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457 偉い人からの手紙

「御主人様、宿に到着しました」


 御者をしていたサミューが振り向いて教えてくれるけど、やっと着いたか、今日は途中でどっかの伯爵家の行列とすれ違って道を譲ったから、遅れちゃったんだよな。


 町に着くまで少し馬車を急がせたから結構揺れて、みんな疲れてそうだな。


「ありがとうサミュー、宿の手続きをしてくるから、馬車と馬を回してみんなと荷物も降ろしておいてくれ」


「解りました」


 でもな、この辺りの宿っていまいちというか、ショボいというか、あんまり体が休まらないんだよね。


 何しろ建物は平屋が多くて、しかも足元は土間になってて靴を脱いで足を休ませるのが難しいし、椅子も座面が狭いからあんまり寛げないんだよね。


(仕方あるまい、この地域は降雨量がそれほど多くないため森林が少なく、木材は限られておっての、そのため二階建てや床など材木の使用量が増える建物は資金力が無くばなかなかの。雨量が少ないため、平屋の土間であっても浸水や室内がぬかるむなどはないらしいしの。まあ北の山岳地よりそれなりに大きな川が何本か流れておる為、そこより水を引く事で農業用水などは不足して居らぬそうじゃが)


 乾燥地帯で雨がそんなに降らないのなら、地面と同じ高さの土間でも水が入って来て床が泥だらけになったりはしないのか、それに木の床じゃない土間なら火事のリスクも少ないか、水が少ないんじゃ消火も大変だろうし、木材が貴重なら焼失家屋の再建だって難しそうだもんね。


 いやでもせめて、寝床くらいはさ、ベットにしてほしいな、土間の床に薄く藁を敷いて毛布を体の上下に掛けるだけってのがね、毛皮とか綿を敷いてくれとまではいわないけど、せめて低めでもベットくらいは欲しいな、日本に居た頃は低反発マットを敷いたベットや羽毛布団を使ってたのに、これじゃあ熟睡するのがねなかなか……


「まあ、それでも寝ないよりはマシなんだろうけどさ」







「旦那、いよいよ明日でさあね、御姫様と合流しなさんのは、場所はここからそれほど離れてねえ場所ですし、昼過ぎの待ち合わせですから、遅れる心配も有りやせんね」


 寝床に座って俺の方を向いているテトビが話しかけてくるけど、コイツ何処まで知ってるんだ。ていうか、幾ら他にも客が居て部屋が足りないから、二人部屋になったって言ってもさ、コイツと同室ってのはさ。


 いや、そりゃ他の子達と同室って訳にはいかないよね、いくら奴隷と主って関係性があっても、嫁入り前の娘さん達なんだし、まあ過去には仕方なくみんなと同室したって事も有るけど、それでも分けられるときはね。サミュー辺りに生殺しにされる俺の精神衛生の問題もあるし。


 アラだってもう大きくなってきてるんだから前みたいに一緒の部屋っていうのもね、そうなると俺以外に野郎はコイツしかいないから、しかたないとはいえ。というかさ……


「テトビ、お前はどこまで話を聞いてるんだ」


 コイツは、ただの情報屋というかペテン師だよな、だっていうのに何でこれほど重要なというか王族まで絡むような話に雇いこまれたんだ。


「へへ、あっしは金にだけは忠実でして、お客様が必要な報酬さえ払って下さる限りは、商道徳も渡世の仁義も十分以上に守りやす。伯爵様はあっしにとって毎回多額の金銭を払って下さる上客でさあ。たとえどれほどの額になる情報で有りやしても、伯爵様の依頼に関するネタは誰にも売れやせん、もちろんその後ろに居るであろう『聖なる御方』についてもね」


