490 発布
今回は、めんどくさい陰謀や説明会ですので、苦手な方は読み飛ばしたとしても、リョー君のストーリーにはあまり影響しないかもしれません……
作者の趣味だと思ってください。
『先日、迷宮の脅威より我らを守護なされるライフェル神の忠実な信徒、『尚武法師』が謂われ無き罪によりムルズ王国の宮廷騎士により害され、捕えられた。
法師は我らライフェル教徒とムルズ貴族の一派とにおける対立に心を痛められ、神官長猊下に願い奉られて、上級僧侶の身分を隠され冒険者に身をやつしてまで、ライフェル教徒との和平を模索するかの国の王女を護り、多くの妨害を跳ね除けて神官長猊下との面談の場までお連れし、無事に王都まで送り届けながらも、卑劣なるムルズ側の姦計により背後より撃たれて重傷を負われ虜の身となられた。
もはや、ライフェル神に対するムルズの敵意は明白となり、遠からず天下万民がその醜き心根と卑しき行動を知る事となろう。
神官長猊下よりすべての信徒・教徒へ命が下された、武ある者はムルズを討つ神軍へ参ぜよ、武なき者はかの地へ向かう信徒を助け一泊の宿を一食のパンを供する事が喜捨になると知れ。
偉大なるライフェルの御名に傷を付けようとしたかの地は、全ての国土、全ての家が神の威光にひれ伏しその許しが下る日まで穢れを纏う事となる。
かの地に住まう者達の手を渡った穢れた貨幣を受け取ってはならぬ、売った鉄は武器となりて信徒を殺し、売った麦はパンとなりて神敵を養うこととなろう。
遠からず、神官長猊下はライフェル神の地上での代理人としての権限のもとムルズ討伐の神令を発せられる事となる。
今この時に許しを与えられたのは、神軍に付き従い正道を歩む幾つかの家々とその郷里のみ、ムルズの民よムルズの壮士よムルズに住む全ての者達よ、信仰に立ち返る時は今である、悔い改め神とその教えのもとへ向かう者をライフェル神は許され迎え入れられるだろう、だが神を貶め信徒に牙を剥き続ける者を神は決して許されはしない。
既に火は放たれた、ムルズが放ったのだ、燎原の火は収まることなく遠く遠く広がり、ムルズの畑を、ムルズの村を、ムルズの街を、ムルズの人を焼く事となろう。
だがどれほどのモノが燃え朽ち、どれほどの被害が出ようとも、その罪の一切は火を放った者に有り、全ての責任はムルズに帰する事をここに明示する
ライフェル本神殿発 檄文』
立派なデスクの上に、ついさっきライフェル側から受け取った発布前の檄文の草稿を置く。
「宣戦布告に先立つ戦力召集の文章だっていうのに、ずいぶんと感情的な文面だなというかこいつは殆ど宣戦布告も同然の内容じゃねえか。まあ、民心を掻き立てるにも過激な方がいいんだろうし、それはうちのも一緒だけどよ」
『当家とラッテル家の結納に先立ち慶賀の為に来訪されたムルズ王女の護衛の役にかの『尚武法師』が付かれたのは、ライワ家当主である予自らが神官長猊下に伏して願い上げ、法師を招聘したためである。
それも全て、王女来訪という名誉と共に両家の慶事を無事に迎え、新たな親族となるラッテル家の憂いを和平樹立によって取り除かんと、予が願ったゆえの事。
だが、予の願いはムルズ王国の裏切りによってかなわぬ者となった。
『尚武法師』はライフェル教の高僧ではあられるが、予が招聘した時より、一時的なものとは言えライワ家の臣籍に入られていた、法師に対する危害は予の武名に対する挑戦も同じ事。
ムルズが傷付けたのはライフェルの僧だけではない。あの者達は嗣子の婚姻という家にとって最大の慶事に泥を塗られたライワの全ての者達の名誉と、何より我が子の門出を汚された予の人生そのものに傷を付けたのだ。
予とその同盟者は、ムルズを討つライフェル神殿の行動を全面的に支持し、後方より全面的な支援を行う事を約する。
