番外編 その頃のオッサンたち
空いてる時間で、軽く描いた番外編です。
本編ストーリーにはほぼ絡まず、時間が無く台詞多めのため読んだ感じも普段と違うかもしれません。
本編の投稿は来週以降になると思います。
最初の方は、残酷表現アリですのでご注意を。
赤い火に照らされて、黒い影が動き回る。
(やだ、やだ、なんで、なんでこんな)
必死に抑える耳に掌を突き抜けて叫び声や物音、悲鳴が届く。
「団長、こっちにも隠れてやがった、五人だ」
「こっち連れて来い、他に隠れてねえかと逃げる奴が居ねえかしっかり見てろよ、で、内訳はどうなんだ」
「ガキが3、アマが1、野郎は、今この世からいなくなった」
叫び声に続くかのように、絶叫と悲鳴が耳を叩く。
(あれは、隣のアラムさんの声、どうして、さっきまでみんな、いつも通り)
「たっくよ、久々の好き放題だからって遊びやがって、ふざけすぎて逃がすんじゃねえぞ、官憲にでも逃げ込まれりゃ、俺らは御尋ね者だぞ、そうなったらせっかく仕事がわんさかあるこの国を出なきゃなんねえんだからな」
(そうだ、お役所、御領主様や代官様の所に行けば)
「まあ、この領地は、領主の伯爵様もその周りの連中も戦争の準備やらなんやらに必死で、領府も領主館も戦力はすっからかんも同然、生き残りが一匹二匹駆け込もうとまともな対応は出来ねえだろうがよ。おいそっちのガキはヤローじゃねえか、掘る趣味がねえなら片付けちまえ」
(そんな、それじゃ、どうしたら)
「へいへい、このガキ使う奴いるかー、いねえかー、いつつ数えていねかったら、首落とすからなー、いーち、にー、さーん、しー、ごー、はいおわりー」
甲高い悲鳴が響く。
「残りのガキも、小さすぎだろ、それじゃ使い物になるどころか、入んねえだろ、ああオメエはちいせえのか」
「馬鹿やろ、俺の大槌をテメエの小刀と一緒にしてんじゃねえ、こういうのはセメエからいいんだよ、入らねえようなのを無理やり引き裂いて使い物になら無くするあの感じたまんねえぞ」
「そうかい、そうかい好きにしな、オメエ等も逃がしさえしなきゃ、気に入ったので遊んでろ、面倒な仕事が終わって次の仕事の前にはしっかり食って飲んですっきりしとかねえとやってらんねえからな、肉と酒が無くなるまでは、ここで休んでくぞ」
(誰か、誰か、こいつらを、こいつらを……)
「だれか、だれか、ん、あ」
「お、目え覚ました、兄貴い、起きやしたぜ」
なにかに揺すられ目を開けると武装した男達に囲まれ、思い思いの恰好でのぞき込むように見て来る。
「お、おまえら、くるな、くるな」
殺されると思い、後ずさると、それを見下ろしながら男達は、首をかしげる。
「なんだ、なーにをビビってるんだこのガキは、川で流されたのを拾って火に当ててやったってのに」
「そりゃまあ、オメエ等みてえな人相悪いのが囲んでりゃ、目覚めは最悪だろうがよ」
「なんですかいそりゃ、自分の舎弟衆を捕まえて悪人面はねえでしょう。手下が可愛くねえんですかい」
「鏡見て言えボケ、『虫下し』んとこの娘っ子みてえなのだったら、幾らでも可愛いって言ってやるが、テメエ等みてえなゴブリンかトロルか分かんねえのをどう間違えれば可愛く見えるんだよ」
ボサボサの髪と髭に顔を覆われた大男がゆっくりと近づいて来ると、思わず更に後ずさってしまう。
「あのボスモンスターと綱引きをしたり、笑って敵陣地を焼き払うようなバケモ、じゃねえ強者を可愛いって言える兄貴が凄えんですって、というかそう言うなら、うちにも可愛い女奴隷入れりゃあ良いじゃねえですか。『虫下し』のとこの『侍女服の獣使い』みてえなキレイ所を何人か」
