460 乱入前
「いやはや、流石旦那でさあ、隠れてたんでどうやったのかよく見えやせんでしたが、こんな短時間で戦い慣れてそうな騎士二人を潰すだなんて、しかし、不味いですぜ、このままじゃ間違いなく間に合っちまいやすぜ、護衛なんぞも追い込まれ切る前に片が付くでしょうから、旦那はただ単に手柄目当ての乱入者ってな事になるでしょうね」
現場を後にした俺の横を、いつの間にか並走していたテトビが話しかけてくるけど、何を今さら。
「この場所で、王女が襲撃されたってだけでも主戦派貴族には多少の汚点になるんだろう、それなら俺がその場に居合わせて襲撃の証人になるってのは、神殿にとってもライワ伯爵家にとっても悪い事じゃないだろう。俺がヘタに時期を計ってのんびりしてる間に、護衛連中が自力で刺客を仕留めちまったら、襲撃が有ったっていう事は幾らでも隠せる、敵の死体を隠し、その場に居た連中が揃って口を紡げばな」
「確かにまあ、そうなりゃ王女様が襲撃されたなんて言う不祥事は無かった事になりやすねえ。旦那はそこまで考えていやしたんですかい」
俺の言い訳を見透かしているのかニヤニヤしながらテトビが言ってくる。
「ですがそれなら、あの侍女はトドメを刺してやった方が良かったかもしれませんねえ、でなきゃああいうのは一々構わずに真っ直ぐに王女様の方へ行くべきかと」
ん、どういう事だ、侍女を殺してそれを刺客のせいにしろって事か、確かに被害者の死体っていうのは有力な証拠になるだろうけど、そこまでやるのかコイツ。
シャレにならないぞそれは。
よし『範囲内探知』である程度全体の状況が見えてきたな。襲撃現場からバラバラに逃げ散る複数の人物とそれを追う武装した連中、王女の周りに少ないとさっき感じたのはこのせいか。
これは、このままには出来ないよな、かと言ってこれだけ広範囲にばらけてると、俺一人で回りきるのは無理だし、何より王女の方に急ぐ必要があるから。
「空から狙った方が確実だし、広範囲をカバーできるか。明かりよ我が道を照らせ『照明』」
俺が『魔力回路』に負担を掛けれずに使える数少ない魔法の一つ、『照明』を『聖者の救世手』を使いながら発動させる。
『聖者の救世手』の効果は使用者の魔法を複製し一定範囲内で指定した複数の対象へ同時に発動させるものだからこういう時には便利だよな。
まあ、本来は無数の負傷者を一気に回復させるのためのものだし、普通は攻撃魔法で敵集団を一気に吹き飛ばすのがセオリーなんだろうけど、俺の魔法の火力じゃそんな派手な事は出来ないから、他力本願って事で分散してる刺客の体のどこかに『照明』を張り付けて、事前に決めていた合図を『術送の指輪』を使って送る。
これでハルの背中に乗ったアラが上空から光を見つけて弓で狙撃したり、刺客が集中してる所に魔法をぶちかましたりしてくれるはず、空からならよく見えるし、アラの弓とハルの飛行速度ならこの位の範囲くらいは短時間で十分対応できるだろうから。
(ふむ、これはおかしいのう)
なんだ、ラクナが不思議そうにしてるけど、まあこの世界じゃ近接航空支援とか制空権みたいな考えはまだないみたいだから仕方ないのか。
「いっくよーー、ハリュ、あそこ」
「そんな大声を上げなくても、わたくしにも見えていますわ。行きますわよアラ、わたくしは正面の集団に魔法を撃ちこみますから、左側の分散している連中を狙いなさい」
うん、順調そうだな、離れた所から男の悲鳴や爆発音が続けざまに響いて来てるし。
(やはりおかしい、そこの情報屋も気付いて居る様じゃが、王族付きの者がこうも多く逃げ去るなどと、普通ではありえん)
そう言う物なのか。
(そうは言うが、逃げてる連中は見た感じだと侍女や使用人なんかの非戦闘員が殆どに見えるんだが)
護衛の兵士や騎士でも逃げてるのはいるけど、大半は現場に残ってるんだし、非戦闘員じゃ戦闘の場所に居ても役に立たないだろう。
逆に逃げてくれた方が良いんじゃ。
(確かに、臨時の人足風情ならば逃げ散ろうとも、多少の叱責程度になるかもしれぬが、王女の傍に常時仕えるような侍女ではそうもいかぬ。貴人の周囲に常時仕える侍女の何割かには、本職の護衛が付いて行けぬ場合などでの警護役を与えられる事も有る、ディフィーやサーレンのようにの)
ああ、そう言えばあの猛獣さん二人はメイドさんだったっけ。
(もちろんお主に買われた頃のサミューのように、戦闘能力の無い者も少なくないが、それであってもこのような際には王女を護るために刺客の前に立って壁となるなり、刺客にしがみついて戦闘を手伝ったりして、王女を逃がしたりするべきじゃろうて。先ほど説明したような各々事情や目的などは有るかもしれぬが、王族付きの者が王女を見捨てて逃げるなど通常では有り得ぬ。例え家や派閥などの事情があろうとも、このような逃亡が明らかとなればただでは済まされぬ)
まあ、敵前逃亡とか職場放棄みたいなものなのか、となると処罰されて懲戒免職とかかな。
(王族を見捨てて逃げ自己の保身を図ったなどという不忠を犯せば、通常は斬首や火刑、その者の家は取り潰しとなり親族も纏めて身分を失おうて、まして仕える王族が死亡あるいは深手を負おう物ならば、親兄弟までも処刑されかねぬ)
あ、ガチで首が飛ぶの方ですか、そうだよね、中世風異世界だもんね。
