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418 再契約


「よう『虫下し』、やっと来やがったか、噂に聞いたが中でも暴れ回ったらしいじゃねえか。でけえ群れを待ち伏せして潰し、館ごと群れを壊滅させて、鬼の陣地も一つ潰したって」


 ロウ子爵領の街に入ったとたん、俺の事を待ち構えていたのか『百狼割り』が声を掛けてきたけど、よく今日俺達が戻って来るってわかったな。


「しかも、『鬼族の町』で揉めた貴族様を追い込んだって話じゃねえか、やるねえホント」


 あれ、なんかマイラスの事も知られてるのか。まあ奴の悪いうわさが流れるのは良い事か。


「まあ、俺らもただ遊んでた訳じゃねえがな、とりあえず開拓済みの部分までは十分な物資を運び込んでるし、休憩所の整備もかなり進んでる。それより先も、まあ俺らの戦力で進める辺りまでは地ならしをしてるしな」


 おお、それはありがたい話だな、それならこの先の攻略も進むだろうしさ。


「どうやら、お前さんらが遭遇したホッパー・ライダーの群れは偶々上に上がって来てた、あるいはあんまり狩りがされてないせいであぶれた群れだったようで、思ったよか『迷宮核』の状況は悪くねえようだ。おかげで俺らでもそれなりに進めたからな。まったく、『迷宮』の中で死体を見つけた時はヒヤリとしたが、他の『迷宮』みてえに、『活性化』が近いって程じゃねえ、もう数十人程度の被害までなら何とか持ちこたえるだろうさ、まあそうなる前にお前さんが『鎮静化』するんだけどよ」


 そうか、マイラス達が荒らし回ってただろう他の『迷宮』よりはマシって事か、まあ不人気迷宮だから奴らに狙われる冒険者も少なかったのかな。


「それで、俺達をわざわざ迎えに来たのは、何か問題でもあったのか」


「問題じゃねえが、まあちょいと手間を掛ける話でな、俺が来たのは子爵家から迎えに来るように言われてよ」


 なるほど、ロウ子爵家なら俺の到着日時が解ってもおかしくはないか、一応雇用主だから向こうを出発する時に報告はしてるし、聞いた話だと領地と向こうの陣地の間は定期連絡の為に伝令が行ったり来たりしてるらしいから。


 それなりの人数が馬車で移動する俺達よりも、本職の伝令の方が足は早いだろうし、これから俺達がやる『蠕虫洞穴』の『鎮静化』を考えれば、俺達の動向を領府に事前に伝えるってのもおかしくはないだろうから。


「そんで、お前さんらにはこれから、俺と一緒に領府に行って再契約をして貰いてえんだが」


 再契約って事は、ロウ子爵家と契約しなおすって事だろうけど、なんでまた、契約期間はまだ十分あったような気がするけど。


「今の俺らは『鬼軍荘園』を始めとした、複数『迷宮』の『活性化』対策を目的とする貴族家連合の一部であるロウ子爵家軍に雇われてるって事になるがよ、連合の一部っていう今のままだと色々と面倒な事になりかねねえだろ。なもんで一旦契約を破棄してロウ子爵家単体と『蠕虫洞穴』攻略目的のみに条件を絞って契約しなおすのよ」


(ふむ、確かに今のままじゃと面倒事になるかもしれぬの、貴族家連合の一部と見なされてしまうと、他の貴族家からお主等を別な『迷宮攻略』に派遣する要請が、ロウ子爵家にされるやも知れぬし、『蠕虫洞穴』でのお主等の戦果も他の『迷宮』で戦う騎士達と比較され、いらぬ対抗意識を持たれてしもうたり、他家から『攻略』にいらぬ干渉をされかねんからのう。ここで契約を結び直して貴族家連合とお主等の関係を断っておきたいのじゃろうて)


