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449 依頼確認

「それでは、これから王都へと向かわれるのですね」


 優雅な手つきでお茶を口元に運んでいる神官長さんが、確認するように聞いてくるけどさ、考えてみれば今回のカミヤさんの依頼はある意味この人の依頼の仲介みたいなものだろうからな。


「ええ、この辺りの『活性化』騒ぎも解決の目途が付くみたいですし、向こうの方の出発準備も整ったようですので、カミヤさんが招待した第二王女を護衛しに向かいます」


 そもそも俺達がムルズ王国に来たのは、ラッテル子爵家とカミヤさんのライワ伯爵家が婚約するその婚約式典に招待されてる王女様の送迎をする護衛役としてってのが表向きだもんね。それが、日程調整が遅れてて、そのせいでピリム・カテンの敵討や『活性化』の鎮圧、マイラスの襲撃なんかに巻き込まれちゃうことになったんだけど。


 まあ、護衛中にマイラスやピリム達に絡まれてたらシャレにならなかっただろうから、事前に解決できたのは良かったのかもしれないな。


「そうですか、聞いた話ですと、かの王女殿下は理想家と言う事ですので、道中問題が起きないようお祈りいたします」


 しかしさ、カミヤさんの話だとその王女様の目的は式典参加を隠れ蓑にして、戦争になりかけてるライフェル神殿とムルズ貴族達との講和交渉を進めたいって事らしいけど、誰もそれを期待してないってのが悲しい所だよな。


 うん確かに理想家という言葉が似合いそうだな。


「お優しい王女殿下には、戦争準備に入り様々な混乱の起こっている各地を御目にされるのはお辛いでしょうから」


「やはり戦争は避けられませんか」


 ムルズ王国の有力貴族達は、穀物相場でカミヤさんの仕手にハメられて資産を溶かしライフェル教に多額の借金をしてるから、戦争に勝ってそれをチャラにしたいらしくて、今の状況では講和はしたくない、というか今講和されると借金の支払をするしかなくなって破産するから、何としても勝たなきゃならないって状態だし。


 ライフェル教としては戦争に勝って借金を回収したいのはもちろんだけど、何より今回の一件を中途半端に終わらせれば、多少武力をチラつかせればライフェル神殿は譲歩するという風に他勢力から思われてしまいかねなくて、そうなると他の国や地域でも同じように戦争を仕掛けられかねないって警戒してるらしいから、見せしめ代わりにムルズの貴族軍を徹底的に叩きつぶして、借金と賠償金をごっそり取り立てたいってのが目的なんだよね。


「借りたお金はきちんと返す、わたくしどもライフェル神殿が求めているのは、そんなごく当然の社会道徳を遂行する事ですのに、どうもムルズの方々にはご理解いただけないようでして、借金をされた貴族の方々にしろ、それを監督すべき王宮の方々にしろ」


 でもって、神殿と対立してない貴族達やムルズ王国自体にしても、現状では有力貴族達の意見を無視できないし、それらの家が一斉に破産して潰れてしまうと他の貴族家なんかも巻き込まれかねないから、現状で講和させるのは出来ない。


 だから一旦、貴族を中心とした軍にライフェルと決戦をさせた上で貴族軍が壊滅するのを待って、その間に水面下でライフェル神殿と交渉をすすめ、ある程度有利な条件を引き出したところで停戦に持ち込み、戦争で兵を失った有力貴族の当主達を生贄にして責任をすべおっかぶせて切捨てて、ライフェルの見せしめに使ってもらい、その代わりに借金を許容できる範囲に減額してムルズ王国をある程度弱体化した各家をなんとか存続させるっていう構想らしい。


「一度手元に入ったお金は、自分の物であると思い込まれているのか、どなたも自分にとって都合のいい事だけを述べられるばかりで」


 まあ、確かにこれなら、蜥蜴の尻尾切りが出来るというか、穀物相場でやらかした有力貴族達を排除できれば、その分ポストや利権なんかが空くだろうから、戦争に関係しない貴族としてはありがたい話らしいし、ライフェルとしても金の回収は不十分になってもメンツは保てるから最低限の目的は達成できると。


