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414 不可解な献身

「マイラス・リアス・ラマイ子爵、まさか貴殿がここまで墜ちていたとは。『鬼族の町』で貴殿が起こされた事件については耳にしていたが、それだけに飽き足らず『活性化』を起こしている『迷宮』の中で鎮圧行動中の戦力を襲うなどと。貴殿は騎士としての役割を忘れられたのか、たとえどのような事情、どのような確執が有ろうとも、『迷宮』の危機においては協力し当たるべきではないか。それをこのような愚劣な行い、恥を知れ」


 冒険者達に囲まれた俺達の様子に、ミムズが激高してるけど、そうかこの世界ではそう言う感覚なのか。


 考えてみれば戦争直前みたいだった、ムルズの貴族達とライフェル神殿も一時停戦をして『活性化』の対策で協力し合ってるんだもんな。


 そう考えると、マイラスのこの行動は相当な問題だって事か。


「な、なぜこんな早く、話がちが、いや、ラースト卿、何か誤解をなされているようだが、これは貴殿の考えられているような状況ではなく、この冒険者共の行動に不信の点があったがゆえの事。民草を導くべき貴族の責務として見逃す事は出来ず、それを問い質そうとしたところ、抵抗されやむなく捕縛しようと。罪は私ではなく、何かを企んでいたであろうこの者達の……」


「そのような虚言は止められよラマイ子爵、このような状況でそのような言い逃れを述べられるなど、御家名に泥を塗るだけですぞ。このミムズ、少なくない日数をリョー殿と共に過ごし、かの冒険者の人となりは多少なりとも知っておりますし、それはライフェル教のフレミラウ・トレン法師や『武闘大師』ラッド殿も保証されておられる事。また、万が一にもにもリョー殿が貴殿の述べられるような行動を取られているのであれば、そこにいる当家の用人であるディフィーが唯々諾々と従っておりはしないでしょう」


 おお、ミムズがマイラスに言い返してるよ、一瞬だけでもマイラスに丸め込まれてこっちと敵対するんじゃなんて考えちゃって、悪い事したな。


「ラマイ子爵、御存知でありましょうが、『活性化』の鎮圧戦や、『活性化』防止のための大規模討伐を妨害する行為は、その『迷宮』を抱える御領地のみならず、参加された主だった家々への敵対行為、宣戦布告とも取れる行いですぞ。このような愚行が知れ渡れば、今までの事も有りますし御家はタダではすみますまい」


 ああ、宣戦布告に取られるって事は、今この『迷宮』を取り囲んでる軍勢が丸ごとマイラスの領地を攻めても文句が言えなくなるって事なのか、まあ距離や補給、政治的な理由なんかも有るだろうからそんな流れは現実的じゃないだろうけど、それでも色々なペナルティが有るんだろうな。


 ミムズも家がタダで済まない何て凄い事を言ってるし。


「見れば、既に形勢はリョー殿の勝利で決しかけておる様子。このような戦いを一方的に仕掛けて返り討ち、あるいはリョー殿に捕えられてロウ子爵家に引き渡され、その後に罪人として刑死となり醜聞が広まる事となれば。貴殿の本国でも御家に対し厳しい沙汰が下されましょうぞ。御家取り潰し、御領地召上げで済めばいい方、場合によっては一族や御親族も連座となり刑を受ける事となりましょう」


 確かに戦闘は相手の攻撃手段が思ったほどじゃなかったおかげで、みんな一方的に蹂躙してるし、いつの間にか『獣態』で参加してたプテックとサーレンさんもあちこちで暴れてて、馬の首にかみついて引き倒したりしてるからね。ハルもトーウに守られながらミーシアの背後へ移動して魔法を使いだしてるもんな。


 うん、この状況ならたしかに負ける気はしないわ。


 しかし、マイラスの行動ってそこまでヤバい事だったんだな。


 とりあえず正当防衛って事で返り討ちにして殺す口実が出来たくらいにしか考えてなかったけど、子爵家が取り潰しでもまだいい方って、奴のやらかしは予想以上に大ごとなのか、


