが、いくら彼女だと解っていても、さすがに熊の姿ではちょっとこわいですね。


「サ、サミューさんここです」


 女のわたしがここまでしているのに、この対応ですか、ひどいです。


「ご主人様は冷たいです」


 ミーシアちゃんの胸の中で、軽く嘘泣きをしてみますが……


「遊んでないで早く装備をつけろ」


 バレバレでしょうか。


「心配してくれないんですね」


 ミーシアちゃんに軽くもたれかかってくびれを強調するようにしてみましたが。


「人を待たせてるんだ、遊ぶなら後にしろ」


 これも無反応ですか、昔ならこれだけでお客さんが付いた物ですが。


「後でならいいんですね、楽しみにしててください」





「ミーシアちゃん、そのまま守ってて、ハルさんとアラちゃんは次の魔法をお願い」


 二人がわたしの言葉に従って呪文を唱えてくれています。わたしにはその意味は解りませんけど、二人の事ですからお願いした魔法を用意してくれてるはずです。


 わたし達の目の前では、剣を構えたご主人様が魔物たちを引き付けて下さってます。


 ご主人様が奴隷のわたしを信用して戦闘の指示を任せて下さっているんですから、絶対に成果を出さないとダメですね。


 これが上手くいくといいんですけど。ハルさんとアラちゃんがこちらを見て放てる状態になったのを教えてくれます。


 わたしはそれに頷いてから鞭で一点、ご主人様を追いかけている魔物が一番集まるだろう場所を示します。


『強炎』

『せんぷう』


 上手くいきました。ほとんどの魔物がこの一撃で倒せています。後は同時に突撃したミーシアちゃんが居ればすぐに終わるでしょう。


「熱っ」


 あら、いまのこえは……


 ご主人様の背中が燃えてますね、少しギリギリ過ぎたでしょうか。


 ま、まあ、上手く魔物を倒せたんですから、きっとご主人様も解って……


「ハル、サミュー、もう少し狙いをどうにかできなかったのか」


 下さらないみたいですね、どうしましょう。


「あら、ご無事でしたの」


 ハルさん、さすがにそれはどうかと思いますけど。


「いいじゃありませんの、どうせ回復するのですし、それにわたくしは指示通りにしただけですわ」


 ハルさんに突っぱねられたご主人様がこちらを向かれますが、すでに嘘泣きの準備は出来ています。


 わたしの瞳を見てひるみましたね、このまま押し込みましょう。


「申し訳ありません、ですが、あの位置が最も効率が良かったんです」


 これは事実ですから、これにあわせて涙を……


「それは解るが、それでももう少し安全な……う」


 いい感じです、もう一押し。


「ご主人様なら大丈夫だと信じていたのでやってしまいました、お怒りでしたら、どうかこの体で鎮めて貰えないでしょうか」


 少しだけ服をはだけて胸元を強調してみます。色仕掛けを苦手とするご主人様ならきっと。


「いや、そこまでは怒っていないから大丈夫だ」


 順調ですね、ですが念のために。


「そうですか、ご主人様が許して下さるのなら、わたしを煮るなり焼くなり犯すなり、好きにして構わないんですけど」


 ここで上手く既成事実を作れれば。一度でもわたしを楽しんでくだされば、絶対に手放す気に成らない様にしてあげます。


「そこまでする気はない、だが……」


「どうかお許しを、手でも胸でも上でも下でも後ろでもそれ以外でも、ご主人様の自由に」


 さらに胸元を緩めてご主人様の位置から谷間が見えるようにしてみます。


「チラ」


 これでどうですか。


「気にする必要はない、おかげで一撃で殲滅できた」


 上手くいきましたね、胸元一つで収まるんですからチョロイ方です。ついでにもうちょっとだけ誘惑してみましょうか。


「ありがとうございます、心からお慕いしていますご主人様」


 ご主人様の手を取り手早く服の下へと導きます。


「強く揉んでもいいんですよ」


 真っ赤になって初心な方ですね。


「今日の探索はここまでにして、小屋まで戻ろう」


 また逃げましたか、本当にへタレですね。






「サミューさん、き、危険そうな人の治療は終わりました。まだ傷だらけだけど、命に係わるような事は……」


 ユニコーンの皆さんが食べられるように野菜だけを使ってスープを作っていたわたしに、疲れた顔のミーシアちゃんが近づいてきました。


「そう、ミーシアちゃんは少し休んでいて、疲れているでしょう。お肉を用意しているから」


「で、でもリョー様が、帰って来てないのに……」


