表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
421/694

416 金髪さん達の状況認識


~神官長ステミ~

「そうか、そのような仕儀とあいなったか」


「御意、この目にて戦闘の一部始終を確認いたしましたが、勇者リョー様にあられましては、マイラス・リアス・ラマイ子爵の襲撃を退け、手勢の約四割を討ち取られましたが、残りの敵員、特に首魁たるラマイ子爵を取り逃がしました」


 まさかあのサミュー・ラーストが身を挺してまでラマイ子爵を庇うとは、とは言え状況を聞く分では仕方のない事かもしれませんね。


 あの場で彼女がその行動を取っていなければ、色々と余計な問題が増えていたかもしれませんから。


 まったく、一つ歯車が狂うと全てが狂ってしまう物ですね。


 こういった複雑な事態となる前に、一つ一つリョー様に関わりうる問題の種が早期に解決していくように、今回あの場に集めた者達がリョー殿と接触する時期を意図的にずらし、順番に問題を片付けて頂く予定であったのですが。


「まったく、あの者達はカンが良いのかそれとも悪運が強いのか、日数を稼がせるため、事前に撒いた囮の欺瞞情報を無視し、最短であの地域に来てしまうとは」


「猊下の御指示通りに事を運べなかったことは、全てこの下僕めの不徳、汗顔の至りにございます。どのような罰でありましても……」


 まったく、彼女も自己評価が低いのは変わりませんね、相も変わらず私の視界に入らないよう離れた所に隠れて控えていますし。


「よい、確かに想定外の事態であるが、結果として思わぬ成果を得る事が出来た」


 ある意味では、この状況は彼女達とリョー様の関係を進めるためのいい刺激となるかもしれませんし、場合によってはリューン王国との関係性にも影響が及ぼせるかもしれませんから。


「このような非才の身に対して、勿体なき御言葉」


「逃亡したラマイの居場所は抑えているな」


「御意、猊下の御指示が有り次第、直ちに襲撃する準備は整えております。あの程度の手勢であればこの下僕単体でありましても襲撃は可能でありますれば、猊下の御指示さえいただければ、直ちに全員を捕縛する事も、一人残らず死体を残す事無く抹殺する事も」


 確かに彼女であればそのような事も可能でしょうね。個人としての戦闘能力は十分ありますし、何より隠密行動や奇襲戦を得意としています。なにより敵集団の中に潜り込むためのツテも有しているようですし。ですが……


「よい、捨て置け」


「猊下に対して御言葉を返すご無礼をお許しください。ですが、あの者達を放置しては、さらなる被害が、何よりラマイめはリョー様の事を諦めては居りませんでしょう」


「であろうな」


 神殿の影響力を使ってあれだけリアス子爵家を追い込みんだことですし、子爵本人のこれまでの行動の積み重ねも有ります。彼にはもう後はない、これ以上下がる事が出来ないのであれば前に出るしかなく、その為にはリョー様をどうにかしなければならない。


 だからこそ、彼は用意が出来次第すぐにでもまたリョー様に仕掛ける事でしょう。そう、数日以内にでも、何より先日の戦闘の内容を聞く分であれば……


「リョー様は、この戦闘でサミュー・ラーストが負傷するまでは、冷静に敵を排除されたのだな」


 今回の戦闘で、いえ次にあるであろう戦闘でも、最も重要となるのは、その一点ですから。


「御意、『勇者』様はお味方を守るため、敵騎馬集団を『雷炎の指輪』で数騎を焼き払われ、更に馬上に跳び乗られて鎧の隙間を的確に狙って騎手数名を切り捨てられております。かの御方のステータスの為、戦果としてはそれほどでもありませぬが……」


「それは重畳、いや……」


 おっと、思わず声が出てしまいましたか。


 ですが、そう思わずにいられないほどの結果ですから。


「かの者は『勇者』様、御自らが片付ければよかろう、いや、そうであらねばならぬ」


 以前にカミヤと話した内容、リョー様がこの世界に残るべきであると判断するに至る前提の一つ、『問題解決の選択肢としての殺人』を許容できるようになる、それに向けた流れとして現状は上々でしょうから。


 わたくし達の意図しなかった流れではありますが、そう言った意味で言えば人型の魔物である鬼、それも組織化されて集団戦に特化し、作戦を立案し実施する能力も有る、より『人に近く見え』ながらも魔物であるゴブリン・ソルジャーとの戦いは、魔物を殺す感覚で対人戦の予行練習としては丁度良かったのでしょうし、その感覚が色濃く残った状態での対人戦。


