441 聖職者(笑)たちの会合
今回は、腹黒神官長さんの番です。
「では、この地域にある諸迷宮の『活性化』状況とそれぞれの陣営の対応は、この通りと言う事か」
洩れなく纏められた報告書を読み終えて顔を上げると、テラシス・トレン・ビルムとフレミラウ・トレンの二人が頭を下げたままで居るのが目に留まります。
重要な話も有るので、幾つかの内容については直接口頭にて報告するよう彼女達には事前指示を出したので、テラシスもこうして目の前まで来てくれましたね。
しかし、改めて報告書を見直すと危険な状態の『迷宮』はかなりの数に上りますし、見境が無いですね。
リョー殿が狩りをされていた『蠕虫洞穴』や、我が神殿に友好的な貴族の領地に有る『迷宮』はまだ解りますが、貴族連合に属する貴族家や中立の家々の領地に有る『迷宮』も数多く荒らされていますから。
あの子爵は『薬師』ヤスエイの影響下にあったはずですのに、ヤスエイと協力関係にある家々の不利益となる事をするとは。まあ、こちらとしては助かりましたので構いませんが。
それどころか、子爵の暴走に合わせて彼の仕業と見せかけながら、こちらの手の者達に敵対貴族の『迷宮』を荒らさせて『活性化』を引き起こし、それらの家々の弱体化や派閥の結束に楔を打ち込む予定でしたが、まさか『本物』がすべてやってくれているとは思いもよりませんでした。
おかげで、こちらの手を汚さずに目的を果たせましたし、色々と収穫が有りました。
いえ、もしかしますとこれ等の『活性化』は、ラマイ子爵の暴走によるものではなく、ヤスエイの指示によるものなのでしょうか。この報告書をよく見れば、子爵のみの戦力ではこれほど広範囲にわたって同時多発的に大量殺人を行うには……
「ヤスエイの時間稼ぎか、いやだが……」
味方に不利益を与えてまでヤスエイが時間を稼ぐ理由が有るでしょうか。
いえ、あのヤスエイにとっては薬で支配している訳ではないムルズ王国の貴族達は仲間ではなく、ただ利用するだけの存在でしょうから、彼なりの理由が有ればこの行為もあり得なくはないですか。
だとしても、時間を稼ぐ理由が解りませんね。
普通に考えればムルズにとってもその戦力をあてにしているであろうヤスエイにとっても、短期決着こそが理想的な流れの筈です。
自分達の地元で戦う事になるムルズ貴族達は、現状で動員可能な最大限の人数を集め終わっていますから、時間を稼いでもこれ以上の戦力は集めようがないはずですし。
一方で世界中に拠点を持つ我がライフェル教は、日数が経てば経つほど諸国の神殿から支援や増援が届きますので、彼我の戦力差は開く一方のはずです。ムルズとしては、短期決戦でこちらに一定の被害を与えた上で停戦の条件交渉に移るというのが狙いの筈ですし、ヤスエイとしてもそれが最も利となるはずです。
たとえヤスエイが、ムルズの貴族達を使い捨てにするつもりでも、わたくし達神殿側により多くの被害を与えるのであれば、数が揃う前に一戦した方が良いでしょうから。
「かの者が、何を狙っているのか、さらに調査させた方がよさそうだな。まあよい、フレミラウ『千人が敵』の行へと向かう用意は整ったか」
「は、猊下の特段のご配慮により、修行の御裁可を頂きましたからには、たとえ今この場で行を始めよと言われようとも、すぐさま行えまする」
「そうか、ならば速やかに『人狗銀鉱』へと向かうよう、手筈の一切は向こうで整えさせてある。かの地で修行に励むとよい」
フレミラウ師弟にさせる予定の『千人が敵』の行では五千本の武器を用意しています。
あの行を貫徹させる条件は用意した全ての武器を破壊する事であって、集まって来た魔物を倒すだけではいくら経っても終わりません。
人型の魔物が多い『迷宮』で行うとは言え、全ての魔物が武器を使える訳でもなく、人型の魔物には自前の武器を持つ物も多いので、戦う魔物数はどれほど少なくとも武器の数の数割増し、大抵は数倍から十数倍の数となります。
普通の魔物であればたとえ雑魚でも、徴兵されたばかりの雑兵や新兵、見習い等と同格かそれにやや劣る程度の強さは有ります。
それが『簡易魔道具』で武装し強化されれば、一般的な兵士や冒険者程度の脅威に、更に上位種や変異種ならばそれなりの騎士や熟練冒険者、傭兵に相当します。