 コイツ、神官長さんが絡んでる事も把握してるって事なのか。でもまあ、金さえケチらなければ裏切る恐れが無いっていうのはある意味で信用できるって事なのかな。


「てなわけでして、あっしは今回の依頼の細かい内容やその目的に関しましても解っていやすんで、そんな警戒される必要はありやせんぜ、その証拠って訳じゃありやせんが、伯爵様からこんな手紙を預かれるくらいには信用が有りやす」


 そう言ってテトビが差し出してきたのは確かにカミヤさんの手紙だな、ライワ伯爵家の印章で封蝋されてるし。


「合流が近くなった段階でお渡しするように言われて居りやして、それで今がちょうどいいかと」


 え、そんなタイミングを見計らった指示って、一体何が書かれてるんだろう。


 まあいい、とりあえず読んでみないと考えようもないし開けてみるか。


 何枚か手紙が入ってるな、一枚目は書類っぽいけど、なになに『当家家人として雇入れし冒険者、『虫下し』のリョーをライワ伯爵家渉外担当官に任じ、知行300戸相当の地位とそれに見合う額の報酬を与える物である、期間は現任務を終了するまでとする』てえええ。


(ふむ、知行戸数300戸とはなかなかの高禄じゃのう、これならば十分に地方貴族を名乗れるの)


 た、確か知行って徴税権とかを認められた農家の数だったよね、でもって農家の収穫の二割が騎士の取り分だったはずだから農家60軒分の総収入と同じくらいになるって、うん確かに結構な額になりそうだな


「ライワ伯爵領は、伯爵閣下の農業政策で生産量が上がってやすし、大半の家は副業もやってやす、なんだかんだで一戸当たり金貨50枚位の金は稼いでるでしょうねえ」


 日本円だと一軒あたり500万、その60軒分だから金貨3000枚、3億円って、宝くじに当たったみたいな額なんだけど。いや、期限が切られてるんだから、丸々もらえる訳じゃないよな。


(この手の契約じゃと、締結時に一年分の支払は確定して居って、後は年を越えるごとに一年分の支払となる、お主が契約違反などをすれば支払いがされぬ恐れもあるが、とりあえず一年分を受け取れるのは間違いないじゃろうな)


 ああ、そうですか、こんな簡単に高額な報酬を払えるって、やっぱりお金持ちは金銭感覚が違うというかなんというか、いや儲けたと思っておこう。


 俺が日本に帰るってなればうちの子達に残しておく金が必要になるだろうから、残るみんなの生活なんかを考えれば額が多ければ多いほどいいよね。


 それにこれからも戦っていくなら、装備を整えたりなんなりで経費が必要になるだろうし。


「旦那、そればっかし見てねえで続きも読んだ方が良いんじゃねえですかい」


 ああ、そうだよな、カミヤさんの手紙は他にもあるんだからな。えっと……


『王女の側近には騎士や貴族関係者が居るだろう、そう言った連中は相手の身分や役職に拘って、目下だと判断すると途端に居丈高になって話が通じなくなる。渉外担当の地位や俸禄の額はそう言った相手へのハッタリだと思って置け、うちの家でそれだけの禄を取れる地位が有れば、大概の騎士はもちろん、爵位持ちの貴族が相手でもいや王女相手でも十分通用する。ムルズの連中を相手にした交渉や話し合で必要があれば、相手が誰であっても妥協することなく強気で行ってかまわない。相手がなにかウダウダ言ってきたり脅すような事を口にするなら、遠慮なくライワ伯爵を敵にするのかと言ってやれ、そっちがる気なら遠慮なくってやるってな。ムルズ王国がライワ伯爵家やラッテル子爵家の不利益となるなら、こっちはいつでもライフェル教側で参戦して皆殺しにしてやる用意があると言ってもいいぞ』


 いや、なにを無茶苦茶言ってるんですかカミヤさん、そんなの代紋をチラつかせるヤクザのタカリといっしょじゃないですか、というかこっちから戦争を仕掛けるぐらいの勢いなんですけど。


