462 交渉
「其方がライワ伯爵家の護衛であったか、救援、大義であった」
うーん、堅い物言いだな、いや、一国の御姫様なんだから砕けた話し方なんて出来ないのか。
(王族が貴族の家臣に送る言葉としては、最大限の者であろうて、間違っても助けてもらったくせに偉そう等と口にしたり態度に示す出ないぞ、相手は王族、お主が『勇者』だと身分を明示したならともかく。王族から見れば一段下がる貴族の更にもう一つ下の身分である家臣待遇じゃと忘れるでないぞ。お主が王族に対して身分を弁えずに傲慢な態度を取ればそれはそのまま、ライワ伯爵家の弱みとなるのじゃからの)
交渉先相手にそんなヘマしないって、しかし、こうして見てみると、やっぱり御姫様だけあってか綺麗な子だな。
青みがかった銀髪をピシッと後頭部で一纏めのシニヨンにしてて、ややキツメだけど凄く整った顔立ちに髪より青みの強い瞳、白い肌も青みがかって見えるけど、決して血色が悪い訳じゃない、こう元々きれいな肌がほどんど日に焼かれる事が無く育った、温室栽培って感じの……
それでいてスタイルはかなり良さそうな、感じ的にはアニメなんかだと雪国に居そうなキャラというか、一つ間違えば悪役っぽい感じだな。
ミーラ・ティア・ムルズ
王女 LV24 支援魔法師 LV31 冷却魔法士 LV12
意外と魔法系のレベルが高いな、支援魔法か、まあ王女様なら常に護衛がいるだろうから魔法で支援するっていうのは有効なのかな。
「護衛殿、王女殿下は……」
「よいキリツ、相手はライワ伯爵家の重臣、たとえ一家の家臣であっても、かの『勇者』が派遣した者を相手に、間に人を挟むような行いは、無礼であろう。直答で良い」
王女の言葉を俺に伝えようとした宦官を、その王女本人が止める。
まあ、今のこの国の状況と王女の立場を考えれば。停戦交渉の場を用意してくれた上に、場合によっては仲裁役を頼みたいカミヤさんの機嫌を損ねるわけにはいかないだろうからな。
まあ、そのカミヤさん自体が戦争をやらせたがってるっていうのが何ともね。何しろ、戦争の元となった貴族達の借金は、カミヤさんの仕掛けた経済攻勢が元だからな。
そう考えると不憫だよなこのお嬢様も、いや今はこの状況を利用しないと。
「御無事で何よりでした、私は伯爵閣下より殿下の警護を命じられた身、役目の始まるより前に殿下の御身に万が一の事があっては大変でしたが、そうならずに済ませられて幸いでした」
ここで、『お気になさらず』とか『当たり前の事をしたまで』なんてことを言えばカッコいいんだろうけど、それを言っちゃうと今の救援がロハって事にされかねないからさ、きっちり恩に着せるようにして、それと……
「うむ、見事な戦働きであった、その上で其方に問うが、これはどういう事か」
「これ、というのは何のことでしょうか、殿下」
「そこに居るトーウ・ショウ・ラッテルが、奴隷に身を落としたという事は聞き及んでおったし、ラッテル子爵家とライワ伯爵家の関係を考えれば、ライワ伯の臣下である其方が所有している事も、わたくしの護衛にトーウの所有者である其方が選ばれた事も納得できよう。だが、なぜそのトーウがわたくしの護衛騎士であるマインを拘束しているのか、納得のいく説明が聞けるのであろうな」
ミーラ王女の視線の先に目をやると、さっきと同じ様にトーウが女騎士を抑えこんだままだけど、トーウのあの感じだと、そのうち頭を潰しちゃうんじゃないだろうか、うん、それは不味いよな。
「ぐが、があ」
「理由と言われましても、トーウが先ほど言った通りかと。そこに居るミーシアは私の所有する奴隷、まして多くの戦闘を経験させてスキルを増やし、『成長補正』の恩恵も受けてレベルを上げて来た、金に換えられない価値のある大事な奴隷にございます」
ここで、『成長補正』って付けとけば、勝手にカミヤさんもミーシアに関係あるって勘違いしてくれるかな。実際は俺の『成長補正』がかかってるんだけど、『勇者』しか『成長補正』が無いって事を考えればさ。そうなれば、交渉での見せ札を大きく出来るんだけど。