「このような不道徳をそのままにしておけば、各地で悪徳がはびこりかねません。わたくしとて戦争は本意ではありませんが、このような悪意を見過ごす事は出来ず、やむを得ず」


 うん、誰も平和を望んでいないっていうのがね、なんともさ、いやムルズ側の気持ちもわかるし、ライフェルとしてはここでしっかりと締めておかないと、諸国で戦争が頻発して戦国時代に突入しかねないって事らしいから。


 なんか、こう考えると御姫様に同情したくなってくるけど、俺の役目は護衛だけじゃなくてその御姫様の粗探しでもあるんだよな。


 ムルズの貴族軍にしろ、王国にしろ、ライフェル神殿にしろ、戦争は望んでいても現状では自分の方から手を出したくないっていうか、相手を叩く大義名分を探してるらしいからさ。


「どうか、此度の王女殿下の御来訪が『有益なもの』となる様、心より望んでおります」


 ムルズ側にとっては大義名分が有れば、ライフェル神殿が無道な侵略をしていると訴えて、ライフェルに反目している勢力が、ムルズを助けるとか悪逆なライフェルを討つってな感じで、睨みあってる神殿軍の背後を討つとか、ムルズに出兵して兵力が減ったライフェルの施設を襲撃するとかしてほしいらしいから。


 というか、そうなってくれないと、ムルズ王国やその貴族達だけじゃどう考えてもライフェル神殿には勝てないらしいから。敵対勢力に後ろを押えられて浮足立ったライフェル勢力を決戦で一気に叩き出したい有力貴族達にしろ、襲撃して来た他の敵が気になって対ムルズの戦争の早期解決を望むだろうライフェル側から譲歩を引き出したいムルズ王国にしろ、大義名分が無い状態で開戦はしたくないというか出来ないらしいから。


 ライフェルとしても、他の勢力が介入する口実を作らせないためにも、自分達に有利な大義面分を得て戦争を始めて主導権を握りたいって事だから。


「私に出来る限りの事は、させていただきます。少なくとも王女様の身の安全にだけは全力を尽くすつもりです」


 そんな状況下で、今回の御姫様のラッテル領行は各勢力にとって口実づくりの絶好の機会らしいんだよな。


 貴族達や王宮の一部勢力が狙ってるのは、ラッテル領内や移動の最中で襲撃して王女様を殺し、ライフェル神殿側が王女を暗殺したっていう大義名分を得る事らしいから。護衛役の俺としては何としても王女を殺される訳にはいかないんだよね。


「リョー様であれば、わたくしどもやカミヤの為に最大限の働きをしてくださるだろうと確信しております」


 でもって、カミヤさん方からの依頼の本音は護衛だけじゃなくて、万が一にも御姫様が講和交渉を成功させたりしちゃわないように、ライフェル側が会談自体を拒否出来たりあるいは交渉で有利に立てる様なポカを御姫様から引き出すこと。出来る事なら開戦の口実に出来る様なネタが用意できればベストって感じだったからさ。


「いえ、わたしでは到底、神官長様の御期待に応える事は難しいかと」


 カミヤさんもこの人も元サラリーマンに何処まで期待してるんだよ、確かに営業だったから交渉事は得意だけどさ、求められてる内容が違いすぎるだろ。


 いや、ある意味では相手に難癖を付けてミスを引き出してそれを利益に帰るって事は、悪質なクレーマー、あるいは昔の総会屋とかヤ○ザなんかの言動を参考にすればいいのかな。


 うん、それなら何とかなりそうな気がするかな、対応した事もあるし対策研修をうけた事が有るから、けどさ、これっていいのかな、ある意味で戦争の手伝いなんじゃ、いやここまで来ておいて考える事じゃないか。


