445 奴隷娘達の四者四様+α ~サミュー~
「それじゃあサミュー、なりたい職を決めたら教えてくれ、俺はちょっとハルの所に行ってくるから」
『職業石』に登録されている職とわたしの適性を確認し終えると、御主人様が離れていかれるのを頭を下げて見送ります。
「はい、解りました、御主人様」
御主人様が出て行かれると、伯爵家の騎士様方が『職業石』を片付け始められるので、わたしもその場を離れて、お借りしている部屋へと戻ります。
「転職、わたしがですか、しかも……」
確かにこれまでの戦闘の数々で『鞭剣士』のレベルも上がっていますし、戦闘職ではない『侍女』もかなりのレベルになっています。
今のままでは、レベルの上りも鈍り成長しにくくなってしまうでしょうから、今までと同じ様な戦闘を続けて行くのなら、上級職に就くなり新たに職を増やすなりした方が、ステータスの上りも良くなるので効率が良いのでしょう。
「ミーシアちゃん達も、職を変えるようですから、わたしもそうするべきなのでしょうね」
一つは『鞭剣士』の上級職である『鞭剣師』でいいのでしょうが、もう一つは……
「まさか、この職の適性が有るだなんて」
先ほど渡された、転職可能な職種を纏めた紙へと視線を落とします。
御主人様に買われてからと言う物、かなりの戦闘経験を積んできたためか、以前に『鞭剣士』を取った時、適性が有ると言われていた内容とはだいぶ変わっていますが、それでも前衛系の職の名前が多く見られます。
そして、その一番上には先ほど言われた通りの職が変わることなく……
「このわたしが『騎士』ですか」
ライワ伯爵家の方々からは、他の職と比べてわたしとの適性の良さが明らかに違う上、『鞭剣師』を更に成長させる事を考えれば相性もいいので、ぜひ『騎士』を取った方が良いとは言われましたが、ですが。
わたしは、かつてのラースト家唯一の子でありながら、家を保つ事が出来ずに潰し、家門を断絶させてしまった不孝者、ましてその理由が名誉ある戦死などではなく、借金による奴隷落ちなどという恥ずべきものです。
幾らミムズが再興させてくれたとは言え、形の上では彼女は一度途絶えた家の名跡をリューン王国から与えられたという事になっており。書類上ではミムズとラースト家開祖との血縁はない事とされてしまっており、ラースト家の家譜は一度途絶えています。
そんなわたしが、今更、職だけとはいえ『騎士』になるだなんて。
「もし、あの子が、ミムズがそれを知ったのなら、どう思う事でしょうか」
『騎士』系統の職は誰もがなれる訳ではありません、『騎士』になるためには、身分としての騎士や地方貴族以上の地位に就いたことが有るか、あるいはその直系子孫である必要が有ります。
職としての『騎士』に就くという事は、自らがその職に就くにふさわしい身分、あるいは血筋に有ると宣言するに等しい事です。
「ラースト家の恥であるわたしが、奴隷の身であるわたしが、『騎士』であるなどと言えるはずが」
それに、万が一にもわたしの存在がリューン王国の他の方々、姫様達と敵対している王妃様の派閥の方に知られた場合、わたしが『騎士』であるという事が、ミムズの有するラースト家の家督やひいては王国での権力闘争に利用される事になるのでは。
「本当であれば、あの時に死んでいるはずのわたしが生き残ってしまったせいで」
わたしがリューン王国を去る少し前、御当主様が亡くなられ、姫様方の立場を守るためのあの交渉の場で本来であれば、姫様方の出生の秘密そのものであり、姫様方にとっても王妃様にとっても、立場を揺るがしかねない証拠であるわたしは……
『……そのような措置を取ったとしても諸国に怪しまれはしないでしょう、その上で血縁を推測するうえでカギとなるこの者を、このサミュー・ラーストを……』
『このサミュー・ラーストを処分します。さすれば、たとえ疑いを持った者が居たとしても王妃以外の子であると証明する事は難しくなりましょう』
用が済み次第、処刑されるはずでした。そうすればすべてが丸く収まり、何も問題が無かったはず、だからこそ、そのように交渉を進めて頂きたいと、わたしからネーザル様方へ願い出たと言いますのに。
