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423 薬


「ミムズッ」


 背面に崩れ落ちようとする体まで一気に駆け寄って、滑り込むように真横にしゃがみ込んで抱き起す。


「姉さま」


 俺と同じ様に駆け寄ってきていたプテックが俺の隣に来て、ミムズの身体を軽く揺するが何も反応しない、こうして近くで見ても呼吸をしているような様子はないし、顔色もどんどん青白くなって行ってる、多分脈も無いだろう、今もミムズの胸に突き刺さっている剣の位置を見ればほぼ確実に心臓を貫いているはずだ。


 いや、そうだ……


「プテックこれを使え、ミムズに飲ませろ」


 右手を『アイテムボックス』に入れて『聖馬の不苦無痛丸』を取り出してプテックに差し出す。


「でも、もう」


 俺の手の中の物を見た後で、涙を流しながら諦めたような表情を浮かべるプテックに思わず声を荒げてしまう。


「『四弦万矢』の言っていたことを思い出せ」


「あ……」


 前にアラが『四弦万矢』から技を教えられた時に言ってたはずだ、たとえ心臓を潰されても、直後に高レベルの魔法薬や回復魔法を使って対処すれば、脳が無事なら、まだ助かる可能性が有るって。


 あの時は、だから確実に仕留めるなら頭を狙えって話だったけど、逆に考えれば、心臓だけの傷ならまだミムズは……


「これ、いいの」


 多分『聖馬の不苦無痛丸』の希少性や価値を理解しているから躊躇したんだろうけど、それどころじゃないだろ。


「そんな事を言ってる場合か、早く使え」


「わかっ、た」


 プテックが丸薬を口に含んでから、青白いミムズの顔に自分の顔を寄せて唇を合わせ、そのまま噛み砕いた薬を流し込んでいく。


 口の端から赤味の付いた唾液が零れてるって事は、口の中を噛み切ってプテックの血も飲ませてるのか。


「何をしている、『虫下し』がそこに居るんだ、狙え、撃て」


 マイラスが叫ぶ声に合わせる様に合わせて冒険者たちが武器を構え直す。


 ふざけるなこんな時に、クソ、このままじゃ回復途中のミムズやプテックも巻き込まれる。


 何も考えないまま、とっさに俺に代わってミムズを抱えているプテックを背後に庇うように、マイラス達に向かって仁王立ちになり盾を構えていた。


 いや、だがこれでいい、再生能力の有る俺なら、盾代わりになって数十本程度の矢を受けても死にはしない筈だ、なら。


「させませんわ、『風砂陣』『落雷陣』」


「リャーの邪魔しちゃめーなの、『雷乱域』『制圧射撃』」


「い、行きます、わ、わああああ」


 俺のすぐ横を数本の矢が飛んでいき一本が太腿に刺さる中で、岩壁の内側から、ハルとアラが遠距離攻撃で相手の射手を牽制し、同時にミーシアが盾を前に構えたまま、岩壁の陰から一気に駆けだす。


「え、ええええい」


 ミムズの数歩手前で踏み切ったミーシアが盾を前方に向けたままで跳び上がる。


「あああああ」


 俺達の頭上を重装備の巨体が跳び越えていき、俺の前に着地すると同時にミーシアが盾と剣を掲げ、鎧の胸甲も使って飛んできた矢や礫を弾き落とす。


「リョー、太腿の矢を抜きましたら、そのままミーシアと一緒にそこの二人を連れて此方までいらっしゃい、今はわたくしとアラの魔法で牽制できてますけれど、相手に体勢を立て直されて、そのまま半包囲されてしてしまいましたら、ミーシア一人では全方位を防ぎきれませんわよ。早く戻って来なさい」