「勇者様は世の平和の為に頑張ってくださると信じております」


 カミヤさんにも言われただろう、現状では戦争は避けられないし、ムルズ側に大義名分を与えれば、各地で対ライフェル戦争やライフェル教が抑えこんでいた国同士の紛争が頻発する事にもなりかねない、そうなれば多くの民衆が巻き込まれる事になるし、もしかするとライフェルが停戦を維持させている、魔族やダークエルフへの当たりも今以上に辛くなるかもしれない。それにムルズ王国が完全にライフェル教と敵対し続ける事になれば、カミヤさんとの繋がりが出来たラッテル家はともかく、俺の奴隷でしかないトーウはまた狙われる事になるかもしれない。


 少なくとも現状では、被害を最小限とする上でも、俺達というか仲間たちの立場や安全の面でもライフェル教やカミヤさんに協力して、ムルズを抑えこんでもらうしかないか。


 昔の小説風に言うのならライフェルの平和(パクス・ライフェリカ)とでもいうべきか、ラテン語なんて習った事が無いから文法的にあってるかは微妙だけど、少なくとも多くの人や国がその庇護下で生きているのは間違いない。


「ライフェル主導の戦争になる事が、最小限の被害で済むのであれば、出来るだけの事はしましょう」


 それに、少なくともラッド達がライフェル軍の指揮をとってるのなら、民間人に対して略奪や虐殺って事にはならないだろうから。


「わたくし達ライフェル教にとって、倒すべきは敵対を表明している貴族達と、その戦力として攻撃してくる騎士団や軍であって、無辜の民はもちろんの事、敵対の意思を示さぬ勢力や逃げる者を追うつもりはございませんし、債権回収の為に没収する予定でいるのは貴族家の有する現金、『魔道具』や貴金属などの動産、あるいは鉱山や港湾の使用権、街道通行権などの権益等の譲渡であって。領民から生活の糧を徴収するつもりは毛頭ございません」


 おそらく、この人は『勇者』である俺に対して、致命的な嘘はつかないだろうから、完全に本当の事とは限らないだろうけれど、それでも俺に対してこう言った以上、ある程度は言ったことを守ってくれるか。


「解りました、ご期待に出来るだけ沿えるよう頑張りましょう」


「ありがとうございます。王都に行かれる際には『薬師』ヤスエイの動向にもご注意くださいませ、どうやら先だっての騒動を起こされたラマイ子爵は、ヤスエイと何らかの接触を持っていたようですので。そちらに付いての詳細は現在調査中ではありますが、彼が王都近辺に潜伏し一部の貴族と接触して、有力貴族の軍に薬がいくらか流れている事は間違いなく、彼の配下の中毒者や薬屋も国内で多数確認されています」


 まあ、そうだろうな、そもそもこの依頼を受けた時からカミヤさんにもこの人にも警告されてたことだから。


 とは言え、あの『勇者』がやっぱり出て来るのか。まあそうだよな、カミヤさんとこの結納を輸送する車列護衛の時も中毒者の襲撃が有ったし、更には本人まで仕掛けてきたもんな。


「おそらくは、彼自身もこの国の内乱に介入して、敵対する我がライフェル教の弱体化と自らの行動拠点の確保を目的としているのでしょうから、王女殿下の襲撃に関与する可能性は十分に考えられます。彼自身が動かなくとも、かなりの薬物が国内に蔓延しておりますので、中毒者の襲撃にはご注意が必要かと、何しろ薬物依存は人を選びません、道ですれ違った商人や宿屋の娘が突然刺客に変わりかねませんので」


「そんなに薬が、出回っているのですか」


「ええ、ヤスエイと協力関係にある貴族達の領地は無条件で通過しているようですし、神殿と協力的な領地でも鑑定対策で混ぜ物がされている薬は対応しづらく」


 そう言えば、薬の純度が低かったり、混ぜ物がされてたりすると『汚染された〇〇』とか『混合された○○』みたいな感じになって『鑑定』でもよくわからないんだっけ。だけどそう言った混ざり物はかなりの量が流通してるし、そういう質が悪く安い薬に頼っている貧困層や商人もいるから丸ごと規制するのも出来ないんだったか。