此度の戦はライフェル教とムルズの物であるため、今は後方支援のみに徹するが、もしも『尚武法師』が再度害されるような事があらば、予自らが兵を率いて進み、我が剣を持って疑わしき者とその家その領の尽く討ち、たとえそれが一国の主とその一族であろうともその罪を問う事を誓わん。
当家の武威を侮り、それに挑戦せんがために『尚武法師』を狙わんとする者は、かつてメントラム領と呼ばれた地がどうなっているか、かの地に住んでいた者達が今どこにいるのかを思い出すが良い。
ライワ家当主、アキラ・カミヤ・ライワ』
うん、うちの抗議文も大概だな、出来るだけ怒りの感情を込めて、ムルズの連中をビビらせるような内容にしろと指示したが、これはな。
「最後の一文なんて、完全に脅しだからな」
まあ、この位の脅しをしとかないとバカがまた余計な暴発をしかねないからな。
「父上、なぜ当家は動かないのですか、父上や我々が参戦すれば、戦争はすぐにでも終わらせる事が出来るのではありませぬか、此度の一件で大義名分を得たのは神殿だけではなく当家も同じはず」
確かにそれも手ではあるが、この状況下じゃな。
「ムルズの王都にはリョーが居るからだ、アイツのおかげで神殿が仕掛ける大義名分の口実になったが、ただ単にライフェルの高位僧侶ってだけなら、ムルズ側は奴の安全に気を使う必要はないと勘違いしかねない」
普通に考えれば、神殿との停戦条件を詰める時の交渉手札としてリョーを大事に囲い込むもんだが、感情的になって視野狭窄しちまうと、貴族ってのは極端な方に暴走しやすいからな。
「あの事件でムルズの信用が亡くなったのなら、今更リョーを殺しても大して評価は変わらないだろう、だが国内向けの景気付け、士気高揚策としてはライフェル神殿の高位僧侶の処刑というのはうってつけだ、そんな風に思い込むバカがアイツを襲いかねない」
普通に考えればそんなマネをしようものなら、更にムルズの評価は下がるし、今ですらどちらに付くか迷ってるような連中も神殿支援に回りかねない、何より追加で顔を潰された神殿は退くに退けなくなって、ムルズ王国その物を徹底的に潰すしかなくなって、あの国の貴族が生き残る望みは完全に消えるだろうが。
「今のリョーはライフェル教とライワ家の二重に籍があり、ムルズはその両方を気にしなければならない。俺がまだ後方支援だけで本格参戦しない、だがこれからの状況次第ではどうなるか分からないとなれば、ムルズの連中は俺を参戦させないためにも、リョーを丁重に扱ってくれることだろうさ」
まあ、それでも暴走するバカは居るかもしれんがな。
「リョーの保護だけじゃない、ムルズとしては何としても俺の参戦を防ごうと色々と権益を融通してくれるだろうさ。俺達は神殿とお友達価格で多少値引きした商売をして儲けてるだけで、そうして肉体労働はせずに商売で稼いでくださいとムルズからお願いされて利権が転がり込んでくるって訳だ」
考えただけで笑いが止まらないな。
「父上、悪辣そうな笑いをしてますよ。しかし、ライフェル教は宣戦布告に先立ちフレミラウ法師を遣わして『人狗銀鉱』を近く『鎮静化』すると聞きましたが、そうなれば貴族軍に軍資金として大量の銀貨が供給される事になるのではないですか、激戦に備えるために法師一行に修行を積ませ強化する事が必要だったとはいえ、余りに軽率ではないかと」
ああ、パッと見だとそう感じるか。
「ああ、それはいいんだ、アレの目的はイーワミ男爵家の持ってる金貨を銀や採集物に代えさせることだったからな」
「銀にですか、確かに最初は硬貨鋳造に資金を使う事になるでしょうが、採掘や生産が進めば、将来的には敵の資金を増やす事になりましょう。採集物にしても加工して売却すれば、冒険者からの買値以上の額になる事は間違いないでしょうし」
まあ、確かに『将来的』にはそうだろうな、将来があればの話だが。
