485 悪漢
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(ラクナ、これはどういう事だと思う。確かここの領主は領内でトラブルになって王女の身に何かあると不味いから、手を出してこないだろうって話じゃなかったか)
だっていうのに、周りにいる騎士連中は殺意むき出しで俺達に槍を向けてるんだけど。
ここまで接近されて囲まれた状態で、しかも俺とハルだけってなると、魔法を放つよりも向こうの槍の方が早いし、一人じゃ護りきれない、かと言って逃げるのも、こんな平地じゃ馬には勝てないか。
(先ほどまでの話を考えると、確かに王女の安全は確保されて居る様じゃが)
俺達はその限りじゃないって事か、でもなんでいきなりこんな事になったんだ。
「護衛という役に有りながら、畏れ多くも王女殿下に不埒な真似を働いた卑劣漢めが、このブラインドが成敗してくれる。そこに直れ」
不埒な真似って、一体何を言ってやがるんだ。
(ふむ、一理は有るのかもしれぬのう。今の王女の姿を見れば、お主から手籠めにされたと勘違いされても仕方なかろうて。年頃のそれも見目麗しい王女が、男と二人だけで一夜を明かしたというだけでも、あれじゃというのに、この服装じゃからのう)
え、ああ、そう言えば……
「シェル男爵、其方は何を言っておるのだ、サカキ卿は、そのような事はしておらぬ……」
話し出した王女の方に目線を向けると、元々着ていたはずのドレス風の服は跡形もなく、救出された直後の被害者みたいに安っぽい毛布を肩から羽織っている状態で、毛布の隙間から覗くのは、男物の下着の上に着たやっぱり男物のシャツだけで、真っ白な太腿が陽光を弾いて眩しい。
うん、俺が何も知らずに向こうの立場だったとしても、これは完全に事後、それも服がダメになるような強引な行為をした後だと思っちゃうかもしれないわ。
「殿下、みなまで言わずとも、このブラインド、その痛ましいお姿を見るだけで殿下の御無念は察して余りあるほどに解っておりますので。それ以上はお辛い事をあえて口になさらなくとも結構でございます。全ては殿下の大事に間に合わなかった臣めの不徳、お叱りは後程いかようにもお受けいたしますが、今はまず、どうか殿下の御心がやすらかになられるよう。せめて、この悪漢めを、悪漢めを誅さねば」
何か言おうとしていた王女の前に、自分の手の平を差し出して言葉を止め、思いやりのあるような事を言ってるけど、なんだろうな、この騎士の表情とか仕草を見てると自分に酔ってるようにも見えるな。
まあ、状況的には悲劇の王女を慮る、正義の騎士って感じではあるけど。
(それも有るかもしれぬが、打算も有るやも知れぬのう)
(どういうことだラクナ)
何か、まだ長々と口上を述べてるブラインドと、何とか説明しようとしてその都度話を止められてる王女の方を警戒しながらラクナの言葉に意識を割く。
(ライワ家の家臣待遇とは言え、一冒険者に汚されたとなっては王女は傷物扱いとなるじゃろう。そうなっては、同格の相手、つまりは他国の王族や、高位の貴族との婚姻は体面を気にされて難しくなるというのはお主にも解ろう)
そう言えば、トーウが俺の奴隷になった時は、俺がトーウを抱いたって事にして、メンツを気にする貴族がトーウを狙って来るのを牽制したっけ、たしか冒険者風情の手つきになった奴隷を欲しがるなんて噂になったら、貴族のメンツに関わるんだったか。
まあ、そんな噂を流したせいで、今度は俺がラッテル家の乗っ取りを企んでるなんて疑われたから、俺は男性不妊だって噂を流す事になっちゃったんだけど。
(政略結婚などでは使えぬ傷物扱いとはいえ、自国の王女ともなれば立場の低い貴族からすれば高嶺の花であり栄達の手札となろう。王女を助け、傷物とした張本人を見事成敗して見せて王女の名誉を護ったとなれば、その後の流れ次第では助けられた王女の降嫁という事も有るかもしれぬからの)
つまりは俺をダシにして王女との結婚が転がり込んで来るんじゃないかと狙ってると。
そりゃまあ、男爵位の下位の貴族からすれば自国の王女様と結婚っていうのは逆玉なんだろうけど、その為の手柄扱いされる方の身にもなって貰いたいな。
「そうではない、そうではないのだ、サカキ卿は何も……」
