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458 判断基準


「テトビ、それはどういう意味だ」


 偶然を利用するって、何を考えてるんだ。


「火球の位置はそれほど離れてやせん、最初の火球が上がったばっかしですから戦闘は始まったばっかしでしょう、今から駆け出しゃ、護衛達が殆ど崩れる前に現場に着いて、賊を片付けられるでしょうや。なにせ末席に近い方とは言え王女様の護衛ですから数も質もそれなりにはなるでしょうからそう簡単には崩されねえでしょうしね。しかもこうやって休憩してたおかげで馬車が丘を越える前でしたから、襲撃現場とここの間には川と丘がありやすんで、向こうからこっちの場所は見えはしねえでしょう、てことは襲撃者は旦那の事には気付いてねえでしょうから、このまま進めば賊の後ろも突きやすいでしょうや」


 願っても無い事だろう、上手くすれば守る護衛と敵の無防備な背後を取った俺達で挟む事も出来るかもしれない。


「殆ど被害を出さずに王女を助けられるかもしれないって事だろう」


「それじゃあ不味くねえですかい、救援のありがたみが全くありやせん、感謝って商品には一番旨く熟した売り時ってもんがありやして、今はまだまだ果実が青くて食えたもんじゃありやせんから売ろうとしても迷惑な押し売りのようになっちまいやすぜ。考えても見てくだせえ相手は王女様を護る騎士や兵士、地位だけじゃなく自尊心も高いでしょうや、そんな連中が大して苦労せずに旦那に助けられたら、間違いなく旦那が居なくてもなんとかなったと言い出しやしますぜ、下手すりゃ旦那が余計な事をしたせいで不要な被害が出たなんて文句を付けられかねねえ。助けて恩を売るつもりが逆になりかねやせん」


 そんな馬鹿な事が、いやプライドの高い相手なら有り得るのか。


「感謝が一番熟す売り頃は、護衛の大半が倒されて、まさにられるあるいはられる寸前、御姫様が引き出されて剣を向けられた瞬間や服を剥ぎ取られて悲鳴を上げた直後ってところですかねえ。そこで旦那が飛び出して賊を仕留めりゃ、旦那の救援に誰もケチを付けれねえし、そのままじゃ王女様を護れなかった咎で首が飛ぶはずだった護衛連中に貸しを作れ、姫様も死にかけた所から助かったっていう開放感で感謝の価値は最高になるでしょうや。旦那は焦らずに隠れて近くまで行って、その熟し時になるまで待ってりゃいいんでさ。主戦派に属する貴族様の領地でお姫様が襲われ、それをまだ合流前だった旦那が、要はまだ護衛する義務が発生して無い旦那が善意で助ける、この貸しはでけえですぜ」


 いや、ヒーローの登場シーンじゃあるまいし、確かにアニメや映画のそう言ったシーンとかだと、タイミングを狙ってたんじゃないかって感じで駆けつけるけどさ、ワザとそれをやるのは違うだろ。いや、待てよ、コイツがこのタイミングでこんな事を言い出したのは、それに時間を調整してたような休憩の申し出は……


「それに、王女様の側近にはここらで何割か退場して貰った方が良いでしょうし」


「なんだと」


「最低限の護衛って言いやしても、それなりの人数が御姫様に付いて来るでしょうが、そん中にゃ色々な派閥の息がかかった連中が混じってるでしょうからねえ、あんまり多いと面倒のタネになりかねねえ。旦那はミムズ・ラースト様と仲がよろしいでしょうから、なかなか想像しにくいかもしれやせんが、王子様や王女様に付いてる騎士や従者、使用人ってのは王族御本人が選べるわけじゃなく、忠誠が他に向いてて信用できねえって場合も多いですからねえ」