 ああ、なるほど、それなら俺達としても再契約しておいた方が面倒がなさそうだな。


「解った、ミムズ達や『四弦万矢』達は構わないか、問題が無いようなら俺としては再契約を行いたいのだが」


「ミムズ様、リョー殿の提案に従われるべきかと、あまり多くの家と同時に契約し続けていますと、思わぬ問題に繋がる事も有えますので」


「ディフィーの言う通りだな、リョー殿、自分達に異存は無い」


 ミムズの方はOKと。


「某としても問題は有りませぬ、そもそも『蠕虫洞穴』の攻略は、カテン卿の名誉回復に当たっての約束の一つ、思わぬ事態で中断されておりましたが、予想していた『活性化』の危険性がそれほど高くないと解った以上、『蠕虫洞穴』に集中できるようになるのは願っても無い事」


 よし、これなら問題はないって事だな。


「よっしゃ、そんじゃあ案内するんで付いて来てくれ、お前さんらより先に戻った分、俺達は領府に顔が利くようになってるからな」







「予が、ロウ子爵家三男、フジオ・ミシ・ロウである。当主と嗣子である兄等が不在ゆえ、予が名代として契約を行う」


 再契約に来た俺達を出迎えた子爵家の子息が、とっても気張った自己紹介をしてくるけど、なんだかかわいいな。


 だって、どう見たって小学生低学年くらいの年だし、ちょっとお姉さんっぽい高学年か中学生くらいの侍女さんに片手を繋いでもらったまま出て来るんだもん。


 いかにも、甘えん坊な末っ子が頑張ってるって感じがしてさ。なんかとってもほほえましいよね。


 いやいや、今考えるのはそこじゃなかった、今は契約の最中なんだからきちんと内容を確認しておかないと、変な条項を見落としてサインしたりなんかすると、後で大変な事になりかねないもんね。


「ロウ子爵家、城代のジョージ・ユウである。当主御子息で有られるフジオ様の補佐として、契約内容を詰めたく存ずるがよろしいか」


 まあ、普通に考えて幾ら当主代理でもこんな子供に契約を完全に任せるはずはないから、代理人が付くのは当然だよね。


「もちろんです、それで契約内容はどのようになるのでしょう」


 一応は雇い主なんだから、きちんとした言葉遣いで対応しないとね。


「こちらに草案が有る、問題が無ければ契約書にそれぞれの署名を貰いたい」


 えっと、なになに。


 ひとつ、この契約はロウ子爵家と、『虫下し』のリョーを代表とする冒険者集団との間に結ばれ、冒険者集団を構成するパーティーの各代表者、あるいは単独で参加する個人は以下のとおりである。冒険者『虫下し』のリョー、リューン王国騎士ミムズ・ラースト、ライフェル神殿僧侶フレミラウ・トレン、浪人『四弦万矢』カン・キテシュ、浪人ピリム・カテン、冒険者『百狼割り』のテーク。


 ふたつ、この契約の目的は『蠕虫洞穴』の『鎮静化』であり、冒険者集団はそのための戦力を提供して攻略及びそのための『迷宮』内の開発を行い、子爵家は攻略の為に消費される消耗物資の全て及び攻略期間中の宿泊施設を提供し、適切な報酬を支払い必要に応じ騎士団及び領軍から戦力の補助も行う。


 みっつ、この契約の期間は『鎮静化』の完遂、あるいは攻略に参加する各パーティーが既に受注済みの別の依頼の開始期限となり、攻略に継続参加することが不可能となるまでとする。なお完遂時には子爵家はその時点で参加している全パーティーに対して追加報酬を支払う。


 よっつ、攻略中に発見した採集物、アイテム、討伐した魔物等、『迷宮』内での成果に関する権限は、発見者あるいは討伐者本人に全て帰する物とし、冒険者集団内で事前の取り決めがあるのならばそれを尊重する。

 子爵家は配下の騎士兵士が発見、討伐の本人でない限りは所有権を主張しない。

 ただし、冒険者集団の構成員がそれらの物を売却する場合、『鎮静化』完遂から半年の間は子爵家直営の商会が優先交渉権を持ち、それ以外の者への売却の際は直営商会を仲介者とする事、売却に際して商会は市場での定価をその参考として、不当に安い価格での購入は行わぬ事。

 また『鎮静化』の完遂前に継続参加が不能となったパーティーが権利を有する発見物の一切は、子爵家及びその直営商会の物となり、子爵家は商会の算出した売値の七割を代償として離脱するパーティーに支払う物とし、それ以外の違約金等は一切請求しない。


