442 奴隷娘達の四者四様+α ~トーウ~
7月、8月は更新ペースが時折下がる可能性が有りますご了承ください。
とりあえず久々の、奴隷娘達の話になります。
「もうすぐ、王都へ行くのですか、しかも旦那様が伯爵閣下から受けた依頼があの方の護衛とは」
ムルズ王国第二王女ミーラ・ティア・ムルズ殿下、わたくしより二つ上の御年16歳、そして……
「本来であれば、わたくし、いいえトーウ・ショウ・ラッテルの護衛対象となっていたかもしれない御方」
ラッテル家の毒見役は本家や主要な分家筋の者が王族の方々に仕え、それ以外の分家や本家からかなり血の離れた騎士達などが有力貴族の御家などに出向しております。
それらの者は15歳程度になると、家を離れて王都に出向しそれぞれの役務に就くのがラッテルに生まれた者の習わし。
「子爵家に籍を有したままであったならば、わたくしもまもなく王都へと出向し、あの方の毒見役と護衛を務めていたことでしょう」
その為に、ラッテル領が荒れる前には何度も王都でミーラ殿下との御目通りを許されましたし、蝗害以降も年に一度、王都へ登った際にはほぼ毎回御言葉を賜り、少なくないご支援を頂いた事も有りました。
「わたくしが、旦那様の奴隷となり公式には病死した事となった以上は、もうお会いする事は無いと思ったのですが、まさかこのような形で……」
そう言えば、今はラッテル家より出向した方々は皆、それぞれの出向先に暇乞いをして領に戻っているという事でしたが、王女殿下や他の王族の方々の護衛や毒見はどうなっているのでしょう。
「いえ、わたくしの心配する事ではありませんでしたね。今のわたくしは旦那様、『虫下し』のリョー様の奴隷であり、我が身、我が力の全ては旦那様の為だけに尽くされるもの、他の方がどうなろうと気にする事ではありません。第二王女の事に関してわたくしが気にすべきことは、護衛依頼を受けた旦那様が瑕疵無くお役目を達成されるように務める事の一事のみ、万が一にも旦那様の護衛対象に何かが有って、旦那様の評価や武名が傷つくような事態とならぬよう気を付けるだけです」
そう言った意味では今回クリグ・ムラム様が預かってこられたという、ラッテル子爵家所有の『職業石』を使用させて頂き転職できたのはありがたいですね。
旦那様のもとで戦い続けた事で『毒士』も『暗殺者』も既にかなりの高レベルとなっており、これ以上はレベルを一つ上げるのにも相当な数の戦闘を必要とするようになっていたようですから。
元々ラッテルの者は毒見役としての各種スキルを高めるために『毒使い』や『調合士』等の職から徐々に転職し15までに『毒士』やその上級職になって置くものですし、同じように護衛として敵の手口を熟知するためと索敵能力を高めるために斥候系の職から『密偵』や『暗殺者』までの職を経験する物ですが、『暗殺者』等の職に就いたままでは、護衛として警護対象の行動に付き添った際などに、有らぬ誤解を招く事も有るので、15になって出向する際には別な職に代わるものなのですが。
「まさか、『毒術師』はともかく、護衛職の中でもかなり高位の職である『衛士』に成れるとは思いませんでした」
とは言え転職した直後では新しいスキルの入手は有りませんでしたし、以前の職に伴ったスキル等もほとんど変化は有りませんでしたが、それでもこれまでの経験で幾つかスキルを得る事が出来てますから、これを生かして旦那様のお役に立てるよう、しっかりと確認して使いこなしていきませんと。
主だった物では、まず車列護衛の最中などにクリグ・ムラム様から教わった何手かの格闘技。
「鎮圧戦の際にはプテック様も習われていたようですが、確かぷろれすとかいう格闘技術でしたか、無手での投げ技や関節技に絞め技、後は当身などでしたが、複数の敵には使いづらいとはいえ一対一の状況下で刺客を制圧し捕えるにはちょうどよさそうな技でございますね」