『ライフェル教の神官長は今回の一件で退くつもりは一切ない、どれだけ不利であろうと長期化しようと、敵対した貴族が降伏し責任者の首を落さない限りは、たとえ他の勢力や国が介入してきても丸ごと叩き潰すつもりだ。あの女は前も言った通り各勢力に対する神殿の影響力を維持するためにも、敵対者には容赦も妥協もしない姿勢を示す必要があると考えている。ムルズ王国の神殿側貴族領以外の全てが焦土となり、大半の地域が石器時代並の生活レベルになったとしても構わない、というか見せしめとしてはその位で丁度いい、位のつもりだ』


 石器時代に戻してやるって、それは泥沼化するフラグじゃないかな。


『だからそっちは今回の依頼でそれほど責任を感じる必要は合い、お前の仕事が上手く行ってもいかなくても戦争になり、ムルズは負ける、違いは神殿がどの程度むしり取るかと、その過程が楽か面倒か程度の差だ、被害にしても数百人の処刑で済むか、それに追加して十数万人が戦死するかの違い程度でしかない、他の国には大した影響はないし、俺の懐も痛まない。失敗しても良い経験を積んだくらいのつもりで頑張ってくれ、後のケツはライワ伯爵家とライフェル教が最後まで責任を持つ』


 いやいやいやいや、何言ってるんですかカミヤさん、失敗したらこの国の被害が甚大って、十分に責任重大じゃないですか、これは何があっても、神殿有利な状況を作り上げないと。ん、まだ続きがあるな。


『今回任命した渉外担当の地位はこの間の白紙委任状とは別件だ、こっちは任務完了まで、としてあるがあっちは特に期限は書いてないんだから、お前の考える絶好のタイミングで好きに使って見せろ』


 うわあ、無茶苦茶言ってるよあのオッサン。


「どうやら読み終わったようですし、そろそろ寝やしょうか、明日も有りやすしこんな田舎町じゃ夜更かししてもやる事なんざありやせんしね、蝋燭を使いすぎりゃ別料金を取られかねやせんし」






「さてさて、もうすぐ付きやすね、あの丘を越えた先が目的地の橋でさあ、その橋が架かってる河の先はウンラ伯爵領、穏健派寄りとは言え一応は主戦派に属する貴族様の土地でさあ。そこまでは王女様の部下の方々が護衛されて来るそうで」


 ああそうなんだ、てことは主戦は貴族の土地に俺等が入ると色々不味い事になりかも知れないって事で、この先の橋が合流地点になったのかな。


 しかし最初は王都の城なり屋敷なりまで迎えに行くのかと思ったけど、まさかこんな田舎道みたいなところとは思わなかったな。


「昼間ではまだ時間が十分にありやすし、ここまでくりゃあもう着いたも同然ですから、ちょっくら休んで行きやせんかい」


 またか、なんだっていうんだ、テトビは随分休みたがるな、今までの迷宮攻略なんかだと平気で付いて来たし、いつの間にかいなくなって先行偵察や索敵までしてきてたってのに、どうしたってんだ。


「テトビ、お前が休憩を言い出すのは今日でもう三回目だぞ、朝出発してまだ約束の昼まではだいぶ時間が残ってるし馬車の移動だ、そこまで疲労はないだろう」


 いや、乗り心地は良くないから疲れない訳じゃないけどさ、それでも徒歩で戦闘を繰り返す『迷宮』での移動に比べるとさ。


「へへ、どうも、昨日の食い合わせが悪かった見てえでして、ついでにいやあ、昨日はどうも寝付けやせんで、旦那のイビキおっと……」


 いや、幾らなんでもこの年でイビキはないと思うんだけどな、日本に居た頃ならともかく、この世界で『勇者』になって十代まで若返れたんだからさ、いやでももしかすると俺が気付いていないだけでみんな我慢してたとか、なのか。


「どうせ、予定の刻限までは、時間が余るほど残っていやす、ここらでもう一回休んだって、遅れる事は有り得やせんぜ。このまま行ったって、()()()()()()ちまいやすぜ」