『御当主様が命じられたのは、わたしの望みをできる限りかなえて欲しいという事だったはずです。お二人がこうされて下さり、子供たちの安全が確保される事こそがわたしの望みだと、先ほどもお伝えしたはずです。お願いいたします、どうかこの国の為、姫様方の為、子供達の為に、最も良い行動を、必要な選択を行ってください』
『く、解った、だが殺しはせぬ、決して君を殺しはしない、それも陛下の御意向だからな。君が御子を出産した後は、母乳系のスキルを全て封印・隠蔽し、いくつかの制約の呪いをかけたうえで、国外の奴隷商へと売る事になる、よいな』
御当主様、いえ国王陛下の信じられた方々は何方もお優しかったから、わたしはその言葉に甘えてしまい。
『ただ、この呪いと封印は、君が望めば容易く解く事が出来るようにしておく。もしも添い遂げ子を残したいと思えるような相手と出会えたのならば好きにすると良い』
『適当な理由を付けて、ミムズから預かったものだ。いつか必ず状況を調えてアクラス殿下の立場を確固たるものとし、王妃やその他の諸勢力を完全に抑え込んだうえで、君をこの国に取り戻して見せる。もちろんその時までに君が安住の地や連れ合いを見つけていなければの話だが、その品が有れば我が配下が君を探す時の手掛かりとなるだろう』
荷物の中から、ラースト家の紋章が記された私の持つ唯一の品、小刀を取り出します。
『私と面識のある複数の奴隷商の間を何度か行き来する事で、王妃の配下やリグドラの目から逃れさせ、そのうえで人族の国のクレ侯爵領と言う地で奴隷市に出され、わたしと個人的に取引のある商会主が買い取る手はずになっている。だが途中で何かの手違いが起こらないとも限らない、何かあった時でも君の事を見つけられるように、その小刀を肌身離さず持ち歩いていてもらいたい』
「あの日売られてから、いくつかの手違いが有り、御主人様の奴隷になりましたが、あれから幾らでも自分で死ぬ事は出来たはず、なのにできなかったのは、未練が有ったせい」
一目でも、たった一目でもいいから、大きくなったあの子達の姿を見たいと、そんな分不相応な未練を持って意地汚く生き延びて来てしまったから。
「そのせいで、わたしが生きていたせいでミムズを追い込む事に」
もしも私が居なければマイラス様は、ミムズに気付く事は無かったでしょうし、そうであればミムズもあのような事をせずに済んだはずです。
ミムズも知る必要のない、いえ知ってはならない父親の事を知ってしまう事に。
「もしも、わたしがこのまま、生きていれば、またあの子達に迷惑を……」
小刀の柄を持つ手に思わず力が入って……
「サミュ、ミーシャがね、お腹空いたって」
急に部屋の戸が開けられてアラちゃんが入って来たため、とっさに小刀を隠しながら振り返ります。今のわたしはいつも通りの笑顔を浮かべられているでしょうか。
「あとね、トーウもお腹空かせてて、なんかさっきから道の虫さんを見てるの」
そうですね、今お借りしている御屋敷の厨房係の方は他の宿泊者の方々の食事用意で手一杯ですから、わたしが用意しないといけないのに考え込んでしまって、なにも準備をしてませんでしたね。
「すぐに、用意できる料理を作りますから、待っててくださいってミーシアちゃん達に言っておいてくれますか」
「わかった」
アラちゃんの頭を撫でながら、お願いをすると、小さい時と変わらない満面の笑顔で答えてくれるので、わたしも作り笑顔ではなく、自然な笑みが浮かんでくるのが自分で解ります。
「そうですね、あの子達の事も考えなければならないでしょうが、今はアラちゃん達の事も大切なのですから」
御主人様にも言った通り、私は今とても幸せで、それは御主人様やアラちゃん達がくれた物、だからこそ御主人様にお返しをしないと。
アラちゃん達に必要とされているのですから。
「今はまだ、ですけれど、もしも私が誰かにとって害となるのならその時は……」
背中に隠した小刀が、なぜか重く感じられました。
おかしいな、当初予定では、サミューさんがリョー君の事を意識しだす、ラブ展開にしたかったのに、書き出した瞬間からまったくその欠片も無くなって、気が付けばこんな事に……
さて、プラスαはどうしよう、アラは当然として、それ以外にも書くかどうか……
R1年7月30日 誤字修正しました。
R1年9月11日 タイトル番号のミスを修正。
R5年6月25日 誤字修正しました。




