410 秘密の
(それで、これからどうするのじゃ)
『アイテムボックス』に回収した『魔道具』をしまい終えた俺にラクナが聞いてくるけど、別に特殊な事をするわけじゃないよな。
「当初の予定通り、建物ごとトロルを排除するだけだ」
複数の『魔道具』を使ってトロルの状況を確認するけど、窓から顔を出してるトロルはいないな。まあ、アラやミーシア、ディフィーさんがいるのに頭なんて出したら狙い撃ちにされるだけだもんね。
銃眼や窓の奥の遮蔽物の影から見張ってるのなら、どうしても死角が出来やすいだろうから、遠くから屋敷に近づいてくる相手ならともかく、同じ建物の真下や壁面なんかに取り付いた相手を見つけるのは難しいだろうな。
ついこの間、ドワーフ達に聞かされた知識が役に立ったな、こういう状態でも相互に監視して気付けるようにするために凹凸のある稜堡みたいな建物の方が良いって訳か。
トロルの現在位置と底から見えるであろう範囲を考えて、安全そうな窓を開けて『軽速』を使いながら壁をよじ登って行く。同時に『術送の指輪』を使って、外に居る三人に合図を送ると、放水や鉄球の攻撃がさらに激しくなり、アラの放つ雷撃も追加されて山荘を破壊していく。
「さてと俺も、参加しないとな」
山荘の屋根に上ってから、『軽速』を使い頭上に思いっきり飛び上がってから斜め下に向かって『風砂の指輪』を使って、岩石を放つ。
指輪の効果で放たれた速度に、俺が飛び上がった高度分の落下速度が加わって屋根に穴を開け、更に狙いを付けていた壁や柱も破壊していく。
「え、ええい、が、がんばります」
高速度で振り回される鉄球が一階部分を重点的に破壊していく。
「参ります『土砂流』」
ディフィーさんの魔法で生まれた大量の水が、瓦礫や石などを巻き込みながら押し寄せて、建物を軋ませる。
「アラも行くよー『吹雪』」
更にアラの生み出した大量の雪が屋根の上に積もって行くのにあわせて、俺も『氷水の指輪』を使って大量の氷を作り降り積もる雪を氷付かせていく。
「さてと柱や壁の何割かが失われて、バランスが悪くなった建物の上に、大量の重量物が積み重なった場合どうなるか」
日本の丈夫な家だって、異常気象で大量に雪が降ればその重みで家が潰れるなんて事も有りうるっていうのに、そこまでの強度はなさそうな建物、それも半壊状態の上に、今も一階部分が破壊されながら大量の水流で圧力を掛けられているとなればね。
(む、揺れておるぞ)
ラクナが言う通り、明らかに足場にしている屋根が揺れ出している。うん、そろそろここに居るとヤバそうだな。下を削って上に大量の雪と氷を積載した分、重心がおかしくなってるし。
(崩れ出しおったぞ)
「解ってる、行くぞ」
足場の悪い雪の上を『軽速』を使う事で埋まらないように走って助走をつけ、一気に飛び上がる。崩壊する山荘に巻き込まれないように、かつディフィーさんの放ってる水流にも落ちないように、方向を定めて跳んでいるおれの足元では、絶叫するトロル達を巻き込みながら山荘が完全に崩れていく。
うん、下の階に居た連中なんかは、瓦礫に押しつぶされたり、生き埋めになった状態でディフィーさんの水でおぼれてたりするし、上の階に居た連中も落下や瓦礫でダメージを受けてるな。
これなら生き延びたトロルを仕留めるのも難しくはないか、ほぼすべてが生き埋めになってるような物だから、動けない個体はそのまま止めを刺せばいいし、自力で脱出できそうなのも、出てきたところを狙い撃ちにすればいいからね。
「しかし、これはまた凄いやり方でございましたね。わたくしも『空間除菌』を進言しはしましたが、まさかこのようなやり方をなさるとは。今までに何度も思った事ではありますが、リョー殿は本当に奇想天外な作戦を立てられますね。まあ、わたくしと致しましては、こうして新鮮な生餌を大量に得る事が出来るのでありがたいのですが」
満面の笑みでディフィーさんが見ている先には、アラの剣で体力を限界まで吸い尽くされ動けなくなっている大量のトロル達。
