461 地雷騎士
ラクナのせいで、とんでもなく時代錯誤な感じの名乗りをさせられたけど、まあでも敵も味方もこっちの方に意識を向けたせいで、戦闘が止まってるのはありがたいな、おかげで被害を少なく出来た。
それでも、地面に倒れてる十を軽く越える人の多くが息をしてる様子はないし、その殆どが侍女や侍従にしか見えない服装をしているのは、もう少し早く来れれば、いや今は助けられなかったのを悔いるよりも、助けられる人間を最大限助ける。
「なんだこいつは、冒険者風情が騎士気取りで名乗りか、いや『羅斬』といったか、『鬼軍荘園』で『カーネル』をという事はあの『羅斬』なのか」
「『迷宮踏破者』だと、なんでそんな奴がこんな所に居合わせるんだ」
「ハッタリだ、『羅斬』はロウ子爵家傘下で戦ったはず、ならばそのままロウ家に仕官したのではないのか、そのような者がこんな所に一人でいるはずが無い、大方無名の冒険者が乱入する際に我らの動揺を誘うために、名を騙ったのであろう、騙されるな」
うーん、こういう反応か、有名冒険者の名を騙るのって確かかなりリスキーじゃなかったっけ、いや刺客側としては下手に味方の士気を下げたくないだろうから、多少無理があっても否定して偽者って事にしておきたいのかな。
しかし、なんでこうも『羅斬』の二つ名ばっかりが広がってるかな。いやそれならそれで、その二つ名を利用して相手の士気を挫いた方が良いのか。
それなら……
姿勢を低くして、手近な所に居る二人の賊の間に詰め寄る。
幸いこいつ等は襲撃の為かほとんどが軽装だ、確かに逃げようとする相手を追いかけたり回り込んだりするにはそっちの方が良いんだろうけど、胸当て程度の防具しか装備してない相手ってのは、攻撃力に難が有って『斬鬼短剣』の効果を利用したい俺にとっては丁度いい相手だ。
「がああああ熱い、熱い」「お、おれの、おれのおおお」
姿勢が低いまま右手に握った『斬鬼短剣』で相手の股間を太腿の付け根ごと斬り裂き、同時に左手を伸ばして『雷炎の指輪』から火球を飛ばして下半身を焼く。
内腿や股間には太い血管が走ってるからこれだけの傷ならそのうち失血するし、もう片方の方も致命傷ではないだろうがあれだけの火傷ならしばらくは痛みで動けないだろうから、後でトドメを刺せばいい。
痛がる相手の事は考えるな、こいつ等は敵だし、何よりここにある死体は全部こいつ等がやったんだ、だから全力で倒す、今はともかく……
「な、躊躇することなくナニを切り取りやがった、やっぱりアイツは『羅斬』」
「それに生焼にしたって事は、あの噂は本当なのか『羅斬』は、ナニを精力剤代わりに食ううって」
よし、『羅斬』をイメージさせる行動をしたおかげで、相手が動揺してる。このあいだに一気に畳みかければ、多少なりとも……
相手に冷静になる余裕なんて与えてたまるか。早く、少しでも早く倒して。
動揺している賊へ駆け寄り、俺の低い姿勢に合わせるように相手が前かがみになりかけた所で、こっちは体を起こし首筋を斬り裂く。
相手がこっちの股間攻撃を警戒すればするだけ、他の場所の警戒がおろそかになる、それなら隙の増えた場所を狙えばいい。
剣を持ったまま振りかぶられた腕から手首を切り落とす。
PKをするサッカー選手のように左手で股間を護る相手の左側に回り込んで、むき出しの肩に横から短剣を突き刺し、そのまま側胸部から肺まで差し込む。
前かがみ気味の相手の横を低い姿勢のまますり抜け、背後から両ふくらはぎを斬り裂く。
下段に剣を構えた相手の手前で飛び上がり、跳び越えざまに頭を軽く左手で掴み『雷炎の指輪』から電撃を頭に放ち脳を焼く。
左手を相手の顔を狙って伸ばして『氷水の指輪』から水球を放ち、『念力』を使って水を操作し、そのまま鼻と口の奥に詰めて気道を塞ぐ。
今は致命傷を与えて確実に仕留めるよりも最小限の攻撃でともかく行動不能になる程度のダメージを与えていく、相手が動揺するように、かつ相手が立ち直る前に出来るだけ戦力を減らせるよう、短時間で数をこなしていく。