「殿下、辛い事を無かった事にしたいお気持ちも、王家の名誉の為に事態を御隠しになりたいお気持ちも、重々解りまするが、だからと言って罪人を庇われては、天下に正義を示す事が出来なくなりまする。どうか御心を強く持たれますよう」
(どうするのじゃ、逃げるかのう。お主とハルだけならばなんとかなるのではないか)
いや、それはマズイよな、それって王女をこの場に残す事になるからさ、いくらこの領内では伯爵家から襲撃される心配が無くて大丈夫だって言っても、どこかで別口の刺客に襲われるかもしれないし。
それに今俺達が逃げれば、罪を認めたから逃げたみたいな扱いになって指名手配されるだろうし、何より今の俺はライワ家所属でカミヤさんの命令で行動中って事になってるんだから、ここで何かあればカミヤさんに影響する事になる。
(確かにのう、護衛として派遣した家臣が、護衛対象を手籠めにしたなどと醜聞が立てば、ライワ家は周囲からの目も有るため、これ以上この国に対して何かするという事が難しくなるやも知れぬのう。場合によっては、周囲からの圧力でラッテル家からも手を引かざるを得ないかもしれぬ。まあ、あの男であらば力づくで強引にそれらの干渉を跳ね除けるじゃろうが、やりにくくなるのは確かじゃろうて)
となるとやっぱり、何とかして誤解を解かないと、とは言え俺の話は聞かないだろうし、王女が何を言ってもって感じだし。
(ふむ、お主が職通りに聖人君子であらば、このような疑いを受けることはないのじゃろうが、この辺りでのお主の評価は、悪名交じりでなかなか難しい所じゃからのう)
どうする、どうすればいい。
「婦女子を害する卑怯者め、我が断罪の刃にて成敗してくれる、さあ、覚悟せよ、神妙に致せば、我が慈悲を持って苦しまぬよう一撃で仕留めてやろう」
いや、それ全然慈悲じゃないだろう。こうなったらこいつ等から王女が危害を加えれないのは間違いなさそうなんだから、彼女の事は気にせずにハルと二人で暴れ回って、こいつらを皆殺しに、って何を物騒な解決策を考えてるんだよ俺は。って、え……
「ハル、何を……」
「なんだ貴様、奴隷か、何のつもりだ」
なんでハルが俺と騎士の間に入ってきてるんだ、危ないだろう。
「身分卑しき者が、許しも無く貴族様に物申す無礼をお許しください、なんとしても我が主に付いて言上したき議がございます」
騎士の前に跪いたハルが、聞いたことの無いような丁寧な口調で言いだすけど、騎士の野郎ハルの首元を狙って剣を構えてやがる、もしも切りつけようとしたら、その時は迷う事無く……
「ほう、その所作を見るに、平民や下民上がりの奴隷ではないな、地方貴族か没落貴族の奴隷落ちと言ったところか、面白い、この状況でどう言い訳するか聞いてやろう、申してみよ」
「寛大な御言葉、恐悦至極に存じます。この場の状況より我が主に対してのお疑い、御尤もと存じますが、我が主であるリョーは、女性を抱く事が出来ぬ体でございますれば、これは何かの間違いに違いなく、男爵閣下に有られましては、御再考を頂きたく」
ぶっ、ハ、ハルさん、貴方何言っちゃってるの、いや確かに俺には『禁欲』が有るからそう言う事が出来ないのは確かだけどさ、なんかその言い方ってさ、ちょっと……
「女を抱けない、そう言えばラッテル家の令嬢を奴隷にした冒険者は、そっちが役立たずの『不能』だという噂が有ったか」
ほら、そう言う風に取られるよね、とられちゃうよね。
(よいではないか、この話が信じられれば、お主の嫌疑も晴れようて)
いや、そうだけどさ、こういう信じられ方は何かな。
「ふん、奴隷が主を庇って言う言葉など、信用できると思うか。第一そのような事をどうやって証明して見せるつもりだ」
(確かにそうじゃのう、『奴隷』は主を護らねばならぬ以上、通常ならば嘘を吐く事も有りうる。かと言って、包み隠さず真実のみを言うよう、お主がハルに命令して証言させた場合じゃと、お主が『勇者』という事や『禁欲』の事まで話さざるを得なくなるやも知れぬ)
そうか、主の命令による奴隷の証言は、嘘や隠し事ができないから証拠能力が高いけど、そう言う隠しておきたい事までばれるリスクが有るのか。
「証明で、ございますか」
少し動揺したような、ハルににやけながら騎士が答える。
