表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
470/694

464 街の手前

「御主人様、まもなく次の街に到着いたします」


 新しい職でとった『騎士』の騎乗系スキルを上げるために御者席ではなく、二頭の馬車馬の片方の背に乗っているサミューが少し振り向いて話しかけてくるけど、もうそんな頃合か。


 周りを見回しても、疎らな草原と麦畑があって、時折農夫がいるだけ、他に目に付くのはかなり高い所を鳥が一羽飛んでる位で、獣の姿も無い。『聖者の救世手』を使って見ても周りに怪しそうな人物はヒットしない、これなら大丈夫かな。


「分かった、そこで一泊して情報を集めよう。サミュー、町に着いたら宿を探してくれ」


「承知いたしました」


 うーん、サミューの顔にも疲労感が出てるな。まあ、仕方ないか戦闘の後、そのまま一昼夜まるまるほとんど休みなしで馬車を動かしてたからな。


 日本の道路を自動車で走るのと違って、舗装されてない月明りぐらいしか光の無い曲がりくねった道を、木と金属だけで出来た車輪とランタン程度の照明しかない馬車で夜中に走るっていうのは、はっきり言って事故る可能性が高い危険運転としか思えないけど、あれだけの襲撃の有った現場の近くの村で一泊するっていうのはさすがにね。


 刺客の第二陣がいる可能性も有るから、あそこの近くで休んでれば追加の襲撃が有るかもしれないし、小規模な村とかならまるごと焼き討ちされかねないもんな。


 前日に止まった町まで行くっていうのも考えたけど、もし刺客の大本が近くに居て襲撃の失敗を知ったら、まずあの町を真っ先に確認するだろうから、そうなれば後をつけられたり待ち伏せされる恐れがあるからな。


 それを考えれば、襲撃の失敗が敵に気付かれる前にあるいは対応される前に出来るだけ遠くまで逃げて、距離と時間を稼いだ方が良いよね。


 ついでに、俺らが王女達を迎えに行くまでに通ってきた、ラッテル領方面へ行く最適な経路をわざと外して多少遠回りすれば、見つかるまでに少しは余裕が出来るだろうから。


「やっと、まともに休めますのね、とは言え護衛任務中ではしっかりと休むという訳にはいかないでしょうけれど」


「うーん、ちょっと眠いの」


「ご、ごはん、おいしいかな」


 うーん、うちの子達もみんな疲れてるな。まあ無理させちゃったもんな、夜目の利くアラとミーシアには御者席の隣に座って道を見て貰ってたし、それでも暗くて見えにくい時はハルと俺の魔法で照明を用意してたからな。


 明るくなった後も、追跡や待ち伏せに備えて、変身したミーシアやハルに偵察して貰ったり、アラやトーウが馬車の上に乗って周辺の警戒をしてたもんな。


 交代交代だったとは言え揺れる馬車の固い椅子で万一に備えて気を張ってたんじゃ休まる訳ないし、不安定な幌の骨組みぐらいしか足場の無い馬車の上じゃ載ってるだけでも一苦労だもんな。


 向こうに見えるくらいのデカい町なら、警備隊もいるはずだし人の目も有るから流石に襲撃はしてこないだろう。


 目撃者が多くいれば、人の口に戸を立てるのも難しいだろうから、王女殺害の罪を神殿やライワに押し付けるのは難しいからね。


 それに大きな町だと人も馬車も大量に有るから、俺達を探すのも一苦労だろうし。


「グランスの町か、冒険者、あの街には『本陣』があったはずだ、先触れを送り手配させよ」


 女騎士のマインが、言ってくるけど『本陣』か、たしか旅行中の上位貴族とか王族を泊めるための施設だったはずだけど、何をいってんのコイツは。


「クレイモア卿、御言葉ではありまするが、『本陣』を利用するとなればこの地の代官に、ひいては領主へ殿下の事を伝えねばなりませぬ。そうなれば、襲撃者に殿下の居場所を知られ呼び寄せる遠因ともなりかねませぬ」

 

 おお、宦官のキリツが俺の言いたい事を代弁してくれたか。


「むう、ならばせめて殿下の御立場にふさわしい宿を確保せよ、貴様ら冒険者とは違い殿下は尊い御身、殿下がお寛ぎになれる程度の格式を備えた宿でなくば御身体に障る、このような街であれば貴族が泊まれるような宿も一つくらいは」


 コイツは、あくまでも俺達を冒険者って呼ぶんだよな。まあ間違ってはいないんだけどね、カミヤさんの家臣って言ってもあくまで一時雇いなんだし、騎士とかの身分が有る訳でもないんだから。


「却下ですね、こちらがそう言った宿を選ぶだろう事は、敵も考えているでしょうし、他の宿泊客の中に偶然、王族の顔を知っている貴族がいるかもしれないので、場末の安宿というのは論外ですが、地方貴族や裕福な商人のお嬢様が止まる位の、多少高めの宿を使う予定です、そう言った宿ならこの街に幾つかあるだろうから、探されにくいかと」