 ミーシアちゃんの顔が暗いのは心配のせいもあるみたいですね。


 夜のうちにハルさんだけが戻ってきたけれど、御主人様は攫われたユニコーン達を助けにヤッカさんと二人で行ったらしいですし。


 アラちゃんはずっと里のある方を見てるし、ハルさんも少し落ち着きがなさそうですし。


 こんな時こそ最年長の私がしっかりしないとダメでしょうね。


「だから休んでいて。御主人様が戻られた時に、敵が追ってくるかもしれないし、怪我人を連れてくるかも知れないから、その時に備えて少しでも休んでいて」


「は、はい、わかりました」


 ほんと、こんないい子達に心配ばかりかけて、しょうがないご主人様ですね。


「あ、りゃー」


 ずっと座り込んでいたアラちゃんが急に立ち上がって走り出していきました。どうやら御主人様が戻られたみたいですけど。


「アラちゃん待って、一人で離れちゃダメ」


 もう、普段はとっても素直で言う事をきちんと聞くいい子なのに、御主人様の事になると何も見えなくなっちゃうんですね。




「りゃー、おあえりー」


 小さな体で全力疾走していたアラちゃんがそのままの勢いで抱きついていきます。うらやましいですね、わたしもあんな風に懐かれたいです。


「アラ、ダメだろう、一人でこんなところまで来たら、危ないだろ」


「さみゅーといっおだよ」


「一人じゃないですよ、アラちゃんが一番に見つけたので二人でお迎えに来ました」


 アラちゃんの言葉で、御主人様がこちらに視線を向けてきます、今まで気付いていませんでしたね。ひどいです。


「そうか、ありがとうサミュー、それと、悪いが怪我人が何人かいる、先に小屋に戻ってミーシアに声をかけておいてくれ」


「解りました、ん、ご主人様大丈夫ですか」


 表情がいつもと違いますね、目つきがきついと言いますか、ひどく疲れているような、それでいて今も気を張り続けているような。いつもの優しそうな表情が全くないですね。


「怪我は無い、使ったMPも回復している、問題はない」


 ハルさんの話では、人攫いを何人も直接殺められたらしいですから、もしかするとそのせいでしょうか。


「いえ、そうではなくて、どうですか」


 スカートをまくり上げて、下着を露わにしてみます。いつもの御主人様ならすぐに動揺されるはずですけど。


「それと長老にも相談が有るから声をかけておいてくれ」


 全く反応しませんでしたね。


「……わかりました、失礼します」


 これは、どうにかしないといけないかもしれませんね。







 長老さんとの話し合いから戻られた御主人様が荷物を確認してますね、どこかに移動するんでしょうか。


「ご主人様、どうしましたか」


 まだ怪我人の手当てが終わりきっていないんですが、ミーシアちゃんも疲れてますし、アラちゃんはほとんど寝てないですし。


「少し『迷宮』の外に行ってくる、数日で戻る」


 ユニコーン達を置いて逃げるわけではなさそうですね。何か考えが有るのでしょう。


「それではわたし達も準備します」


「いや、サミュー達はここで待っていてくれ、急ぎだから一人の方が良い、それにユニコーン達を守る必要もあるからな」


 このままの御主人様を一人にするのは不安ですけど、また襲撃が有るかもしれないと考えると確かにわたし達は残った方が良いですね。


「解りました」


 荷物の準備を続けるご主人様にハルさんが詰め寄り、アラちゃんも泣き付いてますが、効果はなさそうですね。


「すぐに戻ってくるから、いい子にしていろ、お土産は持ってこれないが、全部終わったら何かおもちゃでも買ってやるから」


 いくら子供でも、アラちゃんがそんな事じゃ誤魔化されないと思いますけど。


「やーあー、アラもー」


 御主人様からアラちゃんを受け取りますが、何とかついて行こうとしてますね。


「早く帰ってくるから、サミュー達と一緒に待ってろ、お菓子と果物を買って来るから」


「わかった、やくしょくだよ」


 大人しくなりましたね、これ以上ぐずるとご主人様が困るという事に気付いたみたいですね。ほんとに賢い子です


「ご主人様、どのくらいで戻られますか、それに合わせて御食事を用意しておきます」


「そうだな、五日、いや四日で戻る」






「りゃー、あえー、あえたべる」


 アラちゃんが御菓子を抱えながら、また別な屋台に走っていきますけど。あまり食べすぎると晩御飯が食べれなくなりそうです。まあ久しぶりの街ですから興奮しているんでしょうね。


