452 冤罪?
「ら、『羅斬』だと、こ、コイツがあの」
うーん、なんだろう、今の言葉で兵士や騎士達がみんな内股になってるんだけど。
「お、おい、ヨーキー、お前は確か息子が三人に娘もいたよな、それだけ居れば家の跡継ぎは問題ないだろ、戦闘になったらお前から」
「冗談じゃねえ、夜の務めが出来なくなりゃ、カカアに愛想つかされて逃げられちまう、ロークンこそ末子で家を継ぐ必要も継がせる必要もねえんだ、切り落とされても問題ねえだろ」
「ふざけるな、うちの本家は新興で郎党も分家もすくねえんだ、俺には新しく分家を建てて本家を支えるのを期待されてるんだよ、第一俺は新婚でまだ子供も出来てねえってのに、切り落とされてたまるか。コッチお前はその年でも独り身で、毎晩遊び歩いてるんだ、もう十分だろ」
「馬鹿言うな、俺の大物を楽しみにしてる女がどれだけいると思ってるんだ、カミさんにしか相手して貰えねえお前らとは違うんだよ」
「あんなちっちぇえのでよく言うぜ、お前の相手をしてる女が楽しみにしてるのは、オメエのモンじゃなく財布の中身だけだっての」
うん、仲間内だけで俺の相手を押し付け合おうと話してるつもりなんだろうけど、ばっちり聞こえてるよ。というかうちの子達の情操教育に悪そうだからそう言うネタは止めて欲しいな。
「しかしよ、『羅斬』なんて御大層な二つ名だが、ただの呼び名にビビりやがって、なんだってんだよ」
「いや、俺のきいた噂じゃ、この間の『鬼軍荘園』での鎮圧戦でボスクラスの魔物の一物を短剣で切り落として撃退したっってよ、『羅斬』の二つ名はハッタリじゃねえんだよ」
うん、今の話だけで、兵隊さん達の内股が更に……
「たしかその戦いの時だけじゃなく、以前にも似たような事を繰り返してたって話だよな」
まあ、確かに金的は人型の魔物との戦闘で便利だから何度も使った事が有るけど、そんな風に噂になるような人目の付く場所での戦闘って『鬼軍荘園』での一戦くらいじゃないかな。
「ああ、確か配下の女奴隷に盗賊のアレをえぐり取らせてたって話だ、確か『魂砕き』とかって言われてる女で、美貌で相手を油断させて一気に……」
あ、そう言えばそんな事も有ったような、いや、俺が指示してやらせたわけじゃないんだよアレ。
「そう言えば聞いたことが、とある蛮族では人型の魔物や人のアレを精力剤として、く、食うってよ」
おい、何処の話だそれは、というか俺は違うよ、そんなゲテモノというかカニバみたいなマネはしないって、というか『禁欲』が有るから肉は食えないし、精力剤も必要ないからね、というか精力剤なんて使って元気になっちゃったら、生殺しのまま悶々としなきゃダメだし。
「お、おれも聞いたぞ、奴のパーティーの獣人はゴブリンを生きたまま噛み砕き、悲鳴を上げるのを踊り食いにしてたって」
それは多分、ディフィーさんの事じゃないかな、まああの時は確かに一緒に行動してたけどさ。うちのパーティーって訳じゃないんだけど。
「そうだ、確か『鬼軍荘園』に出兵した遠縁の奴が言ってたんだが、夜な夜な『獣態』をとって死体置き場を荒らすでけえ獣人が居るって、腕を咥えたまま振り向いて来たのを見た時は、口封じに食われるかと思ったって」
い、いや、幾らなんでもそれは根も葉もない噂だよね、あれなんでミーシアやトーウ達が気まずそうな顔をしてるように見えるんだろう、うん気のせいだよね気のせい。
「どうやら、貴方達のアレを見たのはわたくし以外にも居たようですわね」
「わ、わたしのせいで、リョ、リョー様の、評判が……」
「構いませんわ彼我の実力差を知らしめるハッタリには丁度いいみたいですし、後でわたくしからリョーに説明しますわ」
うん、何かハルも知ってるっぽいけどいったいどういう事なんだろ。
「『鬼軍荘園』の鎮圧戦って言えば、俺は『羅斬』配下の奴隷が、寝たきりの負傷兵を生きたまま切り刻んでいたって聞いたぞ、たしかその奴隷はあのラッテル家の関係者って話だから、毒の人体実験じゃねえかって……」
いやそれはね、『癒しの短剣』で治療していただけなんだよ、あの『魔道具』は切り付ける事で回復させるから勘違いされそうだけど、トーウの『麻痺毒』や『眠毒』で痛み止めをした上でやってるから……
ん、もしかして痛み止めが人体実験と勘違いされた理由か。
「き、切り刻むって言えば、『虫下し』は決闘で相手の騎士を嬲り殺しにしたって話が有ったよな」
あ、それは結構前の話だよね『鬼族の町』でトーウを狙って来た騎士に絡まれた時に、他の連中がちょっかい掛けて来ないように見せしめにしたから、うんこれは冤罪じゃないか。
うーん、なんか、どんどん話が不味い方向に行ってるような気がするな、なんだろうな、もう悪評だけで盗賊認定されそうな気がしてきたんだけど。
あ、そうだアレを見せれば……