「その大切な奴隷に対して斬りかかろうとした以上、これは私への、引いては我が主君たるライワ伯爵への敵対行為でありましょう。伯爵家の敵であれば、拘束し捕えるのは臣下として当然の事かと」
「ら、ライ、ワ、と、し、しら……」
「まさか、そうとは知らなかった、なんて都合のいいことを言ったりはしませんよね。ましてとっさの事態であったためライワ伯爵家家臣とは名乗りはせずとも、其方にお味方すると明言して御助力したというのに、それに対してあのような行動を取られるとは」
ついこないだ、ラクナに言われたよな、危害や損害を与える事を前提とした行為は、軍の陣地内とか領主の城の中とかじゃなければ、たとえ相手が誰だか知らないままにやったとしても、大問題になるって。
まあ、そうだよな、それがOKなら、例えばこの御姫様がお忍びで外出した時に貴族に殺されても、犯人が御姫様とは知りませんでした、ただの平民だと思って切りましたって言えば、泣き寝入りって事になっちゃうもんね。
「それとも、まさか先ほどそこの騎士がした行動は、王女殿下やムルズ王家の意思によるものという事でしょうか」
これで認めてくれれば楽なんだけどな。そうすればこの一件だけでカミヤさんはムルズ王国に敵対できるし、講和交渉の席を用意した相手を攻撃したなんて事になればムルズの方から講和の話を蹴ったって風に神殿が話を持っていけるかもしれないからね。
「つっ、そのような事はない、であれども、このままでは……」
うーん、自分で言っててなんだけど、こうネチネチとした言い方はいかにも悪役だよな、まあでもできるだけの交渉はしないと。
「それでしたら、事は我がライワ伯爵家と彼女のクレイモア子爵家と言いましたか、その御家との問題になりましょう」
「そうは言うが、彼女はこのままでは」
「ライワ伯爵家と敵対したのであれば、この場で彼女を討ち取り、その後にクレイモア子爵家に対して抗議するのは当然の事では」
「ぐぐ、ががげ」
なんか、俺が今の言葉を言った直後に女騎士を締め上げてる音が強くなった気がするんだけど、トーウ、解ってるよね、今のセリフは王女様を追い込むためのブラフだからね、決してホントに殺す気じゃないからね。
「待つがよい、たとえ彼女の行動に非が有り、それが彼女と彼女の家の責任であろうとも、今の彼女の立場はわたくし付きの護衛騎士。父王陛下より預かった騎士をこのような形で失っては、陛下に申し訳が立たぬ。ライワ伯が臣下を庇護すると同じように、王家は廷臣を庇護する責任が有ろう。ここはわたくしの顔に免じて彼女を許しては貰えぬか」
来た、神官長さんの話だと理想主義って話だったから、この場で部下を見捨てないだろうとは思ったけど、上手く行ったな。良かった、向こうから言い出さなかったら、こっちから妥協して女騎士を見逃す流れを作らなきゃならなかったから。
ミーシアが切られかけた分はあれだけ痛めつけられれば十分だろうから、流石に命を取るのはやり過ぎだもんね。
よし、ここからが正念場だ。
「殿下の顔に免じてと申されましても、このような事態がすでに発生してしまった以上は、私としてもみすみす見逃す訳にはいきません、ことは伯爵閣下の体面に関わる事。敵に情けを掛け甘い顔を見せたとなれば、伯爵家の威光を誰もが軽く見る事となりましょう」
うーん、ホント悪役っぽくなって来たぞ。
「では、これを」
ミーラ王女が自分の填めていた指輪を一つ外して俺の方に差し出す。
「この指輪はどういう意味でありましょうか」
「たしかにこれはライワ伯爵家とクレイモア子爵家の問題、ですが彼女がわたくしの護衛達で無事な者の中では最上席であることも事実、いま彼女を失うわけにはまいらぬ。とは言え任務中の彼女では其方に対しての過ちに対して、其方が納得できる賠償は出来かねよう。かと言って当主でも嗣子でもない彼女に、この先での支払を約束する事も出来ぬであろう」
(ラクナ、こういう場合の賠償って、どの位になるんだ)