「アラちゃん、今持ってるのを食べてからにしましょうね」


 せめて、周りから見られてもはずかしくないくらいの礼儀作法は教えないとダメかもしれませんね。こんなに口の周りを汚して、とても可愛いですけど、大きくなってもこのままじゃアラちゃんが大変です。


「う、うー、わーた」


 きちんと言う事を聞いてくれました、ほんとにいい子です。


 しかし、これから領軍の練兵所にいって『職業石』を使わせていただけるらしいですが、いいんでしょうか。


 軍隊が保有するような『職業石』はきちんとした許可が無ければ近付くことも出来ないはずなんですが、ましてここの領主様は『元勇者』、その『職業石』となればかなり上質な物でしょうし。


 一体御主人様はどうやって伯爵様とのつながりを持ったんでしょう。『職業石』もそうですが、ユニコーン達の為に騎兵隊まで出してくださるなんて。


 やはり神殿での付き合いでしょうか、御主人様は僧侶様ですし、『勇者』様は神殿に降臨されるそうですから。




「前衛系の基本的な職種はどれも大丈夫そうですね、他には『魔物使い』の適性が有ります後は……」


 練兵所で『鑑定』を受けたわたしに係の方がそう言ってくれますが、あまり違和感はないですね。


 わたしは元々騎士の家系ですから、昔から基礎ステータスは高いと言われてますし、まあ『魔物使い』というのは意外でしたが。


 どうしたんでしょう、御主人様の顔がすぐれませんね、『魔物使い』はよくなかったみたいです。


「他には『踊り子』も行けそうですね」


 以前は、裸で舞台の上に立ったこともありますが、それとは違うんでしょうね。


 これもご主人様は渋い顔をされてますね。


「でしたら『拷問吏』とかは」


 これは、いつ死んでもおかしくないような拷問を受けて来たわたしが、するほうになると言うのはかなり皮肉な事ですが。これだけは嫌ですね、命じられて鞭で人を叩いたりしたことはありますが気持ちの良い物では無いですから。


 それに、笑いながら人を壊していくマイラス様の様にはなりたくありません。


 御主人様が首を横に振られましたね、安心しました。


「『鞭剣士』なんてのも成れそうですね」


 どんな職種でしょう、あまり聞き覚えがないですね。剣士というからには前衛職なんでしょうが。


「サミューはどの職がいいと思う」


 わたしに聞きますか、やはり御主人様は変わっていますね、普通なら奴隷の意思など関係なくご主人様が就けたい職にするものですが。


「わたしはよく解らないのでご主人様にお任せします」


 まあ、こう答えるべきでしょうね、前衛職にあこがれるので、できるならそうしてほしい物です。







「すぐに終わりますから、目をつむって大人しくしてください」


 上から見下ろしていると、仰向けになられたご主人様が言葉通りに目を瞑られます。不用心ですね、このまま口付け位ならできそうな気がします。


 まあ一度でもしたら、これから先は身嗜みのお手伝いが出来なくなりそうですから、よほどの好機でもない限りは自重してますが。


「解っている」


「それでは行きますよ」


 鈍く光りを弾く剃刀を、御主人様の喉元に当てて髭を剃っていきますが。本当に不用心ですね、もしも今わたしがその気に成れば御主人様の喉を切り裂けますね。


 もちろん『懲罰』が発動するでしょうが、刺し違えるつもりなら十分可能ですし。実際奴隷相手にここまで無防備でいられる主はそうそう居ません、わたしの知る中では男爵様とイツェリス様くらいでしょうか。


