438 白と黒の確執
久々の二日連続投稿になります。
周りに聞かせない為か、さっきまでアラの座っていた俺のすぐ隣の席に座り、抑えた声でミムズが話してくるが、内々に話したいってのはアラの成長、あの急成長のことだったのか。
「他の方々は気付いていない、あるいは気のせいだと思っているようだが、『迷宮核』から貴殿と伴に戻ったアラ殿はほんの僅かだが背が伸び、顔立ちが変わっていた、まるであの短時間で数年分の時間を経たかのように。何より『鬼族の町』で会った時と今を比べれば、明らかに年齢が違うからな」
ああ、そっか、ミムズ達はやっぱりアラの事に気付いてたか。
「もっとも、それが無くとも気が付けただろうがな、何しろ自分は『そういう事を可能とする秘術』が実在すると知っているからな」
そうか、そう言えば、リューンの王女達やミムズはリューン王国が公式に発表している実年齢と、実際の見た目の年齢が明らかに違うから、アラと同じ様な事が有るんじゃないかとラクナと話していたっけ。
それなら、アラの事に気付くのも当然か。
「ただ、自分の知るその秘術は、はるか昔にとあるエルフの一族が編み出し、当時の有力エルフ達にのみ伝えた物とされている。以降その術は王族や族長、高位貴族等のごく一部の指導者一族と、その側近となるべく育てられる者にのみ施す事を許され、施す事の出来る術者も術式もそれぞれの国や部族で厳重に囲い込まれている。つまりこの秘術はエルフ族全体で守られているという事だ」
ん、それってもしかして……
「長寿を誇る反面、子の成長が遅く世代交代に他種族よりも長い年月を必要とするエルフ族では、戦いや災害などで家を支える壮丁を失うと、それを回復するまでに長くかかり、その為に家や一族が困窮するという事も少なくない。大人になるまでの期間を残された子が乗り切れられず、家が絶えたという事も珍しくない」
壮丁って働き盛りって意味だったっけ、確かに生産年齢の大人が居なくなると大変だよな。
日本だって子供が小さい時に親が事故とかで亡くなると、母子家庭や父子家庭が困窮するなんて言うのは創作でも現実のニュースなんかでも聞く話だから。
子供時代が長いって事は、それだけ親の庇護を必要とする期間が多いって事だもんな、なのに親の居ない期間が長くなれば、社会保障なんてほとんどないだろうこの世界じゃ子供が危険にさらされるリスクは高くなるか。
「特に、国主や族長の家では一つの家の悲劇ではすまぬ、国主が幼いがゆえに国内が纏まらず国が荒れた、あるいは他国の介入を受けた等という話は枚挙に暇がない」
ああ、確かに歴史や小説なんかでよく聞く話だよな。国王が子供できちんと判断できないのをいいことに大臣が好き放題やったとか、それで国が纏まらない時に侵略されたとか、属国にされたとかさ。
「故にその秘術は、エルフ族の国にて国王が夭逝した直後でも幼い後継者を短期間で成人させて国家体制を維持し続け、人族などの国に後れを取らぬため、あるいは他の長命種族に対して有利に事を運ぶための、重要な要素と考えられ護られてきた」
そっか、より早く成長できるって言うのは、さっき考えたリスクを低減させられるし、同じ問題を抱えている種族に対しては政治空白を作らないって事はアドバンテージになるもんね。
そりゃ秘密にもするか、多分王族やその側近だけにしてるのも技術の流出防止なんだろうな。
本来なら戦争や災害で労働人口が減ったなら、どんどん子供を大人にすれば人道的にどうかは微妙だけど国としては助かるだろうし、直後に戦争とかが有っても何とかなりそうだからね。
なのにそれをやらないのは多分、広く使えばそれだけ秘密が漏れやすいから……
ん、待てよ、それだけの秘密と同じ様な事をアラがしてるって、かなり不味くないか……
「もちろん、アラ殿の使われている術式が、エルフ族のそれと同じ物とは限らぬだろう、膨大な魔力を必要とする術や儀式において『鎮静化』の際に『迷宮核』から放出される『霊気』を利用するというのは珍しい事ではない。それだけで同じ術だと言えはしないし、多くの種族は独自の魔法文化を持っている物だ。だが、過去に同じような術を他種族が使った例はなく、エルフ族には自分達が魔法技術においては他種族に勝っていると自負している者が多い。そういった者達がアラ殿の事を知れば、術を盗まれたと考えることであろう」
確かこの世界だと、流派とかの技なんかを盗んだらそれだけで殺し合いになりかねないんだよね。
「そうなれば、おそらくアラ殿はただではすまぬだろう。いや場合によっては、ダークエルフ族とエルフ族の戦争にすらなるかもしれぬ、盗まれた秘術がどこまで広がっているか分からぬのなら、怪しい者を全て殺し尽くさねばならないと考える短慮な国も有るかもしれぬからな。いや、長い歴史や伝統を持つエルフの国等であれば相手がダークエルフと言うだけでも過剰に反応しかねない」
