443 奴隷娘達の四者四様+α ~ミーシア~
「こ、こうですか」
「そうだ、そこでこっちに捻ると、そうだ手際がイイぞ、嬢ちゃん。いいか、錠前外しはともかく数をこなして手で覚えるんだ」
「あ、ありがとうございます、あ、開きました、じゃ、じゃあ、つ、次の……」
教えてもらった通りに、鍵穴の中に差し込んだ器具を捻ると、鍵が外れたから、次のを練習しないと。でもいいのかな、こんなに。
「おう、どんどん外してくれ、今日はたんまり錠前を用意したからな」
わたしは、『盗賊』なのに、あんまりこういうことをした事が無かったし、下手だから、上手くなりたくて教えて貰ってるんだけど。
「い、いいんですか、か、鍵屋さんなのに、こ、こんな風に鍵の外し方、お、教えて貰って」
「気にすんなって、嬢ちゃんも、嬢ちゃんの御主人様も泥棒稼業で稼いでる訳じゃねえんだろ」
「も、もちろんです、リョ、リョー様は立派な冒険者様です、ど、泥棒なんてしません」
あ、思いっきり、大きな声で叫んじゃった、お、怒ってないかな。
「お、おう、悪いそういうつもりで言った訳じゃねえんだ。要は悪用しねえなら、それでいいって事だって。俺は冒険者じゃねえからわからねえが、『迷宮』ん中じゃ鍵を外さねえと通れねえ扉や宝箱なんかも有るんだろ。なら、俺の教えた事が役に立つって事だ、これ以上の恩返しはねえだろ」
「お、恩返しって……」
鍵屋のおじさんは、左の太腿を叩きながらそう言うけど、その膝の先は……
「臨時徴兵で『鬼軍荘園』に行く事になっちまった時は生きた心地がしなかったし、ゴブリン・ソルジャーに囲まれて槍で腹と手足をやられた時はもう死んだと思ったが、嬢ちゃんのおかげでこうして生き延びられたからな」
杖を突いて立ち上がったおじさんの片足は下腿の半分くらいから下が無くて、まだ新しい木で作った棒が義足代わりに。
「で、でも、わたしの、か、回復魔法が、も、もっとできたら……」
「この足の事なら気にすんなって、手だけは何とか嬢ちゃんが治してくれたから、鍵を弄くる分には問題ねえ、こういった作業なら座ってても出来るし、多少疲れるだけで生活も仕事も大した支障はねえ」
おじさんは平気そうに言うけど、でも。
「前に今回と同じような事で徴兵された連中にゃ、帰ってこなかった奴も多いし、まともに働けねえような怪我をして物乞いになるしか生きる手が残って無かった奴もいた。嬢ちゃんが夜にいつも来てた救護所に運ばれた連中は、大半が生き延びたし、生きてく上じゃ多少なりともマシな程度の怪我に抑えて貰えた、十派一絡げの徴用されたての雑兵風情が回復魔法まで使って貰えたんだ、感謝こそすれ恨む連中はいねえよ。それにこの足のおかげで、うちの母ちゃんもめんどくせえ家事の手伝いを押し付けなくなったしよ」
笑いながら、おじさんが言ってくるけど、ほ、ホントにいいのかな。
「ほらほら、何十人、いや何百人も救った大恩人様が、そんな辛気臭え顔してんじゃねえよ。嬢ちゃんがそんな顔してりゃ、誰が泣かしたんだって殺気立ちそうな連中がこの子爵領には幾らだっているんだし、ゴブリン相手に戦場で暴れ回ってるのを見てる連中は、これから何が起こるんだってビビりかねねえ。わたしは、戦場の英雄で救護所の女神だって笑顔で胸を張ってりゃいいんだよ。嬢ちゃんはしっかり治せなかったんじゃねえ、俺らの命を拾ってくれたんだからよ、ほら、手え止めてねえで練習しねえと、この後も予定が有るんだろ、ん、お、もうこんな時間じゃねえか、そろそろ行かなきゃなんねえだろ」
「え、あ、あ、お、おじさんありがとうございました」
は、早くしないと、約束の時間に遅れちゃう、せっかくこの町の兵隊さんや冒険者さんが練習に付き合ってくれるのに、遅れちゃったら……
「おうよ、気を付けてな、そうだ、そこに肉が有るから食ってきな」
そう言ってオジサンが指さすお皿には、お、おっきな厚切りの肉が焼いて有って、た、食べていいのかな。
「で、でも、こ、こんな、おっきなお肉」