「なあサミュー、『迷宮』の中ぐらい、いいんじゃないのか不用心だろう」


 そんな事はありません、『迷宮』の中だからこそ身嗜みが必要なんです。


「いけません、たとえ『迷宮』でもご主人様はご主人様です、いつ誰に会うかわからないのですから、ご主人様に恥をかかせる訳には行きません、周囲の警戒ならハルさんとアラちゃんがやってくれてますし、わたしやミーシアちゃんもいつでも戦える用意が出来てます」


 街中で身嗜みがしっかりしているのは当然です。だからこそこういう所でもそれが出来るかどうかが重要なんです。


「特に、今この『迷宮』は、多くの冒険者の方がいるんですから特に念入りにしておかないと」


 髭を剃り終えてからその他の身嗜みをしっかり整えていきます。


「終わりました」


「サミュー毎日ありがとう」


 さてと。


 御主人様が振り返って来るのに合わせて、スカートの裾をまくって下着を露わにします。


「どうですか、ご主人様」


 これでどんな反応をされるか。


「どうですかじゃない、何やってるんだ、すぐしまえ」


 よかった、きちんと動揺されてますね。少し不安でしたがやっとホッとできました。


「ふふ、いつも通りの反応ですね、ちょっと残念ですけど、少し安心しました」


 何時ものへタレなご主人様です。何が理由かはわかりませんが、元に戻られたようですね。


 なにを言っているのか解って無さそうな御顔をされてますけど、本当に鈍い方ですね。







「ご助力感謝します、私はこのパーティーのサブリーダー、ノイツ男爵家嫡子、レネル・ダレン・ノイツです」


「リョー、冒険者だ」


 御主人様と話されているのは、あれはレネル様、なぜあの方がここにいるのですか、いえそれよりもレネル様がいるという事は、ここにはあの方も……



 意識しないままにだんだんと呼吸が早くなり、震えが、いえそんなはずが、あの方がこんな低ランク『迷宮』にいるはずがないです、だからこれはきっと……



 あの金髪の方はきっと別人のはずです。



 いえ、見間違いようの無いあの金色の髪も、青い瞳も変わっていないです。十二年前は少年でしたが、大人びた今も当時の面影が残っています。どんなに忘れたくても忘れる事の出来ないあの方は……



「マイラス様」



 その名を口にすると同時に震えがさらに強くなり思わず両手で自分の体を支えてしまいます。



「どうしたんだ一体」



 御主人さまが、心配そうに近寄ってこられ何か話されていますが耳に入ってきません。



「おや、そこにいるのは、久しぶりだなサミュー」



 き、気付かれた、このままでは、このままでは、また、あの頃と同じように……



「どうした、サミュー」



 思わずご主人様にしがみ付いてしまい、温もりに縋るように胸へと顔を押し付けます。



 もし今顔をずらして、マイラス様と目が合ってしまえば、きっと私は……



「その冒険者がお前の新しい主人か、ずいぶん良い顔に戻ったじゃないかサミュー、ただの無表情はつまらなかったからな」



 みられてしまった、またわたしに興味をもたれてしまった、これでは、わたしは今度こそ殺されてしまいます。



 それまでにどれほどの苦しみを味わうことになるか……



「失礼ですが、私の従者と面識がある様で」


「そちらのサミューは、以前マイラスの家で働いていた侍女奴隷でして」


「それでしたら、今はもう何の関係もないという事ですね、この子の所有権は現在私にあるのだから」



 御主人様の御言葉だけに耳を澄ませます。



「ずいぶん気に入られているようだなサミュー、お前は具合がいいからな」


「ひっ」



 あまりに聞きたくなかった言葉に、身がすくみ震えが強くなっていきます。



「サミューの体はよかっただろ、その女には『名器』のスキルが有るからな、だが最初の時はもっとよかったぞ」



 間違いありません、マイラス様はわたしの事を欲しがっている、でなければただの女奴隷の事をこれほど話すはずが有りません。この方にとっては消耗品と同じなのですから。




 もう、わたしは終わりかもしれませんね、せっかく冒険者になれてこれからだと思っていたんですが。




「どうだ冒険者、俺にその奴隷を売る気はないか、金貨35枚出そう、使い古した中古品の値段にしては破格だろう」




 マイラス様の言われる通り、わたしの値としては、破格すぎます。ましてわたしはタダで送られた者ですし、ご主人様にとっては魅力的な御話でしょう。




「不満か、それなら40でどうだ、売り払ってから気付いたが、そいつほど丈夫な奴隷はそうそういない、他の奴隷ならすぐに壊れるような遊び方をしても、満足するまで鳴き続けるし、多少薬を渡して置けば翌日にはまた使えるようになってる」