「採集物を加工して同じ物を大量に売って稼ぐとなれば、それなりの日数がかかるし、銀貨の生産量が鋳造費用を上回るのも少し先の事だろう。今貴族達が必要としているのは一年後に入る大金ではなく、多少少なくとも明日すぐに使える当座の金だ、大抵の傭兵契約は半月や十日おきの支払い、中には日払い契約なんてのも有る。今日は支払えないが、来月には必ずなんて話をしようもんなら、王族の借金逃れのためにリョーを捕えたなんて話になってて信用暴落中のムルズだ、傭兵の幾らかは契約期間終了と同時に去って行くだろうよ。一時的に敵の支払能力を下げるだけでも十分な効果がある」
不渡りってのは何処の世界でも怖い物だからな、神殿の出した檄文に動揺している傭兵なんかもいるだろうからいい刺激だ。
「ですが、それを乗り越えてしまえば、支払い能力が高まる事になるのでしょう、傭兵との契約は金貨で額を決めていても支払自体は同価値の銀貨で行われる事も多いと聞きますが」
そりゃ、傭兵に取っちゃ銀貨の方が使い勝手がいいからな。
傭兵団で一括支払いをするとか高額の装備を買うってんなら金貨でもいいが、個々の傭兵一人一人は普段の酒や飯、宿なんかの日常生活で使う少額の支払が殆どだからな。金貨なんて貰っても高価過ぎて釣銭が間に合わないから使えない、なんて事になる。
宵越しの金を持たないなんて言ってる傭兵や冒険者なんかは、何処でも気兼ねなく気楽に使える銀貨や銅貨を欲しがるもんだ。
「それも問題ない、今穀物と銀の相場はどうなっている」
俺の問いに、何を聞かれたのか解らないような顔をしているが、こんなんじゃまだまだ家督は譲れないか。
「は、相場ですか」
「そうだ、解らないのか」
「いえ、調べてはおります、いざとなれば兵糧を購入する必要もありますし、その他の軍需物資も入用になるかもしれませんので、とは言え今の相場を見るとあまりやりたくはありませんが。穀物ですが、当家にて仕掛けた暴落の影響はだいぶ薄まりつつあります」
まあ、長くは続かないだろうことは解ってたからな、穀物は土地や物と違い徐々に量が減って行くものだ、日々の食事で食われていき、管理が悪ければ虫や鼠に食われ、カビも生えるし腐りもする。
そして、生きている以上飯を食わない訳にはいかない、常に一定の需要があり続けて、生活とは無関係の投機的なモノや金の流れが無くなれば値段は自然と落ち付くものだ
それに……
「これは家畜飼料や酒造などへ食用の穀物を転用し事業化しようとする貴族家が複数あった事、水運を利用して安いこの国で大量に麦や豆を仕入れ他国で売る商人が一部居た事、傭兵の大量流入により食糧の消費量が増えた事、中には傭兵団の食糧の持ち込みを少なめにして安く買えるムルズ国内で兵糧を買い集めたという事例も有るようです。更には戦乱の長期化や籠城戦等に備え、主戦派貴族達が余剰穀物の放出を控え、備蓄を増やしだした事が大きいかと、また一部の村落や商人もこれに続くように穀物の売却を控えだしています」
貴族連中としちゃ、前の穀物相場での損を多少でも回復するために売りたい気持ちはあるんだろうが、それで兵糧が足りなくなったらと考えると、涙を呑んで貯め込むしかなくなるよな。
商人が今になってため込む理由も戦争が理由だろうな。男手が徴兵されれば、畑仕事に支障が出て次の収穫の減少に影響する、そうなりゃ、来季はまた穀物が不足して値が上がるとふんだんだろ。
ついでに村の貯め込みの方はたぶん、軍隊の徴発や、傭兵の略奪に備えて、取ってかれても何とか自分等が食いつなげる量を隠し持って置こうってところか。
ついでに言えば俺が投入した『アイテムボックス』で大量に運べる迷宮産穀物の存在に気付かれないようにと、神殿の密偵連中が、それらのしまって有る倉庫に放火してるらしいからな。
「他の食糧や各種物資など幾つかの物が、これに合わせるように少しずつですが値上がっています」
まあ、戦争ってなりゃ色々必要なものが出て来るからな、食い物、薬、木材、金属、布や皮革、牛馬を始めとする役畜、照明や炊き出しに使う燃料、様々な物が必要とされて値が上がる。
