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436 美味い話と良い話

「おいおい、そいつはマジかよ『耳無し兎』」


 ん、なんだ向こうが騒がしいな、あそこにいるのは『百狼割り』とコウなんかの比較的上の方の舎弟連中だけど。


「へい、どうやらイーワミ男爵領の『人狗銀鉱』も今回の連続活性化を食らった一つらしいんですがね、その『迷宮核』がそろそろヤベエらしいんでさあ、おそらくは後二、三か月ってところですかねえ。でもって『活性化』する前に『鎮静化』しようってのに大規模討伐の戦力が全然足りねえってんで、金をバラ撒いて人を集めてるらしいですぜ」


 うん、なんかテトビを囲んで儲け話をしてるっぽいな。『百狼割り』はこの機会に他の『迷宮』の討伐にも参加するって言ってたから、それについての話か。


「あそこの『迷宮』は名前の通り良質の銀が取れやしたから、例の食糧買い付け騒動の後でもかなりの資産が男爵家にゃ残ってるって噂ですんでね、雇われた際の待遇は間違いねえはずですぜ。なにせ神殿との戦争に出すつもりだった金を、御家の大事が優先って事で『大規模討伐』のほうにそっくり回すみてえですからねえ。ついでにいやぁ、過去の大規模討伐のときにゃ、参加した冒険者は持てる範囲での銀鉱石の持ち出しが認められてやしたから、多分今回も……」


 というかあのペテン師はいつの間にこういう情報を仕入れてるんだろ、今回の討伐じゃ俺達と一緒に行動してたはずだよね。


 いやそう言えばマイラスを撃退した後辺りからアイツの声を聴いてないような気もするけど、それでも、短期間のはずだよな。


「それと、コイツはここだけの話なんですがね……」


 話の途中でテトビが右手の親指で人差し指と中指をさすりながら言葉を濁すと、『百狼割り』が舌打ちをしながらポケットをまさぐる。うわあ、あの野郎あからさまな要求してやがる。


「このお調子者が、これでいいか」


 金貨一枚と数枚の銀貨を『百狼割り』が投げ付けると、危うげなくそれを全部キャッチしやがったよ、多分『百狼割り』はテトビの顔面にぶつけるくらいのつもりで投げたっぽいのに、よく取れたな。


 金にがめついと、そう言った反射神経もよくなるのかな。


「ありがとうございやす、ですが金貨に値する情報なのは間違いありやせんぜ。先ほども言いやしたが人が集まんねえってんで男爵家も相当焦ってるらしいでさあ。まあ、当然でしょうがね、なにせ近隣領地でも『迷宮』がヤベエ事になってて、『鬼軍荘園』みてえに『活性化』しちまった『迷宮』を抑えなきゃなんねえってので、ここら辺の軍隊や騎士団は精いっぱい、てなもんでまともな援軍はこれっぽっちも期待できやせん。しかも、その煽りでめぼしい冒険者なんかはとっくに他の領地に雇われてやす。派閥の絡みで戦争に前のめりだったせいで、神殿や中央の動きにばっかり気を取られて、御膝元の『迷宮』対応が他の貴族家よりも遅れちまって、探しても人が足りねえ足りねえ」


「おいおい、てことは俺らが雇われても、少人数で化け物の群れに突っ込まされるって事じゃねえか」


「おおっと、話は最後まで聞いてくだせえ、そんな状況ですから、戦力を集めるのに必死らしく、金に糸目を付けねえで新人冒険者だろうとなんだろうと雇いたがってるんでさあ。そんなところに『鬼軍荘園』での活躍に加えて『蠕虫洞穴』の攻略なんて言う、派手な実績を上げた、しかも纏まった数の冒険者集団なんてのがやってくりゃ、男爵家は幾らでも出すんじゃねえですかい。今なら旦那の価値はうなぎ登りで値千金って奴ですぜ」


「いや、だからよ、幾らなんでもあぶねえだろ、もうちょっとマシな雇われ先はねえのかよ。そりゃとっくに戦力の揃ってるとこじゃ契約料も買いたたかれるだろうがよ、もうちょい手ごろで楽な所はねえのかよ」