「アホ、ありゃ『虫下し』がヘタレだから上手く行ってるんだよ、女数人に野郎一人なんてパーティーで下手に誰かに手を出してみろ。惚れた脹れただの、御手付きだ、お気に入りだ、一番だ、二番だ、なんて事。になって面倒になるぞ。かと言ってオメエ等みてえなのが鼻先に別嬪ぶら下げられて我慢できるはずもねえからな。何で正規軍が女の戦闘奴隷を使わねえのかよく考えろ。そうでなくても、酒場の女や娼婦のネタでケンカをおっぱじめるようなオメエ等の面倒を見るコッチの身にもなれってんだ」
「施主殿、そのような話よりも、その子の事でしょう。心配する事はありませんよ、ここに居るのは歴戦の勇士ばかり、そのせいで目付きが鋭く見えるでしょうが、分別を弁えた善人達ですので」
「尼さん、『黒鉱剣』の旦那だけならともかく、俺や舎弟共みてえなチンピラ崩れの破落戸を捕まえて善人だの勇士だのって、背筋が寒くなるんで止めてくれねえかね」
「そうは言われるが、拙僧等は『蠕虫洞穴』や『鬼軍荘園』での施主殿達の戦働きをこの眼で見ておりますし、こうして、旅の足も貸して頂けているので」
「いや、そりゃ目的地が同じってなりゃ、ついでで馬車に乗せるなんてのは普通だろう、同じ戦場で同じ魔物の返り血を浴びた仲だ、それにライフェルの尼さんにツテがありゃ、この先なにかとトクになりそうだしな」
耳を打つ言葉の中に聞き捨てられない単語が有るのに気づき、顔を上げる。
「ライフェル、ライフェルの御坊様ですか」
「いかにも未だ修行中の未熟者ではありますが、拙僧はライフェル神に仕える僧の一人」
「ど、どうか助けて下さい、村が、村が、盗賊に、どうか、どうか助けて下さい、アイツ等を倒して、まだ姉ちゃんたちは生きてるはずなんだ、川を泳いで逃げて来た時にはみんな生きてたんだ」
「盗賊だと、おいコウ、この辺りに村を丸ごと襲えるような規模の盗賊団が居るなんて話があったか」
「聞いてねえですね、子爵領を出る時に耳無し兎から、移動経路の状況を聞きやしたがそんな話はありやせんでしたぜ、それだけの盗賊団がいるなら、あの耳の速い臆病者が気付かねえ筈がねえ」
「だよなあ、じゃあこのガキの言ってる事は何だと思う」
「う、嘘じゃない、いきなり盗賊達が襲ってきて、父ちゃんも母ちゃんも殺されて、姉ちゃんは、姉ちゃんは小屋に連れてかれて。お、お願いです御坊様、アイツ等をあの盗賊達を倒してください」
「ふむ、そうしたいのはやまやまではあるが、今の拙僧は神殿の御役目を受け『人狗銀鉱』へ向かわねばならず、その移動手段を、こちらの方々の馬車に便乗させて頂いている以上、拙僧の都合で動くわけには」
「そんな、なんでライフェルの御坊様が、それにこんな連中と……」
「おいおい、ライフェルの尼さんが、んな冷てえ事を言うのかよ。いやアンタらは魔物や『迷宮』が専門だったか、だけどよう」
「確かに、盗賊の件は気になりまするが、されとて目前に迫った『活性化』を放置する訳にも、施主殿の手配された馬車を下りて、盗賊に対処してから徒歩で『迷宮』へ向かうとなれば、どれほどの日数を必要とするか、それで間に合わず多くの衆生に被害が出るとなれば悔やんでも悔やみきれませぬ」
「そりゃ、そうだろうけどよ」
「ああアイツらがいたか、兄貴、もしかしたら『クドラス傭兵団』の連中かもしれやせん。確か貴族連合に雇われる話が決まったってんで、移動中の筈ですから、この辺りを通っててもおかしくねえ」
「傭兵団だあ、クドラスってえと、ああ見た事あるな『鬼軍荘園』でヘボこいてたアレか、なんでそんな連中が村を襲ってんだよ。いや、あんなショボい連中だ、自力で金を稼げねえ甲斐性無しか小銭を惜しむしみったれ当たりが団長で、行きがけの駄賃代わりに、戦力の居ねえ農村相手で人喰い仕事でもしやがったのか」
「どうしやすか兄貴、うちとは関係ねえ連中のしでかしだって言ったって、証拠も証人もなしで村が潰されたとなりゃ、近くを通ってた俺等が疑われかねねえ、下手すりゃこっちが御尋ね者ですぜ」
