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417 侍女の望み

今回の話はとっても難産でした、ちょっと何時もと雰囲気が違っているかも……

「あ、ここは一体……」


 どうやら、起きたみたいだな。


 サミューの性格上、失神から目を覚ますとすぐにまた無理をしそうな恐れがあるから、戦車で移動してる間は魔法で眠らせ続けて休ませてたんだけど、そろそろ効果が切れる事だと思って、食事を持って様子を見に来たらちょうどいいタイミングだったみたいだな。


「目が覚めたかサミュー」


 体を起こしたサミューの近くの椅子に座って、枕もとのテーブルにスープを置きながら様子を伺うが、辛そうな様子は見えないな。


「御主人様、ここは……」


「防衛線の後方にある補給基地の一つだ、冒険者向けの貸出テントを幾つか借りている。数日ここで休んで疲れを取ってから、ロウ子爵領の『蠕虫洞穴』の攻略に向かう予定だ」


 鎮圧戦が続いてる間は立てっぱなしで移動の予定が無いテントらしいから、結構作りや内装がしっかりしてて、サミューが寝てるのも宿屋に置いてそうなベットだから、こうして休むには丁度良さそうなんだよな。


 まあ、その分だけ宿賃もお高めなんだけどさ。


「『迷宮』の外、では御主人様は『鬼軍荘園』から撤退されたのですか。まさかわたしが怪我をしたから……」


「そう言う訳じゃない、そもそもあの場に集合するのはそれぞれの目的が果たせてからっていう話だったろう。俺達も、ミムズ達も、フレミラウ達も『四弦万矢』達もそれぞれ『迷宮』の中でやる事は終わっていた。『迷宮』から出たのは予定通りだ、気にする事は無い」


 まあ、多少無理をして急いではいたけど、だからと言って無茶をしたわけじゃないからね。


 あの後すぐに『四弦万矢』達と合流できたけど、向こうもピリム・カテンのレベル上げが出来て、疲労も溜まって来てたからそろそろ、『迷宮』から引き上げるつもりだったみたいだから問題はなかったもんね。


「ですが……」


「気にするな、さっきも言ったがこれから数日は休暇だ、『鎮圧戦』で戦い続けた疲れをゆっくり取ってくれればいい、幸いここなら冒険者向けに料理屋も屋台も有るし、それ以外の店も大半の物が揃っている。生活に関する事なら大半は何とかなる」


「そう、ですか」


「ああ、そうだ」


 なんだろう、なんとなく気まずいな。なぜか上手く会話が続けられない。


「訊かれないのですか」


「何がだ」


 うわ、まさかサミューの方から話を振って来るとは、いや、サミューなら言ってきてもおかしくはないけど。


「なぜわたしが、あのような事をしたのかをです」


「サミュー、前も言っただろう。言いたく無いのなら無理に言う必要はないんだ、サミュー自身が話したいと思った時に話してくれればいいから、言いたくない事を話さなければならないなんて命令するつもりはない」


 もうだいぶ前の事のように感じるけど、マイラスと初めて遭遇した時の夜も同じように言ったっけ。俺は前にその約束を破りかけたけど、だからこそ。


「ですが……」


「サミューは、そうする必要が有ってあの行動をしたのだろう。それなら、それでいい、それで……」


 そこまで言ってから、言葉を止めてしまう。


 次の言葉を出すのが、どうしても躊躇ってしまう。ここまで来る馬車の中でずっと考え続けて自分なりに答えを出し、それで言おうと決めたはずなのに。


「サミュー」


「はい」


「あのな」


「どうされましたか、御主人様」


 一度、息を吸い込み、吐き出すように言うべき言葉を続ける。


「ミムズ達から、サミューを、買い取りたいという申し出が来ている。もしも、もしもだ、サミューがそれを望むのなら、サミューの、その希望に沿いたい、そう思っている。もちろん、俺の秘密を守るというのが条件ではあるが」


 なんで、俺はこんな簡単な事を伝えるのに、こんな緊張してるんだよ。


「いいえ、御主人様、わたしはあの方々のもとへ()()()()()()()()()()


 そうか、『行きたくない』じゃなくて、『行くわけにはいかない』、か。


 やっぱり、サミューとミムズにはよほどの関係があるんだろうな。


 サミュー自身にその気が無ければこういう答え方はしないだろうから。『行くわけにはいかない』っていう言葉は、行きたいという気持ちはあるけれど、状況が許さないから行けないって意味だろうから。


