5 無力チート
なんとか嘘吐きにならずに済んだ、間に合ってよかった~
おおう、危ない危ない、茫然としたまま日が暮れるとこだった。
「なあラクナ、これってやり直せたりしないか」
出来るよな、出来るって言ってくれ。
(やり直しというわけではないが、一定の功績を立てたと『社核』が認めれば、新たな武具を得ることができるのじゃが、それに合わせて新たなスキルやステータスが与えられる)
それだ、それならもうワンチャン出来るってことだよな、よしよし。
「その一定の功績ってのは、どうすればいいんだ」
(そ、そうだの、一回目は今までの平均で行けば。ダンジョンボス級のモンスターを十数体倒したり、ダンジョンを五つほど鎮静化したりなどかのう)
チートになるには、チートじゃなきゃできないようなことをしろってか……
どうしろってんだよ、こんなもん、クソ。
いやいや、落ち着こう、キレる十代じゃあるまいし、ここで怒鳴り散らしても何の役にも立たないんだから。
いつも通り落ち着いてトラブル処理してくべきだよな、責任の追及なんかは最後だ。
まずは現状を把握して出来る対処だよね、被害を最小限に抑えて、出来るならその中で少しでも得ができるように……
「ラクナ、今使えるスキルは『闘気術』だけか」
(魔法が使えない以上、ほとんどのスキルは役に立たぬのう、今使えそうな物といえば『魔力感知』や『魔力視認』などの身体スキルじゃな)
「どんな種類のスキルだ」
なんとなく予想はつくけど。
(周囲にある魔力を体感できるスキルと、実際に目に見えるスキルじゃ)
まあそうだよね。
「次だ、俺のステータスはどうなっている」
(魔術関係はかなり高いのう、じゃがその他のステータスは非戦闘員よりましといった程度じゃな)
うわ、聞きたくなかった、予想はついてたけどやっぱり低いか。
「『闘気術』を使えばどうだ」
(熟練度が低いので、あまり期待はできんがゴブリン数体程度ならなんとかなるじゃろう)
なら熟練度が上がれば、マシになるってことか。
「熟練度を上げるには、どうすればいいんだ」
(戦闘で実際に使うのが一番上がるがのう、他は訓練したり、ただ使うだけでも多少は上がるじゃろうな)
それなら、もしかすれば。
「なら普段から使ってるだけでも、熟練度が上がって強力になるってことだよな」
(その通りじゃが、とてつもなくMPを消費するぞ、いや、お主なら最大MPも高いしMPの自動回復スキルもある、ある程度なら可能かもしれんの)
よし、少しだけ希望が見えてきたぞ。
「とりあえず何でもいいから、戦闘で使えるスキルが欲しい、適当に素振りでもすれば何とかなるか」
(普通ならばそれで何とかなるじゃろうが、お主には難しいのう、スキル入手はどれだけその関連する行動をしてきたかで変わるのじゃが、それ以外にも職種やそれまでに入手したスキルの種類や量、熟練度に左右されるでな)
あれ、ちょっと嫌な雰囲気がするんだけどな。
(たとえば剣士の場合、剣関連のスキルは容易く覚えるが、それ以外、槍や弓等のスキルは覚え難くなる。騎士のように剣と槍を使う職種でも剣のスキルばかりを鍛えておれば剣スキルは覚えやすく、槍スキルは覚え難くなる)
うあー、嫌な予感が加速度的に膨らんでいくんだけど。
(更に、取得しているスキルが多ければ多いほど、新たなスキルは覚え難くなるのじゃ)
あああ、もういいよ、解ったから、言いたいことは解ったから。
(つまりは、お主が物理戦闘系のスキルを覚える可能性は、奇跡的に低いという事じゃの)
そうですか、そうなんですね、はあ……
「ということは、俺は『闘気術』だけを頼りに戦っていくしかないって事か、何か対策案はあるか、もしくはそれを提示できそうな相手の心当たりは」
あるだろ、あるよな、あるって言ってくれ~
(儂には解らぬが、神官長殿ならあるいは、彼女は知識も豊富なうえ、鑑定スキルの熟練度も高い、彼女なら儂に見えぬ物も見えるじゃろうて)
「なら神殿に取って返すしかないか、片道十日か」
(戻るにしても、護衛なしでは同じようにはいかぬであろうな)
確かにな、俺じゃあゴブリンを撃退するのも精いっぱいだし、一人で野営するのは危険すぎるだろうし。
「野営せずに、村や町で宿を取りながら神殿まで行くことは可能か」
(お主の脚力次第では無理ではないが、二十日はかかるぞ)
仕方ない、とりあえずは昨日泊まった街に戻るしかないか。
(気を付けるのじゃぞ、社の外はお主が今まで馬車の中から見ていたものとは、全く違うぞ、たった一人で自らの命を守らねばならないのじゃからな)
外に出ると同時に『闘気術』を発動させる、これで移動速度も上がるし、五感も強化されるから離れた敵も見つけやすい、とにかく急いで安全なところに行かないと。
(焦る気持ちはわかるがのう、最低でもMPは半分以上確保しておくようにするがよい、ゴブリンに襲われたときに『闘気術』が使えぬのは不味すぎるぞ)