 マイラス様は、わたしを一思いに使い潰すつもりでは無く、あの頃と同じように何回も何回も、わたしが擦り切れてしまうまで……




「半年も使ってるうちに何も反応しなくなったから売りに出したが、感情が戻ったのならまた楽しめそうだ」




 ああ、わたしはこの方に殺される、昔のように限界まで痛めつけられて回復させられ、それをひたすら繰り返して地獄を味わった後で。




「ご、ご主人様、ど、どうかそれだけは、い、今までの無礼の数々は、おわ、御詫び、い、いたしますので、どうか、どうか、わたしを、みすてないで」




 何とか顔を上げて、御主人様に哀願します、今この方に見放されれば、わたしはもう。




 でも、無理でしょうね、色仕掛けの為に御主人様が嫌がられるような事を散々してきたのですから、きっと体のいい厄介払いだと思われているでしょう。




「これでも不満か、それなら特別だ100枚出そう、これだけ有ればもっと質のいい新品の侍女奴隷が2人は買える、使い古しが好きなら俺の所の4、5人と交換しようか」

 



 これで決まりですね。わたしはまたマイラス様のもとへ行きそして……




 このまま死ぬのなら、もう一度、せめて一目だけでも会いたいものです。もう、完全に吹っ切れていたと思っていたのに、わたしも随分と未練がましいものですね。




「悪いが、たとえ何万枚積まれてもうちの奴隷を手放す気はない、そっちが言った通り、これほどいい侍女はそうそういない、身の回り一切を安心して任せられ、美人でスタイルもいいしなによりエロい」