「お、臆するな、我らの数を見よ、たかだか数人のパーティーなどこの人数で抑え込めば幾らでもなろう。このような虚名で騎士が怖気づくなどと思うなよ冒険者、取り調べを続ける、怪しい物を見つければ直ちにひっ捕らえるが、隠し立てするような事が有ればただでは済まさぬぞ」
「だ、だがヨーク卿、確か『虫下し』の所の『焦砦鴉』は魔法の一撃で二つ名通りゴブリン軍団の野戦陣地を焼き払ったって話だぞ、そんな魔法が御領地で使われれば村落も畑も、それどころかお館や町まで焼き払われかねない、こいつ等を捕えるのは止めておいた方が」
「馬鹿を言うな、二つ名持ちの冒険者だぞ、それなりの物を持っているはずだ、こんなのを逃せるか。ダークエルフとて、理由さえ整えば魔族国も文句はつけられぬ。例え子爵閣下と繋がりが有ろうと、結局はただ単に過去仕事をした程度の関係だろう、十分な証拠さえあれば、しょ、証拠、あ、が、あ、あ」
なんかもう、でっちあげるつもりなのを隠す余裕もなくなったのか、俺達の前で思いっきり暴露してる騎士が書類をめくった直後に、今までで一番青い顔になって呻き出す。
あれは多分俺が見せようとしてた奴だな。
「こ、これは、ラ、ライワ伯爵家発行の通行手形、そ、それも領府や家臣の名ではなく、は、伯爵閣下御本人の署名による書状」
ああ、やっぱり『元勇者』であるカミヤさんの影響力はデカいんだな、流石に他国とは言え大貴族の後ろ盾なら無視は出来ないだろうな。
「こ、この者は当家の庇護下に有る、我が家臣であると証しこの者の通行に関する諸家の便宜を期待する。だと」
あ、そっか、臨時雇いの家臣なんだから通行証にもそう書いてあって当然か、流石に『白紙委任状』の事は書いてないだろうけどさ。うん、幾らなんでもカミヤさんの部下にいちゃもんはつけられないよね。
あ、そう言えば、もしもムルズの貴族や騎士と揉めそうになった時はこれを言えば、万事解決だとカミヤさんからの伝言で、神官長さんに教えて貰った言葉があったっけ。
「ラ、ライワ伯爵家御家中の方でしたか、こ、これはご無礼を」
うわあ、いきなり言葉遣いが変わったよ。
「ええ、一時的な雇い入れとは言え、閣下の家臣等という過分な立場を与えて頂き、御役目を受けております」
「お、御役目とは、一体どのような」
しかし、ずいぶんびくついてるな、もしかしてカミヤさんにも借金してたりするのかな。
「申し訳ありません、閣下からの御指示で内容を他者へ伝える事は許されておりません。ただ……」
「ただ……」
俺の語尾を復唱して、続きを促そうとする騎士に、神官長さんに言われた通り満面の笑みで答える。
「ただ、伯爵閣下からは『メントラム子爵家と同じ様な貴族家が有ればすぐに十分な対処をするので、委細洩れなく伝える様に、また私めの消息がつかめなくなれば何が有ろうと相手が誰であっても必ず対応するので安心するように』と」
よく意味が分からないけど、脅すような感じだから多分、その貴族にカミヤさんが何かしたんだろうな。あの人の事だから経済制裁とかかな。
「メ、メントラム子爵家と同じような家、十分な対処、ま、まさか『メントラムの屠城』、こ、この地にも、おなじ、ような」
ん、メントラムの登城、なんだろ確か登城ってお城に行くって意味だったよな、てことはカミヤさんがお城に出向いたって事かな。
もしかして何かあればカミヤさんが直談判してくれるって事なのか、いやいや、いくらなんでも流石にカミヤさん本人がここまで来るわけないか、となると交渉の為に配下の人を送ってくれるって事だろうね。
「お、終わった、もう、もう駄目だ」
「こ、この領地は、もう、逃げるか、いや、追いつめられて……」
「せ、せめて、妻子だけでも、離縁し関係を断って実家に逃がすか」
「無駄だ、例の結納護送襲撃に関与した貴族家の家臣が同じように妻子を逃がしたらしいが、受け入れ先の家の主家へライワ伯爵家から敵対の意思を確認する書状が届き、絶縁状と共に実家から追い戻されたらしい」
「な、ならいっそ、奴隷として売れば、家との繋がりも身分も無くなる。いや、無駄か、徹底させるのなら、そんな事をしても」
「いっその事、こいつらを皆殺しにしてしまえば、すべてなかった事に」
「馬鹿を言うな、『消息がつかめなくなれば対応する』というんだぞ、コイツが今まで通った関所や町の記録を確認すればすぐに、この地で何かあったと解る、そうなればとりなしすら出来なくなるぞ」
な、なんだ、なんか全員がお通夜みたいな顔して、これは相当なハードネゴシエーターが派遣されて来るって事なんだろうか。カミヤさんの部下はそのメントラムって貴族に一体どんな交渉でどれだけの無茶を捻じ込んだんだろう。
登城 お城に上がる事
屠城 お城(この場合は城塞都市)にいる人とを殺しつくすこと
R5年7月1日 誤字修正しました。




