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440 旅立つ騎士 ~ミムズ~

ちょっとしたネタバレ回です(と言っても、みなさん解ってそうな気もしますが)


「ミムズ様、こちらに居られたのですか」


 背後から掛けられた声に、ゆっくりと立ち上がり振り返る。


 いかんな周囲の気配に気を配るのを忘れていたとは、幾ら相手がディフィーとは言え、これほど近くで背後を取られるとは騎士としてあるまじき油断だ。


「ディフィーか、探させてしまったか、すまないな手間を取らせた」


 明日にはこの地を発つのだから、今日中に済ましておきたい用件が有って自分を探していたのだろう。


「いえ、どうかお気になさらずに」


 深々と頭を下げたディフィーが自分の背後に置かれた物に気が付き、やや遠慮気味にこちらを見て来る。


「花を、手向けていたのですか、あの方に」


「ああ、せめて、せめてこの位はな。墓碑を彫る事は許されぬ状況ではあるし、あのような短い間の事でしかなく、それも良い思い出とは言える物では決してないが、だからと言って孝を忘れてよい物ではあるまい。とは言えどのような花が良いのか、どういった食や酒を好んだのかも、家門による供養のしきたりの有無も、何一つ解らないという情けない有様であるがな」


 ディフィーが視線を向ける先には、自分の置いた花束と酒瓶、それと開いていた食堂で用意して貰った料理数品が置いてある。


『迷宮』の入り口を前にしてこのような事をすれば、匂いで魔物を呼び寄せかねないがこの『蠕虫洞穴』は『鎮静化』された直後で有るゆえ、その恐れも無かろう。


「ミムズ様、わたくし如きがこのような事を言うのは差し出がましいのですが、あの方は本当にミムズ様の、先生の……」


「状況証拠から考えれば間違いはないだろう。自分が生まれるすこし前まで、彼がはは様を所有されていたのは見せられた書類で判明しているし、今にして考えてみれば自分の魔法系スキルの構成は、彼の使っている魔法の系統と酷似していた、自分が生まれた当時のはは様は魔法を一切習得していなかった事から考えれば、これらのスキルは彼から受け継いだもので間違いないだろう。彼もそれを自覚していたのだろうな」


「ですが、それならば本当にあの方、ラマイ子爵がミムズ様の父君なのですか」


「ああ、耳元ではっきりと言われたよ『あの女奴隷にお前の胤を仕込んだのは俺だ』とな」


「そのような、下劣な物言いを、子爵家の当主ともあろう御方が……」


 そうだな、確かにあのような物言い、動揺している時でなければ一刀のもとに切捨てようとしていたかもしれぬな。


 あれほどに憧れ、焦がれ、誰なのかを必死に調べようとしていた父親が、あのような下劣な人物であったとは、その為に自分ははは様に対してあのような態度を取ってしまったというのに。


 いや、あのような男であったからこそ、誰も教えてはくれなかったのかもしれぬな。


 考えれば解る事だった、自分やプテック、姫様方にも受け継がれているはは様の耐性スキルの数々は、自分達が生まれ落ちた時点で、すでにかなり高い効果をもっていたという。


 つまり、はは様はそれだけ熟練度が高かったという事であり、戦闘職でないはは様がどうやってそれらのスキルの熟練度を高める事となったかを考えれば……


「ですが、そうなると不味い事になるのでは、あの方はリョー殿の手によって……」


 ディフィーが、自分も心の奥底で微かに考えていた疑念を口にしかけるのを、言い切る前に止める。


「ディフィーそれ以上は言うな。マイラス・リアス・ラマイ子爵は『蠕虫洞穴』の奥深くにて、魔物に襲われ斃れられた。リョー殿はそう証言されたし、公的な記録にもそう残される事となる。それが事実であり全てだ……」


 そうでなければならない、そうでなければ自分は……


「ですが、それを知っているのは、その現場を見られたのはリョー殿のみ、遺体もない以上は、彼の証言の他には何一つ証拠はなく、であれば幾らでも……」


「言うなと言ったはずだ、頼むもう言わないでくれ。たとえ疑惑であろうと、可能性であろうと、はっきりと口に出してしまえば自分は動かざるを得なくなってしまう。たとえあのような人の道に外れた人物であっても父は父、子は子なのだ。知ってしまえば、リョー殿との信義にもとり恩を仇で返すこととなろうとも、母様を悲しませる事となろうとも、自分は行動せねば、リョー殿と敵対せねばならなくなる」