その向こうに有る崩れた山荘の残骸の山の上では『獣態』を取ったミーシアが、鼻を使って埋まっているトロルを見つけては強靭な前足で掘り出し、それをアラが体力を吸って動けなくするという作業を繰り返している。
うん、パッと見だと災害救助のように見えなくもないけど、その先の結果を考えると、あのままトドメを刺した方が優しいんじゃないかなって気もするな。
「さて、今でしたら、わたくしとリョー殿しかこの場に居ませんので、内々にお話があるのですが」
ディフィーさんが内々に俺に話って、なんか怖い話じゃないよね。まさか一口齧らせろとかそう言うのじゃないよな。
少し怖い想像をしてしまった俺の目の前で、ディフィーさんが自分の『アイテムボックス』に手を入れて何かを取り出すけど、アレは金貨の袋か。
「金貨で750枚、わたくしがこれまでに頂いて来た俸給や恩賞等を蓄えた物です。それとは別に、装飾品や装備品などもそれなりの額の物がございます」
(ふむ、これだけあればひと財産になるのう。装備品などもなかなかの良品ばかりじゃし)
一体なにを企んでるんだこのワニメイドさんは、こんな大金をいきなり人の前に並べて、しかしよくこの若さでこれだけ稼げたもんだな、現金だけでも日本円で考えれば7500万相当だぞ。いや、この流れは、もしかして……
「すぐにとは申しません、この鎮圧戦と『蠕虫洞穴』での『鎮静化』が終わった後でも構いません。せん、いえリョー殿の侍女のサミュー様をミムズ様にお譲り頂けませんか」
やっぱりか、以前にミムズから申し出があった時にきちんと断ったはずなんだがな。
「もちろん十分な代価はお支払い足します、今この場に用意した金品だけでも、奴隷一人の身揚げには十分な物でしょうが、身の回りの世話をする侍女を失われるのですから、その代わりも用意いたします」
代わりって、サミューの代わりって事か、ん、ディフィーさんが差し出したのは首輪、アレはまさか。
「わたくしの方で『隷属の首輪』を用意いたしました。事前の手続きも住んでおりますれば、リョー殿さえご了承いただけるのであれば、サミュー様の身柄と引き換えにこの身をいかように処されようとも構いません」
うわあ、なんか前にトーウにもこんな迫られかたしたな、というか本気かよこの人は。
奴隷になる、それも冒険者の異性の奴隷って、どういう目に合うか解ってるのかよ。いや、もしかすると、うちの子達に対する俺の態度を見て、なんとでもなるだろうって甘く見られてるのかな。それともアクラスやパルス辺りが買い戻してくれるとでも思っているのか。
「いかようにもと言うがな、本当に解っているのか」
「はい、繁殖奴隷に使われようと、使い捨ての肉壁であろうと御随意に、わたくしは、リューンの宮中でもそれなりの見た目をしていると言われておりましたし、生娘でございます。両殿下にお仕えしていた関係から、礼法一式や各種作法等も一通り弁えております。そのまま娼館に売られたとしても十分な額にはなると自負しております」
ちょっと、まさか、本気ですか、本気でサミューと交換してもらうつもりなのか、なんでそんな……
「何を考えている、自分がどうなるか分かっていて、なぜそこまでサミューを欲しがる、いやミムズに渡したがるんだ」
「申し訳ありません、それは、それだけは申せません」
またこれか、理由も言わずにこんな交渉を持ちかけられたってさ。
「そうは言うがな、俺の奴隷になれば、『隷属の首輪』を使って強制的に言わせる事も出来るんだぞ」
「その時は『隷属の首輪』がもたらす『懲罰』により、締め付けられたこの首が千切れて地に墜ちるまでの事かと」
おいおい、死んでも話さないってことかよ。
「それを聞いて俺が交換に応じるとでも思うか。例え首輪で縛られても、俺に従う積りはないって言ってるようなものだろう」
「お言葉の通り、心までは捧げる事は出来ませんが、ですがリョー殿がこの事に関する秘密を詮索なされなず、ミムズ様やリューン王家の御二方に害をなさないのであれば、たとえどのようなご命令であっても喜んで従わせて頂きます」