フロアボスまで呼ぶ事ができ武装させれば、各貴族お抱えの手練れと呼ばれる者達と同格の強さにまでなります。
単純に考えれば、フレミラウはその弟子と二人だけで万を超える軍勢に匹敵する魔物を倒し尽くす事となるでしょう。
今この時期にフレミラウがこの行を成功させる事が出来れば、ライフェル神殿はカミヤが先日メントラム子爵家を殺し尽くしたのと同様の真似が出来る手駒を、既にムルズ王国内へ配置し終えていると誰もが思う事でしょう。
味方の士気を高め、敵を動揺させ戦意を砕くには、ちょうどいい宣伝になります。まあ、既に『武闘大師』の称号を持つラッドがすでに配備されて居ますが、彼にはヤスエイがこちらの主力を潰そうと出てきた時に備えて、本隊に詰めていて貰わねばならないので、自由度の高い駒が増えるというのは強みですからね。
「ありがたき幸せ、猊下一つお伺いしてもよろしゅうございましょうか」
「なんだ、申してみよ」
「は、かの者、今回の事態を引き起こしたりまする。ラマイ子爵に関しましてはいかがいたしましょうか、かの者の始末は……」
リョー殿が『迷宮』に放置したあの子爵ですか。
「あの者の事は気にする事は無い捨て置け」
彼は、実に良い研究課題を残してくれました、再生系のスキルや効果は今までごく稀にしか見つからない稀少な物の為、殆ど研究されていませんでしたが。彼のおかげで実戦に出さなくとも、スキル保有者や装備者を限界まで追い込むことで効率よく、短期間で熟練度を上げられるという事が解りましたから。
なにしろ、幾ら『勇者』様のスキルやその武具の劣化複製とは言え、『迷宮核』から出たばかりの『魔道具』を僅か数か月であれほどのレベルと効果にして見せたのですから。
これからは修行僧の苦行やあるいは背教者の処理などで、上手に同系統の『魔道具』を育てられるかもしれませんね。
せっかくなので、彼にはあのまま二つの『魔道具』を更に育てて貰いたいものです。
あれほどの状況ですから、すぐにも3桁のレベルに達する事でしょう。もしかすれば数十年後には4桁のレベルとなっているかもしれません。そうなれば『勇者の武具』を超える『魔道具』を人工的に作り出す方法が一つ確立できたという事になるでしょうね。
これほどの実験を、みすみす取りやめる事など到底……
「そ、それはあまりに無慈悲では、確かにあの者の犯したる罪は万死に値する物、ですがそうでありましても神の慈悲を、救いある死を赦しと共に与える事こそ、神の徒がすべき事では」
「今代の『勇者』様ご本人が、かくあるべしと決められた結果を、我らライフェルの徒が否定するのですか」
「それは…… ですが、あのままかの『魔道具』をあの『迷宮』に放置いたしますれば、遠からず『再生』や『MP回復』等の効果が『蠕虫洞穴』の『型』に登録され、そう言ったスキルを有する魔物が湧く事になりましょう」
それは望むべき事でしょうに、『迷宮核』の『型』にあの二つの『魔道具』にある幾つもの効果が登録されれば、それらの『魔道具』も『迷宮』から作られるようになるでしょうし、スキルを持った魔物の死骸もそれらの効果を付けた『簡易魔道具』の素材になるでしょう。
「構わぬ、あの『迷宮』に魔法を使う魔物はたいしておらぬ『MP回復』を持とうと無駄となろうし、ボスである『帝王具足蟲』は元々のMP量が高いため回復しようとしまいと大しては変わらぬ。『再生』にしても、あのスキルは『不死』という訳ではない、頭部を破砕するなどして再生する前に即死させる、あるいは強力なスキルや魔法で再生しきれないほど全身を破壊するなどすればよいだけの事。あの『迷宮』はボスである『帝王具足蟲』を除けばそれほど強固な魔物はおらぬ、最大の脅威とされる『カンディル・ワーム』や『ファイル・リーチ』等は火炎魔法等を使えば容易に焼き尽くせる。なにを心配する事が有ろうか」
ラマイ子爵での観察実験がもう少し進み、有効で有るとはっきりすれば『再生』の付いた『魔道具』を大量に育てる事が出来るようになるでしょうし、効果の劣る『簡易魔道具』であっても、レベルを大幅に上げれば強力な『魔道具』へと成長します。
