466 ムルズの屋台
(注)今回の話には排外主義的、非人道的なセリフが出て来ますが、あくまでも人権思想が存在しない中世風異世界の世界設定であって、作者の政治信条・思想面を肯定・否定ともに反映する物ではありません。
「お、お肉の匂いがします」
「ふう、やっと保存食ではないまともなオカズが食べれそうですわね」
「おいしそーだね、リャー」
「御主人様、精進物を探してまいりますので、お待ちください」
みんな楽しそうに周りを見てるな、だからと言って油断はしてなさそうで、周囲にしっかりと目を配っているのは、ありがたいな。
「ああ、まさか、これほど多くの屋台が有るとは、魔物肉とはいえ、様々な部位、種類、調理法が、川魚や山菜、キノコまで、先ほど大量に穀物を頂いたばかりだと言いますのに、目移りしてしまいます」
うん、トーウは興奮してるけど、周りに意識を向けてるんだよね、食べ物しか見てない訳はないよね。『衛士』の職が有るトーウの事は頼りにしてるんだからね。
何しろさ……
「ここが、中央広場であるか、他の場所と比べても人通りが多いの、値が適正かどうかはわたくしには分からぬが、女将の話では、値が上がって居るとの事であったか」
「御意」
「まったく、でん、んん『御嬢様』をこのような下賤な場所へお連れする事になるとは」
はあ、マインじゃないけど、なんで御姫様まで配下を引き連れてここに着ちゃうかな。
当初の予定は宿の部屋でしっかり護衛しながら御姫様達を残し、サミュー達に買い出しを頼むはずだったのにさ。
御姫様が市井の様子を見に行きたいって言いだしたのと、好みや体質、後は慣例的な面で食べれない物が結構あるって話や、中央広場から買ってくると冷めてしまって美味しくないだろうって意見もあってさ。
だからと言って流石に、あの食事だけで終わらせるのはアレだったもんな、うん満足度の面もあるけど栄養的な面でもさ、でも、こうして連れてきて正解だったかな。
売ってるものは、異世界屋台の定番って感じの串焼きも有るけど、煮物とか汁物、あとは炒め物なんかが多くて、器に盛って渡してもらうスタイルみたいだから、人数分を宿まで持って来るってなると、零さないようにするのが大変だろうし、冷めちゃいそうだもんね。
周りを見ると、買った連中は広場の所々に有るテーブルベンチで食べて、空いた器を戻してるみたいだな。
「それにしても、ずいぶんと子供がおるな。将来の働き手たる子供が多い事は良い事ではあるが」
うーん、確かに言われてみると、子供の姿が結構あるな、とは言え親子連れっぽいのはそこまでじゃなくて、なんか店員ぽいというか片づけをしてるよな。いや、でもすぐに店に持って行くわけじゃないし、自分で片付けてる客もいるし、うーん買う時に聞いてみるかな。
「お、精進料理の店が有るな、すまない買って来るので少し離れる」
「承知しました」
俺の言葉に合わせるように、サミュー達が立ち位置を変える。一応うちのパーティーの中では買い出しに離れるのは一人だけ、最大戦力のアラと、守りの要のミーシア、それにいざという時は王女を連れて空に逃げるハルの三人は、王女から離れずに食べたいものは俺かサミュー辺りに頼む事にしたんだけど上手く守れると良いな。
とりあえずは、実力の解らないマイン達無しでも王女を護りきれるつもりでいかないとな。
「すまない精進物の山菜炒めを一つと、普通の肉炒めを幾つか貰えるか、幾らになる」
「らっしゃい、この辺りは、何処の店も一品銅貨五枚だ、すぐ作るからまってな、精進物は専用の鍋で作るからよ」
約五百円か、まあ縁日の屋台だと思えば妥当な所か、量を見た感じだとやや少なめで、大人の一食分は四、五品くらいは買わないとダメかな。そう考えるとたまに飲み会でとかならともかく、一家で毎食ここでってなると結構な出費になるか。
「器を返してくれりゃ二つで銅貨一枚を返す、しっかり洗って返してくれるなら一つで銅貨一枚、もしくは自前の器に盛るんなら銅貨四枚で売る」
ああ、要は器の保証金も入ってるって事か、まあフードコートと違うから必ず帰って来るとは限らないのか。洗うと安くなるってのは面白いな、手間賃って事かな。ん、てことはあの子供は……
「なあ、あそこにいる子供は」
「ああ、器の戻し賃と、残飯狙いの孤児だな」