「いいから食ってけって、ああ、時間がねえんだったな、待ってなすぐに切って弁当箱にでも詰めて」
「だ、大丈夫です、こ、このまま食べながら行けば……」
時間ないし、それに御迷惑かけちゃダメだから。
「そうかい、じゃあ気を付けてな」
「お、おくれちゃう、いそがなきゃ」
お肉を口に咥えながら街の中を走ってるけど、このままなら間に合うかな。
あ、でも曲がり角とかは気を付けなきゃ、わたしおっきいし、鎧も着ちゃってるから、誰かにぶつかっちゃったら大怪我させちゃうから。
「おう、来たか嬢ちゃん、そんじゃあ始めるか」
町の外の約束した場所に来たら、待っててくれた兵隊さんや冒険者さんが立ち上がって武器を構えてくる。
「は、はい、お、おねがいします」
わたしも盾と剣を構えて冒険者さん達に向き直る。
「しかし、ホントに良いのか嬢ちゃん、ここに居る奴らは『鬼軍荘園』の防衛戦で嬢ちゃんに世話になった奴らだから、鍵屋みてえに大概の頼みは聞くつもりだし、嬢ちゃんみてえに強い相手と戦闘訓練が出来るのは願ってもねえ話だが、これだけの人数が全力で仕掛けるってよ。しかも嬢ちゃんは守りだけだってのに、俺らは本気でスキルも魔法まで有りってんだろ」
「だ、大丈夫です、わ、わたし、盾持ち前衛だから、も、もっと守れるように、な、ならないと」
この間、『蠕虫洞穴』で襲われた時も、わたしがもっと早く前に出てたらリョー様は矢を受けなかったし、わたしだけでもっと上手く守れてたら、プテック様がわたしと一緒に守りに入らなくてよかったから、もっと早くミムズ様を下げれたのに。
「だ、だから、一人でも、ま、守れるように」
「解った、じゃあ行くぞ、やっちまえオメエ等」
冒険者さんの合図で、『飛斬』なんかの遠距離スキルや弓矢、投石、それに魔法もいっぱい飛んでくる。一発も後ろに行かないように頑張んなきゃ。
「え、ええい」
盾と剣を使ってスキルとか矢を弾いて、低い所のは足を使って踏み付けたり蹴ったりで防いで、後は鎧を付けた胸で受ければ魔法だって大丈夫だから。
リョー様の造ってくれたこの鎧も剣も盾も丈夫だし、魔法抵抗も有るから大丈夫、そ、それにハル様と特訓してまだ耐性スキルはないけど、結構魔法攻撃は我慢できるようになったから。
「ぜ、全部、ふ、防いで」
そう言えば、前にリョー様が、わたしたちみんなでの攻撃を全部避ける練習してたけど、こうやって自分でやってみるとやっぱりリョー様は凄いんだってわかるな。
「職選び、嬢ちゃんがか」
特訓が終わって、冒険者のおじさん達と話してたら、なんか変な顔されちゃった。
「は、はい、わ、わたし、結構レベルが上がったから、あ、新しい職に就けることになったんだけど、ど、どれにしたらいいか」
私は、弱い頃から複数職だったから、なかなか強くなれなかったから、今度の職は気を付けなきゃ、でもいっぱいあってどうしたらいいか分からないから。
「嬢ちゃんは、奴隷だろ、御主人様の『虫下し』はなんて言ってんだよ」
「リョ、リョー様は、ミーシアの事だから、じ、自分で選んでいいって」
「ハー、そりゃお優しい御主人様で、普通なら自分に都合のいい職に奴隷を就けさせるもんだってのによ」
「は、はい……」
ハル様は、もうだいぶ強くなってステータスもスキルも十分あるから、同じくらい複数の職を取り直しても問題ないって言ってるし、今回取れるようになってた、『捕食者』は『獣態』が強くなるから取って置いた方が良いって言ってたけど。
『獣態』が強くなるのはいいことだよね、もっと戦車とか馬車とか曳けるように成れば、リョー様もわたしのこと役に立つって思ってくれるよね。
他は、どうしたらいいんだろ、あ、そう言えば『獣態』用のスキルで『家屋解体』と『破壁』、あと『暴殺』に『跳圧爪殺』とかってスキルが増えてたっけ。
リョー様は、俺がアドバイスすると強制に近くなるから言わないって言ってたし、サミューさん達も職に詳しくないから、自分で決めた方が良いって言ってたから、冒険者さん達に相談してみたけど。