 それも相手が自分を狙って来たという、どうしようもない状況での殺人ですから。


 そう言えば、以前にカミヤが言っていましたが、向こうの世界では新兵の射撃訓練などで使う的はあえて人の絵を書いた物等を使って、人型を撃つ事への忌避感や抵抗感を薄れさせるとか。そう言った意味ではまさに格好の状況でしたね。


 魔物を殺す事と人を殺す事の区別をするという心理が無くなってしまえば、利益あるいは役割として魔物を狩る様に、敵や不利益となりうる人物を排除するという考え方が出来るように成って下されば……


「まあ、すぐにはそうはならないだろうが、今は状況で感情が昂っているがゆえの事、時間を置いて熱が冷めてしまば、また元通りかもしれぬが」


 とは言え一度大きく燃えた木材は火が消えてしまっても、燃え残りから灰を取り除いた後には炭が残る物です、次の時はより火が付きやすく、高温で長く持つようになる事でしょう。それを繰り返して行けば……


 あの子爵であれば、財力や裏社会へのツテもまだ十分残っているでしょうから。まだ火が炭の中で多少くすぶっている間に薪を投入して大きな火をともしてくれることでしょうから。


「いくら燃えやすい炭とは言え一から火を起こすよりは、残り火を大きくした方が早かろう」


「では、かの者配下の戦力回復が短期で完了するよう、手配をいたします」


 察しのいい配下と言うのはこういう時に助かりますね。


「さて、もう片方の火種の方を何とかしに行くか」


 火と言う物は管理下で大きく燃える分にはいいですが、思わぬ所で燃えがってしまうと手に負えなくなってしまいますから。


 その帰りにでも、リョー様にカミヤから預かっている追加の薬を届けましょうか。






~パルス・ラメディ・リューン~

「猊下、これは……」


 まさか、旅先の宿からその地の神殿に呼び出された先に、神官長猊下御本人がいらっしゃるとは。


 しかも、猊下の手の甲に接吻した直後に渡されたのがミムズからの手紙とは。


「貴国の騎士であるミムズ・ラースト卿は、当教の僧であるフレミラウ・トレンと行動を共にしているとの事でして。その縁で神殿経由で手紙を頼まれたのが、偶然の手違いでわたくしの手元に来てしまいました。わたくしは偶々こちらに来る用も有りましたので、せっかくの機会ですから王女殿下にご挨拶も兼ねてと思いまして」


『偶然』『偶々』『せっかくの機会』、この神官長がそんなあやふやな理由でわざわざ動く様なタマですか。


 第一、高度に官僚化されたライフェル神殿で、最高権威者であり情報伝達と管理の最高責任者である彼女、そんな彼女の手元に一騎士の個人的な手紙としか思えないものが、間違って紛れ込むことなど有り得るはずが有りません。


 ライフェルの情報を担う神官達がそれほど杜撰であるのなら、ムルズ王国の貴族達が抱える借金はもっと少なくなっていた事でしょう。


 もちろん神官長も、わたくしが今の言葉を素直に信じるとは思っていないでしょうから、察せられると解っていて、というかわたくしに解らせるつもりでこの手紙を持ってきたのでしょうが、さてその目的は一体……


「わたくしの事は気にせず読まれてはいかがですか」


 やはりこの手紙自体が目的、では一体どんな内容が、ミムズから、まさか……


 以前ディフィーからあった報告通りであれば、ミムズはムルズ王国に居り、そしてムルズ王国には彼がいいえ、おそらくは彼女が居るはず。


 であれば、この内容は、ですが本当に彼のもとに彼女が居て、それをミムズが知れば、一体どんな行動を取る事になるか。


 まさか、それを見越して、こちらにくぎを刺す事、あるいはすでに起こってしまった事態を利用して何かの要求を通す事が目的ですか、リョー殿とライフェル教に何らかの繋がりが有るであろう事は、『鬼族の町』での神官長の言葉からも解ります。


 であれば、この手紙の内容次第では……


「では、御言葉に甘えさせていただきます」


 手紙の封を開き、中身に目を通して行きますが、とりあえずこうして見ていく分では、やはりミムズはリョー様と接触し、そして彼女はリョー様のもとに居ましたか。


 ですが、彼女の反応やその後の行動は及第点と言える者でしょう、感情に任せて極端な暴発をしてしまい、リョー様との関係が致命的に悪化するという事態も想定していましたが、知らぬ間に彼女も成長していたようですね、これも野に下って経験を積んだ結果でしょうか。


