42 強さの替わり
お久しぶりです、前回出てきたサミューさんの年齢ですが計算間違いがありまして25に訂正させていただきます。
日が昇ってから、みんなを起こし朝食の用意をしていると、いきなり背後から声をかけられた。
「ちょっといいかしら」
ん、なんだろ飯はまだできてないし、ハルは今サミューの特訓中のはずだよな。
「どうした、腹が減ったのか」
「そんな訳がないでしょう、それよりも、あなた一体サミューに何をいたしましたの」
え、何をって何を、何も変な事はしてないよな。うん、迫られそうになったから眠らせただけだよね。
「昨夜は『入眠』で眠らせただけで、良心に恥じるようなことは何一つしていないぞ」
「はあ、あなたまでサミューに毒されて色ボケになってどうするつもりなのかしら、わたくしが聞きたいのはそう言う事では無くて、サミューの『魔法制御』が急によくなった理由が昨夜の特訓のせいと聞きましたので、問いただしに来たのですわ」
そうか昨日の特訓の成果が有ったんだ、いやあよかった、これでサミューも魔法が使えるようになれば、うちのパーティー全員が何かしらの魔法が使えるようになるもんな。
「それでどんな手を使って、数か月分の訓練を飛び越えさせたのかしら」
「いや大したことはしてないんだが、口で言うよりもやった方が早いか、手を出せ」
うん、そっちの方が説明しやすいよね、ハルの掌の上に魔法で火を出させてから、指を絡め魔力を通す。
掌の上でリズミカルに火を踊らせると、あれハルが呆れたような顔をしてるな。
「少し魔力を減らすから、その分をハルがやってくれ」
徐々に魔力を引き上げて、火の制御をハルに譲っていく。
「これと同じことをサミューにもしたんですの」
「そうだ、それがどうした」
感じ的には自転車の練習で後ろを持ってあげるようなものだろう、こういうのって一旦感覚が掴めると後は早いよね。
「はあ、あなたは自分がどれだけ非常識な存在なのかを自覚するべきだと思いますわ。こんな簡単に人の魔力と自分の魔力を合わせて操作するだなんて、驚くべきか呆れるべきか、もうわかりませんわ」
へーそんなもんなんだ。
「ところで、何かコゲ臭くありませんこと」
あ、そういえばみんなの肉を焼いてる最中だったっけ。
その後、涙目のミーシアの前で焦げた大量の肉を放棄し、残った肉を焼きなおしたけど、これで肉の在庫はゼロか……
飛び回りながら短剣を振り、次々と山猫を斬り倒していくと、頭のなかにラクナが語りかけてくる。
(まったく、せっかく入手した『魔道具』を自分で使わずに子供に与えるとはの)
(仕方ないだろ、『出血の細剣』の効果は回復が必要になるだけの傷を敵に付けられるのが前提だろう)
切りつけてもダメージが無いなら、回復を掛ける必要なんてそもそも無いもんね。
(まあ、そうじゃな、切れ味などは今のレベルでは通常の武器よりまし程度じゃしな)
(俺が使ったとして、厚い筋肉や硬い皮膚に覆われた魔物に回復が必要なほどの攻撃ができると思うか)
(難しいのう)
即答しやがったよこのやろう。
(アラならどうだ)
(可能じゃろうな、攻撃力もあるしスキルも充実しておる。しかし毎度の事じゃが、自分で言って悲しくはないのかのう)
ほっとけ、サミューが戦闘職に就いて、アラが成長した事で純粋な攻撃力では俺が最下位になっちゃったんだよね、はあ、多分この差は開く一方なんだろうな~
(こ、これが合理的な判断なんだ)
おれ自身は今のところ、魔道具のおかげで無双出来てるけど、これは装備が有って練習すれば誰でも出来るからな~
まあ、それだけにね。
(仮に俺が『出血の細剣』を使えばアラが『切り裂きの短剣』を使う事になるが、持たせる意味があると思うか)
(ふむ、確かにそう言われると無駄じゃな、『生物切断』の効果がなくともアラならば敵に深手を負わせられるじゃろうしの、武器が短くなる分反撃される恐れがあるか)
そゆこと、『切り裂きの短剣』持ったアラなんて只のオーバーキルでしかないからな。
(お主を役立たずの足手纏いにしてまでする価値は無いのう)
この毒舌首飾りがいくらホントの事とは言え、そこまで言うか。
(せっかくの戦闘技術を無駄にするのは惜しいしのう)
ん、なんだ、落としてから持ち上げて来やがった。
(少なくとも、儂と雑談をしながらこれだけ戦えると言うのは相当なものじゃと思うがのう)
そう言えば戦闘中だったか。
(しかし、魔物が多いな『鎮静化』したはずだろう)
(『鎮静化』すれば新たに生まれる魔物は減るが、既に生まれてしまった物はのう)
そうかよ、ん、後ろからアラの声が、この呪文はたしか。
「いくよ『たつまき』」
小さな両手から放たれたつむじ風がアラから離れるにつれてみるみる大きく、てっデカ過ぎだろこれ。
うん、数十匹は余裕で巻き上げられてたよね。
「アラ様、す、凄いです」
「こんな魔法、非常識ですわ」
