451 取り調べ
盗賊の使う裏街道を抜け、正規の街道に入って二日目でまた包囲されるって。
「盗賊改めである、神妙に致せ」
うーん、完全に囲まれてるな、いや囲まれる前から『範囲内探知』で解ってはいたんだけど、こんな平地で街道の左右がだだっ広い畑と疎らな民家だけなんて状態じゃ、道を外れて逃げても馬車の姿が遠くからでも見えちゃうから、すぐに騎馬に追いつかれて無駄だし、逃げたって行為自体がなにか有るんじゃないかと怪しまれて、逆に面倒な事になるだろうし。
「まあ、官憲が相手なんだから、後ろ暗い事が無ければすぐに終わるだろ」
しかし、盗賊改めって、何処の時代劇だよ。
「旦那、こんな田舎貴族の領地でそんな常識が通用すると思うんですかい、まあ、旦那でしたら問題ねえでしょうがね」
ん、テトビは何を言ってるんだろ。
「逃亡しようなどと考えるでないぞ、昨今、この近辺を荒らし良民を害する凶賊の知らせが有った。領主たるシャー男爵の名の下この馬車を取り調べる、手向かい致せば盗賊の一味と見なす」
「私達は、真っ当な冒険者パーティーです、後ろ暗い事など何もないので抵抗なんてしませんよ」
え、凶賊って、要は強盗殺人の常習犯みたいな盗賊の事だっけ、いやでもテトビの情報でも『炎霧』の所で聞いた話でも、最近はこの近辺に主だった盗賊はいないって話だったはずじゃ、スリやこそ泥くらいしかいないって……
「ふん、どうだかな、ただの冒険者風情が自前の大型馬車で移動とは分不相応な事だ、表には出せぬ資金源が有るのではないか、車内と積み荷、乗員を検める」
いや、もしかするとそう言ったこそ泥なんかに何か貴族家のお宝でも盗まれて、それで必死に探してたりするのかな。
(話は、もっと簡単で粗野かもしれぬぞ、取り巻いておる騎士や兵の装備にしろ、乗っている馬にしろ手入れが行き届いておらぬし粗末な物ばかりじゃ。それに周りは麦畑ばかりとなれば)
確かに言われてみると槍を向けて近づいてきてる連中の装備もバラついてるな、正規の騎士や兵士なのに貧相な格好で、周りが麦畑ばかりって。
(まさかこの領地の貴族はカミヤさんの仕掛けた、穀物相場の暴落で大損したくちか)
特産の無い地方によっては、税として上がってきた麦の売却益が領地財源の大半って事も有るだろうしな。
「馬車の積み荷は何だ、禁制品、禁止薬物、正規の手続きを踏まずに拐かされた違法奴隷の類は乗せて居ないだろうな」
「乗っているのは、うちのパーティーメンバーで自由人が二人、奴隷が四人で、奴隷達は三人が正規の奴隷店で購入した物、残る1人は奴隷店ではなくその者の実家から直接購入しましたが、どちらも正式な契約書が有ります」
「書類は後で検めるが、偽造書類であればただでは済まさぬぞ、公文書の偽造は重罪であるからな」
なんか随分疑ってきてるな、まるで俺達が犯罪者なのが確定してるみたいな、もしかして変な密告でもされたのかな。
(まあ元々が貧乏な田舎領地という事も有るのじゃろうが、それ故に相場に賭けて失敗しておるのやもしれぬの、じゃがそうなればこやつ等は、相当困窮して居るじゃろうて。もしかすれば、神殿との戦闘に参加するつもりかもしれぬし、そうであれば色々と入用になろう)
そう言えばテトビが、戦費調達の為に臨時徴収をしてる領主もいるって言ってたか、関所の通行料や税が上がってるって話だったよね。そう考えると……
(という事は、こっちに問題が無くても難癖を付けて袖の下を取ろうとしてるのかこいつ等は)
そう言えば、日本での会社も海外事業部の連中なんかは、途〇国なんかで仕事をすると、何かにつけて役人や軍人がワイロを取りに来るって愚痴ってたっけ。
海外に行ったら見知らぬ荷物を預かるなとかも聞くよね、それにヤバいブツが入れられてて、預けた奴とグルになってる警官にそれを見つけられて逮捕されたくなければ、解ってるよなって感じで。
となると、取り調べもこっちの荷物に変な物を紛れ込ませられて『これは何だ』とかってやられたりしないように気を付けた方が良いか。
「奴隷以外には何を乗せている」
「それぞれの装備品や日用品、旅や『迷宮攻略』で入り用となる回復薬の類、後は以前の狩で倒した魔物の素材などでしょうか、一番多いのは体液で、大樽数個分あります」
結局『帝王具足蟲』の体液は量が多すぎで売り切れなかったんだよな、まあ子爵家が買い取り出来なかった分は優先購入権が消えたから自由に処分できるらしいんでタイミングを見て売ればいいか、聞いた話だとこの体液は長期間放置しても腐らないらしいから。
「その魔物は本当に貴様が倒したのか、見たところそれほど強そうには思えぬが、盗品ではないのか」
うーん、さっきからこの疑ってる感じの態度は、やっぱりワイロというか恐喝目的なのかな、それで威圧的なのかも。