 騎士の父親が他者の手にかかったとなれば、たとえどういった事情があろうと仇を放置するわけには……


「ふ、あれほど積極的にカテン卿の仇討ちを止めようとしていた自分が、当事者になった途端これとは笑えぬな、騎士の家のしがらみとは、古い慣習とは恐ろしい物だな」


 いや、だからこそ、あの時、『蠕虫洞穴』でリョー殿と対峙した時の自分は、父親であるラマイ子爵の命令に対して明確に抗する事が出来ず、あのような行動で逃避する事しか出来ず、結果として最も不孝な行動を取っていた……


「ミムズ様は、幼少の頃より騎士であるべく育てられ、その為の伝統やしきたりを学んでこられたのです。そう言った考え方が染みこまれているのは当然の事かと、お気になさることは」


 おそらくは、今の自分も逃避なのかもしれぬが、それでも……


「そうかもしれぬな、だが、だからこそ、だからこそ、子爵は魔物により殺められたという公式の記録を承認し、それがすべてだと心から信じるしかないのだ。そうすればすべてが丸く収まるだろう。ディフィー、お前達もそうであってくれ、頼む」


「承知いたしました、プテックとサーレンに対しても、その旨を徹底させましょう。ですが、ミムズ様、もう一点だけ懸念を述べてもよろしいでしょうか」


「なんだ」


「ラマイ子爵は、ミムズ様を御自身の御子として認知されたという事でよろしいのでしょうか」


 認知か……


「子爵は半ば御尋ね者扱いをこの国で受けていたからな、公式な手続きはされてはいないだろうが、御本人が父親であるとの宣言を直接自分になされ、服属を要求された以上は、自分を子と認めたと言えるだろうな」


「それを証言できる方はおりますでしょうか、あるいはミムズ様が見られたという証拠の類は残っているのでしょうか」


 随分と気にするが、どうしたのだろうかディフィーは、まあいい、あの時は確か……


「護衛らしき冒険者が控えていたが、あの戦闘だ、その者が生き残っているかは解らぬな。証拠とされた書類も、おそらくは子爵が持ち歩いていただろうが、いまとなっては『迷宮』の底であろう。いや、あの手の書類であれば、子爵家本家で写しを取って、保存しているかもしれぬな」


 契約書などの類は、万が一の紛失などに備えて、それなりの家や商人であれば記録の出来る『簡易魔道具』などで控えを用意する物だからな。


「であれば、非公式とは言え認知を宣言され、それを証明する証拠が存在するとなれば……」


 どうしたんだ、ディフィーが何か考え込んでいるが、リョー殿との一件の他に何か問題が有ったのだろうか。


「もしか致しますと、ミムズ様にはラマイ子爵家の継承権が発生しておるやもしれません」


「継承権、自分にか、だが自分は私生児、いや認知されたという形になるとはいえそれでもせいぜいが妾腹の庶子と言った扱いであろう」


 認知されたのならば、確かに継承権順位の下位にくらいはなるのかもしれぬが、それも名目程度の物で、幾らでも候補者はいるだろうに。


「それなのですが、以前にラマイ子爵がミムズ様に対しての求婚の願いを、両殿下にされていたのは御存知かと思います。おそらくその時点では、子爵御自身もミムズ様と御自分のご関係には気付いていなかったのでしょうが」


 そうか、そう言えば『鬼族の町』では、そう言った申し出が有ったらしいな。今にして考えてみると、知らなかったとはいえ人の道に外れる行いをする事となりかねなかったとはな。


「すぐにリョー殿の告発により、子爵がアンデッド発生の容疑者となったため、婚約話自体はそのまま無かった事となりましたが。そう言った申し出が有った時点で、パルス殿下は子爵御本人と子爵家の調査を御指示されておりまして」


 身上調査か、確かに自分の婚約者となれば、両殿下にも関係する事となりかねないからな。


 下手な相手であれば、自分を通じて両殿下や御側室の方々等に関する情報が王妃に与する者達に流れるという事になりかねないし、結婚相手の不祥事が両殿下に御迷惑を掛ける事も有りかねん。そう言った恐れがある以上は調査をされるというのも当然か。


