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415 明かされぬ理由

 ミムズの槍に貫かれたサミューが地面に叩きつけられ、背中から徐々に血が広がって行く。


「サミュー」


「あ、そんな、そんな、なぜ、なぜ、こんな、ちがう、ミムズは、こんなつもり、こんなこと、そんな、どうして、そんな、ははさま……」


 呆然と立ちすくむミムズに、プテック達が集まるのを見ながら、俺達もサミューの周りに集まり出す。


「施主殿、拙僧の見た分では槍の位置はやや下の方ですし、体の状態から見て心の臓と肺は外れておりましょう。この位置ならば即死とはなっておりませぬため、落ちついてくださいませ。ですが肝臓は傷ついているかもしれませぬ不用意に槍を抜けば逆に出血を呼び危険となりましょうし、肩の傷も有ります、出来るだけ出血を増やさぬように対処しませぬと」


 いつの間にか合流していたフレミラウとミカミがサミューの槍を抜こうとする俺の手を止める。そうかこの二人には、医療や回復魔法の知識が有ったはず……


「リョー殿、フレミラウ法師、ミムズ様のその槍は『出血の魔石槍』と言い、『回復阻害』の効果が付いております、治療の際はご注意ください」


 ふらついているミムズを支えていたディフィーさんが俺に声を掛けてくるけど、『回復阻害』って事はアラの剣みたいに、回復魔法や薬が効きにくいって事か。


 いや、それなら効果以上の回復をすればいいだけの事だ、『馬のふん』ならこの位の傷すぐに。


「御主人様、わたしのスキルでしたら、この程度の傷で死ぬ事はありません。それよりも貴重なお薬を温存してくださいませ、わたし等の為に高価なお薬を使われてはもったいないです、そのお薬は御主人様や他の子達が怪我をした時の為に取って置いてください」


 まだ血が出続けてるっていうのに、何時もみたいに笑って何を言ってるんだよ。


「何をバカな事を言ってるんだサミュー、薬よりもお前の方がよっぽど……」


 サミューの言葉を無視して薬を取り出した俺の手に、血塗れの手が当てられて差し出すのを止めようとする。


「何をやっているサミュー、ん、サミュー、サミュー大丈夫か」


「回復は、スキ、ルが、けほ」


 やっぱり重症なんじゃ、いや違う『隷属の首輪』が締まって、なんでこんな時に、そうか。


(当然じゃろうな、行動の理由は解らぬがお主を命を狙った敵を庇った上で逃走を助けたのじゃ、『懲罰』が発動しない筈が有るまい)


 そうか、ならこっちは。


「サミュー、お前の今までの行動の全てを許す。だから『懲罰』は必要ない」


 俺の言葉に合わせて、首輪が緩んでいくけど、槍傷の方はまだ治ってないんだから薬を。


「お許しくださりありがとうございます、御主人様。ですがわたしが御主人様に対して罪を犯したのは事実です、ですのでどうかその薬は、このまま死ぬのも当然であろう、罪の有る奴隷になどお使いにならないでください。いざという時に薬が足りなくなり、アラちゃんや他の子達が危険になっては、うぐ……」


 話している途中のサミューの口に、血塗れの指が数本差し込まれるけど、サミューの手は薬を渡そうとする俺の手を止めてるよな。ならこの手は一体……


「わたしの、血、なら、食べて、休め、ば、戻る。だから、飲ん、で」


 プテックが自分の手を傷付けてサミューの口に居れたのか、確かにプテックの血には回復効果があるからこれも有効か。


「わ、わたしも、か、回復魔法で」


「わたくしも、先日入手したスキルで、まだ効果は弱うございますが、多少の足しにはなるかと」


 ミーシアがサミューの傷口に手を当てて回復魔法を使い、それに合わせる様にトーウが傷の上に手を掲げて指先から液体を、って毒じゃないのか、いや痛み止めの麻酔の代わりに使うつもりなのか。