効果の付いた『魔道具』や『簡易魔道具』を確保するのも、それらを成長させるのも、この『迷宮』だけで出来るとはなんと素晴らしい事でしょうか。
効果の高い『再生』系の装備を大量に確保できるように成り、それらを僧兵や聖騎士等に回す事が出来れば、『迷宮攻略』にしろ、今回のような戦争にしろ、我がライフェルの任務遂行能力は大幅に高まる事となるでしょう。
その為にも……
「かの『迷宮』の維持を心配する必要はない、『鬼軍荘園』の一件でロウ子爵家と交渉する機会が出来てな。子爵領の一角『蠕虫洞穴』の近郊に新たに寺院を建立し僧兵団の一隊を駐屯させ『迷宮管理』に当てる事となった」
ムルズ宮廷で財務相の地位にある中立派の重鎮の領地、それもこの地域一帯に睨みを利かせられそうな位置に拠点を置く事が出来たのは、軍事的、政治的な効果は大きいです。
ロウ子爵家はこの一帯の顔役でしたから、今回の『活性化』の頻発では、各地に支援をしなければならず、財政的にも兵力的にもこのままでは首が回らなくなりそうになってきたところで、話を持っていけましたのでかなり有利な条件を取れましたしね。
フレミラウが、リョー殿と共にロウ子爵家軍に参加していたというのも役立ちましたね。
これで、『蠕虫洞穴』で採集される魔物素材や『魔道具』の大半を確保できるようになるでしょう。
何しろ現状ではあの『迷宮』は価値の有るモノが殆ど取れない『不人気迷宮』という扱いですし、子爵家としても危険な割に実入りの少ない『蠕虫洞穴』の攻略にはそれほど熱心ではなく、騎士が乗騎として使うジャイアント・ホッパーが一定数捕獲でき、騎士のレベル上げが多少できれば、後は神殿に丸投げしてもいいという考えのようですから。
「ライフェルの僧兵であれば、あの程度の蟲に多少スキルが付いた程度では問題なかろう」
「……御意に御座います」
「それでは、最も肝心な話を『勇者』リョー殿についての報告を聞こうか」
わたくしの言葉に、テラシスが口を開きます。
「は、猊下の御懸念で有りました、かの国の騎士ミムズ・ラーストとのやり取りは、多少の行き違いや、ラマイ子爵の介入によるラースト卿の危険行為等も有りましたが、おおむね猊下の御希望される流れ通り、かの騎士とその従者一行は、サミュー・ラーストがリョー殿の奴隷である事に対して納得した由に御座います」
「そう、ですか、それは重畳」
リューン王国に関しては、あの王女達にも釘を刺しましたから側室派の暴走はないでしょうし、サミュー・ラーストを狙って『薬師の森』での襲撃を手配して来た王妃派の配下も、冒険者との仲介をしていた斡旋屋が手駒の大半を『蝙蝠の館』でリョー殿に殺されたため、しばらくは動きたくても動けないでしょうから。
これで、しばらくはあの国の関係でリョー殿に何かあるという事は無いでしょうね。とは言え、わたくしの理想としてはミムズ・ラーストとサミュー・ラーストの親子丼、あるいはミムズ・ラーストとプテックの姉妹丼という形でリョー殿を篭絡して欲しかったのですけれど。
なにしろ、サミュー・ラーストの『名器』は他の身体スキルと同じ様に全ての娘達に受け継がれているようですから、一度でも関係を持てばリョー殿を篭絡できた可能性はかなり高いでしょうし。
それに上手くすれば、サミュー・ラーストとミムズ・ラーストの繋がりで、かの国の王女達の一人くらいはリョー殿に宛がえたかもしれませんから。
あの者達にサミュー・ラーストから受け継がれている、各種スキルは『勇者の子孫』の母体としては理想的な物ですし、何よりあの王女達が父親である元国王、ああ、一応公式には現国王でしたか、あのイツェリス・ラメディ・リューンから継いだ、リューン王族固有の特殊スキル『極大化』はリョー殿も有していない、強力な魔法系スキルですからね。
サミュー、イツェリスからあの王女達に流れたスキルと、リョー殿のスキルが合わさった御子が生まれれば、どれほどのステータスとスキルの持ち主となる事か……
いけませんね、まだ生まれてもいない子の胤を欲しいと思ってしまうなんて。
「しかし、偶然とは面白い物よな、もしくはこれを運命と呼ぶのか」