 いや、サミューがそう考えているだろうことは解ってたはずだ、サミューは今日二回ミムズを庇った。


 いやサミューの性格や普段の行動を考えれば、自己犠牲とか誰かを守るっていう行動自体はそれほどおかしくはない、でも同時にサミューはきちんと現状把握や分析が出来る女性なんだから。


 極端な話、アラが『剣狂老人』や『四弦万矢』から殺す気の攻撃をされれば必ず守るだろうけれど、それがただのオーガやトロルなら、サミューはアラが自力で対処可能だと解ってるから、態々庇ったりはしないだろう。


 ミムズとマイラスの実力差は小さくない、マイラスもそれなりにステータスが有あってあの攻撃は危険だったが、ミムズは元々の地力に加えて何度か俺達と行動を共にした事で『成長補正』の影響を受けて、けっこうなステータスになってるし、スキルも実戦経験も十分にある。


 冷静に考えれば、サミューが一度目にミムズを庇ったマイラスのあの攻撃は、下手をすればそこそこ大きな怪我をしかねないという程度ででしかなく、ミムズならそれなりに対処できるとサミューは判断できただろう。


 それなら、ああまでして庇う必要はなかったし、上手くすればその隙をついて側面からマイラスを狙う事でミムズを支援するという選択も出来たはずだ。


 だけどとっさにサミューはミムズを庇う方向へ動いていた。


 二回目に、サミューがマイラスへの攻撃を防いだのも、その後のサミューの言葉を考えればアレはマイラスを守ったのではなく、マイラスを殺した事でミムズに起こるであろう不都合を考え、ミムズを守るためにした事だろう。


 どちらも、ミムズを守るために、それだけの為にサミューはあれだけの事を……


「御主人様、もしも、もしも、御主人様がわたしを手放しても構わないというのでしたら、わたしを手放して、解放奴隷にして頂けないでしょうか。もちろん御主人様の不利益となるような事は一切致しません」


 自分の思考にとらわれかけていた俺にサミューが向き直って真っ直ぐに、俺の目を見ながら言ってくる。


 え、解放奴隷って、ミムズ達にサミューを渡すんじゃなくて、自由にしてほしいって事か。


 いや、まあパーティーの戦力の件とか生活の事とか、俺の秘密とか色々とサミューを手放す事の懸念事項はあるけど、それに関してはミムズにサミューを渡すと考えた時に、サミュー一人分の戦力低下ぐらいなら何とかなりそうだって結論になり、問題はないと考えた、考えたけれど。


 サミューを本人の希望通り自由にしても大きな問題はない、問題はないはずだ、だけどなんでこう考えが纏まらないんだ。


 俺はみんなを金で買って首輪を嵌めて戦闘を強要してる。


 それを一人だけとはいえ自由にしてあげれるって事は良い事の筈、良い事の筈なのに。


 いや待て、そもそもサミューはなんでこんな事を言い出したんだ。


「サミュー、なぜ解放奴隷になりたいんだ」


 解放奴隷になるだけなら、俺がミムズにサミューを渡した後でも良いんじゃないだろうか。ミムズ達のあの様子なら、サミューを奴隷のままにしては居ないだろう、たとえ奴隷だとしても不自由な待遇にはしないと思うんだが。


「それは……」


 あれ、なんだサミューのこの表情は、今までの哀し気な物とは違う。まるで何か吹っ切れた、それも悪い方向に決めてしまったような表情だ。


 確か、実家の借金で追い込まれて、会社の金を横領した先輩が逮捕される少し前にこんな表情をしていたような。


「サミュー、正直に理由を言ってくれ、それが分からないとサミューの希望に答えようがない」


 ああ、なんで俺はこんなぶっきらぼうな聞き方をしてるんだよ、もっと言い方が有るじゃないかよ。


「御主人様に解放して頂いて、只の解放奴隷となった後で、マイラス様をこの手で殺めます」


 え、マイラスを殺す、何でいきなりそんな風に話が飛んでるんだ、と言うかこのメイドさんは何時からそんな物騒な事を言い出すようになったんだよ。


「サミュー、マイラスを殺すと言ったのか」


「はい、その通りです」


「なぜそんな事の為に自由になろうとするんだ、アイツなら俺が……」


「マイラス様は貴族です、たとえどのような状況であろうとも御主人様がその手で、いえそうでなくても御主人様の配下の誰かがマイラス様を殺めれば、必ずそこに仇が生まれ御主人様を恨み命を狙う方が出る事でしょう。ですが、ただの解放奴隷がマイラス様を殺め、その後でわたしが自ら身を処すれば、どなたにも類を及ぼさずに事を修める事が……」