「ああ、んな事になると面倒だな。しゃあねえ、何人か『黒鉱剣』の旦那と一緒に付いて来い、ちょっと行ってナシつけて、いやカタ付けて来る。尼さん申し訳ねえが、ちょいと到着が遅れる事になりそうだ。おい小僧、オメエさんの村がヤられたのは何時の事だ、昨日かそれとももっと前か、場所は、いや村の名前でも解れば地図を見りゃいいか」
「何をするつもりだ、あの盗賊いや傭兵共に混ざるつもりか、お前らだってアイツらと同じ……」
「あん、んな真似する外道どもと一緒にするんじゃねえ、俺らはチンピラ崩れの破落戸だが、これでも真っ当な冒険者だ、多少のオイタやタカリみてえなセコイ悪さはするがよ、首に縄が掛けられるようなゴブリンまがいの真似なんざしねえ。金が欲しけりゃ『迷宮』なり戦場なりに行くし、女が欲しけりゃ口説くってのはここ何年か上手く行かねえが、娼館に行って一晩買えばいいだけだ、酒にしろ肉にしろ金で幾らでも手に入るもんで、後ろに手が回るようなアホな事を一々してたら命がいくらあったって足りねえ」
「ならなんで、アイツ等の所に」
「聞いてなかったのか、カタ付けるって言ってんだろ。これからそいつ等のとこに行って、クソアホ共を蹴散らして幾らかぶち殺して、首を何個か領府に持ってくんだよ。んで、村を襲ったボケナスは潰してある、たまたま近くに居た俺らはボケ共とは無関係だって証明しとかねえと、これからのこっちの仕事に障るんだよ」
「あ、アイツ等を倒してくれるのか、みんな助けてくれるのか」
「そうだって言ってるだろうがよ、まあ俺の目的は領府に証拠にだすボケ共の首だから、それ以外の戦利品なり生き残りなりはオメエが好きにしな、知らずに放っておいたら面倒になってたかもしれねえ話を持って来た、駄賃代わりだ。なにせこのあいだの仕事で金も食糧もまだ十分あるからな」
「そんな事言ったって、アイツ等は百人以上居たんだ、それをこんな数で倒せるはず」
「『クドラス傭兵団』の戦闘は見た事あるがよ、あれなら何とかなるだろうさ。というかどいつもこいつも俺を軽く見やがってよ、なあ俺はそんな弱そうに見えるもんかねえ。これでも二つ名持ちで、プシの町じゃ顔役だってのによ、しかもここ数か月の連戦でレベルも上がって、苦労したおかげかステータスも馬鹿上がりしたってのによ」
「まあ、兄貴はどっからどう見ても、立派な盗賊顔ですから、物語や演劇なんかじゃいかにもなやられ役って感じですよね、剥きだしの筋肉に髭にボサボサの髪とか」
「ぬかせ」
「ほ、ほんとうに、助けてくれるんですか、お、お願いです、助けて下さい村を、生き残ってる皆を」
「だから、解ったって、まあこっちの目的はアホウを潰す事だから、そっちはついでだから勘違いすんじゃねえ、相手は雑魚連中だ、幾らかまとめ役を斬れば残りはすぐに逃げ散るだろうから、生き残ってりゃ助かるだろうさ。ああそういや期限が近くて捨てる薬が有ったな、おい、ここで待ってる奴等で適当に捨てとけ、誰が拾おうと知った事か、どうせ暫く使う予定がねんだからよ。おいガキ、こっちに依って来るな、こんな破落戸を堅気のガキが拝むんじゃねえ、だあズボンを掴むな、じゃまくせえ」
「だ、だけど、助けて貰えるのに、何もお礼が出来なくて」
「だから別にオメエを助ける訳じゃねえ、真っ当な農民が、チンピラに絡むな、細く長く生きれる人生を棒に振るぞ」
「で、でも、出来る事はこの位しか」
「ああ、俺に稚児の趣味はねえ、ガキが服を脱いでなにさせるつもりだ、ついでなんだから依頼なんてしてんな」
「なら、アタシが依頼を受けようかしら、もちろん体目当てじゃなくてだけど。師父よろしいでしょう、どうせこちらが用事を済ませるまで馬車は動かないんですもの、その手伝いをするくらい」
「確かに、施主殿がこの地に留まられるのならば、手伝うのは当然か、拙僧等のみで先行しようとも徒歩で、しかも見知らぬ土地で詳しい情報も無しでは多少待っても馬車に同乗させて頂く方が良かろう。今のこの国はライフェル僧のみでは都合が悪い事も多かろうし、何より、都合が付くのであれば衆生救済を積極的にすべきであろう」