(それならば、まだましな方じゃがのう。こやつらがお主を盗賊と認定すれば、装備品や奴隷を含む所有財産の全ては没収、お主は犯罪奴隷として、領兵隊で使い潰されるか売られるかと言ったところかのう)
おい、そりゃ下手な盗賊よりもタチが悪いじゃないかよ。
(念のために言っておくが、腐っても相手は領主配下の正規兵じゃ、感情的になってお主の方から手を出すでないぞ。今のお主の行動も、この先の交渉に影響するかもしれぬ、貴族の臣下を絡まれたからと言って一方的に殺傷したとなれば、ライワ伯爵家、あるいは神殿側の瑕疵となろうて)
ああ、そうか、俺自身が王女様の言動の問題をあげつらって、交渉を破断させるためのネタにしようとしてるんだから、俺の行動自体も王女や貴族達に知られると神殿の不利になる可能性も有るのか。
(まあ、正当な理由が出来れば問題は無かろうから向こうから先に冤罪をでっちあげて手出しして来れば自衛程度の反撃は許されるじゃろうし、お主の場合ではそう言った事態にはならぬであろうがの)
ん、どういう事だろう。
(まあ見ておれば解ろうて、ほれ、そこの情報屋も落ち着いておるじゃろう、つまりは想定の範囲内という事じゃろうて)
ああ、そう言えばテトビが逃げてないな、確かにあのペテン師がああしてるって事は勝算が有るのか。
「よし、テリア卿、自分がこの者を取り調べるゆえ、貴殿とその配下で車内を検められよ」
「承知いたした、怪しい物を見つければ直ちに伝えるので、お待ちあれヨーク卿」
いや、そんなもう見つける前提で話をされてもさ。
「なんだ、こやつ、このような美女ばかりを連れ居って、怪しからんな、やはり攫って来たのではないか」
なんだ、乗り込んで来た騎士がサミュー達をジロジロ見ながら話してるけど、ずいぶんと嫌な目つきをしてるな、待てよ、ラクナの予想通りなら奴隷も没収するつもりなんだろうから、まさかこいつ等、そう言うつもりか。
落ち着け、何事もなく乗り越えればいいだけだ、今はトラブルを起こしてられないんだし。
「奴隷の所持証明書、積み荷である採集物が本当に貴様自身が倒した魔物から取った物で間違いなく貴様の物だと示す証拠、いずれかの領府の発行した通行手形、貴様らの身元を示す物を出してみろ」
通行手形や身分証、奴隷売買の契約書なんかはともかく、『迷宮』で狩った獲物が自分の物だと示す物って、それって言いがかりじゃないかな、狩った物にいちいち名前を書くわけじゃないし、そもそも最終的には買る物なんだからそんな事できないし。
第一『迷宮』じゃ放置されている物を拾っても罪にならない筈だよね。
まあ、今回は証明できるものが有るんだけどさ。
「どうぞ、この魔物を狩った『迷宮攻略』に際してその地の領府と交わした契約書、採集物の一部を販売した目録と買い取らなかった残りの、領府指定商人の優先購入権を解除し所有と自由な処分を保証する書状に御座います。どれもロウ子爵家発行の物ですのでお確かめを」
「む、ロウ子爵、大臣閣下の御家の、た、確かにこれは子爵家の紋章、間違いは無かろう」
慌てたように、書状を恭しく頭上に掲げ一礼してから目を通そうとするけど、なんか期待外れみたいな表情だな。
(見ての通りじゃ、馬車を私有して居るお主の財産が魅力的であろうと、それなりの有力者が発行した書類を見せれば何も出来ん、これらの書類はそれらの領府や領主がお主にある程度の関心を持っている、あるいは繋がりが有るという意味じゃからの。所詮は十分な財源すら無い小領主、力の有る貴族の顔を潰したなどとなれば小銭稼ぎどころの話ではなくなるじゃろうて。ましてお主は……)
「な、なあああ」
ん、なんだラクナの言葉を書きせすような大声が、馬車の中から、まさかうちの子達と何かトラブったのか、いやでも中を覗いた感じだとあんまりそんな感じはないか、どうしたんだろ。
「どうなされたテリア卿」
「な、なぜこのような所にダークエルフが、これでは捕縛し奴れ、いや……」
「な、ダークエルフだと、よりによって」
ん、サミュー達が庇う様に背後に隠してたアラを見て反応したのか、なんで小さな子供にそんな、あ、そう言えば。
(ダークエルフは魔族の有力な一族の一つじゃ、魔族は同族を迫害した者へは必ずと言っていいほど報復をする。ダークエルフの子供をその養い親ごと、違法に捕縛し奴隷にしたなどとなれば、それこそ『剣魔』に一族もろとも殺されかねん事態じゃ)
そうだよね、確か『剣魔』って魔族の持ってる最強の戦力で、過去には『勇者』が殺された事も有るって話だったっけ。
ん、あれ俺と話をしてた騎士もなんか顔色が悪くなってきてるけどどうしたんだ、手に持ってるのは俺の渡した書類一式だよな。
「な、ロ、ロウ子爵領軍で雇われていた冒険者リョー、という事は、『虫下し』い、いや、ら、『羅斬』のリョー……」
次回は、久々に、お約束な感じになりそうです。
R5年7月1日 誤字修正しました。