 え、そう言う物なの。


(確かに有り得る話じゃのう、騎士や貴族が忠誠を誓う相手とは通常で考えるならば君主じゃ、つまりは王や領主という事になる、ミムズのように王女付きの騎士と言えどあくまでも王の臣下であり、形式の上では王の命によって王女に付いているにすぎん。兵士や侍従・侍女にしても国や王家等に雇われ、人事として王女の担当となっただけにすぎんのじゃ、もちろん王女の命には最大限従うよう命じられておるであろうが、王命や国の利益と王女の意思が対立した場合、前者が優先されるというのが通常の形となる)


 うーん、護衛にとって王女は雇用主じゃなくて部署の上司みたいな感じなのかな。上司の指示が会社に不利益をもたらしたり違法だったりしたら従えないんだし。


(まあ、過去にはその辺りをはき違え、護衛対象に感情移入するあまり謀反や弑逆に至った者もおるがのう)


 それは例外の話だろうから、普通は護衛の連中も国の紐付きって事か、となると国の主流派の意思に反する講和交渉の邪魔を王女の取り巻き連中がしてくる可能性も有るのか。


(それにくわえ王族の護衛騎士となれるような者は、大抵は名門貴族家の流れを汲んでおる。譜代の直轄騎士や男爵家などの当主であったり、大貴族で家を継げぬ嗣子以外の子の受け入れ先であったりするからのう。つまりは王の臣下としての立場と同時に貴族としての立場もあるという事じゃ。家の属する派閥や神殿との関係性によっては、忠誠よりも家の利益を優先しかねん)


 それって、王女を暗殺しようとしてる主戦派貴族に協力したり、下手をすれば護衛が王女を襲いかねないって事かよ。いや流石にそれはないか、暗殺なんてのに関与したら大問題になるだろうから、とは言え、講和交渉の妨害だとか、俺達の粗を探してムルズ側の大義名分に繋げようとするなんかはしてきかねないって事か。


(他にも、王族付きの奴隷が居るが、大半は国有の奴隷であって、その命令権は国等よりも担当の官吏が有して居る。王族本人、特に年若い王族が私的に所有できる奴隷や雇える使用人は少人数であり、しかも同性に限られるのじゃ)


 つまりは、奴隷も王女の行動がムルズ王国の利益に反するような場合になったら、王女の敵になりかねないって事か。でもなんでそんな、奴隷なんてふつうに買ってそうな気がするけど。


(若くまだ分別の付いていない王族の近くに異性が居ればどういった間違いがおこりうるかなど容易に想像できよう。国有の奴隷などであればより優先権の高い者の命令でそう言った行為を禁止する事も出来るし、王族付きの貴族や兵士、従者等に関してはそう言った事がどれほどの罪となるか教えられておるから、よほどでも無くば間違いは冒さぬ)


 間違いって、あれかな身分の違う恋に落ちちゃって婚約破棄とか、駆け落ちとか、心中なんかをやっちゃうって事かな。


(じゃが、もしも王族個人が所有する奴隷であれば主の命に背く事は出来ず、なし崩しに関係を持つしか無かろう、でなくば『懲罰』が発生しかねんからの。王女が奴隷に入れあげて純潔を失ったなどと醜聞が広まれば、政略結婚に出すのは難しくなろうし、正室も嗣子も設けていない王子が奴隷娘を孕ませた等となれば、将来の御家騒動の元となろうて。故に同性以外で王族が個人所有の奴隷と出来るのは宦官や高齢の者ぐらいじゃの、もちろん国によって制度の違いは多少あるがのう)


 ああ、まあ御姫様と美形執事や使用人のロマンスってのはお約束だけど、うんリアルで考えると確かにシャレにならないか、普通はやらかした執事が消されそうだもんな。ってそれどころじゃないだろ。