政治的な駒としても、稀有なスキルの母体としても重要であったため、どうにか入手しようと行方を捜していたサミュー・ラーストがリョー殿の奴隷となり、更にユニコーンの一件でリョー殿とリューン王国の者達やラマイ子爵が会う事になるとは思っても居ませんでしたから。
まあ、それ以降の事に関しては、これらの偶然を利用する形で様々に手を回して、流れを作ってきてはいますけれど。
「運命ですか、師爺から、いえそちらのテトビより聞いていますが、本当にあの侍女がリューン王国の王女の……」
「そうだ、政略結婚による同盟関係をより確実なものとするには、両家の血を引く子を次期当主とするのがよいが、いつまでたっても王妃が子を産まず、更に王が体を壊していつ斃れるか分からず、下手をすれば王の直系の血が絶えかねないとなっては、手段を選んではいられなかったのであろう」
まして、エルフ族と人族の異種間による大国同士の政略結婚となると、失敗すればただの外交問題だけでなく、二つの種族の関係にも影響しかねませんから。
「要は『王と王妃の子と発表された赤子』が用意できれば良いのだ。周囲がそう認めれば本当に王妃の胎から出ていなくとも同盟は維持できようし、王の胤から芽吹いたのであれば王家の血筋も維持できる。王の方は固有のスキルが有るゆえ子の誤魔化しはしにくかろうが、王妃の方は特段の目につくようなスキルもステータスも無いからな」
でしたら、髪や瞳の色などの身体的特徴が王妃に似た人族の奴隷に王の子を産ませ、その子を王妃の産んだ嫡子とすればいいだけですから、家の存続を重視する貴族や王族では似たような事は幾らでもある話です。
そう言った意味で、サミュー・ラーストは実に都合のいい奴隷だったのでしょうね。
若く健康で王妃と同じ身体特徴を有し、ラマイ子爵家からリューン王国に売られた時点で、ミムズ・ラーストをその胎に宿していましたから不妊の可能性も無かったですし。
更に、強力な魔法の反動によって体を壊し、当時はほぼ寝たきりであった国王が相手であっても、確実に胤を吐き出させられるであろう『名器』等のスキルに加えて、後継の健康に不安を感じていたであろう家臣たちを安心させるに足るだけの『耐性』や自己回復等のスキルが有りましたから。
その上ミムズ・ラーストを産んだ後には、飲んだ物に恩恵をもたらす固有の母乳系のスキルや『双胎率増加』のスキルまで覚えましたし。
実際に、王の子を何人も産み、それらのスキルは娘達に受け継がれていますから、リューン王家は王妃の問題さえ片付けば血統の維持繁栄は問題ないでしょうね。『催淫回春の母乳』の効果も有って側室も含めて十分な子がいる事ですし、嫡出扱いになっているサミューの娘達は、受け継いだスキルを考えれば多くの子を産むことでしょうし。
本来であればエルフの血を引けば数を増やすのに年数がかかる物ですが、あれらのスキルが有ればそれを補って余りあるだけの子をそれぞれ残す事も期待できるでしょうから。
イツェリス王の『極大化』スキルの継承者が大量に増えるのは、将来の魔法の発展を考えればよい事ですが、やはりそうなるとリョー殿の血もそれに加えたいと思ってしまいますね。
「やはりサミュー・ラーストだけでなく、もう一人か二人あの国の姫をあの方に宛がいたいものだな。まあいい、先の事を考えるのは、目の前の事を終えてからにしよう。テラシス、今リョー殿と合流しているライワ伯爵家の騎士達は、カミヤから『職業石』を預かっているはずだ。それによりリョー殿配下の奴隷達が必要な転職を終えしだい、あの方にしていた元々の依頼、ムルズの王女の護衛任務に向かうよう手配せよ、すべき事は解っておるな」
「我が眼の光にかけて、猊下のお言葉のままにいたしましょう」
この二話で色々とぶっちゃけられたサミューさんですが、子持ちヒロインはなろうチーレム的にはセーフでしょうか……
ちなみに、これでノクタの外伝に関する、サミューさんのネタバレ系はほぼ出ましたので、あちらに関するネタバレ系の感想も大丈夫ですし、ネタバレが嫌だから向こうは読まないという方もあちらを読んでも大丈夫かと……
R1年7月1日 名前のミスを修正しました。ピリム・カテン→フレミラウ・トレン
R1年7月30日 誤字修正しました。