(確かに有り得る話じゃのう、エルフ族とダークエルフ族の関係を考えれば、十分に考えられる事態じゃ。エルフの歴史の深い家系や純潔の家などでは他種族を見下す傾向の者が多いが、特にダークエルフに対してはのう。エルフの中には自分達から生み出された魔族であるダークエルフを、『一族最大の恥』『種の汚点』と考えておる者も少なくないらしく、一部の部族などはいまだにダークエルフの根絶などと言っておるからのう、戦争を始める大義名分を見つければその妄言を実行に移そうとする部族などもそれなりにおるじゃろうて)
うわ、そこまでかよ、あれでもそれならなんで……
「だからこそ、アラ殿の成長には注意された方が良い、特にエルフ族が近くに居る時にはな」
「忠告はありがたいが、それを言ってしまっていいのか、お前自身は人族だろうが、リューン王国は……」
「確かに、我がリューン王国はエルフ族を中心とした国ではあるが、国王陛下が人族の姫を王妃に迎えられ、ハーフエルフで有られるアクラス殿下が立太子された事からも解る様に、エルフとしての純血を維持するよりも他種族との友誼を優先する国是。少数派とは言え純血に拘る貴族も幾らかは居るが、民の中に多くの他種族を抱えているため、エルフ至上という風な考えが横行しては国が持たぬ。故に本来は敵であるはずのダークエルフに対しても一部門戸を開き、いくつかの条件さえ満たせば入国や居住も可能だ。他のエルフの国よりも、ダークエルフに対する拒否感は強くはない」
(ふむ、確かにリューンほどの広い国土と人口を持つ国では、単一種族のみ、それも人口が増えにくいエルフのみで維持し続けるというのは難しいじゃろうからの、多民族で構成される国にはそれによる国内問題も多いが、種族間の協力を上手く構築できた国では種族に対する偏見は減る物なのかもしれぬな)
(エルフだと人口が増えにくいっていうのはどういうことだ)
(簡単な話じゃエルフだろうと人だろうと生涯の出産数、お主等に言わせれば『合計特殊出生率』とやらは、どの種族もそれほど変わらぬのじゃ、多少の差はあるとはいえ大抵は一生で数人程度。となれば一定の年数での国内の総出産数、そのうちの成人する人数、世代交代の回数等は短命の種族ほど増えるという事じゃ)
ああ、そう言われると解るか。エルフの寿命や成長は確か人の5倍くらいって話だから、エルフの夫婦が子供を産んでその子達が人の二十歳位に成長して結婚し出産するまで百年程度かかるって事だけど、それだけあれば人族なら3、4世代にはなる、それぞれの子供が数人ずつ子供を産むとすれば、百年でエルフと人の人口増加数はかなりの差になるか。
おっと、ミムズと話の途中なんだから、考え込んじゃ不味いか。
「それに人族やエルフ、獣人などの主要国は魔族諸国との停戦に合意しており、軍事費負担の低減や魔族領と始めた交易などで莫大な利益を受けている。これらは一種族のメンツだけで停戦を破棄し戦争を再開できるような規模の利益ではすでになくなっており、場合によっては戦争による魔族との交易停止によって不利益を被った他種族からエルフ族が敵対されかねん」
(まあ、確かに大半の国は魔族国との国境線上に膨大な兵量を配置して睨みあいを続けておるが、戦争していた当時に比べれば負担は少なかろうし、経済面などでは互いに依存していると言ってもいいほどの取引量となっておる国も複数有るからのう。とは言えいまだに仮想敵国のままじゃから、経済面以外では色々と面倒な駆け引きや、戦争にならない程度の水面下での戦いが続いておるらしいがの)
うわあ、めんどくせえ、要は東西冷戦みたいなものって事か。まあでも、本当の戦争に比べればましって事か、なら確かにエルフ族も戦争を始めるわけにはいかないか。
「まして停戦交渉を纏めたのはあの神官長猊下である以上、下手な事をすればライフェル教を敵に回し制裁を受けかねない。国際情勢に理解のあるエルフの国であれば、その程度の判断は出来るので、リューン王国の者がアラ殿の事に気が付いても、過剰な反応はしないだろうが、大半のエルフの国や部族は……」
ああ、ラクナとミムズの話を聞いてる分だと、大半のエルフは創作なんかでたまに出て来る、プライドが高くて他種族を見下してて、自分達だけでまとまって、領内に閉じこもってるって感じなのかな。
もしそうだとするなら、要は、国際感覚の無い井の中の蛙な田舎国家みたいなものだから、周りの迷惑や反応も考えずに暴走しかねないって事か。
うん、エルフには気を付けよう。
(まあ、魔族に対して悪感情を持っており、国際協調よりも優先しかねぬ国や種族等は幾つもおるから、エルフ以外に対しても気を付けるに越した事は無いじゃろうな)
ちなみに、今回の話が直ぐにどうこうという事は無さそうです、ただこう言う布石が有った事は覚えておいて頂けると話の流れが解りやすいかと。
R1年6月21日 誤字修正しました。
R1年7月30日 誤字修正しました。




