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437 元騎士の立場

ちょっと長めになりそうなので二分割します。


「ミムズ、お前達もか」


 ミムズ達だけは、このまま俺達に付いて来るんじゃないかと思っていたんだけどな。その場合はカミヤさんの依頼の秘密を守るために、どうやってミムズ達を撒くか色々と考えてたんだけど。


「ああ、どうやらキテシュ卿や『百狼割り』殿らも、戦利品の換金が終わり次第この地を離れるらしいのでな。自分達も同じように商会と子爵家領府への手続きが終わり次第離脱させて頂きたい」


「これからどこに行くのか聞いても良いか」


 きっとサミューは知りたがるだろうから。


「まだはっきりとは決めてはいないのだが、出来るだけ早く直近の国境へと向かい、そのままムルズ国外へと出るつもりだ」


 はっきり目的地が決まってないのにともかく国境へ向かうって、なんかこの国にこのまま居るとヤバいみたいな感じに聞こえるな。


 もしかして俺の知らない最新の情報をミムズ達はなにか仕入れたりしたんだろうか、それこそ神殿でも対処しきれないレベルの『活性化』が迫ってるとかだったりしないよな。


 しかし、もしもそう言った理由でミムズ達がこの国から逃げようとしてるのなら、俺も状況の変化に注意した方が良いのかも、いやそういった理由で出国するのならミムズも俺達に忠告してくるはずか。


「自分達がこれ以上この国に居てはあらぬ誤解を招き、場合によっては祖国やひいては両殿下の御立場に影響しかねないからな」


 ん、なんでそうなるんだ、ミムズがこの国に居ると政治的かそれとも外交的にまずいって事か。


「もともと自分達は、ムルズ国内で戦争が近づいていると聞き、そうなれば『迷宮』に入る戦力が居なくなり、『迷宮』の管理が十分に出来なくなれば『鬼族の町』でのように、増えた魔物が『迷宮』から出て民が脅威に晒されるのではと思い、一冒険者として少しでも助力できればと、そうすれば立派な騎士に少しでも近づけるのではと、それでこの国へ来る事としたのだが」


 ああ、それはとってもミムズっぽい理由だな。


 元々『鬼族の町』の周囲での一件だってこいつには何の義務もないのに魔物の討伐を始めたんだし、あの時の事を、オーガから村人を守り切れなかった事を気にしてるんだったら、同じような状況になりかねないこの国を見逃せるはずはないか。


(ふむ、確かにそう言った理由で有れば、この地に居る理由はもうすぐ無くなるじゃろうな)


 ん、それっておかしくないか、今は『活性化』の迫った『迷宮』がそこら中に有るんだから、ミムズがここに来る前よりも危機的な状況と言えるんじゃないか。


(確かに今現在は危険な状況ではあるが、既に神殿と貴族軍が一時停戦を決めて、この地方へと戦力を派遣しておるという話じゃったろう。まあ、流石に同じ『迷宮』に対立する両陣営の戦力が向かうという事は無いじゃろうがの。とは言え戦争に備えて準備をしていた集団がそのまま移動してきたのじゃから、大半の『迷宮』に関しては対応が始まっておろうし、それが終わり次第まだ対処が進んでおらぬ『迷宮』にも手の空いた戦力が移動する事じゃろう。そうなれば、おそらく討ち漏らしは有るまいて、ライフェル教としては戦争にかまけたために、本来の教義である『迷宮』の管理がおろそかになったなどと言う失態は絶対に犯す訳にはいかなかろうし、貴族達にしても、自分達の領地が『活性化』で荒れてしまえば戦争どころではなく、派閥での付き合いなどから、自領の『迷宮』が安定しておる領主も援軍を出さざるを得まい)


 あれ、でもそれならさっきの『百狼割り』の話はどうなるんだ。


(確かに兵の派遣の順番が後回しにされる『迷宮』や、援軍の派遣に伴い政治面で不利な取引や、対応の為の経済的な被害などで影響を受ける貴族等は多いじゃろうが、最終的には全て対応される事じゃろうて、つまりはこの地域一帯の『迷宮』の大半は『鎮静化』ないしは『活性化の鎮圧』が行われるという事じゃ。そうなればこの地の『迷宮』はどれも『休止期』になり魔物は狩りつくされ、その脅威は殆ど無くなる、ミムズはそれを予想しておるのじゃろうて)