「そうですよね、ふふ、これから先の地獄の特訓を前にちょっとした肩慣らしを兼ねた娯楽くらいありませんと、やってられませんもの。大義名分は我にあり、思う存分、いたぶれますわ。あら、あら、あなたよく見ると、ひょっとして、貴方の種族って、それに……」
「えっと、うちの村は、大分薄いですけどみんな淫魔族の血が入ってて、でも血が薄いから戦闘の魔法はほとんど使えなくて……」
「おい、そりゃマジか、ボケナス共、魔族の流れの村を相手に人喰い仕事だと、オメエ等、予定変更だ、少人数で蹴散らすのは止める。村を丸ごと囲い込んで一気に潰すぞ、雑魚でも逃がすな、出来るなら幾らかは生かして捕えろ。魔族の村を襲ったなんて濡れ衣を着せられたら、御尋ね者どころの話じゃねえ『剣魔』が俺等の首を取りに飛んでくるぞ。俺らは盗賊と無関係だって証言してくれる生き残りを確保しろ、村人がいれば一番だこの時点で生き残っているなら致命傷はくらってねえはずだ、まあ無事とは言えねえだろうがよ。だがアホウ共も何人かは生かして置いて領府で自分らの所属を吐かせて、公式の裁判記録を残したうえで、見せしめの拷問と火炙りになって貰わねえとこっちに火の粉がかかりかねねえ。息が有る連中に情けでトドメを刺さすようなマネはしねえで、ふん縛っとけ、用意が出来次第移動して仕掛けるぞ」
「ガキ、安心しな、うちの兄貴分はなんだかんだ言って、面倒見はいいんだ自分等でやれる範囲なら、やるといったことはキッチリやらあ。ライワ伯爵領なんて大領の迷宮前の町で顔役を張るなんざ、力と漢気が無きゃ出来ねえんだからよ。二つ名だってそれ相応の云われが無きゃ付かねえもんだ、兄貴の『百狼割り』ってのは、数十匹の『蟻狼』の群に囲まれた時に周りに居た連中を逃がして一人で戦って、剣が折れても素手で魔物の頭をかち割って戦ったってのが元になってんだがよ。兄貴はその時、自分が半死半生になって何か月も寝込んだってのに魔物を全滅させて逃がした連中には一切被害を出さなかったんだ。俺らの一党はよ、その一件で兄貴に惚れこんだ野郎どもが中心になって起こした。だから俺らは兄貴が戦うってんなら、倍の敵だろが付きあうんだよ、まあ大船とは言えねえが、それなりの船に乗ったつもりでいな」
「おい、コウ、何してやがる、とっとと荷物を纏めやがれ」
村の方から絶えず響く喚声と時折響く悲鳴に百狼割りが眉をしかめる
「襲ったその場で、見張りも立てずにお楽しみか、いい気なもんだ、周りに死体も転がってるだろうによ、ゾンビ化でもしようもんならどうするんだか、まあいい、気付かれずに始められると思っとくか」
「して、テーク殿、どうなさる」
「酔っ払い相手に、細かい作戦立てても思う通りに動いてくれねえだろ。俺と旦那、尼さんに姉さんで忍び込んで、気付かれる前に数を減らすか、多分ばらけて楽しんでるだろうから、とりあえず寝てるのや、腰振って周りに気が回ってねえのから静かに片付ける。気付かれて騒ぎになったら、コウが十人程度を預けるから切り込んで合流、とりあえず暴れ回って南の方に追い込む。残りのオメエ等は村の南側でアミ張って、生け捕りにしろ。尼さんと姉さんには見苦しいもんが色々あるだろうが、我慢してくれや。村人の生き残りを巻き込むと面倒だから、村んの中での火責めや、遠距離からの無差別範囲攻撃なんかは無しだ」
「承知いたした」
「苦しむ民を救うは、僧の務め、この先に民の地獄が有るのならば、拙僧は進むべきでしょうて」
「最初の内は、啼かせられないのですか、まあ後の楽しみだと思って、ふふ、行きましょうか」
音を立てないように静かに、四人が誰も立っていない村の入り口を抜けて分散すると、徐々に喚声や悲鳴が減って行き、しばらくしてから急に怒号に変わり、男達が家々から飛び出して行く。
「てめえら『百狼割り』の一党か、どいう了見だ、なんの恨みがあってこんな真似しやがる」
