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447 奴隷娘達の四者四様+α  ~ディフィー~

 ああ、これは夢でしょうね、ミムズ様は時折過去の思い出したくない光景を夢で見ると言われてましたが、まさかわたしも見る事に、それも記憶がない位に幼いころの夢を見るとは。


「あなたさえ、あなたさえ身籠らなければ……こんな、こんな」


 胸元から見上げるわたしの視線の先に、今よりも少し若い母の顔が有りますが、その顔は少しやつれていて、伸ばされたわたしの手を避ける様に、母の顔が逸らされ遠ざかります。


「わたしは、幸せだったのに、なんで、こんな、事に……」


 かつては村一番の器量よしと言われていたらしい、それなりに整った顔はゆがめられ、憎々し気にこちらを見下ろしていましたが、やがてそれの顔がさらに離れ、視界が天井へと近づいていきます。


「あなたさえ、居なければ」


 軽い浮遊感と共に、天井が離れていき、反転した視界の中に急速に近づく階段の下階が見え、そして何か温かく柔らかい物に押し付けられて、そのまま五感が十数度回転してから止まります。


 聞いたことも無ければ、覚えてもいない筈のこの夢が、なぜか事実だと感じられました。


 母は不幸な女性でした、村が獣人族の盗賊団に襲われた際に幼い息子を目の前で殺され、そのまま何か月も盗賊団に捉われて弄ばれ、盗賊の子を宿したがために夫に離縁された。


 盗賊の被害者対策として、陛下の御屋敷で雇っていただけなければ、村の片隅で最低限の食糧や生活物資だけを恵まれ、わたしと共に下層民として扱われながら生きる事になっていたでしょう。


 だというのに、産まれたわたしが、よりによって彼女の息子を喰い殺した鰐の獣人と同じ尻尾を持っていれば、どれほど母の心は乱された事か。


 年間に産まれる子供が少ないがゆえに子を大事にし、堕胎や子殺しを強く忌避し、たとえどのような生れの子であっても、それこそ私達のような存在であってでも、同族の血を引いていさえいえれば殺す事だけはせず最低限生かすはずのエルフ族である母が、このような行動をするほどに思い詰めていたとしても、それはおかしな事では……


「……なんで私がこんな事に、私は幸せだったのに優しい夫と素直な息子がいてあの村で静かに生きて年老いていくはずだったのに、それを全部無茶苦茶にした鰐の子供を育てるなんて、なんでこんな」


 現状を受け止めるには、この頃の母は普通過ぎたのでしょう。


 プテックの母である先生はあのような強い方でしたし、エアの母であるテッテ様やブリーズの母のシスカ様は元々騎士で有られたので、そう言った覚悟も持たれていたでしょうし、盗賊に汚され婚姻が難しくなった家臣の救済という事で、出産後には陛下の側室へ迎えられ、この後には継承権こそ与えられないものの御子も授かられましたから。


 サーレンの母である、アージさんにしても元々身寄りが無く、村でも持て余されていたそうですから、あの地獄を経験し出産で体調を崩されたとしても、離宮で侍女として働けるようになったのは転機だったのでしょう。


 ですがそう言った事情が無い、普通だった母は、だからこそ幼い頃のわたしを厭い、殺そうと……


「サミュー様、あなたこそどうなんですか、あなたをあれ程に痛めつけた『獅子虎』、あの化け物と同じ姿をした子供を抱き上げてどうして平気なんですか」


 そう、母のこの言動こそが当然の筈、だから私は……


「それでも、プテックもミムズもわたしがお腹を痛めて産んだ、わたしの血を引く大切な宝物です」


 わたしを抱きしめる先生の手が、下階に叩きつけられ様としていたわたしを救い、代わりに何度も階段に打ち付けられたはずの温もりが、しっかりと全身を包み込んでくれます。


「もしあなたが、この子を要らないと言うなら、この可愛らしい宝物を手放すのならわたしが貰います。わたしだけの宝物として、ミムズ達と同じようにわたしの子供として育てます」


「か、勝手にすればいいでしょう」


「たとえ、どんな関係であっても、この子とあなたは親子です。あなたの血を引くたった一人のあなただけの子供です。この子にとっての肉親は貴方しかいない事だけは忘れないでください。親子は子供が生まれた日から二人が死ぬまでずっと親子のままなんですから」


「くっ」


 しっかりと、抱きかかえられた温もりが広がって。


「大丈夫ですよ、今日からはわたしがディフィーちゃんのお母さんですからね、心配する事は何もないですよ」




 


「ああ、目が覚めましたか、まったく、わたしとした事があのような夢を見るとは」


 このような夢を見るだなんて、おそらくは先生とお会いする事が出来たからなのでしょうが、ですが自分でも覚えているはずの無い赤子の頃の夢を見るだなんて。


「ですが、これではっきりと思い出せました。物心ついた頃の母のあの言動の理由が」


 幼い頃は、実の母には避けられ、先生が文字通りの母親代わりで必要な事の大半は先生に教えて頂き、姫様方やミムズ様と同様に愛情を注いで頂きました。それでも当時のわたしは、先生よりも母に認めて貰おうと必死になっていましたが、それらも無視され、その分だけ先生に大事にしていただき。


 今でこそ母と和解できましたがそれも先生のご尽力によるものですから。


 今のわたしが有るのは全て先生のおかげです。この命も、心も、今の立場も全て先生がいらして守ってくださり与えて下さったから。


「わたしは、サーレンやエア達とは違う、この命はわたしの物ではなく先生の物」


 だからこそ、わたしは、先生の御子であるミムズ様や姫様方の為なら、何でも……


「ミムズ様に与えて頂いたこの魔道具『人斬り出刃包丁』」


 常に持ち歩き寝る時も手元に置いてある『魔道具』を抜き放ち、蝋燭の光を鈍く弾く刀身を見つめます。


 人型の相手に対して切断効果が有るのはもちろん、レベルを上げた事で生物系の魔物全般に対しても軽度の切断効果が出来ましたし、刃渡りも十分に長く、刃が厚く丈夫なため武器としても安心感が有りますから、生物以外の敵が相手でも、武器や防具と撃ち合っても問題なく戦えます。


「この『魔道具』が有れば、わたしはどんな敵とも戦える、フレミラウ様からご教授頂いた『鋼指掌法』も有りますし、プテックと伴にムラム卿から教わった格闘技も有ります、今のわたしならきっとお役に立つ事が」


 もしも、先生やミムズ様の為に必要な事が有れば、わたしは、なんでもします。わたしにはそれしかできないのだから、お役に立つ事でしか、この恩を返す方法はないのですから。


「たとえそれがどのような非道な行為であっても、この身この命を使い捨てるような事であっても、必要さえあれば」


今回は短いので、明日にもう一話短めなのを投稿予定です。


R5年6月25日 誤字修正しました。

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