「ですから、ここがおすすめなんでさあ、コイツはまだ内緒にしといてくだせえよ。実は反神殿貴族の金蔵なんて風に言われてるイーワミ男爵に貸しを作りてえ、さる偉い御方が『人狗銀鉱』に戦力を派遣する準備を内々に進めてるらしいんでさあ。それこそ、その御方の配下だけで十分に『鎮静化』が出来ちまうぐれえの戦力をね」


「一つの武装集団単体で『活性化』の迫った『迷宮』を『鎮静化』だと、そんな事が出来るだけの力が有って、この辺りで動かせるってのはまさか」


「ですから、『反神殿貴族達の金づるの一つに恩を売りてえとある御方』でさあ、色々と憚り(はばかり)が有りやすんで今はまだ、何処どこ何方どなたとは言えやせんがね」


 一瞬、『百狼割り』達とテトビの目線が、同じ方向に動いて俺達の方を見たようだけどどうしたんだ、こっちには俺やフレミラウみたいな菜食の人しかいなくて、キレイどころはみんな反対側だってのに。


「それがマジなら確かに安全なのは間違いねえが、有り得ねえだろう。いくら恩を売りたいって言ったってよ、あの男爵家は宰相の派閥だろ、それじゃあ敵を助ける様な物じゃねえか」


「だから、ここだけの話なんでさあ。まあ、あっしは誰が戦力を派遣するかなんてのは言っていやせんし、旦那方も聞いてねえ、政治や外交の難しい話なんざ下手に知れば首が飛ぶだけですからね。まあ、『ここだけの話』とか、『旦那にだけ教える事』だとか、『とある筋から入手した秘密の話』、なんて言い方は詐欺師の常套句ですがね、こいつは正真正銘の『うまい話』って奴ですぜ。とは言え期限付きですがね、何せ戦力の派遣が本決まりになって男爵家に通達されりゃ、男爵家はわざわざ自腹を切って冒険者を雇う必要が無くなりやすからね。ですが、そうなる前に旦那が男爵領に辿り着いて、言い値で男爵家と契約を結んじまえばこっちの物、一度決まった契約金を状況が変わったからって勝手に破棄できるもんじゃありやせん、寝てたって成功間違いなしの美味しい仕事ですぜ」


「どこからこんな話を仕入れたかは聞かねえが、俺らに話した理由はなんだ、こんなネタならもっと金になるはずだろ。なにを狙ってやがる」


「大した事じゃありやせん、あっしはただ単にイーワミ男爵に()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()だけでさあ、貴族様がいくら金を貯め込んでても、戦争で使ってもあっしには銅貨一枚の儲けにもなりやせんからね」


「その点、俺らが男爵様にやとわれて儲けりゃ、その幾らかがこの先テメエから情報を買う支払になるってか、良いだろうその儲け話のった。オメエ等この飲み会が終わったら、移動の用意をするぞ、いいな。明後日に戦利品の買取りが終わり次第、移動だ」


 なんか、『百狼割り』達はテトビに丸め込まれて、明後日にはもう出発する事になったみたいだけど、いいのかな。本当なら攻略が終了した祝いの宴会を俺が主催するはずなのに、それより前に出発って。


(本人達がそれでよいと言っておるのじゃからよいのじゃろうて、それにある意味ではこの宴席がその代わりともいえようしの)


「おお、カン・キテシュ卿こちらに居られたか」


 ん、なんだ向こうじゃクリグ・ムラムが『四弦万矢』に話しかけてるけど、アイツら面識有ったっけ。あ、有ったな『鬼軍荘園』での防衛戦じゃクリグ・ムラムの隊は俺達の持ち場のすぐ近くに居たし、協力して戦ったりもしたからな。


「ムラム卿、先般の鎮圧戦ではお世話になり申した」


「いや、それはこちらこそ、貴殿の弓には小官を始め我が家中の郎党も助けられました。その節は、緊急の状況であったとは言え、正式な礼も無いまま戦闘となってしまい、そのまま正当な権限もなく貴殿の協力を要請するような真似をしてしまい失礼いたしました」


