444 奴隷娘達の四者四様+α ~ハル~
「それで、これが変化したアラのスキルの一覧という事ですのね、本当に非常識な子供ですわね」
思わず痛くもない頭に手が伸びてしまいましたけれど、あのお子様は一体どこまで成長するつもりですの。
「やはり、ハルの目から見てもそうなのか」
リョーから見せられた、スキルの一覧に書かれている内容は、目元を指でこすり何度も見直して間違いがないか確認したくなりますけれど、やはり変わりませんわね。
「わたくしは、剣術や弓に関しては門外漢ですので解りかねますけれど、魔法だけ見てもこれは有り得ませんわ。アラは本当にダークエルフなのですわよね」
「ああ、そのはずだ」
有り得ませんわ、『雷嵐魔法士』や『嵐魔法』『闇魔道』『植物魔術』等は、あの年齢でこれほどと考えれば非常識ですけれど、まだ解りますわ。
元々エルフ族は大陸中央部の森林地帯で発展し適応してきた種族だと聞きますもの。
その為に木々の枝から枝へ跳び回って行けるよう、身軽に、手足は長く細く、陽光の大半が枝葉に遮られ、昼なお薄暗い森の木々の隙間からでも獲物を探せるように目も良くなっていった。
そして、そう言った身体特徴と同じように魔法も環境に合わせて特化したそうですわ。
森林で求められるのは、身の回りにあふれる木や草を利用する植物魔法や、木々に遮られずかつ草花をあまり傷付けずに周辺の探索や攻撃が出来る風魔法に特化し、あとは森林での脅威となる林野火災に対応するための水魔法が使える程度で、それ以外では水と風を組み合わせる嵐系統やその派生である雷などであったため、エルフの魔法職はそれらの属性を得意とする者が大半のはずですわ。
逆に、森林では使いにくい火系統や葉を枯らす恐れのある氷系、多用すると地面を歪めて植物の根を傷める事に繋がる土系等は、ほとんど使う事が無いために適性が失われ、エルフ族の使い手は殆ど居ないと聞きますわ。
その傾向は、エルフから派生した魔族であるダークエルフもそれと同じはずですわよね。
もちろん例外として、一族が森を出て国を興し、何十世代も経ったようなエルフの集団では、軍事面で有効である火魔法や、『迷宮』の魔物によっては必要となりうる氷系統や土系統などを使えるようになった家系も有ると聞きますけれど。
ですがそれらの家系はエルフにしろダークエルフにしろ、魔法の一族としてよく知られている家柄や集団、流派ばかりですわ。なにせ大半の家系などでは使い慣れている雷魔法を火魔法の代用としている場合が多いですから。
少なくとも、それほどの魔法が使えるようなダークエルフの子供がいるとすれば、余程の家柄、普通ならば貴族や上位の騎士階級の筈ですわ。
だとすればわたくしやトーウのように幼い内は屋敷の奥で大切に育てられるなり、しかるべき門下に入って教えを受けているはずですわよね。
どう考えても『迷宮』の奥で、それも人族の国の奥にある『迷宮』でリョーに拾われたなんて非常識な事になるなんて有りえませんわ。
だというのに、そうやって拾われたはずのアラが『氷結魔術師』『炎撃魔法士』等の、氷や火の上級職に就いているだなんて。
常識的に考えればこの二つの属性は正反対ですわよ、偏った適性を持たない種族や家系であっても両方を同時に高めるというのは難しいはずですのに。
更には土系統や溶岩まで、いえおそらく『溶岩小弾』や『掘地』はわたくしが教えた魔法を習得したのでしょうけれど、今にして考えてみますと、それこそ非常識ですわ。
あの子は、リョーの入浴の為という理由で習いに来ましたけれど、本来であれば余程の修行をしなければ使えない筈の土系統の魔法である『掘地』を多少のくぼみを作る程度とは言え、僅か一日で出来るようになってしまっていましたし。
そう言えば、以前にも苦手属性である冷却や氷系統である『吹雪』をリョーに習って使っていましたわね。風の派生だったからそこまで気にしていませんでしたけれど、よく考えればあれも十分に非常識でしたわ。
しかも、『風』『雷撃』『寒冷』と三つも耐性を持っているだなんて。確かに魔法の熟練度が高まれば、それに関する耐性を取れるようになる物ですし、以前にアラへそれを教えた事も有りましたけれど、アレはもっと先の事を見越しての筈だったのですけれど。
確かにアラほどの才能と『成長補正』の効果が有れば、種族的に相性の良い『雷撃』の耐性くらいでしたら十年以内には取れるのではと思っていたのですけれど。
「まさか、こんな非常識な現象の後で、気が付いたら取れてしまっているだなんて」
本来であれば『耐性』スキルというのは、生まれつき持っていないのであれば、それこそ生き地獄のような経験をするか、でなければその属性魔法に関しては一流と呼ばれるほどまでに魔法の熟練度を上げる必要が有りますのに。