「中毒者の襲撃は、ライワ伯爵家の車列護衛で経験していますし、うちの子達は匂いなどで中毒者を見分けられるようですので」


 前に『百狼割り』の舎弟が薬漬けにされて俺を狙って来た時に、トーウやミーシアが気付いてくれたもんね。


「なるほど、トーウ嬢は毒物が専門であるラッテル家の出ですし、熊族は獣人の中でも高い嗅覚を持っておりますから、『成長補正』によって能力が高まればそう言った事も可能かもしませんね。そう言えば、向こうの世界には訓練した犬を利用して薬物を探させるとか、考慮すべき方策かも知れませんね」


 ああ、麻薬探知犬とかか。


「まあ、それは今すぐという事ではないですね。最後になりますが、もしも薬師ヤスエイ自身と戦う事となり彼を撃破した場合、以前もお願いさせて頂いた通り、悪用される恐れの高い『薬師の創薬刀』と、素材となりうる彼の遺体の回収、もしくは完全な消去をお願いいたします」


 まあ、ヤスエイの死後に『創薬刀』を手に入れれば誰でも麻薬が創り放題なんだし、『勇者』の血や死体は強力な魔法薬や魔道具の材料になるんだったか。


「わたしがヤスエイに勝てると思いますか、能力の無いわたしが」


 以前に襲撃が有った時には『剣狂老人』が来たから何とかなったけど、今の俺達であいつに勝てるだろうか。


「貴方様であれば十分可能であるかと、今までの迷宮攻略でもステータスだけで考えれば討伐不可能としか思えないボスもおりましたが、それらを尽く討伐されてこられましたから」


 まあ、やり方次第か、アイツの戦い方のタネは解ったんだから、真正面からの戦闘ではかなわなくても、からめ手を使って行けば……


「もちろん、リョー殿が戦いを疎まれるのでしたら、いつでも仰ってくださいませ、引退後の御生活や御身分などはご満足いただける物を用意しますので、最低でも今現在就いて頂いている『尚武法師』の役職と上級僧侶以上の御立場は約束いたします」


 そう言えば、ムルズに入る前後にそんな役職を貰って『聖職のメダル』を更新したんだっけ、まあ今回の依頼中はまず使う事は無いだろうけどさ。なにせ、今回の護衛は『一時的にライワ伯爵家が家臣として雇い入れた冒険者』って形でやる事になってるから。


 神殿も王国もお互いが信用できないから、護衛を大量に出すと、相手が何かするんじゃないかって疑い合う事になるから、御姫様を招待したライワ伯爵家が、どちらとも無関係の冒険者を手配したって形を取ってるんだよね。


 だから少なくともお姫様を返すまでは『ただの雇われ冒険者』って事にしとかないと、後でバレても、護衛終了まで問題が起こらなければ幾らでも取り繕えるそうだけどさ、護衛中にバレると相手に交渉を有利に運ぶ口実を与えかねないから注意しろって言われてもさ。


 だっていうのにカミヤさんは俺に『白紙委任状』なんてヤバそうなものを出発ギリギリに渡してきたし、いや、何かイレギュラーが発生して政治的な対応が必要になった時なんかは、一々カミヤさんにお伺いを立ててる日数なんてないから役に立つんだろうけどさ。これ、使い方を間違えれば相当ヤバいブツだと思うんだよな、何せ権限の範囲も書いてないし何時までっていうのもはっきり書かれてないんだからさ。


「もちろん、リョー殿が引退されるのでしたら『禁欲』も必要なくなるでしょうから、キレイ所を何十人もご用意いたしますよ。リョー殿がその血を残されるというのであればライフェルは何時であっても喜んでお迎えいたします」


 あ、結局はそこに行きつくんですか。


ストーリーが切り替わるのに合わせた、状況確認になります。

何せ、この依頼をカミヤさんから受けたのが2016年の事ですから……

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