本当なら、万が一の反撃に備えて完全に倒した方が良いのかもしれないが、ともかく早く片付けないと負傷した護衛連中や戦闘能力の無い王女達の方に行かれると不味いし、動けなくなった相手のトドメなら護衛の連中でも大丈夫だろう。
「こ、こんなバカな、たった一人で、瞬く間にこんなに」
「なんなんだよあの素早さは」
よし、上手い感じに動揺してる、このままの流れで押し込めば一気に。
(どうやら増援も到着したようじゃしのう)
「リョ、リョー様、お、お待たせしました」
「ただいま推参致しました、旦那様ご命令を」
俺の来た方向からトーウを乗せたミーシアが、武装した刺客を轢き跳ねながら突っ込んで来る。
「助かった、二人はそのまま残っている敵を蹴散らせ、馬車に近づこうとするやつを優先しろ」
よく考えると、幾ら救援だって言ったて初めて会う俺達が戦闘中に王女様へ近づいたりしたら警戒されるだろうし、ミーシアが守るって言ったって、護衛連中は王女様から離れないだろうから、二人には掃討に当たって貰った方が良いだろうな。
「わ、解りました」
「承知いたしました、旦那様もお気を付けを」
よしこれで、完全に形勢はこっちに傾いた、ミーシアが敵を減らしてくれたし何より見た目の威圧感が強いからな。
それに、ハル達もそろそろ周辺に散らばった敵を片付け終えそうだから、もうすぐこっちの上空に来てくれるだろうし、勝ったな。
「ぐが、な、なんで、こん、な、やつが……」
最後の一人を倒して、周囲を確認するけど生きてる敵は無し、ここに居る生存者は俺等を除いて、護衛らしい連中が騎士と兵士を合わせて六人、侍女が二人、役人っぽいのが一人、それと王女様か、とはいえ半分近くは負傷してるし、かなりの深手で立ってられない兵士もいる。
後は方々に散らばってる侍女や侍従、使用人って感じの連中が二十数人、いや兵士っぽい連中も混じってるな。
敵が軽装の連中ばかりで助かったな、これが重装備のフルプレートメイルや鎖帷子を着込んでたりしたら『斬鬼短剣』は使えなかったから、『鬼活長剣』で頑張るしかなかったからな。
「余計な事を、冒険者が手柄狙いか」
うわあ、予想通りの言葉が出てきたよ、見た目も予想通りというかいかにもな感じの女騎士だな、クッコロとかしそうな。いやこの世界の女騎士は『く、殺せ』じゃなくて戦陣訓を叫ぶんだったか。
まあいい、とりあえずやる事をやるか、テトビが提示したせっかくのタイミングを無視したんだから、その分を取り戻した方が良いだろうし、そう言う意味ではこういう敵対的な相手だっていうのは丁度いいか。
「まあよい、たった今より貴様ら全員を徴用し、装備、薬剤、移動手段の一切を接収する。二つ名持ちの冒険者ならば馬車なり馬なり何かしらは持って居ろう」
は、いきなりとんでもねえ話をぶち込んで来やがったよ、どこぞのアメリカドラマかハリウッド映画の捜査官みたいな事言いやがって。
「なんだその顔は、不満だとでもいうのか、我らがここにあるのは王宮の御用によるものである、よって我らの行動は全てに優先される」
うわあ、とんでもねえなあ。
「悪いが、それには従えない、それよりも負傷者の救護をさせてもらおう。せっかく生き延びたのに出血で手遅れになっては意味がないだろう。うちには回復職がいる、ミーシア頼む」
「は、はい、解りました」
見た感じだと生存者でそこまで危険そうな状態には感じなのは一人くらいだけど、それでもまだ傷から出血が続いてる人が何人かいるし、何より王女様まで腕に怪我をしてるってのは洒落にならないよね。
「あ、う、腕の怪我、す、すぐに回復を」
「貴様、冒険者風情の所有奴隷如きが、許しも無く殿下の御前に立ちあまつさえ声をかけるなど、無礼者が、手打ちにしてくれる」
治療のために王女の方に行こうとしていたミーシアに、女騎士が剣を抜いて、まさか切りかかるつもりか、この位置だと防げない、なら切り倒すべきか、んっ……
「させません」
「な、お前は、まさか、なにを」