我が、いえ今のわたくしとは関係の無い家ですけれど、長い歴史を誇る魔法の名家シルマ家ですら歴代の魔法職の中で一つだけでも耐性が取れた者は片手で数えられる程度の人数、それも子孫には伝わらない位の熟練度でしかなかったと言いますのに。
シルマの魔導師たちが世代を重ね、力を付けて受け継がせ、婚姻により多くの血筋を取り入れながら、高めてきた魔法の才だと言いますのに、それをこうも簡単にあのようなお子様に超えられてしまうというのは……
「ずっと考え込んでるが、そんなに問題なのか」
「ああ、目の前に最大級の非常識がいましたわね」
聞かされているこの男のステータスやスキルを考えれば、才能だとか血筋などというのを考えるのも馬鹿馬鹿しく感じられますものね、かつての『勇者』を前にしてきた前衛系の戦闘職の方々は皆こんなふうに思ったのかもしれませんわね。
「ハル、それはどういうことだ」
目の前の非常識の塊がなにか自覚のない事を言っておりますけれど。
「当然でしょう、数千年の歴史で一度として出た事のなかった魔法系の『勇者』だなんて、それだけでも十分非常識だと言いますのに、二つ目の職まで魔法系。だと言いますのに、それらの大半を使えなくて前衛のような戦い方をするだなんて、非常識以外に何と言えばいいのかしら」
「いや、それは、まあ、確かにそうだが」
「本来であれば新人冒険者相当の近接戦闘ステータスしかなくスキルも無いと言いますのに、あのような戦い方で、『迷宮』をいくつも攻略してしまうだなんて。貴方、先日戦った『帝王具足蟲』や以前倒したという『青毒百足』がどれほど危険な魔物か分かってらして」
普通であれば、大集団での攻略、それこそあのような妨害が無ければ本来用意できていたであろう、大量の物資や人員、でなければ余程の高レベル戦力を用意して当たるべき物ですわ。それこそ『青毒百足』は数百人規模の大規模討伐を行ったというのに全滅させられるほどの文字通りの怪物だと言いますのに、この男は小細工を多用して不十分な戦力で多くの大物を仕留めていますわ。
「しかも、貴方が今回の『帝王具足蟲』に使った手は、いくつかの『魔道具』を用意したり、あるいはそれに代わる代用手段を用意できさえすれば、十分に再現な可能なものでしてよ」
岩盤などで頭と尾を持ち上げる代わりに『掘地』等で腹の下に穴を空ければいいだけですし、『重砕』の代わりに適当な重量物を背中に乗せればいいだけですもの。
となれば、ここの領主でも確実に『帝王具足蟲』を倒せる方法を確立したも同じですわ。ボスを安全に倒せるのであれば『迷宮攻略』の成功率は一気に上がりますわ。
「ある意味でこれは、『蠕虫洞穴』を安定管理するための目途が立ったという事でしてよ」
「言われてみると、そうか」
ああ、もうこの非常識男は解ってませんわね。本来ボス討伐とは『勇者』を始めとした強大な戦力を投入する事が出来なければ、失敗すれば『活性化』に繋がりかねない多量の人員をぶつけるしかない賭けに近いもの。『迷宮管理』を教義とするライフェル教にとっては、確実により少ない犠牲や投資で『鎮静化』が毎回出来る方法がこのような『不人気迷宮』で確立できたのであれば、その功績は一時的に『鎮静化』するだけの『勇者派遣』よりもはるかに、大きな功績だと言えますのに……
「まあいいですわ、もう貴方達が非常識なのは、それがこのパーティーの常識だと諦めますわ」
「複数形って」
ええ、考えるだけバカらしいですし、考えても分かる物ではありませんもの。
「今考える事は、アラのこの能力をこれからの戦闘でどう生かすかではなくて」
まったくわたくしとした事が、元々非常識の権化ともいうべき『勇者』や、アラのような正体不明の娘と張り合ったり、対抗意識を抱くなどと、非常識な事を考えるだなんて。
「もしくは、彼女やミーシアにどういった魔法を教えたらいいのか、それを考えたらどうかしら」
これだけ使える魔法の範囲が広がったのでしたら、戦闘時の選択肢もかなり増える事でしょうし、ミーシアは『治療師』に転職する事にしたようですもの、それにふさわしい魔法を覚えたいでしょうから。
「いや、確かに作戦上で取って貰いたい魔法は有るが、基本はみんなの希望を聞こうかと思っているんだが」
「まったく、貴方の頭の中に常識という言葉はないのかしら、パーティーと言う物はそれぞれの役割分担をして、お互いに別々な能力を持たせるのが当然で、主と複数の奴隷という状況であれば、主の好き勝手で強制的に役割を割り振る物でしょうに」