「いえ、あの状況では仕方ありますまい、お気になさらず。こちらこそ要請を頂きながら十分にお役に立てず申し訳ない。卿の指定された目標であるゴブリン・カーネルを狙撃する事が出来ず結局は、『虫下し』殿に危険な突撃をさせる事になってしまい」


「そちらこそ、お気に召されるな。結果としてカーネルを仕留め、更に『鎮圧』自体も成功した以上、問題は有りますまい」


 な、なんか随分堅苦しい話をしてるなアイツら、いやどっちも真面目そうなタイプだからああなるのかな。


「それで、某に何か……」


「おお、そうでありました、実は先日、国元より小官に指示が有りまして、『四弦万矢』ことカン・キテシュ卿とそのパーティーの方々、および庇護下に有られるピリム・カテン卿に対して、ライワ伯爵領の領府にもしも皆様方が向かわれるのであれば、本来の役務に支障の出ない範囲での便宜を図るようにと。とはいえこれは正式な招待でも、ましてや強制力の有る召喚や連行の類でもなく、あくまでも貴殿らが望まれるのなら可能な範囲で対応すると言う物と心得られよ」


「そ、それは、ムラム卿……」


「聞く所によれば、貴殿らは当家の領府に対し願い出たき議が有るとのこと。小官はその内容も存ぜず、貴殿の願いが通るかも解らぬが、少なくとも領府に役を与えられた官のいずれかが、貴殿らの言葉を聞く意思を示しているのは間違いないでしょう」


 ん、これはアレか、フレミラウ・トレン経由で神官長さんに頼んだ俺の手紙を読んで、カミヤさんが対応してくれたって事かな。


「詳しくは言えぬが、リョー殿は当家の領府からの重要な依頼を何度も達成されているとの事で、在野の冒険者でありながら伯爵閣下への御目通りも適った方。そのリョー殿の口利きが有るのであれば、まして貴殿のような高名な騎士の願いであらば、国元も悪くはしないであろう。このクリグ・ムラムめも、短期間とは言え一度は同じ戦場で肩を並べた身、貴殿の願いに対しての書状を一筆したためる事もやぶさかではないのだが」


「そこまで言って頂けるとは、かたじけない」


 なんか、騎士同士で感じ合う所が有ったのかな、ずいぶん意気投合してるけど。


「もしも貴殿らが急がれるのであれば、『迷宮攻略』も達成なされた事であるし、あちらの『百狼割り』殿と同じ様に、この地での諸手続きが終わり次第、小官等と共にラッテル子爵領に向かわれてはいかがか。小官は御役目の関係上、当地にて数日ほど滞在いたすが、その間にもしも用意が整うのであれば、同行なされては。子爵領まで行かれれば、かの地と伯爵領の間は、現在定期的に伯爵家の隊商が行き来しておりますので、その馬車に同乗すれば、比較的日数を掛けずにライワ伯爵領に着けることでしょう」


 あ、それならついでにアラと俺の装備についてのお願いの手紙と素材を運んでもらおうかな。


「かたじけない、ムラム卿さえ問題なければ、ありがたくお言葉に甘えさせていただきたい」


 ああ、『四弦万矢』としちゃ俺との約束が済んで、とりあえず手打ち自体は完結したんだから、次はカミヤさんの許可を貰ってカテン家の名誉回復を図るのが次の目標になるんだよな。ピリム・カテンのこれからの事や生活もかかって来るんだし、出来るだけ早く事を進めたいのかな。


 まあ、でもカミヤさんなら色々と状況を利用はするだろうけど悪くはしないだろうから、これであいつらとの一件もほぼ解決かな。


 まあ、今はそれ以上の問題が有るんだけど……


「リョー殿、少しよろしいだろうか」


「ミムズか、どうしたんだ改まって」


「すまないが自分達も明後日にはここを離れたく思うのだが」


R1年6月13日 誤字修正しました。

R1年6月15日 誤字修正しました。

R1年7月30日 誤字修正しました。

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