 リョー様と敵対することなく、現状を把握するために情報を取り、いつでも買い取る用意があるという意思を示しておくことで、状況が変化した際に対しての布石を置く事も出来ています。


 それ以外の面でも、拙い内容ではありますが手打ちを纏める事で彼との関係を作れていますし、その後も『迷宮攻略』に協力する事で、比較的良好な関係を取れています。これでしたら、何かあり状況が変わった時の買取り交渉に際しても彼の心象をよくしておく事が出来るでしょう。


 何よりもそれらを端的にまとめて、こうして手紙と言う形で報告出来ている事も彼女の成長を物語る物でしょう。今は、傭兵として防衛戦に参加し、功を上げて『迷宮』に先行しているようですが。


 しかし、予想はしていましたがまさか本当に、彼女が奴隷として彼のもとに居るとは。


 そうと知っていればあの時、ディフィー達をダシに使ってリョー様を雇い入れようとしたときに、もっと本気を出していれば、いっその事わたし自身の身を交渉の場に乗せていれば。


 今まで王女として習ってきた手練手管を使い、既成事実さえ作れていれば、わたしの身体スキル『名器』で彼を篭絡する事も出来たでしょうに。いえ、当時の情報では彼の重要度はそこまでではなかったのですから、後悔してもせん無き事ですか。


 ミムズや、プテックも『名器』のスキルが有るのですから、もしかすれば、いいえこれは期待するだけ無駄でしょうね。『名器』のスキルを活かす為には彼と『そう言った関係』になる必要が有りますが、あの二人ではリョー様を寝台に誘い込む事は出来ないでしょうから。


 逃した魚は大きかったとは言いますが、まさしくその通りでしたね。


 いえ、たとえそうなっていたとしても上手く行くとは限りませんか、おそらくリョー様は『名器』との行為を経験しているでしょうから、それに慣れてしまっていればそこまでの効果は期待できないかもしれませんから。


「なにか、難しい顔をされておりますが、騎士ミムズに何かありましたか」


 対面から掛けられた言葉に、やっと自分の居る場所を思い出しました。そうでした今わたしの前に居るのは、この世で最も隙を見せられぬ相手。


 おそらく神官長は、この手紙の内容を知っているでしょうし、何より彼女の存在が我が国の政争に置いてどれほど重要なのかも知っているはずです。


「騎士ミムズは、『鬼族の町』でも目覚ましい活躍をされたとラッドより聴いておりますし、『鬼軍荘園』の鎮圧でも大きな功績をあげられたとフレミラウが申していました。また、今頃は『蠕虫洞穴』の攻略にも参加されているらしいですし」


「当家の廷臣に過分な御言葉、痛み入ります」


「王女殿下も、彼女の活躍には心躍る者が有るのでしょう。なにせ、彼女は両王女と()()()()()()であると聞いていますから」


「ツッ」


 やはり彼女は、あの事を、であればリョー様の手元に居る『彼女』が何者であるのかも……


「大切な懐刀ともいえる騎士が危険な『迷宮』に籠られているというのは、心配かもしれませんが。ご安心ください、あの場にはフレミラウもおりますし、わたくし自身が実力を保証できる優れた冒険者もおります」


 優れた冒険者ですか、おそらくは……


「ああ、そう言えば、王女殿下も面識がございましたね。リョーと言う冒険者には、我が神殿やかのライワ伯も色々と重要な依頼をして、彼はその信頼にこたえてくれています。彼自身だけでなく、彼の奴隷達も大変優秀な戦力で、神殿としては政治的な状況などから僧兵では対処できない『迷宮』の対応をして頂けている。()()()()()()殿()()()()()()()()()()()手駒の一つですので。きっと『蠕虫洞穴』の攻略も無事に終えられることでしょう」


 わざわざ重要と言う所を強調して話すという事は、彼に手を出すなと言う事なのでしょうね。


「解りました、猊下がそこまでおっしゃられるのであれば、ミムズ達の事は心配する必要が無いという事ですから。わたくしやアクラスが余計な手出しをしては、彼女の成長を阻害する事になりかねません、今は彼女からの追加報告を待つ事と致しましょう」


「リューン王国は、賢明な王女殿下を抱えられておられるようで、貴方が王妹となられて支えられるのであれば、アクラス殿下が登極なされた後も王国は安泰でしょうね」


「お褒めに預かり光栄です猊下」


次の更新は26日の予定です。


R5年6月1日 誤字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