 思わず椅子から立ち上がりそのままサミューを抱きしめていた、それ以上サミューに言葉を続けさせたくない、いやもしこのままにしていたら本当にサミューが……


 サミューがやろうとしているのは、最悪の自己犠牲だ、全てと縁を切り類が及ばないようにしたうえで、マイラスを殺し、全ての罪を自分で被って1人死ぬ。


「サミュー、ダメだ」


 そんな寂しくてサミューだけが救われない方法で、全てを解決しようとしている。そんな方法はとらせる訳にはいかない。


「ですが、ミムズ様がマイラス様を殺める事だけは絶対にさせるわけには、かと言って他の方にもこんな事はさせられません」


「俺が、殺す」


 迷う事も躊躇う事も無く、殺人を決める言葉が口から出ていた。


 こんな事サミューにさせる訳にはいかない、ミムズにさせられないからサミューがやるっていうのなら、それなら俺が……


「御主人様それは、わたしの為だというのなら、どうかお考え直しください、そんな事をすれば御主人様がただでは、それに御主人様はお優しい御方です、今までも人を殺められた後は……」


「お前の為じゃない、俺の為だ、俺が奴を殺したいから、だから俺が殺す」


 やっとわかった気がする、この間テトビと話していた時にマイラスに対して覚えていた感情が何だったのか、アレは独占欲とねたみだ。


 サミューを、自分のモノにしたい。


 ついさっきまで、そうすべきだとあれだけ考えたのに、結局俺はミムズにサミューを渡したくないんだ。


 だから、さっきのサミューの『行くわけにはいかない』と言う答えにホッとしながらも、サミューをそこまで思わせるミムズを羨ましく感じてしまう。


 マイラスに対しての殺意の理由もそうだ、アレはサミューをかつて奴隷として所有し、そして俺は手を出す事の出来ない、ただ抱きしめる事しか出来ないこの身体を、サミューを抱いたあいつに対する妬みだ。


 サミューを苦しめた事に対するいきどおりや怒りではなく、ただの意地汚い妬み。


「いいか、アイツは俺が殺す、だからサミューがそんな事をする必要はない、俺は俺の為に俺だけの理由で俺が納得するため、俺の為だけにマイラスを殺す。俺はお前を手放さない」


 俺は卑怯だ、自分の感情で行動しようとしてるのに、サミューに勘違いさせそうなこんな状況でこんな宣言を……


「ですが、御主人様、御主人様はそんな……」


 サミューが欲しい、俺だけの物にしたい、そう感じる独占欲のままに言葉を続ける。


「それにもし、お前の為だとしても、それがどうした。お前は俺の物だ、あの日に奴隷商から貰い受けてからサミューの全ては俺のものだ。だから、お前に関する物は良い物も悪い物も全部俺の物だ、だからお前が倒すべき敵は、全て俺にとっても敵だ。いいか、そんな理由で俺はお前を手放さない、いいなサミュー、いいな」


 もしかしたら、俺は何時かサミューを手放すかもしれない、サミューが心からそれを望み、それが俺のもとに居るよりもサミューの為になると解ったのなら、多分、また悩んで、嫌々だろうけれど、手放すかもしれない。


 でもそれは今じゃない、今では決してない、もしかしたらそんな日は来ないかもしれない、だから今は俺の、俺だけのサミューであってくれ……


「御主人様、ありがとうございます」


当初の予定ではサミューさんの方から、リョー君に「ミムズが手を下す事にならないように、リョーが直接マイラスを殺してほしい」と願い出て、リョー君が受け入れるという流れの筈だったのですが、なんかそれってサミューさんぽくないと感じ、やり取りを考えているうちに、なぜかリョー君の暗い内面が一部、なぜこうなった?


次の更新はあす27日の夜ごろになります

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