 いや、今までの累積も有ってなのか、確かライフェル神殿からも警告を受けてるらしいし。


「貴殿に貴族として、一家を預かる当主としての御自覚が有られるのならば、事ここに至った以上は、潔く御自裁めされてはいかがか」


 いやいや、なにを進めちゃってるんだよミムズ、どう考えたってあのマイラスが追い込まれて自殺するタマとは思えないんだけど。


「貴殿がこの件に自らケリを付けられるのであらば、このラーストとて悪いようには致しませぬ。リョー殿にとりなしを行い、せめて御家が残る様に計らいましょうぞ。貴殿は不名誉な行いをされてはおらず、『迷宮』内で魔物を相手に果敢に戦われ、見事な戦死を遂げられたと領府と御実家へは報告いたしましょう」


 え、そんなの有りなの。いやまあ、これで戦闘が終わってくれるのなら悪くはないのかな。


 この状況でなら負けっこないだろうけど、万が一って事は有り得るだろうからさ。


 自暴自棄になった連中が自爆覚悟みたいな事をしてきたりとかさ、実際、前にそんな事をやってきた女騎士が居たしね。そんな事でうちの子の誰かが怪我なんてしたらばからしいし。


(ふむ、悪くない話じゃのう。お主にマイラスが討ち取られた結果としてラマイ子爵家が取り潰され、親類縁者も処罰された等となれば、主家を失って野に下り、結果としてお主を恨む騎士崩れの浪人が大量に出る事になるじゃろうて)


 てことは、この間のピリム・カテンとのいざこざみたいな面倒な事になりかねないって事か、いやそれどころか恨んで来る人数が多いから、もっと面倒かも。


(さらに子爵家と縁の有る貴族家の恨みも買えば、それらの家から刺客を送られるやも知れぬ。状況を考えれば理はお主に有ろうとも、恨みと言う物は感情の問題じゃし、今回はピリム・カテンの時とは違い地位の有る貴族が相手となりかねぬ。この地の領主やロウ子爵とお主の関係、更には政治的な状況次第ではカミヤのようにお主の正当性を完全に証明するような書状が貰えるかは微妙じゃろうし、何かあった時の後ろ盾としての期待も出来ぬじゃろうて。一時的に雇用しただけの冒険者の為に外交面での面倒事を抱え込む事となりかねぬからのう)


 てことは、ホントに面倒な事になりそうだよね。


(ミムズとしてもそう言った点を考えて、お主の不利益が発生しない範囲で落としどころとして提案しておるのかもしれぬのう)


 まあ確かに、マイラス本人さえどうにかできれば、その実家や親戚がどうなろうとこっちに火の粉が飛んでこないならどうでもいいからな。ムカつく相手だから親兄弟皆殺しにならないと気が済まない、なんて物騒な考えはしてないからね。


(まあ、マイラスを殺す事でなにがしかの問題があっても、最終的には神殿が内々に手を回して対処する事となろうが、ミムズはそう言ったお主の事情は知らぬからのう)


 確かに、いざとなったらライフェル神殿に守って貰えるとは思うけど、なんかそれも色々と面倒な事になりそうなんだよな。


 カミヤさんの話を信じるなら、神官長さんにあんまり大きな借りを作るのはまずそうだもんね。


 守ってあげる代わりに、子作りとか言われそうな気がするし。


 そう考えると、ミムズの提案は悪くないか、これでカタが付くのなら確かに悪くない話なんだけど、まあ相手がマイラスじゃあ、こんな提案するだけ無駄じゃないかなって気がするけど。


「自害しろだと、子爵家当主である俺に対して騎士風情が自害しろだと、このような無礼が許される訳があるまい、爵位と所領を有する貴族が冒険者如きに追い込まれ、騎士風情にこの世な物言いをされるなど、許されていいはずが無いのだ、貴様ら等にいいい」


 マイラスが、右手で剣を振りかぶり、そのまま一気に馬を走らせミムズへと駆けだす。


 やば、あのリョナ貴族プッツンしやがった、マイラスはあれでもそれなりにレベルとステータスが有ったはずだ、下手をすればミムズでも負傷しかねない、まあ致命傷にはならないだろうけど、それでも…… 

 