「その調査の結果なのですが、子爵は未婚で有ったので嫡子はもちろんおりませんし、調べられる範囲では庶子も居ないそうです、正確には妊娠したとしても出産まで生きながらえた女性が居なかったようです」


「そうか」


 はは様は、そのような状況で生き延びられていたのか。


「また、継承権を主張できるほどの、近親者もまったく居られぬ様なのです。どうやら、ラマイ子爵やその御父上が家督を継がれる際にかなり激しい家督争いが有ったらしく。大半の方が既に死亡され、残られている方も継承権を放棄されて出家されたり他家の籍に入られている方のみとのこと。これらの状況を考えますと、このような形で子爵が死亡されたのでは御家の存続も怪しく、何も手を打たなければ早々お取り潰しになるのではと思われます」


「なんだと」


「子爵家が御家断絶となれば、それに仕える家中の方々は路頭に迷い、多くが浪人となりましょう。それを防ごうと子爵家の家臣が考えれば、御家存続の可能性が高い方法はラマイ子爵の庶子や御落胤を後継者として届け出る事でしょう。そうなれば証拠となる書類が存在し、子爵御本人が親であると口にされたミムズ様は後継者の有力候補と見なされるかもしれません。もちろん、パルス様の調査で見つからなかった御子が他にも居る可能性は十分にありえますが」


 確かに、子爵家ともなればそれに仕える騎士や地方貴族、さらにそれらの者が抱える家人や従者等もかなりの数となろう。それらの者が、自らの立場の保持を考えればあり得る事か。


「そうなった場合、ミムズ様は子爵閣下となられる事となりますが」


「子爵家当主か」


 殿下直属とは言え一直轄騎士風情には、望むべくもない昇格であろうがな。


「いや、有り得んな、たとえそのような話が有ったとして受ける事は出来ぬ」


「ミムズ様、まだ仮定の話とは言えこれほどの重要な事を、そのように簡単に、御自身の御栄達のことなのですよ。ラースト家とラマイ子爵家の二つの家門を継がれれば、ミムズ様は二人の御子にそれぞれの家を継がす事も……」


「ディフィー、自分は畏れ多くもイツェリス国王陛下より騎士に任じられ、一度は断絶したラースト家の継承を許された。その際に陛下に対し、終生に渡って両殿下に忠誠を誓い、身命を賭して二人を守り続け、支えていく事を誓ったのだ」


 御二人の為だけの騎士として姉として。


「ラマイ子爵家とその所領は、我がリューンとは異なる国に属している。自分の剣と忠誠はリューン王家と御二人に捧げられた物。どれほどの高位高禄が用意されていようとも、主を代え、二君に仕える様な真似は出来ぬよ」


 たとえそれが、我が父の家を絶やす事となろうとも、いや、そうではないな。そうか、自分は何を勘違いしていたのだろうな。


「ディフィー、いまになって気が付くというのは、もう遅いのかもしれぬし、このような物言いは騎士としては問題なのかもしれぬが、やっとわかった気がする」


「何が、でございましょうか」


「自分が、ミムズ・ラーストが誇りとすべき血筋、家門、系譜が有るとすれば、それは今まで会った事も知る事も無かった、はは様を捨てた父親を名乗るあの男のそれではなく、はは様から受け継いだラースト家のみで十分すぎるという事だ。はは様、あのサミュー・ラーストの産んだ最初の娘にして、その家名を受け継ぐ後継である、それこそが、それこそが我が最大の名誉であると、やっと気が付く事が出来た、やっと、やっと……」

 

 もっと早く、あの幼き日にそれに気が付けていれば、どれほど……


「ミムズ様」


「いや、いま悔いても詮無き事だ、我らは姫様方の為、我がリューンの為にどうすべきかを考え、行動すべきだからな」


 それこそが、はは様の望まれる事だろうから。


 立派な騎士となり、姫様方を助けていき、ラーストの家名を更に高める。それこそが……


以前のアンケートで、一部、ミムズやマイラスの行動の理由が分からないという方がいらっしゃったので、ネタバラシを入れてみました。

次回もネタバラシ回の予定です。


R1年7月30日 誤字修正しました。

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