 え、いま、このかたは、いまなんと。




「何より、今のサミューは立派な戦闘奴隷でそっちの弱小冒険者よりもはるかに強い、多くの時間をかけてやっとまともに戦えるようになったんだ、手放せるわけがないだろう」




 何も聞こえない中で、ただ御主人様の言葉だけが、わたしの中に響いてきます。




 いつの間にかわたしは、強く抱きしめられていました、静かな鼓動の音と温もりの中でだんだんと震えがちいさくなっていきます。






「サミュー、行くぞ」


 気が付けば肩を抱かれて支えられながらマイラス様達から離れようとしていました。


「はい」


「ハル」


「なんですの」


「悪いが、まだしばらくはお前を手放す気はない、お前たちが望むのなら数年以内には解放する気だが、それまでは我慢してくれ、俺も戦力が必要だからな」


 あの場で、ハルさんも何かあったんでしょうか、自分の事しか頭になかったせいで、気付けませんでした。


「解ってますわ、今までと同じ扱いをしてくださるのなら、数年くらい我慢できますわ」


 どうやらハルさんも大丈夫そうですね、それなら……


「ご主人様」


 まだ肩を抱かれたままの御主人様を見上げると、不思議そうに見下ろされてます。


「ありがとうございました、この御恩はきっと」


 もし、あのお言葉が無ければわたしは自害を選んでいたかもしれません、あの地獄に戻るくらいなら。


「気にするな、今まで通り働いてもらえればそれでいい」


 本当に何でもない事のように笑われる御主人様に少し悪戯心が浮かんできます。


「今まで通り、今まで通りですか」


 この気持ちは、先ほどの反動なのかもしれません、でも今は今だけは、ここ数ヶ月毎日のように過ごした日常に戻りたいんです。


「でも意外でした、ご主人様が、私の仕事ぶりだけでなくて、容姿や体型も気に入って下さっていたなんて、エロさも評価してくれてたんですね」


 あえて色気を出しながら、そのまま御主人様にしがみ付いていきます。


「これからも今までどおり、いえ、今まで以上に全身でご奉仕させていただきますね」


 御主人様がはっきりと解るように自慢の胸を押し付けていきます。


 どうですか。


「サミュー、当たってるんだが」


 いつもと同じような困った表情で見下ろしてくるご主人様に、笑いそうになるのを必死にこらえます。


「解ってませんね、当ててるんです」







「アラちゃんおいしいですか」


 小さなアラちゃんを、膝の上に乗せて晩御飯を食べさせると、笑顔で私を見上げてくれます。


「うん、さみゅ、ありあと」


「いいんですよ、アラちゃんはかわいいですから」


 思わずそのまま抱きしめてしまいました。ほわほわとした温かさが体の中にしみ込んできて、それだけでまだ残っていた不安感が消えて行く気がします。


 どうして子供というのは、こんなにも安心を与えてくれるんでしょうか、ただこうしているだけで幸せに感じて嫌な事を忘れられます。


 そんな私の耳を無粋な音が叩きます。


 何事かと視線を向けると、御主人様が信じられないくらいに細い麺を二本の棒で器用につまみ上げて食べられていますが……


「音を立てて食べるなんて非常識ですわ」

「ご主人様、アラちゃんも見ているので、出来ればもう少し行儀よくしてほしいんですけど」

「りゃーおいしそ、アラも」


 ほら、アラちゃんがマネしたそうにしているじゃないですか、小さい子の前では見本になるようにしてほしいものです。


 それにしても美味しそうに食べていますね。


 わたしの料理も美味しいと言ってくださいますけれど、こんな表情はされませんから。


 以前こんなに美味しそうにされてたのは、伯爵様の御屋敷で見慣れないお料理を食べられてた時以来ですね、そういえばあの時も、あの棒で食べられてましたね。なにか秘密があるんでしょうか。