「しねえ、『豪斬』」


「危ない」


 え……


「な、は、侍女殿何を」


 ミムズを庇う様にサミューが、剣を大上段から振り下ろそうとするマイラスの前に飛び出してる。


 不味いサミューの防具だと、あれだけスピードが乗った攻撃は防ぎきれないんじゃ。


「ぐ、ぐう」


「がああああ、き、貴様、奴隷の分際で、子爵である俺の、俺のおおお」


「は、いや侍女殿、御無事か、自分を庇うなど、なぜ貴女が、そんな、そんな……」


「この程度の傷など問題はありません、騎士様が御無事で何よりです」


 血相を変えているミムズにサミューが何時もと変わらない微笑みを浮かべたまま振り返ってるけど、左肩にはマイラスの剣が食い込んでて、血が……


(どうやらサミューの攻撃の方が早かったようじゃの、見てみよ『焼灼の利剣』でマイラスの左手を肘から斬り飛ばしておる。手綱を持つ片手を失った事とその激痛で馬上での姿勢が崩れ、斬撃の威力が落ちておったのじゃろう。見た目ほどサミューのダメージは大きくなさそうじゃ)


「さ、サミューさん」


「サミュー、大丈夫ですの」


「サミュ」


「ガアア、クソ、覚えていろ、貴様らタダでは済まさん、必ず、必ず後悔させてやる。サミュー、売女ばいた如きが、ただ泣き叫び潰される事しか出来ない、いやそれすらまともに出来なかった、使い捨ての性奴隷上がりの貴様が、このような事を仕出かして許されると思うな」


 ヤバい、俺やミムズ達の意識がサミューの方に向いてるあいだに、マイラスが剣を捨てた右手で手綱を握り直し逃げ出そうとしてやがる。


 いやマイラスだけじゃない、奴の逃走を見て他の冒険者連中も騎馬で逃げ出そうとしてるか、サミューの怪我にみんなが気を取られて攻撃の手が止まった隙に逃げられたか。


「『虫下し』殿、遅参お許しあれ、カン・キテシュ推参致した」


「カテン家嗣子、ピリム・カテン、約定に則り『四弦万矢』殿と共に、『虫下し』殿に助太刀いたす」


 離れた所から掛けて来る『四弦万矢』が弓を構えて、逃げ散る冒険者を狙ってるけど、あそこじゃ位置が悪すぎる。


 クソ、せめてマイラスだけでもここで仕留めておきたいが、マイラスの逃げた方向だとアラやハルの場所からも『四弦万矢』の位置からも、俺達や逃げ散る冒険者連中が間に被って狙えないか。


『四弦万矢』の腕ならそれでも狙えそうだけど、アイツはマイラスとは面識がないから、奴を狙えとここから叫んでも、誰がマイラスか分からないだろうから通じないか。


 いや、今はそれよりもサミューの怪我を……


「おのれラマイ子爵、このような、このような事を仕出かした上に、指揮官たるべき者が配下を見捨て己一人が真っ先に敵前逃亡とは騎士の風上にも置けぬ卑怯者、逃がすと思ったか、『氷矢』」


 傷付いたサミューを後ろから抱きかかえるように支えていたミムズが、サミューを地面に寝かせてから右手で槍を取り、左手を掲げて魔法を放つと、細長い氷の塊がマイラスの左肩に刺さるが、マイラスは多少姿勢を崩しながらも馬を走らせ続ける。


「逃がしはせん」


 魔法を放ち終えたミムズが、手に持っていた槍を逆手に構えて、大きく振りかぶる。


 そう言えばアイツには投槍に特化した『投擲』スキルが有ったはずだ、確か『鬼族の町』での戦闘でも使ってたが、オーガを何体も仕留めてたんだから威力も射程も十分ある。


 あれならマイラスの背中に十分届くか、あれだけ太い槍がまともに当たればかなりのダメージになるはずだ。


「覚悟召されよ、お命頂戴いたす」


 奴には『魔道具』があるから、あの一撃だけで仕留めるのは無理かもしれないけど、アレでマイラスを負傷させて落馬でもさせられれば、追い付いて止めを刺せる。


 これでアイツとも……


 え……


「い、いけません、それだけは」


 まるで、ほんの数分前の光景を再現するかのように、血塗れの左手を下げたまま無事な右手だけを大きく広げて、サミューがミムズとマイラスの間に飛び込む。


 なにをしているんだサミュー、それじゃあまるでミムズからマイラスを守っているようじゃ、いやそれどころじゃない、このままだとミムズの槍がサミューに。


「く、止まらぬ、なぜ、なぜ、このような……」


 勢いを付けていた為に、止めきれなかった槍がミムズの手から離れてそのままサミューの胸に突き刺さって。


 貫かれた勢いのまま、サミューの身体が後方に弾き飛ばされるように宙に浮かび、長い金色の髪が、風に舞うようにゆっくりと広がって。


次の更新は22日の予定です。


R5年6月1日 誤字修正しました。

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