 たしかに相手を待たせるのは問題だろうけど、テトビの言う通り早く着いちゃっても時間を持て余すだけかな。


「宿で朝食を取ってから、そこそこ時間が経ってやすし、軽食がてらに軽く一服というのも乙なもんじゃねえですかい」


 テトビが、キセルを取り出して刻み煙草を詰め出すけど、コイツも煙草をやるんだな。


「テトビ様、申し訳ありません、小さい子もいますので御煙草は出来れば少し離れた所でお願いできますでしょうか、それと喫煙の後はこちらの香油をお使いいただければと」


 サミューがテトビに小瓶を差し出してるけど、確かあれはサミューの手製だったっけ、うんアラやトーウ、ミーシアなんかの成長期の子供がいるんだから分煙は必要か、煙草の匂いにしても鼻の良いミーシアなんかにはきついかもしれないもんな。


「テトビ、俺も付きあおう、今のご時世だ盗賊だけじゃなく『迷宮』から出てきた魔物が居るかもしれないからな」


 せっかくの機会だし、俺も久々にタバコを吸おうかな。







「ふう、こういうところで一服っていうのも悪くない物だな」


 景色も良いし、そよ風も気持ち良い、ついでにサミューの用意してくれたコーヒーと軽食もあるし、うん今日も元気だ煙草が美味い。


 酒や肉類がダメな以上、こういうのは数少ない嗜好品だからな。


「さてさて、そろそろでやすかねえ」


 コーヒーで軽食を流し込み、三本目の煙草も吸い終ろうかってところでテトビが小さく呟いたけど、なんて言ったんだこいつは。


(む、あれを見よ、火球が打ち上げられておるぞ)


 テトビの声で気が付いたけど、確かに向こうの方で上空に真っ直ぐ打ち上げられた魔法が数発、あれは……


(おそらくは、救援要請かのう、上空に居る魔物を打ち落とす以外の目的で、上空へ向け火や雷などの光を放つ魔法を放つのは、周囲の耳目を集め呼び寄せる目的じゃ、大抵は魔物や賊に襲われて助けを求める場合などが多いのう)


「おやおや、何かあったようでさあねえ、火球の上がった方向からすると、あっちは川向こうのウンラ伯爵領ですかねえ、となりゃあ、御姫様方に何かありやしたかねえ」


 いや、呑気そうに言ってるけど、それは洒落にならない事態だろうが、急いで助けに行かないと、護衛の意味がないだろ。


「ともかく、馬車に戻って救援に行くぞ」


「待ってくだせえ旦那、あっしも旦那もまだ吸い終っちゃいやせんぜ、せっかく貴重な煙草に火をつけたんですから、きっちり吸いきらねえともったいねえですぜ」


 なにを言ってるんだこいつは、こんな時に。


「それに考えてみてくだせえや旦那、せっかくの状況を上手く生かさねえ手は有りやせんぜ。危地の美女をとっさの所で救う、しかもその相手が身分のある高貴な御方ってのは、物語やなんかですとよくある事ですが、そんな都合のいい()は実際にはそうそうありやせん、まあ今回は待ち合わせの相手ではありやすがね、それでもよっぽどの事ですぜ」


 まあ、そりゃそうだろうな、ってそんな事言ってる場合かよ。


「なにせ身分の有る方は襲われるような場所には簡単に出てきやせんし、護衛が多いから魔物や賊もよっぽどの強さじゃねえと襲わずに逃げちまいやす。襲われること自体がマレだっていうのに、たまたまそこに助けられる能力がある人物が居合わせる、しかも殺されたりする前の丁度いい時になんて言う、そんな()、まさに千載一遇ってもんですぜ。せっかくの()なんですから、最大限に活かさねえともったいねえと思いやせんか、旦那」


R5年7月10日 誤字修正しました。

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