 わたしも作れるようになった方が良いかもしれないですね。マイラス様があんなことを言われている以上は、絶対にご主人様に見放されないようにしませんと。






 わたし達の前には、完全に破壊されたゴーレムの残骸が有ります。まさかこんな方法で『迷宮ボス』が倒せるとは思いませんでした。


 お父様の話では、騎士団数十人で囲んでやっと倒したと聞いてたはずなんですけど……


「さてと終ったか、怪我は無いか」


「あ、サ、サミューさん、怪我が、ち、治療します」


 声と同時に伸ばされた手に宿る回復の光に恐怖心が沸き起こってきます。


「ヒッ、嫌っ」


 必死にその腕を叩きます、回復させられたらまたわたしはボロボロにされてしまう。


「ご、ごめんなさい、サミューさんに確認しないで勝手な事……」


 え、ミーシアちゃん、あ、そうですね、ここにはわたし達しかいないんですから。いけませんね、まだ先日の事を引きずっているみたいです。


 それよりもいまは、悲しそうな顔をしてるこの子をどうにかしないとだめですね。


「え、いえそうじゃないの、わたしは『自動回復』のスキルが有るから、必要ないのよ」


 実際に徐々に傷口がふさがってますし、御主人様ほどではないですが、マイラス様のもとで生き残るために取得したこのスキルの威力はかなりの物らしいですから。


「そうだったんですか、余計なことして……」


 そうじゃないのミーシアちゃん、わたしが悪いだけなんだから。


「いえ、ミーシアちゃんがわたしを心配してくれてたのは解ってるから、うれしいわ」







「できました」


 手直しの終わった、ズボンを広げて隅々まで出来を確認していきます。


 サイズ直しはしっかりできましたし、ほつれも直しました、せっかくなのでちょっと刺繍もしてみました。


 明日アラちゃんが着ているのを見るのが楽しみです。


 それにしてもアラちゃんは大きくなってもかわいいですね、きっと将来は美人さんになるんでしょうね。


 でもどうして大きくなったんでしょうか、あれはまるで……


「同じかもしれないですね」


 いえ考えても仕方ないですね、可愛ければ問題ありません。


 ふと視線を向けると、御主人様が一人でチーズを食べられてました。裁縫に集中しすぎて気づきませんでした。


「ご主人様、まだ眠られないのですか」


 いってくだされば、何か用意したんですが、今からでも作った方が良いでしょうか。


「サミュー、裁縫は終わったのか」


「はい、他にも少し手を加えたのできっとかわいいですよ」


 あのズボンを穿いているアラちゃんを想像するだけでもう、わくわくしてきます。


「終わったのならサミューも休め、ボス戦で疲れているだろ」


 確かに疲れが有りますが、それは御主人様も一緒のはずではないでしょうか。


「ご主人様は休まれないのですか」


 御主人様の隣に座ると、いつものように優しく笑われます。


「俺はそんなに疲れてないからな、いくら小屋の中といっても見張りは必要だろう、ここは冷えるサミューもミーシア達と一緒にいた方が良い」


 忘れているんでしょうか、わたしには『寒冷耐性』があるのでこの位の寒さは何も感じないんですが。


「わたしは寒さに強いので大丈夫です、それにまだ眠くないですし」


「それなら、少し練習してから寝るか」


 練習というのは、やはり魔法の練習でしょうか、どうも苦手なんですよね。ハルさんの言った通りにやっているつもりですが、どうしてもうまくいきません。


 御主人様の差し出された、『魔道具』の指輪を受け取ります。薬指に付けたらどんな顔をされるのでしょうか、いえ今はやめておきましょう、からかうのは真面目に練習を終えてからですね。


「落ち着いて、火の形を見つめるんだ」


「昨日も思っていましたが、難しいですね」


「手伝おう」


 そう言って御主人様がわたしの手を取られます。


 こんな事は滅多にない事です、この好機を生かすべきでしょうか、いいえ今は真面目にやらないとダメですよね。


「解るか、今俺の魔力が火を制御している」


 目の前で揺らいでいた火が急に固まっていきます。どうやればこんなふうにできるんでしょうか。


「は、はい」


「火の回りを漂っている俺の魔力を感じ取れるか」


 わたしの指の中に何か温かい物が流れ込んで、そのまま火の方へと流れ出ていきます。これが魔力ですか。


「なんとなくですけれど、わかります」


 内側から優しく撫でられるような感覚は、思っていた魔力という物とは全く違いますね、まるで御主人様のように温かくやさしい。


「少しずつ、俺の魔力を減らしていく、その分を自分で制御するのを意識してみろ」


「分かりました」


 指を流れる魔力の温もりが減ると同時に、火の先端がまた不規則に揺れ出します。


「落ち着いてゆっくり先端に意識を向けるんだ」


 御主人様の魔力の流れに乗せるように意識を集中していくと、だんだんと火の揺れが無くなっていきます。


「よし、もう少し魔力を減らしていこう」


 そうした繰り返しで、だんだんとわたしの受け持つ部分を増やしながら、丁寧に魔法の基礎を教えてくれた御主人様が、練習を終えてわたしの指から『魔道具』を抜かれます。


 ミーシアちゃん達は寝てますね、切り出すのは今しかないでしょう。


「あの、ご主人様」


 早くなりそうになる呼吸を、気付かれないように整えながら切り出します。


「わたしに聞きたい事が有るのではないでしょうか」


 ただこれだけの事で、御主人様はわたしが言いたい事に気付かれたようです。目が少しきつくなられましたね。


「あのクソガキの事か」


 くそ、がき、マイラス様の事ですよね、まだお若いご主人様が言われると少し変ですね。


「はい、マイラス様の事です、先日のような事がまたあっては、ご主人様にご迷惑が」


 どうしても体が震えそうになるのを、意思の力で必死に抑え込みます。


「ご主人様には話しておかないと、わたしは、わたしはあの方との間に、いえマイラス様だけではなく、他の方との間にも、それ以外にも多くの男性と……」


 これは、これだけは絶対に伝えなければならない事です。


 言えない事も有りますけれど、わたしが言う事の許されている内容は、全て伝えなければ、この方は御主人様なんですから。


 でも、もしそのせいで捨てられることになったら……


「サミュー、言いたく無いなら無理に言う必要はない、サミュー自身が話したいと思った時に話してくれればいい、話さなければならないなんて義務はない、言うのも言わないのもサミューの好きにすればいい」


「ですがそれでは、ご主人様は……」


 どうしてそんなにやさしいのですか。こんな私に優しくされるんですか。


「サミューの作ってくれる料理はうまい、精進物しか取れない俺にも毎日違う味で飽きないように出してくれるし、他の皆もよく食べる、俺が肉を焼いた時とは大違いだ、お茶も美味しくてただの休憩時間が贅沢になる、毎朝サミューがやってくれる身嗜みのおかげで周りからもよく見られるし、顔を剃ってもらったり髪を梳いてもらうのは気持ちがいい、アラの事を安心して任せられるし、今回みたいに服の手直しも出来る」