「解ってる、こんなとこで死にたくないからな」
「はあ、はあ、この体は俺の若いころと同じなんだよな」
(何を当たり前のことを言っておるのじゃ)
18の頃と言えば、一日中グランドで走り回っていても平気だったはずだ、なのになんでこんなに息が上がるんだろ。
後ろに、何かの物音を感じると同時に体ごと振り向き、逃げ場を探すために周囲を見回す。
(リスじゃの、これ、もう少し落ち着かぬか、そんなにビクついておるから呼吸が乱れ体力を消耗するのじゃ)
「解ってる」
(もう少しいった所に泉がある、そこで少し休むのじゃな、MPがだいぶ減ってきておるぞ)
ラクナの指示通り進んだ先には確かに泉があった、あったんだが。
うわあ、グロ……
俺の見ている前では、鹿の死体に直接かぶり付いている二体のゴブリンの姿が。
(何を呆けておる、逃げるなり戦うなり早う決めぬか)
そ、そうだよな、奴らがこっちに気づく前に、あ、目があっちゃったよ。
いや、そんな立ち上がってこっちを見ないで、お食事を続けてもらえるとうれしんですけど、そんな血まみれの刃物向けるのはやめましょうよ。
「く、来るのか」
きやがったー
先頭の一匹目の振るった剣を、何とかかわす。
あ、あぶね、でもこれ何とかなるんじゃ、ってええええ。
は、腹から槍が飛び出して、ち、血が。
「グアア」
剣を構えたゴブリンがこっちに向かって。
「く、来るな、来るな」
切っ先が胸に、ああああ。
「かっ、あ、」
痛い、痛い、痛い。
(何をしておるか、お主には『超再生』があるじゃろ、せっかく目の前に敵の顔があるのじゃ、思いっきり殴り倒さぬか)
「こ、この野郎」
目の前に迫った緑色の顔面に拳を思いっきり叩き込む。
顎の形がゆがみ、そのまま小柄な鬼の体が吹き飛ぶ。
「や、やった、え」
(ふむ、お主の『闘気術』では一撃で殴り殺すことはできぬか、指輪を使え、手を相手に向けて、巨大な炎を思い浮かべるのじゃ)
で、でかい炎だな良し、ってワンボックスカーの一台くらい余裕で入るんじゃないかこの炎。
(馬鹿者大きすぎじゃ、しかも外すとは、よく狙わぬか愚か者が)
「もう一発だ、ってあれ」
(魔道具にもMPがあるのじゃ、使い切れば回復するまでしばらく何もできん)
おい、説明しとけそういう重要なことは。
(水か氷を思い浮かべよ、今度は大きさを考えるんじゃぞ)
「お、おう」
今度はタイヤくらいの大きさの氷を放つ、うわグチャって潰れたよ、凍りつくんじゃないのかよ。
(そんな大きさの氷の塊が頭に直撃すれば、まあ潰れるじゃろうな、それよりも、お主に刺さってる槍をそのまま抜くがよい。唖然としておるゴブリン相手なら力比べで負けることはあるまい、武器を奪うのじゃ)
言われた通り、腹から飛び出した穂先を両手でつかみ、思いっきり引き抜く、てか痛ええ、痛すぎだってこれ。
槍が完全に抜けると同時に振り向く。
唖然としているゴブリンに、一突き、もう一度、もう一度。
「死ね、この、この、この」
ゴブリンが穴だらけになるまで何度も何度も突く。
「はあ、はあ、はあ」
(落ち着いたかの)
「ああ、う、おえ」
ラクナの声で我に返り、目の前の光景を見直した直後、強い吐き気に襲われるが、実際に何かが口から出てくることはない。
(ふむ、胸の剣が食道を塞いでおるようじゃな、ちょうど良い、落ち着くまでそうしておれば食材を無駄にせずに済むぞ)
「ふざけるな」
胸元の剣をつかみ一気に抜くと、瞬く間に傷がふさがり、のど元を吐物が駆け上がってくるのがわかる。やべ吐く。
(そろそろ落ち着いたかのう)
先ほどと同じ言葉に俺が顔を上げると、胸元に大量の血と吐物が、これで村に入ったらパニックだな。
「なあ、ちょっとでいいんだがそこの泉で洗ってもいいか」
できれば服も替えたいけど、着替えもないし、洗濯してどのくらい落ちるかな。
(ここまでくれば、村まではあと少しじゃ、多少ならば構わんが、それよりも武器はどうするのじゃ)
「武器?」
(そこにあるじゃろう、それとも丸腰で神殿まで行くつもりかの)
地面には、槍と剣、これを使うってことか、本来なら最強武器を持ってるはずなのに、こんなボロボロの装備って。
(鞘がない以上、抜き身で持っていくしかないの、剣と槍、持ち歩けるのは一本じゃ)
なら剣か、槍は折れかけてるしな、剣を持ち上げるとラクナが鑑定結果を表示する。
錆びた銅剣 LV2
「LV2、武器にもレベルがあるのか」
(何を言っておる、使い込めばレベルが上がるのは当然じゃろ)
そうかそういう物なのか、なら新品より中古のほうが強力だったりするのかな、それなら使い込んでレベル上げれて売れば、差額で稼げたりするかも。
水浴びをしながらたどり着いた結論は、そんな馬鹿な物だった。
次回はバトルだったりします。
H26年4月8日、誤字句読点修正
H26年10月11日、誤字等修正しました。