あれ、いや器賃は何となく想像ついてたけど、小遣い稼ぎかと思ってたのに、孤児でしかも残飯って……
「ほれ、少し前まで蝗害で凶作になったって話だろそこら辺から口減らしって事で、行商人や旅人に小銭渡してガキを預けて街に捨ててるんだよ。運が良けりゃそのまま行商人の見習いとか、付き合いの有る店の丁稚なんぞになれるらしいが、大半はこういう町で浮浪児、でなきゃ娼館行きだ。あと最近は穀物相場の絡みで、欲出した領主が農村の税率を上げて、農家で食う分の麦まで取りたてたせいでの口減らしってのも有るらしいがな」
うわ、口減らしって、そりゃ江戸時代とかには有ったって聞くし、農村であぶれた人口が都市部に流れるっていうのも聞いたことはあるけど。
「なんだよ、その顔は、町に捨てられるだけよっぽどましだってんだ、ド田舎の農村じゃ奴隷商の仕入れもめったにねえからな。大抵は山なり森なりに捨てるもんだからな」
そういえばグ〇ム童話の『ヘン〇ルとグ〇ーテル』なんかもそう言う話だったよな。
「ホントに、飢えて追い込まれた村なんかじゃ、口減らしの後で『出所不明の肉』が食卓に乗ったり、おっと、コイツは飯前に、それも精進物を喰うような相手にする話じゃなかったな」
うん、マジで止めて欲しいわ……
「しかし、浮浪児か、孤児院とか救護院みたいのはないのか」
まあ、異世界ファンタジーとかだと、孤児が多すぎていっぱいってのが定番だったりするけど。
「お客さん、ずいぶん遠くの人で、この辺りの常識には疎いみたいだね。ここら辺の国じゃ孤児院なんぞに入れるのは、税金を払ってた市民とか領軍兵士の遺児ぐらい、他から流れて来たり、身元の分からねえガキに、町や領地の税を使うかよ。ただでさえこうして捨てられてるってのに、無制限で面倒見るなんてなりゃもっと捨て子が増えるぞ」
うわあ、世知辛い、でもそうしないと、予算が持たないって事も有るのか。
(当然じゃろうて、税とは領主の庇護への対価じゃ、孤児院にしろ救護院にしろ、適正に税を払っておれば、あるいは真面目に兵役をこなしておれば、たとえ何かあろうとも家族は最低限の面倒が見て貰えるという事を示す為に有るような物じゃ。対価を払わぬものが庇護を受ける事など出来ぬし、領主にもその義務は無かろうて)
うん、この世界で無条件の人道上配慮とか期待しちゃダメって事なのか。
「それに神殿なんぞの施設ってのは、要は坊さんの見習いになるって訳だから、戒律やら禁忌だと色々面倒だからな。背に腹は代えられねえってガキもいるが、それを嫌って炊き出し位しか神殿に関わらねえガキも多いし、戒律破りで追い出されたってのもたまに聞くな」
うーん、まあラッドとかコンナを見ると、この世界の御坊さんって大変そうだもんな。
「まあ、そのうち減るだろうさ、ここみたいな街道沿いの町なら、奴隷商の仕入れだとか、商家の丁稚先、娼館なんぞもそれなりに有るから、だんだんそっちに流れていくだろ。『アイテムボックス』が足りなくて荷物持ちや雑用を欲しがる冒険者や俺らみたいな露店の手伝いって事で拾われるのもいるしな」
うーん、なんか聞いていてもやもやするけど、飢えるよりは奴隷になった方がましって事なのか、いやサミュー達を買ってる俺の言えた事じゃないな。前に聞いた話だと、奴隷制がこう言う風な弱者救済になってる面も有るって事だし。でもなんかな。
「ガキが気になるっていうんなら、ここら辺の店でたんまり買ってくれりゃいい」
「どういう事だ」
「懐に余裕があって、お優しい金持ちさんなんかは、多めに食いモンを買ってわざと食い残すのさ。残った器はガキどもが回収して洗い、店に戻して銅貨にするが、そのついでに食い残しを頂くって訳よ。ガキは金になって腹も膨れ、店は料理が売れて儲かる、お金持ちさんは良い事をして気分がいいって、三方丸く収まるって寸法よ」
こういうのもウィンウィンっていうのかな、いやでも客にとっては気分がいいってだけで、普通よりも金を使う事になるんじゃ、まあ、食べ終わった食器を片付けずに済むし、残しても良いというか残した方が良いなら、いろんな種類の料理を買って食べ比べるっていうのもアリか。