「この国は尚更その傾向が強いだろうな」
元々ラッテル家を始めとした蝗の被害を受けていた地域は生きるために、ありとあらゆる物を食料に代えて、モノ不足だった。それをうちの資金援助でしばらく前から一気に立て直す為に必要な物を買い集め始めてた。他の貴族達も、穀物を買い占めて、更に相場につぎ込む金を得るために領内で産出された物を輸出に回してた。
それを急に戦争準備で買い集めれば、物が足りなくなり値が上がるのは当然だ、まあ鉄や革なんかの一部の物資は『活性化』騒ぎのせいで『迷宮』から大量に湧いて有り余ってる物も有るが、逆に薬や陣地構築に使う資材なんかは『大規模討伐』や『鎮圧戦』で大量に消費されて通常よりも足りなくなっているらしいが。
他にも値が上がってる理由が有るしな……
「銀貨の両替相場はどうだ」
「そうですねこちらも徐々に、いえそれなりの速度で値が下がって行っています、一時は金貨一枚との交換比が銀貨70枚を切っていたというのに、今は90枚近くとかなり落ち着いてきています。それと銅貨はそれ以上に値が下がっていますね。おそらくは『鬼軍荘園』等の『鎮圧』により、ゴブリンの装備から鉄だけでなく銅も大量に取られた事からと思われます」
「もう少し、銀相場が下がるかと思ったが意外と持ったな」
「父上は、この値下がりを予想されて居たのですか」
なんだ、コイツは銀がまだ値上がりすると思ってたのか。
「元々、銀の値上がりは貴族達が穀物を買い占めるために、農村や行商人などからも直接買い上げようと少額取引に向いた銀貨を大量に集めようと、どんどん金貨と両替していたからだ」
「それは今も続いているのではないですか、傭兵を雇用し続けるために貴族達は銀貨を必要としている。だからこそ、まだしばらくは高値が続くはずでは。確かに今の金貨一枚に対して銀貨90枚の交換比でも、他国より銀貨の価値は高く貴族達は両替で損を出している計算にはなりますが」
「そうだな、お前が行商人で隣国とこのムルズとを行き来して商売するならどうする、この場合お前はそこそこいい『アイテムボックス』と荷馬車を持っていてそれなりの量の貨幣や多少の商品なら持ち運ぶのに困らないとしておこう」
「そうですね、それなら銀貨を持ち込んで安くなった食糧を買い込み、国外で銀貨に代えてまた戻る。いやいっその事金貨との両替比が70枚だった頃なら、隣国から銀貨を持ち込んで金貨に代えて、戻って銀貨100枚に戻してこの国でまた金貨にというだけでも儲けられますか、あ……」
やっと気づいたか、まだリョーの方が物分かりが良いだろうに、いや日本の高校までの一般教育をまともに受けていた人間と、この世界で生まれ育った人間を比べるのも酷か。まあ、日本人でもまともに判断できないのはごまんといるが。
「必要とされる所、足りないところに、必要な物を届けるのが商売のコツだ、硬貨だって立派な商品になる。おそらくこの数か月でかなりの量の銀貨がこの国に流入しているだろう。それこそ、冒険者や傭兵だって多少気の利く奴ならこの国に来る時に銀貨を多めに用意しているだろう。貴族が溜めこんでいる量を越える位の銀が流れてるからこそ徐々に価値が落ちていってる。まあ今頃は、主戦派貴族達は換金可能な資産のほとんどを銀に代え終わっているだろうさ、だからこそ、銀の値がここまで下がった、銀の買い手が減ったんだからな」
「なるほど、しかし、わずかな間とは言え高値を維持できるだけの現金が良くこの国の貴族達にあった物ですね。穀物相場で大損して借金まみれでしょうね」
「新しく借りたんだろうさ」
「今の主戦派貴族達がですか、担保になる物も残っていないでしょうに」
「貴族連中の資産を担保として抑えていたのはライフェル神殿だ、戦争に勝てば借金を返す必要も担保を取られる恐れも無くなるし、この国に有る神殿の利権や財産を奪えるから、神殿が担保として抑えていたはずの土地や利権を使って、新しく借金をしたんだろうさ」