だからこそミーシアは売られるたびに、主にとって都合のよい職をさせられ、初心者同然の状況で複数職なんて事になったのですし。
「そうは言うがな、本人の適性や希望に反した内容をやらせたって上手く行くもんじゃないだろ。ある程度は俺等で役割を調整したり勧めたりする必要はあるかもしれないが、出来る事なら好きな職に就いてやりたい事をやって貰って、それを有効に組み合わせる方法を考えた方が、みんなのやる気も、いやパーティーの士気も上がるだろ」
まったく、奴隷相手にやる気ですとかやりたい事を気にするだなんて、本当に非常識な主ですわ。
「それにハルも知っての通り、俺はこの世界の常識を知らないからな、そんな俺の思い込みだけで方針を決めても上手く行かないかもしれないだろ。それで、ハルは転職の希望は決まっているのか、まあ魔法系なんだろうが」
「当然ですわね、わたくしにはアラのように前衛職も魔法職もなんていう非常識な真似は出来ませんし、かと言って弓矢のような後衛武器も使えませんもの。そうですわね『光魔法士』と『風魔法士』にしますわ」
「ん、『光』と『風』か、ハルの事だから『火』や『土』、いっそ『溶岩』でも取るかと思っていたんだが」
確かにわたくしの普段の戦闘を見ていると、そう思うでしょうね。ですけれど……
「以前も言ったかもしれませんけれど、元々わたくしは主要六属性を偏りなく使えるように育ってまいりましたわ。だと言いますのに、『溶岩』系統が使いやすいために、それに引っ張られてしまい熟練度は『火』と『土』ばかりが上がってしまっていますわ。だというのに職までそちらに行ってしまえば、わたくしの適性が完全にこの二つとその派生属性に固定されてしまい、それ以外の属性の魔法を習得しにくくなってしまいますわ」
元々シルマ家の魔法職は無数の属性を使いこなす事で、苦手を排除し、いかなる状況であっても対応できることを目標とし、それを強みにしてきましたわ。まあ、だからこそ歴代のシルマ家の者は耐性を取得しにくかったのかもしれませんけれど。
リョーは、いつかあちらの世界に帰り、その時にはわたくし達を解放すると明言しておりますわ。解放され晴れて自由の身となったわたくしが、ハル・シルマとして本家に戻る事は出来ないでしょうけれど。それでもシルマ家に帰る事になりますわ。
であれば、その時には『勇者の従者』であった者として、シルマの血を引く者として恥ずかしくないような力を手にしていませんと。
「『雷』は時折使う機会が有ったので多少は熟練度が上がっていますし、『水』や『氷』もそれなりに上がっていますわ。であれば、現状で劣っている『風』を高められる職を選ぶのは、変ではないでしょう」
まあ、『水』はお風呂の用意でばかり使っていますし、『氷』も直接の戦闘ではなく敵を転倒させる罠代わりに使われていましたから、熟練度自体が歪んでいそうな気もしますけれど、それでも成長は成長ですから、後で対応すれば何とかなるでしょうし。
「なら『光』は」
「アラの持っていない属性だからですわ、あの子はダークエルフですから『闇』の属性をもっていますわ。であればおそらく対をなす『光』は取りにくいはずですもの」
まあ、あの非常識なお子様でしたら、いつの間にか取っていそうな気もしますけれど、ですがまだ持っていない以上は取れない物と仮定しておいた方が良いでしょうから。
「魔物によっては、いえ装備もそうですけれど、特定の属性でなければ傷つかないという事が有りますわ。であればパーティー全体で使える属性の種類は多いにこした事はありませんもの」
ですからわたくしは、自分の劣る点を削ると同時に、パーティー全体の不利を補えるようにいたしませんと。そう考えれば、職選びはアラの持っていない属性を得られる物にするのが妥当ですもの。まったく、そんな事も考えずに好きにしていいだなんて、非常識な主を持つと手助けするのも……
いえ、これは別にリョーの為に選んだわけではありませんわ、そ、そうですわこれはわたくしがこの非常識な主と共に戦い続けても生き延びられるように、それに……
「ハル、そこまで考えて」
「勘違いなさらないで頂戴、わたくしは優れた魔導師になるために、自分を成長させるための必要な判断をしただけですのよ。それ以外の理由は一切ありませんわ」
ええ、そうですわ、すべてはシルマ家に戻った時、解放奴隷と侮られないように、わたくし自身の立ち位置をしっかりと確立できるように、この男の『成長補正』と魔法知識を利用するだけですわ。
ところでなぜリョーはわたくしの背中ばかり見ているのかしら。
「覚悟なさい、貴方を利用して、わたくしの力にして見せますわ」
R1年7月30日 誤字修正しました。