 いつつ、参加者が『迷宮』内で負傷した場合、その治療にかかる経費は子爵家が負担する物とし戦闘参加が不能となった場合であっても必要な治療を行い、治癒までの間は見舞金を支払う物とする。


 以上か、まあそこそこ俺達に有利な内容なのかな、必要経費はほぼ向こう持ちって事だし、怪我をした際の補償も有る。こっちの都合で契約を破棄した場合でも、ペナルティは発見物を三割引きで売るってだけで、それまでの経費や報酬を返す必要はないから、開始前からのプラマイで考えれば、骨折り損のくたびれ儲けみたいな事にだけはならないし。


 まあ、『四弦万矢』達との約束で、うちのパーティーが貰える戦利品が多くなってて、俺はカミヤさんとの約束があるから、それを見越した内容なんだろうなこの三割引きの売却って。


 子爵家としては子爵本人が俺の都合のいい間まででの参加で構わないって約束しちゃった以上、俺達を止める事は出来ないけど、中途半端で投げ出されて、めぼしい戦利品を持ってかれた上で、未攻略の迷宮だけが残されるなんてリスクを考えたんだろうな。


 割引で戦利品を買えるなら、それを報酬がわりにして別な冒険者を集められるだろうし。俺達も最大の儲けを考えるなら、期限が来る前に『鎮静化』を終わらせようと頑張るだろうからさ。


 とは言えこの、ペナルティ以外は悪くない話だよな、発見物の優先交渉権にしても、契約完遂時の場合はこっちが売る気が無いのなら売らずに済むんだしさ。


「いいでしょう、わたしのパーティーはこの内容で署名します」


 内容を、ミムズ達他の連中にも回すけど、特に異論はないようだな。


「自分達としても、この内容で問題はない」


「拙僧も、そもそも『迷宮攻略』はライフェルの僧としての責務であり、子爵家の御協力を祝福すれど、異論などありませぬ」


「某もこれでよろしいかと、カテン卿はいかがか」


「キテシュ卿が同意なされるので有れば、それに従います」


「俺等に取っちゃ、怪我で動けなくなっても保証が出るってんなら願ってもねえ話だ」


 それぞれが、内容を確認してサインして行き、最後にジョージ・ユウに契約書が戻ると、ユウはフジオのもとに持って行き、フジオが最後にサインをして印章を押す。


「これで、いいの」


 うん、サインした後で隣に居る若いメイドさんに確認するところが、いかにもって感じだな。ん、あれ、なんとなく『鑑定』してみたけどこれって。


(ラクナ、フジオの隣に居るのは子守役の侍女だよな)


(そうじゃろうな、他にも乳母やより年長の子守等もおるじゃろうが、ああいった貴族の子弟の場合、遊び相手も兼ねて多少年上の使用人を子守の手伝いとして付けるのは珍しくない、それがどうかしたのか)


(いや、大したことじゃなく、ちょっとした疑問なんだが子守役なのに『子守』のスキルを持っていないんだな)


 生活スキルって、確かその行動を繰り返していれば結構簡単に取れるもんだと思ったんだけど。


(なるほどな、とりあえず儂に聞いておいて正解じゃったの、今の疑問を下手に口にしておればロウ子爵家家臣からの心象を悪くするところじゃったぞ)


 ん、どういう事だ。


(以前話したような気もするが、一部のスキルには入手の為に特定の条件や経験が必要となる物が有るのじゃ)


 ああ、そう言えば聞いたことが有るような気がするかも。


(それでのう、『子守』のスキルを得る事が出来るのは経産婦、つまり子を産んだことの有る女子おなごにしか発現せぬのじゃ、つまりあの侍女に『子守』が有るのではと聞く事は、あの年で既に子を産んでいるのではないかと言っているも同然で有り、ひいては今より一年近く前の更に幼い時に男を知っていたのでは、と疑っていると同じ事となり、それはこのような幼い少女へ手を出すような者が子爵家の家中に居ると言っているような物じゃ、下手をすれば決闘沙汰になるような侮辱と取られてもおかしくはないぞ)


 え、それって、まさか、そんな……


次の更新は明後日の予定です

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― 新着の感想 ―
[一言] この迷宮は無事でなにより ここの迷宮対策は簡単?とはいえ怖くて入りたくないですよね
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