「テトビお前が言いたいのは、刺客に王女の側近が殺されるまで待てと言う事か」


「なんでしたら、側近だけと言わず王女様が殺られても良いかもしれやせんね、おっと、これは大きな声で言うと不味いですかね、とは言え悪い手じゃねえと思いやすぜ。旦那は橋のコッチ側で待っていたが王女様は来なかった、火球なんざぁ気付かなかったって事にしときゃ、面倒は有りやせんぜ。今回の王女様が講和のための交渉をするって話は向こうが言い出したってのに、どんな事情があれそれをすっぽかしたってなりゃ、伯爵様がこの国に介入する口実になるでしょうや。本来の目的をすっぽかしたのはもちろん、王女招待の表向きの名目だった、嗣子と御令嬢の婚約披露なんて言う伯爵家の慶事に泥を塗ったんですからねえ」


 いや、それは流石に、というかこれってやっぱり……


「テトビ、お前がこの襲撃を仕組んだのか」


「まさか、そんなこたありやせん、襲撃してるのは正真正銘、主戦派貴族の息がかかった刺客でさあ、あっし風情がどうこうできる相手じゃありやせんって」


 そう断言できるって事は、少なくとも知ってたって事じゃないか。


「まあ、なぜかあの刺客連中の雇い主様は御姫様がもう旦那の護衛下に入っているんで、何かあった時の責任はライワ伯爵様やライフェル教の方にある、しかも襲撃地点の領主であるウンラ伯爵はライフェル神殿と内通して神殿派に付いた裏切り者と思い込んでるらしいですがねえ。一体全体どんなガセネタを聞かされて、なんでまたそんなトンチンカンな思い込みをしたんだかは知りやせんがね」


 勘違いって、そんな事が有り得るのか。


「襲撃を命じた御方は、ライフェル陣営の貴族領でライワ伯爵家に護衛された御姫様が殺されて、ライフェル神殿に対しての大義名分をいち早く得て、ついでにライワ伯爵様はその失態の為に戦争に手出しが出来なくなるってな腹積もりだったんでしょうが、結果は主流から外れてるとは言え主戦派貴族領での失態で、それをライワ家所属の旦那が解決すると、こっちは笑いが向こうは悲鳴が止まらなくなるでしょうね」


「よくもまあ、そう都合よく思い込んでくれたものだな」


 あまりに都合が良すぎないか、こんな偶然が、いや偶然が信用できないって思ったばかりじゃないか……


「まあ、御姫様ご自身の旅程は宮中いる連中には隠しようがねえでしょうが、流石に神殿やライワ伯側の情報は明かしきれなかったんで、襲撃者としても不確定情報や予想に頼るしかねかったんでしょうや。ウンラ伯爵が裏切ってると思い込んだ件に関しちゃもっと簡単でさあ」


 簡単って、え。


「主戦派だとか貴族連合ってなふうに一括りにしちゃいやすが、要はライフェル神殿に借金をして首が回らなくなった連中が無理矢理踏み倒すのに数を集めようと周りを巻き込んで協力してるだけで、元々は別な派閥だったり対立していた家同士が参加していたりなんて状態で、元から一枚岩じゃねえようで、横の繋がりが殆どねえらしいんでさあ」


 利害関係の一致するだけで集まった烏合の衆って事か。


「更には借入額がそこまでヤバくねえ家なんぞはこれ以上神殿と対立してりゃ取り返しのつかねえ事になるんじゃねえかとビビって、貴族連合を抜けて中立を宣言したり。もともと神殿と付き合いのあった家なんぞは、戦争で神殿側に付いたり神殿に幾つかの権益を認める事で、利子の軽減や長期分割返済に切り替えて貰ったりしてるんで、日和ってそう言った家に神殿へのとりなしを頼む連中なんかも出て来てやすんで。貴族連合の中じゃ次は誰が抜けるかと、疑心暗鬼になってんでさあ」