「そうだ、貴様の言う通りその男が女を抱けないのだとしても、それを証明できねば信じられるはずが無かろう。証明できぬであらば、我はこやつが罪人であるとして断罪するより外に有るまい、奴隷の言に惑わされ対応が遅れれば、罪人に逃亡の隙を許す事になるやも知れぬ。殿下に無礼を働いた逆賊を一度捕えながら取り逃がしたなどとなれば、末代までの恥辱となろう」
コイツ、最初からハルの説明を聞き入れる気が無いのか、ただ気まぐれで、遊び半分で話を聞いてるだけか。
(難しい話じゃのう。最も手っ取り早い方法は王女の身体を調べ、純血の証である膜が残っておるかを調べる処女検査じゃろうが、王族に対してそのような事を口にするだけでも不敬に当たろうて、もしやるとなっても王宮の女官長なり典医なりの、かなりの地位と信用の有る物でなくば出来ぬじゃろうから、今この場では不可能じゃ)
そうだよな、ラクナの言ってる事って要は乙女に股を開いてみんなに見せろって言ってるも同じなんだから、そんな事させる訳には……
「で、でしたら」
ハルが、うつむいたまま小さな声で何かを口にすると、騎士が面白そうに問い返す。
「ん、なんだ、まだ何か言い訳が有るのか、良い余興になった、なかなか面白い奴隷だな貴様は、こやつを処断した後、我がもらい受けてやろうか、伯爵である父上ならば、奴隷の所有権を強制的に解除できるからな」
「でしたら、わたくしの、この身体を、お、御調べくださいませ。主と長年共にあったわたくしが、じゅ、純潔であらば、それこそが主が女を抱けない何よりの証明になるかと」
顔を上げ騎士を真っ直ぐに見返したハルが、どもりながらも一気にまくしたてるけど、何を言ってるんだハルは、それって要は……
(確かに悪い手ではないのう。奴隷であるハルの身体であらばこの場で調べる事は可能じゃし、見目の良いハルに手を出していないと証明されれば、王女も同じように無事と、そう推察する事は可能じゃろうし、じゃが、お主は納得せぬじゃろうな)
当然だ、処女か調べるという事は、ハルの下半身を調べるって事だろうが、嫁入り前の女の子にそんな事させる訳には。
「ハル、そんなこ……」
止めようとする俺の口に叩きつけるように背伸びをして掌を当てて来たハルが、真っ直ぐにこちらを見つめて来る。
「リョー、黙っていて頂戴、こ、こうでもしなければ事態は解決しませんもの、貴方に何かあれば、それが例え命にかかわらない不名誉だけであっったとしても、色々な所に影響が出かねませんし、貴方が傷付けば他の奴隷の子達やアラがどうなると思ってますの。べ、別に殺される訳でも、押し倒される訳でもありませんもの、わ、わたくしは奴隷でしてよ、この首輪を着け売られた時から、どのような目に遭っても構わないと覚悟は決めていますわ。た、たまたま主が非常識で女を抱けなかったために、その時が今日まで来なかっただけ、ですもの」
そんな、啼きそうな声で言われても、でも確かに俺が疑われたままだと、だけどこんな……
「ほう、良かろう、我ら全員で見届け確認してやろう、さあ、その場で服を脱ぎ棄て足を開いて見せろ、お前の脱ぎ方次第では、先ほどの話を信じてやってもいいだろう。よく見えるよう着ている物をすべてを脱ぎ捨てよ」
「承知いたしました」
この野郎……
(止めぬか、ハルの覚悟を無駄にする気かお主は)
だけどこんなのは、こんなのは。
「リョー、気にする事はありませんわ、奴隷が裸を見せる、ただそれだけの事ですもの、ですからそのままでいて頂戴」
ハルが、いつも着ている『銀狼のコート』を脱ぎ捨て、震える手で、服のボタンをはずして上着の前を開くと、滑らかな肌と下着が露わになる。
「よさぬか、そこまでだ」
いつの間にか王女がハルの隣に立って、ハルの手を止めて、それ以上脱がさぬようにする。
「殿下、一体どうなされましたか」
「わたくしは、失念していたようだ、王族であるわたくしが守るべきは、個人の名誉でなく、王族の誇りであると、そして統治者たる王とそれを補佐する王族であるならば、自らの誇りは自ら守らねばならぬ事を、民にそれも他国の民にその役目を委ね、献身からの犠牲に庇われるなどと、あってはならぬ事」
不思議そうに問いかけるブラインドに何も答えずに、小さく呟いたミーラ王女が自分の左肩を右手で掴み、服を左袖ごと一気に破り捨てた。
あと2日