 そうか、そうだな、考えなしに飛び出してきたが、俺たちはほぼ無防備な状態で狙われてるんだ、このままだとミムズの回復もおぼつかないか。


 呑ませた薬の効果で傷が塞がって行くのに合わせて、プテックが胸に刺さってた剣も抜いたみたいだし、これなら動かしても大丈夫そうか。


 それなら敵の真ん前よりも、岩壁で守られた場所で手当てをした方が良いか。


「解った、プテック行くぞ」


「わた、しも、ふせぐ、姉さま、おね、がい」


 プテックがミムズをその場に寝かせてから、ミーシアの隣に並んでやや姿勢を低くし半身になり『怒燃の爪盾』を構える、更にミーシアの盾との間から『空裂雷轟の角牙剣』を突き出して、俺達を狙おうとしてる敵に斬撃を飛ばして牽制しだす。


 盾の小さい俺じゃあの二人みたいな安定した壁役は無理か、プテックが寝かせたミムズの横に跪き、背中と膝の裏に手を回して横抱きにして立ち上がろうとする。


「リョー、貴方の身長で立ち上がってしまいますと、ミーシアはともかくプテックの盾の陰から頭が出て、敵から狙われてしまいますわ、もっと姿勢を低くなさい。しゃがんだまま抱いて運ぶのが無理なら引きずってでも、こちらに連れてらっしゃい。ミーシア、貴方の盾の大きさでも普通に構えたのでしたら前身は覆えないのですから、貴方も姿勢を低くなさい、相手に狙撃手がいれば的ですわよ、地面と盾の隙間から足元を狙われるのも注意なさい。プテックもですわ、あなたの盾では上半身と腰ぐらいまでしか覆えませんもの、ミーシアより前に出ないようにして、二人でゆっくりリョーに合わせて下がりなさい」


「は、はい」


「わか、った」


 壁の内側から発せられるハルの指示に従ってミムズを抱き上げたまま身を屈め、ミーシア達の盾の陰に入りながら後退する。


「リョー殿、支援いたします」

 

 ディフィーさんとサーレンさんが壁の内側から魔法を放って、ハル達と一緒に牽制し始める。よし、相手側から飛んでくる矢がかなり疎らになってきてる、今のうちに。


「ディフィー、ミムズを頼む」


 岩壁の内側まで一気に駆け抜けて退却し終えて、意識の無いミムズをディフィーさんに渡そうとしたら、サミューが手を伸ばして抱きしめる。


 そうだな、この状況なら魔法で撃ち合えるディフィーさんは動けるようにしておいた方が良いか、いやこれはそんな判断から来る行動じゃなくて……


「ミムズ、ミムズ、お願い目を開けて……」


 まるで縋りつくかのように、意識の戻らないミムズの身体をかき抱き、涙を流し続けているサミュ―の姿に、剣を握る手に力が籠る。


 なんでだ、なんでこんな事になってるんだ、マイラス、全てはあいつが、アイツが。


「ミーシア、鉄球を使いなさい、貴方のあの攻撃でしたら相手が隠れている物陰ごと、いいえいっその事周りの壁や天井を崩してしまいなさい」


「ハ、ハル様、で、でもそんな事しちゃったら、こ、こっちも崩れちゃうんじゃ」


「心配いりませんは、ここは只の洞窟ではなく『迷宮』ですもの、多少の事では大規模な崩落など致しませんわ。右側の敵を狙いなさい」


「わ、わかりました」


 俺と一緒に岩壁まで退却していた、ミーシアがハルの指示通り大剣を鉄球に持ち替えて振り回し、敵集団の頭上に向かって投げる。


「じょ、冗談じゃねえぞこんなの」


 天井から大きな岩や石が降り注ぎ、それに何人かが潰されて血塗れの手だけが残されたり、拳大の石の直撃を頭部に受けて負傷したりでかなりの被害になってるな。


 あいつらは物陰から撃ってきてるからこっちの射撃や魔法は当たりにくいが、頭上は無防備だったから効果的か。それならこのチャンスを生かしてアイツを……


「俺はこのまま斬り込む、ハルの指示で突撃の支援を頼む」


 マイラスをこのままにはしておけない、今度こそここで奴を、サミューとも約束したし。


 いや、そうじゃないな、俺がアイツを殺したいから……


「解りましたわ、リョー、貴方はわたくしの範囲魔法に合わせてミーシアの崩した一帯を攻めて頂戴、今でしたら向こうも混乱してますし、それに逆方向にはトーウが行ってますから、貴方も巻き込まれかねませんもの」