「それにこうやって、飯と小銭がはいりゃ、スリやかっぱらいをするガキも減るからな。この辺りでそんな事をして、客に迷惑かけて屋台の売り上げがへりゃ、屋台の連中や他のガキが黙っちゃいねえからよ。出来心程度なら多少痛めつけられるし、何回もやってるならボコボコに、強盗まがいの真似をするようなら、下手すりゃそのうち運河に浮いてるか木に吊られてるか。まあ、そんなこたあめったにねえがな」
こええ、さらっと吊るすとか言わないでくれよ。いや、めったにないって言ってるし、多分脅しみたいなもので現実には、うん、そう思っておこう。
「色々と面白い話を聞かせて貰った、ついでだ、他の料理も何品か作って貰えるか、せっかくの機会だ色々と食べてみるのも一興だろう」
「毎度、ああ、そうだ料理の皿が多くて持ち運ぶのが面倒なら、そこらへんのガキに銅貨を一枚投げてやりゃ、給仕の真似って訳にはいかねえが、卓まで運ぶくらいの事はするぜ、何だったら銅貨を二枚渡せば、別な屋台に並んで注文から受け取り配膳までするしよ」
こういう細かいチップみたいなのも要は施しというか弱者救済の一環なのかな。ただ単に恵むんじゃなくて、簡単とはいえ仕事としてさせることにも目的が有ったりするのかな。
「左様であるか、この街ではそのような仕儀となっておろうとは」
ミーラ王女がテーブルに並べられた料理の皿を見ながら暗い表情をしてるな。
料理の器をお盆に載せて孤児たちが運んできたのを不思議そうに聴いて来たから、さっきの屋台で聞いた話をそのまま伝えたんだけど、うーん少しオブラートに包んで話した方が良かったかな。
「貴様、で、いや『御嬢様』にお出しする食事を、あのような薄汚い者共に運ばせるとは、どういう了見だ」
「何を言っているのかしら、そんな事の為に警護対象の周辺護衛を削れと云う事かしら、それとも自衛能力のなさそうな侍女たちを一人で、買い物に行かせて不審者にでも絡まれればいいという事かしら」
ちょっと、ハル、そんな声で言ったら聞こえてもおかしくないって、ああ、マインが毎回毎回アレな発言をするせいか、ハルとトーウがイライラしてるのがね。
いや、トーウはなんでか分からないけど最初の段階でブチキレてたか、ミーシアが切りつけられかけたんだから、怒る気持ちはわからるけど、流石に両手と顔を潰したうえで足を舐めさせたあれはね、どう考えてもやり過ぎだよな。
ああ、もしかしてハルがマインに切れてるのは、その一件の話をトーウから聞かされたからかな、ハルはサミューに次いで年長だから、お姉さんぶってると言うか結構下の子達の事を気にしてるんだよね。
そのハルが、治療しようとして切りかかられたミーシアの話を聞けば、その後マインがトーウにやられた事を知ってても口調がきつくなるのは当たり前か。
「貴様、奴隷風情が……」
「やめよ、マイン」
「で、ですが、このような物言いやこの冒険者の行動は、私だけではなく『御嬢様』をも軽視するような物ばかり、これを放置しては」
「やめよと言っている。先ほどの宿で聞いた民の食事の話ししかり、この場に居る幼子達しかり、全ては失政による被害を被った者ばかりではないか、それを見て薄汚い等とは、仮にも国政に関わる者やその親族が口に出来る言葉では無かろう。わたくし達の食事の給仕や片付けが、ささやかであっても糊口をつなぐための糧となるのであれば、喜ぶべき事であろう。違うか」
うーん、これだけ強い口調で言われちゃうとさ。
「御意にございますれば」
そうだよね、あからさまな否定はできないよな。何だろ、こういう感じって、溜めこみそうだよね、こうワンマン上司の下で長年やってた部下がある日いきなりプッツンって感じでとか……
「旦那様、少々よろしゅうございますか」
んなんだ、トーウが俺の前にある料理に身を乗りだし手を伸ばしながら、小さな声で話しかけてくるけど、どうしたんだ。うわ、すぐ近くにある髪の毛からふわっといい香りがして……
「なんだ」
何となく、俺もささやく様な声でトーウの耳元に口を寄せて応えながら、適当な料理の皿を差し出すけど、これってもしかして外から見たらいちゃついてるように見えるんじゃ。いやでもこうして近くで見るとホント綺麗な子だよなトーウも。
「広場の隅でこちらを監視している者が居ります。もしかいたしますと『御嬢様』を狙う者の配下かもしれません」
R2年7月12日 誤字修正しました。
R6年7月14日 誤字修正。