そう言えば日本史でも、幕末の桜田門外の変じゃ主を護れなかった連中は討死にや重傷者以外は全員処罰されて、切腹とか斬首になったんだっけ。
(じゃから、まともな判断思考の出来る侍女であれば、たとえ実家の事情で王女を排除したくとも、このような襲撃で逃げるなどという事はすまいて。まあ、王女が無傷で済み逃げた侍女が賊に殺されたのならば、その後の実家の賄賂次第では王女を逃がす為に囮となったなどという形で体面を保たれるかもしれぬがの)
テトビが言ってたのはこういう事か、助けてもこのままだと最悪処刑されるんだから、ここで盗賊に殺されて名誉の殉職って事にさせてやるって事なのかな。
いやでもそれっておかしくないか。
(ラクナ、王女の周りに仕えられるような『優秀な侍女』ならこんな時には身を捨てて王女を護るのが当然なら、なんでこんなに逃げているんだ)
いやだからラクナは疑問に思ったのか。
(そうじゃのう、考えられる事態としては、そう言った非常事態が殆ど無いため、王女付きという名誉ある役職が退任後に婚姻相手を探すであろう娘の箔付けの為に使われておったのかもしれぬのう。それならば賄賂やコネさえさえあれば十分な能力や見識を持たぬ者が就く事も、いやムルズ王国はラッテル家という毒見役の家を創設させ、更には奴隷として囲い込もうとまでするほど暗殺を警戒して居る国柄じゃ、普通に考えればそのような者を継承権が低いとはいえ王女に付けはせぬか)
ああ、そう言えば元々この国と関わる原因は、それだったな蝗害で落ち目だったラッテル家を追い込んで、その血筋を王家所有の奴隷にしようとしてたんだっけ。
(ラクナ、お前はこう言いたいのか、この襲撃を成功させるためにわざとそう言った『邪魔にならない』ような付き人が選ばれたんじゃないのかと)
(可能性としてはありえるのう。あるいは、襲撃での逃亡にかこつけて潰したい、あるいは潰れてもよい貴族家の娘を、あえて王女付きに任命したという事も有り得るのう。それならば一度の襲撃でライフェル教への布石となり、さらに国内での権力闘争にも使える二度おいしい事態となろうし、襲撃が失敗しようとも侍女が逃げれば、権力闘争には使える。悪くない布石じゃのう)
うわあ、最低だなそれ、となると俺が助けても助けなくても無駄だって事か、いや今はまず刺客から王女一行をできるだけ助ける、その後の事はそれから考えるべきか。問題の先送りのような気もするけど、後で解決策が見つかった時にもう殺された後だったじゃ意味がないからな。
「旦那、ずいぶん難しい御顔をなさってやすが、また難しい事を考えてるんじゃねえですかい。気を付けてくだせえ『人族には目も耳も手も足も二つづつしかない』んですぜ、一人で抱えられる者の量は決まってやす、抱えきれないもんにまで色目を使って欲を出すのは、止めた方が良いですぜ」
なにを言ってるんだこいつ、いや言いたい事は解るけどさ。
「テトビお前らしくないな、欲を出すなっていうのはお前に一番似合わない言葉だと思うんだがな」
何かあれば儲け話を振って来るこいつにだけは言われたくないんだがな。
「へへ、金にがめついペテン師だからこそ、引き際や諦め時には敏感なんでさあ、川に落ちた時に金貨の袋を手放せずに抱え込んで、その重みで溺れたなんてマヌケな話は、何処にでもありやすからね。生きるか死ぬかの状況で、何でもかんでも力技で自分に都合よく持って行くなんてのは『勇者』様なりよっぽどの実力者じゃねえと到底ねえ」
う、確かに俺は、そんな無茶苦茶な強さはないけど、それでも。
「さて、見えてきたようですぜ、残念ながら王女様はどうやら御無事なようで」
この野郎本当に残念そうに言うな、まあいい、とりあえず俺の出来る事をやるだけだ。
(待て、救援のために飛び出すのは良いが、それならばまずは旗幟を明らかにする為にも、どちらに味方するのかを宣言すべきじゃ、戦闘の場に何処の所属ともわからぬものが武装して現れれば、両陣営から敵と思われ袋叩きにされかねぬぞ)
ああ、言われてみれば確かにそうだよな、敵か味方か分からなきゃ警戒されるか、そういや時代劇とかでも『~殿に助太刀いたす』なんて風に宣言してるもんな。
あれ、でもどう名乗ればいいんだろ。
(ええい、面倒じゃ儂の言う通り復唱せよ)
(わ、わかった、頼む)
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、我が名はリョー、『地虫窟』にて『青毒百足』を狩り、『鬼軍荘園』の鎮圧戦では『カーネル』を討ち『マーシャル』を退け数多の鬼を仕留めた剛の者にして、『蠕虫洞穴』『獣頭草原』『蝙蝠の館』『鬼族の町』『寒暑の岩山』『子鬼の穴』と六つの『迷宮』を静めた『迷宮踏破者』、人呼んで『虫下し』のリョー、またの名を『羅斬』のリョー。白昼堂々と天下の往来を騒がし、婦女子を脅かすとは不届き千番、馬車の側へ助太刀いたし、不逞の輩を成敗いたすうううう」
ぜえはあ、ぜえはあ、なんだこれ、なんで走りながら息継ぎ無しでこんな長文、というかさこの内容、時代劇じゃあるまし……
(うむ、やはり名乗りはこう、堂々として居らぬとのう)
すいません、諸事情ありまして、護衛対象の王女様の名前をリーンからミーラに替えさせていただきました、リーン王女だと、リューン王国と一字違いになってしまいますので。
R6年7月13日 誤字、句読点、一部文章を修正