 そんな理由で、そんな他の奴隷でも出来る事のために。


「戦闘にしても、二種類の鞭で近距離と中距離で戦えるし、剣を使えるようになれば攻撃の威力もどんどん上がって来るだろう、それに他の皆に的確な指示を出して戦闘を有利に運べる、今日もミーシアとの連携でゴーレムを転倒させてただろ」


「それは……」


 本職の戦闘奴隷なら、もっと多くの事が出来るはずです。それなのに……


「戦闘では貴重な戦力で、それ以上に日常で無くては成らないほどいろいろなスキルが有る、その他に知っておく事が有るとは思えない」


 それなのにこの方は、わたしの事を必要だと言ってくださるんですね。


 本当のことを何一つ言う事のない私の事を。


「ご主人様」


 なぜでしょう、泣こうと思ってないはずなのに涙が。出す時は好きに出せるのに、止めたいときに止まらないと言うのは変ですね。


「もう一度言う、サミューが話したくなった時に話してくれ、それまで待ってるし、ずっと話したくないのならそれでもいい、もしあのクソガキを生かしておけないのなら、明日から『迷宮』を探して襲ってもいい」


「そんなことは必要ありません、ただ、ただどうかわたしを手放さないで下さい、何でもします、この身の全て、わたしのなにもかもをご主人様に捧げますので、どうか、どうか」


 あの地獄へ二度と戻らずに済むように、わたしを助けてください。


「勘違いするな、あの日に奴隷商から貰い受けてからサミューの全ては俺のものだ、サミュー自身が望まない限り誰にも渡したりはしない」


「ありがとうございますご主人様」


 恥ずかしいのを誤魔化すようなお言葉ですが、その言葉だけで私は救われるような思いがします。


 ですけれど。


「くす、そういえばマイラス様の事をクソガキだなんて、あの方は私より一つ上のはずなのでもう二十六ですよ」


 どう見ても御主人様はわたし達より年上には見えません、まだ二十歳にも届いていなさそうですのに、あのマイラス様をクソガキだなんて。


「マイラス様でそうなら、わたしもまだまだ子供に見られてるって事ですね」


 もしそうなら、歳の差は関係ないって事ですし。


「いや、そんな事はないぞ、年相応の色気が有るし、育つところは育ってるし」


 ここでそんな事を言ってしまうなんて、まだまだ甘いですねご主人様。


「うれしいです、ご主人様がそう思っていてくださっていたなんて」


 もしかするとこのまま押し込んでいけば、既成事実を作れるかもしれないですね。


「ご主人様、綺麗なお姉さんは嫌いですか」


「サ、サミュー」


 真っ赤になりましたね、かわいいものです。


「どうしましたか、ご主人様」


「おやすみ『入眠』」


 あら、きゅう、にねむ、く……







 小屋の中で料理をしながら、御主人様とハルさんを待ちます。


 あの方はいつも奴隷の私たちの事を優先して、自ら率先して危険に飛び込んで行ってしまいます。


 こんな主は、どれだけ探しても他にはいないでしょうね。


 やはり以前感じた思いは間違っていませんでしたね、あの方は奴隷の主としては理想的なご主人様です。


 だからこそ戻られた時に備えて料理を作っておかないと、きっと疲れて帰ってくるんでしょうから。


 伯爵領に行ったら、御主人様が美味しそうに食べられていた料理の事を調べてみましょう。


 御主人様はわたしを手放さないと言ってくださいましたが、これから先どうなるかはわからないんですから。


 色仕掛けが通じないのなら、胃袋を掴んで見せます。


「ふふ、絶対に逃がしませんよ、私のご主人様」


次で回想編は終わりです、メインはアラか……

ひらがなが多くなるんだろうなー

まあ次は短めにするつもりです……たぶん……


H27年2月11日 誤字、句読点修正しました。

H27年3月27日 以前の文との相違点を修正。

H27年3月3日 誤字修正しました。

R2年1月2日 誤字修正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サミューさんの微妙な思いにドキドキします。 面白くてつい6週も読んでしまいました。 [気になる点] やっと見つけられました。 50話 「貴族なら家臣を連れてもと大きな規模で攻略を進めるは…
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