女騎士のすぐ前に飛び込んだトーウが剣を抜いた直後の腕を掴み脇の下に抱え込むようにしながら側面へ回りそのまま、体重を落として、腕を決めたまま女騎士を地面に叩きつけるって、脇固めじゃねえか。
「がああああ」
うつ伏せで絶叫を上げる、女騎士の右腕を離したトーウが、そのまま女騎士の背中の上を移動して、左腕を両足ではさむようにし抑え込み、女騎士の背後から回した両手で顔を圧迫しながら後方に引き寄せるクリップラー・クロスフェイスへと移る。
「ミーシア様は、我が主であるリョー様、ライワ伯爵家家臣たる『虫下し』のリョー様の所有奴隷、我が主の所有物である奴隷への危害は、それすなわち我が主の財産権への侵害であり、ひいてはリョー様を庇護される伯爵閣下の敵対行為であると知っての所業か。マイン・パーソナル・クレイモア子爵令嬢」
左右と前面から締め付ける様に顔を圧迫し更に首関節を責めながら、トーウが言ってるけどその状況じゃ、声が耳に届いても聞こえてないと思うんだけどな。というか、トーウと知り合いなのか、いや考えてみればトーウは元々子爵令嬢なんだから、この国の貴族と面識があるのは当然か。
「な、ラ、ライワ、だと、ラッ、テル、ぎざま、どう、びう」
ああ、聞こえてはいたのか、とは言え苦しそうだな。いや、コイツはミーシアを斬ろうとしたんだから同情する理由はないし、この状況を利用するべきか。
「名乗りが遅れました、王女殿下、ライワ伯爵閣下の命により殿下の護衛に当たりますライワ伯爵家家臣のリョーと申します、無作法者の上に非常時ゆえ、多少の御無礼はご容赦を、救援要請の火球を発見したため急行いたしましたが御無事で何よりです、これは私めの身の証をたてる物、どうぞご確認を」
ついこの間テトビから受け取ったばかりのカミヤさんからの書類を取り出すと、役人風の青年がそれを受け取り中身を検める。あ、この人、宦官だ鑑定結果が『部位欠損・生殖器』ってなってる。よく見ると確かに中性っぽい感じだけど……
「な、これは、殿下、御改めを」
いやいや、余計な事を考えてる場合じゃない、今は俺が感情的になった結果でふいになった交渉上でのアドバンテージを取り戻す事を考えないと、近い未来で数万人の生死に影響しかねない講和を左右するっていうのに、目の前の十数人を見捨てられないせいで。
カミヤさんが『トロッコ問題』なんかを例に挙げる訳だよ、現状ではみんなが助かって平和になる流れは見つからない、だから死人が最小限になるようにするって、要は多数を生かす為に少数を殺す選択、さっきのテトビのアレがその一つだったのかもしれない。
それを選ばなかった以上は、何とかして選ばずに済んだっていう流れに持っていけるようにしないと。ほんと都合のいい事ばかり考えてるな、商売なんかだと普通は、自分の都合のいい事ばかり選んで全取りしようして、損切りや見極めが出来なくなれば大半が大失敗する物だっていうのに。
いや自重して余計な事を考えてる場合じゃないな、早いところで話しを付けないと、トーウに極められてる女騎士の頸骨が不味い事になりそうなんだよな。
俺の『成長補正』で強化されてるトーウと、普通の女騎士じゃステータスの差が大きすぎるっていうのに、どう見てもトーウが手加減してる様子が無いんだよね。
「これは『伯爵家渉外担当官』、『知行戸数300戸』、リョーと申したな、其方は……」
(まあ、伯爵家とはいえ所詮はその家臣、高禄とは言え300戸程度では、領地と爵位を持つ貴族相手ではたとえ最下位の男爵家が相手であっても、通常ならば格が足りぬはずじゃがの。仕える家が『元勇者』で周辺諸国に対して様々な影響力を持つカミヤのところであり、それも交渉権を与えられた重臣ともなればのう、たとえ大臣であろうとも軽くは扱えまいて)
そういや、カミヤさんの手紙にもそう書いてあったっけ。よしやるぞ、強気の交渉だ、ヤルならヤルぞのつもりで押し込んでいくぞ。
R6年7月13日 句読点、誤字修正しました。