あ、ハルが呆れてる。自分も魔法を使えるから、この魔法がどれだけ無茶苦茶か解るんだろうな。
分かってないミーシアは素直に驚いてるけど……
でもな。
「アラちゃん、もう一回向こうの群れにもできますか」
「サミュごめんね、魔力がもうね無いの」
強力な分、消費MPが半端ないもんな一発で使い切っちゃったよ。あれ、アラに異常状態がついてる、『魔力枯渇』なんだこれ。
(限界までMPを使いきった時に起こる現象での、最低でも半日は0のままじゃし通常より回復も遅くなる)
そんなのありかよ。
(こんなこと今まで無かっただろう)
(御主はスキルのおかげで枯渇は起こらぬからの、ハルやアラは『蝙蝠の館』で枯渇直前まで行ったが、あの時は何とかなったからのう)
「でもね弓だったら出来るよ、『せいあつしゃげき』」
アラの手が高速で動いて矢を連続で放つけど、速すぎだろ、二十本近く有った矢が二、三秒で全部ってマシンガンかよ。
でもこれで戦闘は終わったか。
「御主人様、アラちゃんが」
なんだサミューの悲鳴が。
アラがどうしたんだ。
駆け寄る先にはぐったりとしてサミューに抱えられたアラが、意識がないのか、アラ、アラ。
(落ち着かぬか、『鑑定結果』をよく見よ)
なんだラクナはこんな時に、アラが大変だって言うのに。
『鑑定』を見ろだあ、それがどうした、ん『疲労困憊・休眠』
(『魔力枯渇』と同じような現象でスキルの使い過ぎが原因じゃ、体力は半日程度で全快するが、それまでは目を覚まさぬ)
なんだ、そう言う事か、よかった。
「アラちゃんはどうしたんでしょう、このまま目を覚まさないなんてことはありませんよね」
サミューずいぶん慌ててるな、こんなテンパったサミューを見るのは初めてかも。
「ど、どうしましょう、こんな所じゃお医者様もいませんし、あっ薬草は、どれが効くかわかりませんね、変なのを使って悪化したら」
うーん慌ててるサミューかこれはこれで可愛いかも、いやいや顔に出してるのを気付かれたら、後で何と言われるか解んないよね。
「そうだミーシアちゃん、こんな時に使えそうな魔法とかって、なにかないの」
「え、えっと、ごめんなさい、原因が分からないと……」
このままサミューを見てるのもいい気がするけど、でも本気で心配してるし、周りにも影響でそうだね、ミーシアは泣きそうな顔でハルも暗い顔してるもんな。
「大丈夫、疲れて寝ているだけだ、昼過ぎには起きるだろう」
みんな目に見えてほっとしてるな、パーティー仲がいいのは、喜ぶべきなんだろうな、さてと。
アラの、背中とひざ裏に腕を回して抱き上げる、初めてのお姫様抱っこの相手がお子様か~
「そんなご主人様が直接抱き上げなくても、わたしが背負います」
いやそんな、結構重いよ~それに意識無いから普段より持ちにくいし、しがみ付いてこない状態でおんぶはねー
「いや、無理はしなくて良い、今日の小屋までまだ距離がある、体力が持たないだろ」
「わたしなら大丈夫です、わたしに抱かせて下さい」
どうしたんだよ、サミューは、アラが心配なのは分かるけど、こんなに必死になって。
「ダメだ『迷宮』のなかで無理をさせるつもりはない、アラが小さかった時とは違うんだ」
ちょっと考えたらわかるだろ、体力で考えたら俺かミーシアが運んだ方がいいし、長剣と盾を持ったミーシアより短剣だけの俺の方がいざと言うときすぐに戦闘態勢がとれる。
いつものサミューなら言わなくても、すぐに気付くはずなのにな。
「ですが……」
「こんな足場の悪いところで疲労すれば転倒してもおかしくない、そうなれば二人とも怪我をするぞ」
やべっ、ついキツイ口調になっちゃった、サミュー怒ってないかな。
「つっ、……そうですね、申し訳ありません、出すぎた口をお許しください」
ここはフォローしとかないとな。
「俺も言い過ぎた、休憩の時と戦闘になった際にはアラの面倒を頼む、それと周辺の警戒も任せる」
「かしこまりました」
さてと我が家の眠り姫が起きるまでは、魔物に会わないように気を付けないとな。
しかし、アラが強くなって一気に戦力アップと思ったらやっぱりそんな甘くなかったか。
あの位の魔物なら、別にあんな大技使わなくても余裕だったんだけどな。
逆に今、戦闘になったらアラの守りに誰かを付けなきゃならないし、もし逃げるとか何かを追うとかなっても、速度が落ちる上にアラを抱える誰かは戦えなくなるし。
せっかくの成長だけど、アラのステータスアップだけで満足して、新しい魔法やスキルは最後の切り札にとっとくしかないな、後は『成長補正』でMPなんかが上がるのを期待するか。
次回はハル回だ、適度に出番を作ってあげないと空気になっちゃうからね……
サミューさん出張りすぎだ~~~
H26年10月29日 誤字、句読点、三点リーダー、一部文章と台詞修正しました。
H27年2月20日 誤字修正しました。