 一応はお客の王女様がいるから、ここでは敬語を使っておかないとね。今は仕事中なんだし相手は立場が有るんだし、前回の女騎士の行動はもう、王女の謝罪って形でケリが付いてるんだから、下手に引きずって態度に出しちゃうのは、アレだよね。


(トーウのあの行動をそのままにした時点で、手遅れじゃと思うがのう。気位が高いであろう貴族令嬢に奴隷の素足を舐めさせるとはのう。あの騎士の物言いは儂も不快であったゆえなかなかの見せ物ではあったがのう。しかし、あの後ミーシアの魔力が戻ってから追加で回復魔法をかけたとはいえ、綺麗に治った物じゃのう。傷を塞いで命を留めるだけでなく、折れた骨や傷ついたであろう筋肉や神経、更にはあれだけの怪我で肌に傷跡を残さずにほぼ元通りの顔に戻すとはのう。期間を掛けた治療ならばともかく、一昼夜でとなればトーウにしろミーシアにしろ、お主の『成長補正』の影響か、かなり熟練度が上がっているようじゃのう)


 まあ、『鬼軍荘園』でミーシアはかなりの人数を治療したらしいし、トーウも回復薬を爪から出せるようにするのに大量に薬を飲んだって話だったもんな。それに、二人ともその後も『蠕虫洞穴』の攻略とかでレベルを上げてたし、転職クラスチェンジもしたから、その分だけスキルが強くなってるのかな。


 そう言えば職といえば……


「殿下にそのような宿を進めるなど」


「安全の為です、それとこれからは殿下という呼び方は止め御嬢様としてください、殿下と言ってしまえば王族がこの場に居ると周りに知らせているような物ですから」


マイン・パーソナル・クレイモア

貴族令嬢 LV14 魔物使い LV24 海驢騎士 LV11 投礫とうれき兵 LV12


 海驢ってアシカだよね、あの海に居るトドとかオットセイの仲間の、なんでそんな職名が付いてるんだ。


(前に説明したかもしれぬが、この国は雨量が少ないが、比較的大きな川が流れており南北の水運による流通が盛んじゃし、それらの数本が交わる王都には大小さまざまな船が集まるうえ、市街地にも水路が張り巡らされて居る。そう言った場所では、アザラシやイルカのような水中だけに特化した獣や馬などの陸上特化の獣よりも、大海驢のように水中や水上での戦闘だけでなく、短距離ならば陸上でも動け、場合によっては水上から甲板に飛び乗って戦う事も出来る魔獣は、乗騎として使いやすいのじゃろうて。おそらく『魔物使い』は『海驢騎士』に転職するための前提として取っておるのじゃろうて)


 なるほどね、水陸両用で身軽なら接舷突入とか臨検みたいな事もしやすいか、それに平らな甲板で敵よりも高い位置を取れるっていうのは有利だろうな。


 まあ、それでも水辺の乗り物だろうから、ここじゃあ役に立たないんだろうな、なにせ肝心のアシカが何処にもいないしさ。


 まあ、とはいえこの国にはそう言う職種が有るって事は覚えていた方が良いかもな、ここに来るまでに大きな橋を渡ったことが何回かあったから、そこを襲撃されるかもしれないし。


「王族の方に敬称を省くだと、しかも安宿でだと、殿下は畏れ多くもムルズ王国の王女にあらせられるのだぞ、ましてこのような粗末な幌馬車で貴様らの強いた強行軍により気の休まる暇すらなく、心身ともにお疲れになられているであろうに」


 他の連中は大人しくしてるし、当の王女様は馬車の中でもしっかり船をこいでるっていうのにさ、マインだけはまだぶつぶつ言ってるな。いや、ちょっとだけ気持ちはわかるんだけどさ、とはいえ……


「王女殿下の安全よりも優先すべき事項が有るというのでしたら、どうぞご意見を続けてください、こちらが伯爵閣下から指示を受けたのは、何が有ろうとも王女殿下が無事にラッテル子爵領までたどり着かれるよう、護衛する事ですが、其方は違うのですか。王都からそれほど離れていないところであれだけの人数での襲撃をできた敵です、襲撃が失敗したと知ればどれだけの追手が放たれている事か」


 この姉ちゃんは、現状が解ってないのかな。


「それを何とかするのが、護衛である貴様の仕事ではないのか」


 おいおい、こっちを何だと思ってるんだよ。


「私の仕事には、必要があれば敵の排除も含まれますが、それにも限界が有ります。相手が数十数百となれば、撃退は困難でしょうし、何より敵に対応している間に別な敵が殿下に危害を加えようとしかねません。そう言った危険を避けるための行動も、私の仕事の一環かと、なにせ向こうはたった一度の襲撃で二十人以上いた護衛を六人にまで減らしてしまうような強敵ですから」


 ああ、思わずイヤミが口に出ちゃった。


「貴様、言うに事欠いて」


 だよね、幾らなんでも怒るよね、こいつらの実力不足を指摘したようなもんだもん、しかも護衛が減った理由の一部が敵前逃亡じゃねえ。


 結局、あの時王女を置いて逃げた連中の大半は、ハルとアラのおかげで無事だったけど、流石に王女様を残して逃げるような連中を連れてくわけにもいかないし、何より王女達の馬車が全部壊れてて、うちの馬車に王女達を乗せるっていうのにそんな大人数はスペース的に乗せられないもんね。