「あん、バカな事やらかすから、バカな結果になるんだろうがよ、アホウが、とりあえず斬られとけ、運よく生き残ったら捕えて黒焼きの手配をしてやるからよ」
「ぐげ」「がば」「あべ」
「ふふ、やっと楽しめますわね、さてさて貴方のお腹はどんな色、ちょっと開いて見せてみて、こっちの子より綺麗かしら」
「ゆ、許してくれ、助けてくれ、何でもする何でもするから」
「依頼されてる以上、それは無理よ」
「な、ならその依頼の倍を払う、何だったら依頼人に直接交渉してもいい、取りやめてくれるのならどんな条件だって飲む、だから、だから弁明の機会をくれ」
「そうねえ、多分貴方達が奪った者を全部返したなら、依頼主も納得して依頼を取りやめるんじゃないかしら」
「う、奪った物、俺らがそいつから取った物を返すだけでいいのか、返すなんだって返す、命あってもの物種だ、言ってくれればすぐに荷物から探し出してアンタに渡す、だから、だから」
「探す必要はないわよ、だってすぐ目の前にあるんだもの」
「そ、そうか、すぐ、持って来る、それで何を返せばいいんだ」
「ほら、それよ」
「え……」
「だからそれよ、それ」
「し、死体」
「死体じゃないわ、家族よ、依頼主の、昨日と同じ元気な状態で帰ってくれば、依頼主も納得するでしょうよ」
「し、死人を生き返らせるなんて、そんな事できる訳が」
「そうよねえ、原状回復が出来ないのなら、貴方も同じようにどうやっても原状回復できないような目にあってもいいわよね。大丈夫よ、出来るだけ殺すなって指示だから、火炙りにされる日をやっと楽になれるって心待ちに出来るように、グチャグチャにしてあげるから」
「ひ、ひい」
「あ、アンタ僧兵だろ、なんでこんな真似、ふ、不条理じゃねえか、俺らが殺ったのはたかだか四、五十人だ、それで俺ら百三十人を殺すつもりか、割に合わねえだろ、い、命は公平なんだろ、五十人と百三十人じゃ命が釣り合わねえだろ、こんなやり方、不公平だろ」
「なるほど、確かに命に貴賤は無く、より多くの命を救うがライフェルの教え。五十の命には五十の命を持って報いる確かにそれは、一見道理のように聞こえますね」
「そ、そうだろ、アンタらはもう十分殺したじゃねえか、ならもういいだろう、俺らの事は見逃して」
「では問いますが、村人は貴方達の仲間を何人殺めたのですか」
「え、」
「一人の命を一人で贖うという貴方の言葉の通りでしたら、五十の命は何の贖いとして奪われたのですか、五十を奪うのであれば五十が奪われたというのが道理でしょう」
「それは」
「貴方が言う事は正しく聞こえても、それを貴方自身が実践していないのであれば、詭弁にすぎないでしょう。一人の命を一人の命で贖うべきと口にしながら、何の罪もなく五十の命を奪う事をどう説明するのですか。その整合が取れないのであれば、五十の命の贖いに拙僧が百三十の命を求めようと、批判は出来ますまい」
「な、ならアンタは、どんな屁理屈で俺らを殺すっていうんだ」
「正当な理由なく、我欲のままに戦えぬ無辜を殺めるのであれば、その行いは魔物も同じ、ならば魔物を討つは我が神の定める天の正義であり、ライフェルの武僧たるの務め、これ以上の問答は無益でありましょう。せめてもの情け、苦しまぬよう一撃で逝かせてしんぜよう」
「がっ」
「お前ら、ホントにこの村の生き残りの依頼で俺らを襲撃したってのか」
「いかにも」
「ふ、ふざけるな、こんな貧乏村から逃げた様な文無し風情が、なんでお前らみてえなのを雇えるんだよ」
「幼子に出来るかと聞かれ、是と答えた、行えるはずが無いと言われ、否と返した、してくれと頼まれ、応と受けた、侠客たる我が雇い主殿が動くにはそれで十分な理由であろう。そして雇い主が戦うのであれば用心棒たるものが、その敵を排するは当然の事」