「んじゃ、嬢ちゃんは、何がやりてえんだ」
「え、えっと、か、回復魔法は、も、もっとできるようにしたいです、あ、あと、リョー様やハル様を守れるように、ま、守りや、こ、攻撃も頑張んなきゃ、そ、それに、索敵とか鍵開け、罠解除なんかも」
わたし、いっぱい職を持ってたのに、どれもうまく出来てなさそうだから、もっと頑張って、どれも出来る様にならなきゃ、じゃないとリョー様もいつかわたしを売っちゃうかもしれないし……
「そりゃまた、ずいぶんと、それだけ出来りゃ、普通は万能って言われるぜ、一人で少なくとも三人分の仕事してるんだしよ。いや、まあ嬢ちゃんの主はあの『虫下し』だし、パーティーには『焦砦鴉』や『雷滅幼女』もいるんだったな」
「ああ、『焦砦鴉』はな、ホントに一人でゴブリンの塹壕陣地を焼き払ったあの魔法はな、大抵の二つ名やその由来ってのはハッタリだったり話を盛ってたりするんだが目の前でやられちゃな。しかもあの魔法も凄かったが、あれだけの防衛陣地をあっさり魔法で造っちまうのもシャレにならねえよな。空も飛んで頭の上から魔法で奇襲したりもするしよ」
「『雷滅幼女』もな、近接じゃ剣、遠距離じゃ弓を使い分けててどっちも俺らが束になっても敵わねえ位につええ。だってのに二つ名の通り強力な雷撃魔法をつかって、集団を吹き飛ばしやがるからな」
ア、アラ様もハル様もあの戦いで大活躍だったもんな。それに比べてわたしは、これじゃやっぱりリョー様も、食べるだけの役立たずだって呆れて……
「あの集団に居りゃ、そりゃそんくらい多芸じゃねえとダメなもんかね。まあいい、とりあえず一つは回復系の上位職で決まりだろうから、考えるのは前衛の戦闘系だよな。嬢ちゃんは結構色んな得物を使い分けるんだっけか」
「は、はい、お、主なのは盾と剣ですけど、ほ、他にもナイフや針の投擲と、あ、あと最近は鉄球も……」
リョー様に買われた最初の頃は剣と盾だけに集中してそれに慣れるようにってしてたけど、だいぶ慣れてきたから、色々他の武器も使うようになったんだよね。
「そういや噂で聞いたけど、ぶってえ丸太も振り回すんだろ」
それって『重砕の破城鎚』のことだよね。
「は、はい、つかいます」
「うわあ、あの手のでっけえ武器は動きが単調になるから、達人には効かねえが、ちょっとした集団を横薙ぎの一撃で吹っ飛ばしたりするからシャレにならねえんだよな」
「ああ、そうやって状況で色んな武器を使い分けるってんなら『剣士』とか『槍士』『斧兵』みてえに一つの武器に特化した職じゃねえ方が良いかもしれねえな、『騎士』とか『戦士』とかかねえ」
き、騎士はわたしじゃ無理だろうけど、でも戦士なら、あ、そう言えば取れそうな職に『重戦士』って有ったよね。
「索敵や鍵開けなんかなら、普通に考えりゃ『盗賊』から始めて『斥候』とか『密偵』『偵察兵』辺りだが、土木作業なんかも出来るんだよなとなれば、建築なんかもする『屯田兵』とか『工兵』辺りか、『屯田兵』なら建物関係や土地均しなんかに向いてるし、作成系や鍵なんかのスキルもとれるらしいし、狩人系の技も使えたよな、それなら、森なんかでの索敵や罠なんかも大丈夫なはずだ」
えっと『工兵』は今持ってるから、今言ってた『屯田兵』がいいのかな。
「あ、ありがとうございます考えてみます」
えっと、『捕食者』と回復を上げるのに『治療士』を『治療師』にして、あとは『剣士』と『重歩兵』を『重戦士』に、『盗賊』を『偵察兵』に『工兵』を『屯田兵』にしようかな。あ、この職で変更できるか確認しなくちゃ。
「わ、わたしは、まだまだ弱いし、あ、あんまり役に立ててないけど、もっともっと強くなって、リョー様のお役に立って、誉めて貰って、捨てられないように、これからも美味しい物を食べさせてもらえるように頑張んなきゃ」
『悲報』ミーシアがディフィーさんの仲間入りの予定……
ミーシアは、過去に何回も主に売られているので、内心では不安が有るようですね。
R1年7月30日 誤字修正しました。