(ふむ、トーウにスキルが増えておるのう『止血の薬爪(微)』となって居る、どうやら毒の代わりに薬を創るスキルのようじゃが、ちょうど良いの)


 何でもいい、今はサミューの回復が出来るならなんだって。


「傷口が大分小さくなってきている、これに合わせてゆっくり槍を抜いて行きますぞ。今は体を貫いている槍の柄が傷口と接して押さえつける形になる為、出血は少ないですが。下手に抜けばビンの栓を抜くのと同じ事となり、先ほど言った通り大量に出血する恐れがありましょう、拙僧の指示に合わせて下され」


 フレミラウ・トレンが周りを見回しながら説明し、槍の柄をしっかりとつかむ。


「まずは背中側に抜けている穂先の手前まで抜きましょう、穂先は先端に向けて細くなるため、傷口の広い部分では出血を抑える事が出来なくなります。少しだけ抜き、穂先の形に合わせて回復させて傷を小さくし、また少し抜く、この繰り返しで抜いて行きます。肩の傷はとりあえず血止めをしてあとに回しましょう。すべてが終わるまで時間も手間もかかりますが、くれぐれも気を抜かれぬよう」


 フレミラウの言葉にミーシア達や回復魔法を使い始めたミカミが頷く、『馬のふん』なら一発ですぐに回復できるのに。だがサミューは、俺の手を握ったままこっちを見続けている、この表情だとサミューは意地でも俺の薬は飲まないだろうな。


 でもなんでサミューはこんな事を……


「よし、槍が抜けますぞ、ですがまだ治った訳ではないので……」


「なぜ、なぜだ、なぜ貴方はあのような男をかばって、そんな重傷を負われてまで、あの卑怯者はあのような行いをした上に、貴女に怪我まで、更にあのような暴言まで、なのに何故、なぜあんな男を……」


 多少なりとも精神的に立ち直ったのか、ミムズがディフィさんとサーレンさんに支えられながらこっちへと歩いて来るのにサミューが視線を向け、フレミラウが止めるのも聴かずに体を起こしていつも通りの微笑みをまた浮かべる。プテックの指を吐き出し、俺の手から放した片手を伸ばしながら答え始める。


「ミムズ様、お願いいたします、ミムズ様ご自身やその御家来方がマイラス様を殺められることは、それだけは、どうか、どうか……」


 ミムズへと話している途中でサミューの言葉が止まり、ゆっくりと目が閉じられ、ミムズの方へと伸ばされていた手が落ち、力が抜けて崩れかけた身体をミーシア達が慌てたように支えてゆっくりと横にする。


「サミュー」


 いきなり気を失うなんて、そんなにひどい状況なのか、それによく見れば顔色も悪いし、冷や汗で髪が肌に貼り付いて……


「大事は有りません施主殿、気絶、いえ失神しただけでしょう。傷は塞がりましたが、血は失ったままで貧血を起こしていたというのに、急に体を起こしたため、頭に十分な血が回らなくなったのでしょう。呼吸や脈は速いながらもしっかりしていますので横にしておけば、じきに気付くでしょう。失った血にしましても、この方はスキルが有りますし、回復魔法と併用し滋養の有る物を取ればすぐに戻るかと」


 そうか、そうだよなこの世界ではスキルや魔法がきちんと働けば、その分の効果が出るんだから、心配する事は無かったのか。いや、でも心配するのは当然だよな。


 しかし、サミューの怪我がもう心配ないとなると、後はなぜサミューがこうしたのか、だけど。


 サミューの言葉を考えるのなら、ミムズ達のパーティーがマイラスを殺すのは不味いって事みたいだけど、ならミムズ達以外、俺達や『四弦万矢』なんかなら問題ないって事なのか。