「旦那、そんな言い方止めてくれや、侠客って柄じゃねえっての、俺らはただの破落戸で、こんな金にならねえ真似を自分からしたってのが噂になりゃ、面倒な頼みごとがそこら中から飛び込んで来るっての。そう言うのは『虫下し』や『四弦万矢』みてえなお人好しの仕事だってのによ。俺らは面倒を避けるのに潰しただけだってはっきりさせとかねえと。コイツは義侠じゃなくて損得の話だっての。出来る事ならこのアホウ共を付き出した時に領府から報奨金くらいはかすめ取りてえんだしよ、美談じゃなく仕事にしねえと、ただでさえウチには無駄飯ぐらいのバカ野郎どもがいるってのに」
「おら、たらたら歩いてねえで、とっとと歩け、そこの馬車だおかしなマネをすりゃ『臓華師』の姉さんのオモチャにするぞ」
「しっかし、村で兄貴らと戦った連中も雑魚ばっかで大した敵はいなかったらしいが、逃げた連中も殆ど目立った抵抗も無く捕まったな、こいつ等、自分のやった事とこの後を解って……」
「余計な事言うな、逃げようとしたらどうする。おい身体検査はしっかりしとけよ、小刀でも隠し持ってて、縄切られちゃ面倒だ。裸にまでしなくても良いが、下着だけにするぐらいはひん剥いとけ」
「あそうだ、兄貴、こいつらの装備や持ち物、後は補給物資なんかはどうしやす、そこそこ貯め込んでた見てえですし」
「ああん、アホ言うな、こんな真似する連中の物資だぞ、何処の盗品だか分かったもんじゃねえ。盗賊の持ち物は討伐した奴の物ってのは大抵の場合通用する話だが、面倒な相手から盗った者や値打ち物だったりすると、後で変ないちゃもんを付けられて、実は俺らがそれを盗んだ盗賊なんじゃねえかなんて事を言われかねねえ。そう言ったのを黙らせる実力や後ろ盾がねえなら、盗賊討伐の戦利品なんて下手に手えだすもんじゃねえ。時間がありゃ、それが俺等の戦利品だって証明書を領府の役人に出させる事も出来るが、小銭を惜しんで時間を無駄にして、この先で待ってるデカい仕事を逃す手はねえだろ。しかも、この村から奪った食料や金銭が混じってりゃ、いちゃもん付けてきかねねえのは『剣魔』だぞ、命かけるほどの額か、それが」
「まあ、そうでさあね。それじゃあどうしますかい、これ」
「はん、こんなあっさり全滅しちまうような雑魚連中の装備品なんざ、ゲンが悪くてこれから稼ぎに行くって時に持ってけるかよ。適当な所に捨てとけ、権利放棄したもんなんざ、適当な誰かが適当に処理してくれるだろうさ」
「ああ、へい、解りやした、村の広場にでも食糧や日用品は捨ててきまさあ、現金や金目の物は表に置いたり一か所に纏めときゃアレでしょうから、そこらじゅうの家に分散してばら撒いときまさあ。あっと、襲撃前に捨てろと言われてた期限間近の薬を捨て忘れてやした、ついでにまとめて捨ててきやすぜ」
「はいはい、適当に捨てとけ、尼さん、俺らはこの村に半分残すが、残りは俺と一緒に領府へこのアホ共を届けに行くがどうする」
「拙僧等は施主殿が戻られるまで、この村で負傷者の救護と慰霊を行いたく思います。犠牲者達の遺体はもちろんですが、盗賊達の死骸も放置してはアンデッドとなりかねませんので」
「そうかい、うんじゃ、ちょっくら領府に行ってくるとするか、まったく、とんだ面倒に巻き込まれちまった」
「あ、あの、お姉さん、あの人は戻って来るんですか、生き残ったみんなを助けてもらったのに、失礼な事言っちゃって、ごめんなさいもありがとうも言えてないのに、わたしの出来る事ならなんだって御礼もお詫びもしないと」
「そうねえ、これからの事も有るから、すぐに帰って来るんじゃないかしら。でもね、ああ云う男は恥ずかしがりの意地っ張りだから、お礼を言っても何の事だ、とか言いそうよね、それに……」
「それに、なんですか」
「あの男は貴女が女の子だって事すら気付いてないと思うわよ、やーね、もてない男は見る目が無くて」
R6年7月13日 誤字及び説明不足のセリフを修正。