 かと言って、あの状況で王宮に帰れっていうのは死刑宣告みたいなものだったから、そんなんで返す訳にもいかず、王女様と話しあって、あの連中は命惜しさで逃げたんじゃなくて、救援を呼びに行くのと敵を分散させるための囮になった自己犠牲が目的って事にするって内容の書類を用意して、適当な生き残り数人に渡してきたんだよな。


 王女達としても、護衛や侍女、侍従なんかを何十人も纏めて処刑する訳にはいかなかったらしいから。


 まあ考えてみればそうか、王女付きとなると、騎士だけじゃなく兵士や侍女なんかでもそれなりの家柄だったりするらしいから、それを処刑するとなると実家やその職に推薦した連中なんかまで巻き沿いになりかねないから、それが何十人ってなるとムルズ王宮の勢力図が変わって混乱しかねないらしいし、なにより配下に纏めて見捨てられたなんて話になると、王女様の体面もシャレにならない事になるらしいからね。


「冒険者風情が、元勇者の威を借りおって」


 うん、聞こえてる、聞こえてる。多分本人は聞こえてないと思ってるんだろうけどさ。


(まあ、あの戦闘で全滅せずに、お主が来るまで王女を護れたというだけでも多少はマシなのではないかの。通常王族の護衛となれば、王宮のような他にも警護の居る場所じゃし、旅であっても通常は治安のよい主要街道を使う物じゃ、しかも事前に連絡する事で、その地の代官や領主は王族の到着に、盗賊や犯罪者、不審者、無頼漢、流民等を徹底的に取り締まり、更には街道上に警邏を配置する物じゃからのう)


 ああ、まあ地方からすれば間違いなくVIPだもんな、大統領や首相なんかが来るってなれば、そこまでじゃないかもしれないけど地球でも有り得る事か。


(要は自分達だけで襲撃の全てに対応するような連中ではなく、厚い警護を潜り抜けたあるいは被害を出しながら突破してきた少数の刺客を抑えこみ、増援が来るまで耐えるのがこやつ等の主任務なのじゃ。じゃというのに、今回は内密の旅という事で、ただでさえ随員を少なくして居るというのに、領主の事前対応も無く、あのような人気のない場所で、大人数の襲撃を受けたとなってはのう)


 うーん、でもそれって、結局は王女側の認識が甘かったってだけじゃないのかな。あんまりやりたくないけど、ここは一発釘を刺しておくかな。


「私達が伯爵閣下から受けた御指示はあくまでも王女殿下、おっと『御嬢様』の安全であり、それは貴方達風に言うのであれば、全てにとまではいきませんが、大半の事情に優先されます。また『御嬢様』との契約は必要とされる費用や労力の提供であって、そこには個人の安全は含まれていません」


 いや、本気でそんな事やるつもりはないけどさ、まあこうやって脅しておけば、多少は言う事を聞いてくれると。


「護衛ど、いやリョーさん、それは、必要とあらば我々随員は見捨てる事も有り得る、と……」


 俺がさっき言った事を参考にしたのかあまり使われないだろう『護衛殿』じゃなく、名前にさん付けでキリツがいって来るのに頷く。うん、マイン以外は聞き分けも察しも悪くないんだよな。


「いえまさか、そのような物騒な事は考えても居ません。ただ、こちらとしては、『御嬢様』が無事にラッテル領へ着かれ王都へ戻られる事が最優先であって、そのためには安全に影響する障害が有るのであれば積極的にそれを『排除』する事も考慮しているという、護衛をする上での意識の統一を図ろうというだけの事です」


 うーん、自分で言っててなんだけど、殆どヤ〇ザのやる遠回しな脅しだよなこれ。マインも俺の言いたいことが分かったのか、とりあえず今は黙ってるけど、多分そのうち忘れてまた騒ぎ出しそうだよな。


 他の連中は脅しが効きすぎたのか多少緊張してるっぽいけど何か言ってくる様子はないか。


 まあマインとキリツの他は、貴族らしい侍女さんが二人、少女兵士二人に宦官兵士が一人、奴隷兵士が二人、前に聞いたラクナの説明を考えると貴族は実家の事情があったり、奴隷は国から指示を受けてたりするらしいから、完全に信用することは出来ないんだよな。


 はあ、先が思いやられる。


前話最後のあのシーンを作ってみました。

https://twitter.com/tohruhannpa/status/1200684425865916417


それと、活動報告でやっていた人気投票の集計が出ましたので、新しく活動報告を書い


R1年12月7日 誤字修正しました。

R6年7月14日 生存者の内訳、誤字、句読点を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >触りだ利 ↓ 騒いだり
[一言] 更新お疲れ様です。 「貴族令嬢」は、奴隷落ちするとなくなるジョブなのでしょうか? それとも、戦闘や護衛を担うタイプの貴族家では、経験値分配の都合上、取らないようにしているのでしょうか。 もう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