 そうか、元から仲が悪かったり、付き合いが無ければ、簡単に疑いそうだし、実際に裏切者が出てるんじゃそう言う勘違いもしかねないか。とは言えこの状況は……


「テトビ、本当にお前が仕組んだわけじゃないのか」


「当然でさあ、そりゃ奴らが()()()してるようだって話は聞こえてやしたが、それだけでさあ、貴族様やその刺客を自由に動かせるような権限はあっしには有りやせんぜ、ただまあ、知り合いの情報屋なんかに情報が無いか聞かれた時にゃ、お世話になってる伯爵様や旦那の情報を正直に売る訳にゃいかねえんで、適当に誤魔化した話をしたかもしれやせんがね」


 全部相手が勘違いしてやらかした結果だって言いたいのか、いや、それを信じていいのか、とは言えこんなデカい事をタダの情報屋でしかないコイツ一人でどうこうなる話な訳ないか。


 いやとりあえず今考えるのは、どうしてこうなったのかじゃなくて、今どうするべきかだよな。


 ともかく『範囲内探知』で解る範囲内だけでも状況を確認して、状況を把握しておくべきか。ん、橋の向こうから人がこっちに、あの服装はメイドか、後ろから追われてるのか、後方に覆面の武装した男が二人、剣に血が付いてる。これはかなり不味いんじゃ、追いつかれたら間違いなく、こんなのを見ちまったら……


「リョー、あの火球を見まして、あれは救援要請ですわよ、どういたしますの。方向から考えればわたくし達の向かう先ですわよね」


 ハルが俺の方に走ってきてるけど、よく見たら他の子達も馬車を囲むように警戒しながら武器や防具を装備し終わって何時でも戦えるようにしてるな。


「どうやら、護衛する予定だった相手が襲われているようだ、俺は先行する、ハルは一旦みんなの所に戻って状況と指示を伝えてから行動してくれ。ミーシアは『獣態』を取ってトーウを乗せて準備が出来次第、俺の後に続けさせるように」


 急ぐなら『軽速』の有る俺はともかく、他の子は装備の重量も有るから変身したミーシアに乗った方が早いし、陸戦で集団を蹴散らすなら白熊のミーシアに勝る戦力はないもんね。


 それに『人態』でのミーシアは盾持ちの壁役だから王女の所まで行ければ、敵が多くても王女を守れるだろうし、トーウも元々は要人護衛に特化してる上に、確か王女との面識も有るらしいから丁度いい。


 それに二人は回復手段を持ってるから、負傷者が居ても何とかなるだろうし。


「ハルは『鳥態』でアラを乗せて上空から支援してくれ」


 対集団戦で航空支援が有力なのは『鬼軍荘園』での戦いで証明できてるからな、アラとハルなら敵の集団を連射の制圧射撃で潰すにもいいし、狙撃も出来るから混戦状態でも敵だけを排除する事も出来るだろうし。まあ、どれが敵か見分けるのが大変そうだけど、いざとなれば俺が指示を出せばいいか。


「サミューには馬車に残って、現場手前まで馬車を進めるように指示を、いざとなれば助けた護衛対象達を乗せて一気に逃げるからそのつもりで用意させてくれ」


 相手は王女を狙うぐらいだから、俺達だけでどうにかならないかもしれないから逃げる用意もしといた方が良いよね。それに馬車を放置してて、敵に見つかりでもしたら破壊されたり馬を狙われかねないから、馬車にも戦力を残した方が良いだろうから。


「解りましたわ、伝えましたらすぐ行動に移しますから、貴方も一人で非常識な無茶はなさらない様にして頂戴」


「よし、それじゃあ始めるぞ」


「やれやれ、おやさしいこって」


 ん、なんだテトビの奴の声が随分楽し気に聞こえたけど、気のせいか。


申し訳ありません、現在スランプ中、更にリアルの方の都合が複数有りまして、今月(10月)中旬から来月(11月)中旬に掛けまして、更新が滞るあるいは途絶える可能性があります、ご了承ください。


R5年7月13日 テトビの一部セリフを修正しました。

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