(何とも言えぬところじゃのう。通常であれば、奴隷が害されたのならば、原状回復の治療費、あるいは奴隷の時価に合わせた代金に多少の詫び料を足す程度じゃが、主と被害者の関係性では言葉での詫びのみで済む場合も有れば、逆に法外な賠償となる場合も有る。未遂であったとは言え、この場合ではアキラの体面も絡むからのう)
うーん、変なたとえだけど、安い国産の軽だと思って煽り運転したら、黒塗りの高級車に突っ込んで、示談の条件を突き付けられてるような物か。いや、それだと、シャレにならない流れになるから考えないでおこう。
「であれば、わたくしが彼女と彼女の家に代わり、其方への賠償を肩代わりしようではないか。その指輪は正式な話がまとまるまでの約束の証として其方が持っているとよい」
つまりは、これは担保って事か。
「この指輪は、王族が持つに十分な由緒が有る品であり当家の家紋も刻まれた品、其方にこの品を預け返されぬまま約束を反故にするなど、王族の体面として有り得ぬ。わたくしを信用せい」
「では、その旨を書状として残させて頂けませんか。それほど由緒の有る品を私風情が所持していては、いらぬ誤解を招く事も有るかもしれません。その際に正当な理由で所持しているのだと証明できるよう。殿下に一筆頂ければと、でなければ殿下の御提案を受け入れる事は難しく」
一筆、これが重要だよね。会社でも対外交渉をする上では必要ではあるけど一番注意しないといけないところって言われてたし、特に言いがかりを付けてくるような反社会勢力相手なんかの場合はさ、詫び状とか念書とか書いちゃうと、それをネタにして……
「ぐ、ぐが、が」
ちらりと視線を向けると、相変わらずトーウが女騎士を締め上げてるけど、あの様子じゃコッチのやり取りは聞こえてなさそうだな。
「よかろう、であるがどのような文面がよいのか」
ん、おいおいマジで、まさか本当に書いてくれるとは思わなかったよ、こっちとしてはありがたい話だけどさ。うん本音としては、明確な書類を残したくないという相手に譲歩して恩を売るつもりだったんだけどな。
しかもこっちに文面を相談してくるとか、向こうにいる文官のキリツは反対しないのか、いやよく見ると倒れてる遺体の中に、年配の役人風の人がいるから、若そうに見えるキリツはまだ見習いだったりするのかな。
まあいい、好都合なんだからこの状況を利用しないと。
「そうですね、『ムルズ王国王女ミーラ・ティア・ムルズ(以下『甲』と称す)はライワ伯爵家家臣リョー・サカキ(以下『乙』と称す)に対し、甲がウンラ伯爵領内にて所属不明の刺客の襲撃を受け窮地に陥った際に、乙の行った救援を感謝する。また甲の護衛であるマイン・パーソナル・クレイモア子爵令嬢(以下『丙』と称す)が、乙所有の奴隷に対して危害を加えようとした事実と、それに対して乙及びその配下の奴隷の取った自衛行動が正当である事を認め、丙の実家であるクレイモア子爵家に代わって甲が乙に対して謝罪し、後日の乙に対する報奨と賠償を約す。甲はその約束の証として、報奨と賠償の内容が確定しそれを終えるまでの間、甲が所有する指輪一品を乙に預ける物とする』という感じでどうでしょうか」
まあ、普通なら文面にいちゃもん付けて来るんだろうけど、とりあえずこっちとしては賠償や報奨うんぬんよりも、主戦派貴族の領地で襲撃が有った事と、女騎士がやらかした事、この二点が事実だとを王女様が証明するってところを書面に残せれば、後で今回の一件が有ったっていう証拠に出来るし、交渉のネタにもね。
「よかろう、キリツ直ちにその文面にて清書を致せ、しかる後わたくしが署名し印章を押そう」
え、いいのマジで、こっちの云いだした文面をそのまま丸呑みで即決、俺が詐欺師やヤ〇ザなら内心で小躍りしてるとこだよ。
久々に某ゲームでキャラを作ってみました、今回出てきた王女様です。
https://twitter.com/tohruhannpa/status/1197500513652113408
R1年11月22日 リョー君のセリフの一部修正。
R6年7月13日 誤字、句読点、王女のセリフを一部修正。
R7年5月15日 誤字修正しました。