まあ、負ければ二重の借金を抱えることになるだろうがな。
「不道徳な話ですね、これだけでも返済に支障が出ればムルズの信用問題がさらに悪化しそうです。なのに銀貨の値下がりで既に損を出しているとは報われない」
「何を言っている、奴らが損をするのはこれからだ」
「は、それは……」
「これから銀貨の値段はまだ下がる、一度使われた貨幣は回り続けるからな。農村に貨幣が大量に置いてあっても食えはしないし使い道もあまりない、貴族達が穀物を買い占めるため村々にばら撒いた銀貨は、物の買い出しという形で都市に集まる。田舎じゃ滅多に入らない大金だ、さぞや豪勢に買い物をしただろうさ。冒険者や傭兵たちも貴族から貰った銀貨をすぐに酒や食事、女に代えていく、都市にある銀はどんどん増え、逆に市場から物は減って行く」
インフレには丁度いい条件だ。
「『人狗銀鉱』が解放されれば、イーワミ家からどんどん銀が放出される、物も金貨も増えないのに銀貨だけが増えていく」
「銀鉱から、銀が取れれば取れるほど、物価や金貨との交換比が上がり銀貨の価値がさらに下がると」
結局の所、銀貨を軍資金として抱え込んでる貴族の資産総額は大して変わりはしない、それどころか。
「いや、だが銀貨の価値変動はこの国だけの局地的なモノです、高騰した銀貨の値が、周辺国から銀貨流入で徐々に下落して来たように、暴落した銀は他国に流れ出して、直ぐに平均が取られるはず。父上はそれまでの期間でムルズの主戦派を追い込まれるつもりなのですか」
「お前が思っているほど、早く相場は落ち着かないさ、その為のこの二枚の布告だ」
デスクに置いてあるライフェルから送られた檄文草案と、ライワ家から出す宣言文の原稿を指さしてから、ライフェルの方を持ち上げる。
「神官長は、周辺国の信徒に、ムルズの主戦派から物を買うなと命じる、この国に物は入ってこないし、銀貨も出て行かない。銀の価値は戻りようがない。その上で俺の布告だ」
あれは、リョーに手を出させない目的も有るが、ムルズの連中にメントラム子爵領の事を思い出させ怯えさせる目的も有った。
「主戦派貴族の領地に住む連中はこう思うだろうさ。うちの領主様がバカをやらかせば、俺達もメントラムの住人のように皆殺しにされるとな。ならどうなる」
「戦禍を逃れるために、多くの民が流民として国外に逃れようとするでしょう。そうなれば保存食を始めとした旅に必要なものが大量に買われて、物資は更に減る。いえ、それどころか『アイテムボックス』を持たない民衆にとっては、かさばる銀貨は邪魔になる為、旅の支払で使う分を越えた財産は、小さく持ち運べていざという時にも隠しやすい金貨や宝石に代えられる。商人や職人を含む民衆が減れば物流は一気に滞る、そうなれば物価は上がり、行き場の無い所に追加で供給された銀貨や銅貨の価値は……」
「そうなれば、傭兵達は銀貨で報酬を貰っても、酒や飯が十分に買えなくなり、不満が高まるだろうさ。貴族は傭兵との契約を継続するために、更新する時に契約額を増やさざるを得ないだろうし、物資を買うにもかなりの銀貨が必要になる。だがそうなれば市場を流れる銀貨はさらに増え価値がまた下がる。貴族達はドンドン銀貨を吐き出し、物価を安定させるなら兵糧や軍事物資を放出する事になるかもしれん、長期戦を戦うような体力は貴族家には残らない。うちとライフェルは主戦派貴族を潰した直後に物資を投入して売りさばき、暴落して市場にあふれた銀貨をかき集めれば、更に儲かる」
ちょっとした行動と布告一つで利権やら金やらが転がり込んでくるんだ、ボロイ仕事だ。
それもこれもリョーの奴が上手くやってくれたおかげだ、アイツにはこれからも頑張って貰いたいものだ。
その為にも……
「ヤッカを呼んで来い、アイツにさせる仕事がある」