 もしかすると、さっきラクナが言ってたみたいに貴族のマイラスが討ち取られた事に政治的な意味があって、ミムズの場合だとシャレにならないって判断なのか。


 ミムズは一時停止中とは言えリューン王国の騎士なんだから、他国の貴族家と敵対すると外交問題になって下手すりゃ戦争になるとかか。


 多分、ミムズやプテック達のスキル構成やサミューとの会話なんかを考えると、ミムズ達姉妹とサミューは何らかの親戚関係かも知れない、どの程度の関係かまでは解らないけど同じスキル、それも希少な物が複数被っている事から考えれば、ある程度近い血縁関係があって、お互いの存在や関係は最低限知っているみたいだよな。

 

 でもって、サミューは元々マイラスの奴隷だったんだから、もしかすると当事者であるマイラスとミムズ自身は気付いてないけど、二人の事を知っているサミューだからこそ気付ける事情が有ったりするのか。


 いや、もしかすると、ミムズの年齢の関係も有るのかな、確か見た目はこれだけど、ミムズ達の実年齢は11だか12だかじゃなかったっけ。


 ダメだ、これだけじゃ判断材料が少なすぎる。


(ラクナ、何か解らないか)


(何とも言えぬのう、確かに古い貴族の家や騎士の家等であれば、古い縁戚や門閥関係、祖先の交わした約定、君主や国、派閥の関係、更には武術流派の拝師など、様々なしがらみがあるからのう。当人ですらそれを把握しきれておらず、そう言った事を取りまとめる専用の紋章官を雇うほどじゃから、有り得ぬ話ではないが)


 となると、ミムズとマイラスの間に何か事情が有るってのは、あり得ない話じゃないって事か。


(とは言え、情報が足りぬ現状では何とも言えぬがの)


 現状でこれ以上考えても答えは出ないって事か、ならこれからの行動を考えないと。


「ミーシア、戦車を出すからそれにサミューを寝かせて運びたい、回復の後で無理をさせて悪いが、出来るだけ震動が無いようゆっくり曳いて貰えないか」


「は、はい、わ、わかりました」


 接近戦用の方だと、タイヤにも武器が付いてるからすごく揺れそうだけど、この間貰った遠距離用の戦車なら、それほど揺れないからね。


「ミムズやフレミラウ達がここに来たって事は、そちらも『迷宮』での目的は果たせたって事でいいか」


「あ、ああ特に戦利品となるような物は無かったが、当初の目的であった群れを排除し『毒耐性』の強化は出来ている」


 サミューの傷が消えてフレミラウが大丈夫だと言ったおかげか、大分落ち着いて来たミムズが頷いて来る。


「拙僧とキリアも目的とする魔物を倒す事が出来ました」


 フレミラウ達師弟も問題ないか。


「俺達も目的にしていた狩りが出来て『魔道具』が手に入った、あそこにいる『四弦万矢』達と合流してそちらも問題なければ、このまま『迷宮』の外に出たいと思うが、問題ないか」


 安全な所でサミューを休ませたいし、『百狼割り』やロウ子爵との約束があるからそろそろ『蠕虫洞穴』の攻略に戻った方が良いだろうからな。


「ああ、問題はない、そちらの侍女殿の本格的な治療も落ち着いた場所でした方が良いだろうからな」


 何とか自分だけで立てるようになったミムズが頷く隣で、傷の塞がったサミューの傍から立ち上がりながらフレミラウも頷いて来る。


「拙僧も支障は有りませぬ、『活性化』は脅威ではありまするが、ある程度事態が落ち着けば、冒険者にとっては格好の修練の場、危険な魔物を排除し若手冒険者の安全を確保する事も重要ですが、あまりやり過ぎれば成長の糧となる試練を奪う事ともなりましょうから」


 よし、問題はなさそうだな、『四弦万矢』達はレベル上げをしてるだけで、特に目的はない筈だから大丈夫だろうし。


「それなら、移動を開始しよう、すまないが怪我人が居るので戦車を中心に警戒しながら移動するのに協力してもらいたい」


次の更新は24日を予定しています。


R5年6月1日 誤字修正しました。

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