 トーウが、ん、よく見るといつの間にか、天井に上って冒険者たちの頭上に、暗さと『隠密』スキルで気付かれてないのか。


「ん、雨いや、滴か、ぐがあああ、目が、目が」


「肌が、灼けるううう」


 トーウが天井からばら撒いた毒液が降り注ぎ、それを浴びた冒険者達が目や顔を押えて崩れ落ちていく。血を吐き、焼けただれた顔で苦しむ冒険者達を見て、ざまあみろと言う言葉が思わず口から飛び出しそうになる。


いや、今は何の効果も無い言葉よりも、実際の行動で更に相手を押し込むべきだ、アイツらを……


「行ってくる」


「リャー、がんばってね」


 ミーシアとトーウのおかげで、向こうからの射撃がほぼ止まった、今なら一気に距離を詰められる。『軽速』を使いアラの声に押される様に一気に駆け抜け、剣を構える。


 後方からの支援射撃を受けながら、距離を詰めて、相手が隠れている岩を跳び越えて着地と同時に斬りかかる。


「クソ、ガッ」


「『虫下し』、この野郎っ」


 すぐ近くに居た相手の喉元を横薙ぎに切り、そのままの流れで、隣に居たもう一人を逆袈裟に斬り上げる。人型の相手との戦いは、ここ最近、ゴブリンや他の鬼を相手にで散々やって来た、より確実に短時間で仕留められる急所がどこか、どう戦えば狙いやすいかは、体が覚えている。


「リョーが斬り込みましたから、無差別な広範囲攻撃はここまでですわ、トーウ、敵の少ない所へ下りて接近戦に持ち込んで戦いなさい、ミーシアも前に進んでちょうだい、アラはまだ反撃される恐れが有りますからしばらくは魔法と弓で狙撃しながら、わたくしと一緒に支援しますわよ。サミュー、いつまでそうやって惚けているつもりですの、このまま戦いが続いていては治療も満足に出来ませんわよ、リョーの薬で危険はひとまず脱したのですから、まずはこの場を落ち着かせる事を考えて頂戴、万が一にも負けてしまえば、その娘だけでなくみんなが危険になりますのよ」


 後方からハルの指示が飛び続け、みんながそれぞれ動き出して前進し、俺の周りでも何人かが戦い初め、敵方の冒険者が次々と討ち取られていく。


「貴方達も、前に出れる様に壁を作りますわ『岩壁結界』」


 ハルの魔法によりみんなの所から俺達の少し後方辺りまで十数枚の岩壁がまばらに立ち上がり、プテック達がそれらを縫うようにして、まだ何人か残っている敵の弓を警戒しながら前進してくる。


「クソ、今度こそ勝てるはずじゃなかったのかよ」


「話が違うぞ、相手側に内通者がいるって話はどうなったんだ」


「こんな負け戦やってられるか」


 徐々に敵の冒険者が逃げ出しているけど、離れていく背中の一つに、見覚えのある金髪が、またか、また逃げるのか、マイラス。


「今度こそ逃がすか、ハル、この場で指示を出して残敵を掃討、一人でも多く仕留めろ、敵が片付いたら死骸の処理とミムズの治療をしながらここで待機しててくれ、薬でも魔法でも好きに使って構わない」


「リョー、自分の言っていること本当に解っていて、随分と似合わない物騒な物言いですけれど。まあいいですわこの状況では必要な指示ですもの、承知いたしましたわ。それで、リョー貴方自身はどうなさいますの」


「奴らを追う、なんとしてもここでケリをつける」


 あいつを逃がしたら、また性懲りもなく俺達に仕掛けてくるはずだ、そして多分その度にサミューやミムズが、巻き込まれる事になる。


 何よりも、もう決めている。


「何があっても、アイツは生かしてこの迷宮の外には出さない」


という事で、前回のはエイプリルフールネタでなくガチでした。

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