次に、フレミラウ・トレン法師様より教えを賜った『乙女戦技』の初歩と『鋼指掌法』のふたつ。
「なんとかこの期間で『指ツン』を習得し『鋼指掌法』をスキルとして入手する事が出来ましたが、まだまだフレミラウ法師様のような威力には程遠い物ですね。あの御方は一指が一肢と同等となるほどでしたから、とは言え度重なるゴブリンとの戦闘で『点穴譜』はだいぶ覚えられましたし、熟練度もそれなりに上がりましたので。わたくし本来の戦闘法である爪と組み合わせれば、かなりの戦力上昇になるでしょうね」
それに、『指ツン』を覚え『鋼指掌法』に達した以上は『乙女戦技』をこれ以上覚える必要はないので、いつ旦那様がわたくしを求められてもお応えできますから、サミュー様のようにより積極的に。
「いえ、それは今考える事ではございませんね。この短期間で覚える事の出来た『乙女戦技』の技は『指ツン』を除けば二つ『遅刻遅刻』と『だーれだ』だけですが、わたくしが『暗殺者』を持っているせいか、それに近しい奇襲技しか覚えられませんでしたね」
『遅刻遅刻』は見通しの悪い曲がり角や交差点などで、走って来る相手を待ち構え、飛び出した瞬間に全力で体当たりをして攻撃すると同時に押し倒して馬乗りになり次の攻撃を繋げる技で。
『だーれだ』は敵の背後を素早くとりそのまま両手を顔に回して、指を突き刺して相手の両目を抉り、そのまま顔の各所に指を立てて全体を引き裂く、もしくは両手で頭部を握り潰す技。後半が上手く行かなくとも最初に目を潰せるので、有利に戦闘を進められるという訳ですか。
「刺客からの逃走時などで、旦那様を先に逃がして追っ手を迎え撃つには丁度いいかもしれませんね。それに相手の顔を重点的に破壊するのであれば、身元を誤魔化せる事が出来ますから、敵の死体に旦那様の服などを着せて、短時間とは言え敵の目を誤魔化すという手も有り得ますか」
これらの使い方は、これからも考えていくべきでしょうね。フレミラウ法師様からは『乙女戦技』の公開可能な初歩技の説明書きと『鋼指掌法』の『拳譜』を頂いていますから、これからは自己研鑚に務めましょう。
「最後は、やはりこれですね」
片手を目線の位置まで上げて、指先に意識を集中させると爪の下からゆっくりと液体が滲みだして行きます。
「やっとできるようになりましたね。『鬼軍荘園』で多くのゴブリン・メディックを仕留め、薬を集めて飲み続けたかいが有ったと言う物です」
今はまだ効果も弱く量も少ないですが、毒爪等のスキルであればかなりの量それこそわずかな時間で瓶を満たせるほどに出せるのですから、熟練度を上げていけば当初の目的通り『癒しの短剣』を使わずともミーシア様の負担を和らげる事が出来るようになるかもしれませんし、単なる回復以外の効果も得られるかもしれません。
それに、いざ旦那様に何かあって自己回復が間に合わないようなときでありましても、この薬で何かのお役に立てるかもしれません。
「そ、そうなりますと、この薬を旦那様が口になさる、はあ」
そ、それは、大丈夫なのでしょうか、いえ以前に聞いた『禁欲』の内容ですと、生臭とされるのは生き物を殺傷して得られる物という事で、無精卵や乳のように分泌される物であれば問題はないとの事でしたから。
「で、であれば、こ、この薬も、旦那様に飲んで頂く事が……はう」
だ、旦那様が、わ、わたくしの、ぶ、分泌した物を、く、口になさる。
わたくしの身体から出た物が、旦那様の中に入り、わたくしの身体に有った液がその血肉となってお役に立つというのは……
「と、とても恥ずかしい気がしますが、なぜでしょうか、その状況を考えているだけで恍惚感が……」
ああ、どうにかして、この薬を旦那様に、出来る事であれば指先からじかに……
「とにもかくにも、熟練度を上げていきませんと、そしていつの日か……」
R1年7月30日 誤字修正しました。