 となると、確かにミムズがここに居る理由の大半は解決しているか、『迷宮』関連で民間人が魔物の被害に遭う可能性は低いし、ピリム・カテンに関する一件も『蠕虫洞穴』の『鎮静化』が終わったから後はカミヤさん次第だし。


 でも、本当にミムズはそれでいいのか。


「カテン卿の一件の解決のためとはいえ、自分達はフレミラウ法師と長期間共に行動してしまった、また『鬼軍荘園』でもライフェル教のコンナ殿や僧兵の方々と共に戦っている。更にはこの国に入る前には『鬼族の町』でラッド法師の第一僧兵団と協力して戦い、その際に神官長猊下から御言葉すら授かっている。通常であればどれも名誉な事に違いないが、今のこの国の状況ではな」


 ああ、そう言われるとそうだよね、『活性化』騒ぎが終われば、また神殿とムルズの貴族達は睨みあいを始めるんだろうから、そんな状況下で、ミムズの今の話を知れば……


「神殿と対立する貴族達が疑心暗鬼に捉われれば、ムルズ国内で行動する自分は何らかの密命を受けて神殿に協力しているように見えるかもしれない。そしてその疑念が両殿下と結び付けられるような事となれば、リューン王国の王族が他国の内乱に干渉しようとしていると取られかねず、事は外交問題から更にはリューン国内での権力闘争にも影響しかねない。それだけは、それだけは何があっても、たとえ何を犠牲にしようとも、それだけは何としても避けねばならない。自分のせいで両殿下の御立場を危うくするわけには断じていかぬ、でなければ何のために母様は……」


 うん、確かにありそうな話かも、一応ミムズはリューンから追放されて無関係って事になってるらしいけど、それも一時的な物だろうし、何よりここに来る直前に追放されたってのが逆に怪しく見えるよね。


 ほら昔のスパイものなんかのお約束の言葉で『君、もしくは君のメンバーが捕えられ、或いは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで』ってやつ。


 捕まった際に所属がわかると政治的に不味い人間が、表面上無所属になるっていうのはある意味定番だから、追放扱いになってるって事が、ミムズのスパイ疑惑の信憑性を高めてそうだよな。


 しかし、何を犠牲にしようともか……


「わかった、残念だが仕方ないだろう。今までありがとう、ミムズ達が居てくれたおかげで助かった戦闘が幾つもあった」


「こちらこそ、いい経験をさせて頂けた、それと出来れば内々で話をしたいのだが」


 ミムズの言葉を聞いていたのか、それに合わせる様にフレミラウ・トレンが席を立つ。


「施主殿、申し訳ないが、拙僧の弟子めが宴席で羽目を外しておらぬか見ておきたいので中座いたします。この席の料理もだいぶ少なくなってきた事ですし、席を立ったついでに何か精進物でも見繕ってまいりましょう。アラ殿、リョー施主に合った料理が何かないか探すのを手伝っては頂けませぬか」


「うん、いいよ、美味しい物いっぱい探してくるから待っててねリャー」


 アラも状況を察したのか、俺の横の席から跳び下りて宴会の中心へと走って行く。


「よい御子だなアラ殿は、物分かりがよく、何より貴殿の事をよく理解し貴殿の事を思って行動されている。あの頃の自分とは大違いだ……」


 ミムズがどこか遠くを見るみたいな感じでアラ達の後ろ姿を見送っていると、すぐに他の皆がその周りに集まり出す。


 まだ食べ続けているミーシアとトーウが、食べ物を手に持ったままアラを囲むように立って一緒に料理を探し出すと、ハルも何かぶつぶつと文句を口にしながらそれに続く。


 そしてサミューが一歩下がったところに立ち、優しげな微笑みを浮かべながらみんなを見守っている。


「幸せそうだな、ほんとうに……」


(まあ、歴代『勇者』の半数以上は、異様に奴隷に甘く接する物じゃったが、お主も例にもれずなかなかの甘やかしようじゃからのう。中には正反対で苛烈な者もおったが……)


 先ほどと同じ、何か手の届かない遠くを見つめるような目つきで会場を見回していたミムズが俺に向き直る。


「だからこそ忠告しておきたい、アラ殿の成長について」


続きは多分明日……

R1年7月30日 誤字修正しました。

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