420 不穏な記憶
今回と、次回は短めになります、どちらとも傭兵ラックの視点です。
~傭兵ラック~
「あああ、痛い、痛い、腕が、俺の腕があああ、くううう」
たっく、少しは静かに出来ねえのかねえ、いくら大金を払って村ごと買収したって言ったってよ、俺らが御尋ね者だって事は変わらねえんだからよ。
俺らがここに隠れてるって、事がどこかの貴族にでもバレりゃただじゃ済まねえどころか、軍隊がわんさか来たっておかしくねえってのが解ってるのかよ。あんな叫び声を上げてりゃ村の外を通り過ぎるような連中だって気付いちまうだろうに。
「兄貴、あの貴族様をどうなさるんで、『虫下し』の襲撃にミスった後、やっとこさ半数程度が『鬼軍荘園』の外に逃げ出して、『虫下し』やその取り巻き共がチクる前に『迷宮』を囲んでる貴族軍を誤魔化してあの領地を離脱出来やしたし、それからは足が付かねえように裏街道を使って何とかここまで来たってのに、あんなふうに騒がれてりゃ、どれだけ隠れてたってすぐにバレやすぜ」
だよな、俺らが『鬼軍荘園』で『虫下し』を襲ったって話は、とっくに貴族軍には報告されてる頃だろう。
そうなりゃ幾らバカ様が子爵だって言ってもタダじゃ済まねえ。少なくともこの国の中にいる間は、俺らはいつ殺されたっておかしくはねえんだ。
命が惜しいならすぐにでも国境を抜けて、ムルズ王国の貴族共が手出しできねえところに逃げるか、でなきゃ首謀者のバカ様を囮にして、俺らだけでとんずらってのが一番なんだがよ。
「御尋ね者になって、信用の無くなった俺らはこのままじゃ傭兵として働こうにもまともな雇い主は見つからねえ。盗賊にでもなってそのうち縛り首なり晒し首ってのが関の山だ。俺らがそれなりの生活ができるシノギを得るにゃ、バカ様の持ってる『薬師』のツテに頼るしかねえ」
「あんな状態のバカ貴族に何が出来るってんですかい、切り落とされた腕はもうとっくに生えて、痛みはねえはずだってのに、あんなガキみてえに泣き叫びやがってよ。せっかくの『魔道具』がもったいねえ、部位欠損、それも切り落とされた部位が回収できなかったのに簡単に生えちまう様な、強力な回復効果を持った『魔道具』ならそれだけで数十人が一生遊んで暮らせますぜ」
まあ、確かにバカ様から耳飾りを奪って逃げるってのも選択肢の一つではあるか。とは言えいくら金が有っても、御尋ね者のままで、後ろ盾が無いんじゃ枕を高くして眠れねえからな。金がうなるほどあっても一切使えねえで見て楽しむしかねえって状況は笑えねえからな。
「なに、もう少ししたら黙るはずだ。バカ様の装備にゃ『狂耐性』の効果もある、どんだけの状況でも狂う事はねえから正気でいられる。そのうち落ち着くだろうさ、あんなんでも貴族様だイザって時にハッタリを利かせられる身分やコネっていうのは、本人が生きてるから役に立てられるもんだろ。まあ、最悪でも生きてさえいれば何とでも使いようはあるだろうさ」
あのバカ様が、どうしようもねえのなら耳飾りの『魔道具』を頂いてから、薬かなんかでボケさせちまえば俺らの都合のいいお人形の完成だ、子爵家のコネや商会の販路をせいぜい利用させてもらうさ。
後は、『虫下し』さえ仕留められれば『薬師』が何とでもしてくれるはずだ。
『虫下し』の奴は確かに手ごわいが、無敵って訳じゃねえ、この間の襲撃では雷撃も毒も大して役に立たなかったが、見てた分じゃ全く効いてねえわけじゃなかった。
僅かな時間だが奴の動きは鈍ってたからな、多分、奴は耐性がある訳じゃねえ、毒や痺れからの回復が早いだけだ、ならそのわずかな時間で次の攻撃を畳みかければいい。
あのダークエルフのガキだって確かに強いが、毒を丈夫な服で防いでいたって事は生身では耐えれねえ、肌に毒が当たってさえいれば、効果があるって事だろうさ。なら、毒を掛ける方法なんて水を撒くなり煙を吸わせるなり幾らでもある、でなきゃ油断を誘って薄着の時を毒矢で狙っても良い。
熊のガキにしろ、魔法士の小娘にしろ、対策を練れば攻め方は幾らだって有る。
問題はそれを有効に使える攻め時を見極める事、それと今回みてえに途中で余計な邪魔が入らねえようにする事。
後は、手練れの助っ人の二三人でも用意出来りゃ、『虫下し』のパーティーだけなら何とか……
「クソ、クソ、サミュー、サミューあの奴隷風情が、こんな真似を仕出かしやがって、ただじゃ済まさない、十数年前の俺の奴隷だった時のように生まれてきた事を後悔させて、いや、あれ以上の目に合わせてやる」
ああ、バカ様の声がデカくてこっちの考えが纏まんねえな。
とは言っても、あのバカをあんな状態で一人放っておけば何をしでかすか分からねえし、下手に手下共にアレを見張らせてると、うるせえ声にイラついた考えなしの雑魚が暴走して、バカ様を殺しかねねえもんな。
あれでも生かして手の内に置いとくことに価値が有るんだから、今はとりあえず俺の目の届く範囲に置いとくしかねえか。
「あの女もだ、ミムズ・ラースト、たかが騎士風情が俺にあのような口をきき、あのような暴言を吐き、まして俺の肩に魔法まで、ミムズ・ラースト、ミムズ・ラースト、ん、ラースト、ミムズ・ラースト、そうか、ラーストか、ラースト、ラースト、なぜ気付かなかったんだ、あの時のアレか、そうかあの女、そうか、ククク、そうだったのか、だからあの時にあいつは、なるほど、なるほど、ハハハ、ラーストなんて下賤な騎士家程度の家名に気付かなかったのも当然か、たかが使い捨ての奴隷の事など、この俺が気にしてやる事など無いのだから、いやだが、これはいい、これはいいぞ、よく思い出せたものだ。これで、全て上手く行く、ああ目に物を見せてくれる」
なんだ、『魔道具』の効果を吹っ切って狂っちまったのか、いや違うなこの声の感じは、何かいいネタを思いついたって事か。
「ああ、楽しみだ、あの女がどんな顔をするのか、俺の行動で絶望し、諦め、嘆き、悲鳴を上げるか、その上で切り刻むのは、ただ単に痛めつけるのよりもはるかに気が晴れるだろうさ」
お、いつも通りの変態バカ様に戻ったか、さて何を思いついたんだか。
「ああ、あのクソ冒険者にも立場を思い知らせてやるさ、男を痛めつけても面白くはないが、あの小僧はタダでは死なせてやらん、奴の目の前で女共を一人残らず襤褸切れにしてその上で首を刎ねてくれる。その時の顔も楽しみだが、どんな風に驚くのかも楽しみでならないな」
どうやら、『虫下し』の対策にもなるネタ見てえだな、なら都合がいい。
「若様、次はどうなさるんで、手勢が居るってんなら何とか集めますが、どの程度いります」
次回の更新は明日31日になります。
R5年6月2日 誤字修正しました。