いや、それはもうさ、ミムズやパルス達と敵対するような状況になったら命令には従わないって事ですよね。
「試しに聞くが、もしも俺がミムズ達に剣を向けたらどうする」
「『隷属の首輪』は『獣態』を取っていましても効果がありますが、首を締めあげるという効果の特性上、『懲罰』が発動してから、意識を失って行動不能となりその後絶命するまでは、それなりの時間差がございます。まして耐久力の高い『獣態』を高レベルの獣人が取っていれば、相手の抵抗を排して冒険者の一人や二人食い千切る位の猶予は十分ございますでしょう。ですが、リョー殿はそのような事はなされないと信じておりますし、そう言った内容以外のご命令で有ればたとえ自らの四肢を切り落とせと命じられましても喜んで従いましょう」
うん、とっても良い笑顔で言ってるけど、内容はとんでもない事言ってるからね。
「どうして、そこまで出来るんだ。下手をすれば死ぬ、いやそれ以上に悲惨な目に遭う可能性も解っているようだが、なにがそこまでさせる」
自己犠牲っていうのは物語なんかじゃ良く聞く話だけどさ、これは人質交換、いやもっとひどい内容だってのに向こうからそれを持ちかけて来るっていうのは、どうなってるんだよ。
「忠誠を捧げるべき敬愛する御方の為であれば、この身がどのようになろうとも。それが我が恩師から教わった、いえ、わたくしが恩師の言動の中から学び取った、僕としての心構えでございます」
なにその恩師ってどんな人なの、本人から直接教えられた訳じゃなくて、その人の様子を見てディフィーさんがこんな風になる位の薫陶を受けたって事は、一回や二回の言動じゃなく常日頃からそう言う様子が有ったって事じゃないのか。
一体その恩師っていうのは普段どんな行動を取ってたんだよ。まさか常日頃から自己犠牲の塊みたいな感じなのか。
となると、痛いヒロイン的な言動をしながら自分を痛めつけるドMみたいな奴だったりするんじゃ、いや勘違いした聖人かぶれとか自己陶酔して暴走するタイプだったりするのかも、それとも自己評価が極端に低くてそれで捨て身になれるって可能性も有るか。
もしかすると封建制度や主従関係なんかが、がっちり決まってるこの世界じゃこういった考え方も珍しくないのか、ラッテル家の連中とかトーウもこんな感じだったし、いやでも幾らなんでもこれはやりすぎじゃないか。
とは言え、聞いてる分だとあんまり関わり合いにはなりたくない相手だな。いや、今重要なのは会った事もない恩師の話じゃなくて、ディフィーさんへの対応だよな。
とは言え答えは決まってるけどさ……
「悪いが、サミューを手放すつもりはない」
ミムズに頼まれた時も考えたけどさ、俺の秘密の事も有るし、アラ達の事をよく知ってるサミューがいないと生活が成り立たなくなりそうだし、戦力としても『成長補正』で強くなったサミューの中衛としての役割は重要になってきてるし。
「そう、でございますか」
しかし、ディフィーさんにしては随分唐突な話の振り方だったな、もしかしてミムズ達の居ないタイミングを狙ったのか、そうなれば別行動している今しかないだろうし。
でもなんか、切羽詰まってるような感じもするし、少しカマをかけてみた方がいのかも、でも藪蛇になりそうな可能性も有るけど。
いやミムズやディフィーさんの目的がサミューの身柄であるのなら、少なくともサミューが俺の奴隷である間は、俺に危害を加える事は出来ないか、そんな事になれば『隷属の首輪』を付けられたサミューもタダでは済まないんだから。
うーん、なんかサミューを人質にしてるみたいでいやな考え方だけど、この際は仕方ないか。
「しかし、あんな言い方をされては、どんな秘密なのか気になって来るんだが」
まあ、教えてくれるわけはないだろうけどね。とは言え、今日の話し方の感じだとディフィーさんも切羽詰まってるし、覚悟を決めた感じで緊張も有るだろうから、多少口を滑らせる事も有りそうだよな。
「深入りする事はお勧めいたしません、事は御家の秘事に関する事であり、ひいてはリューンの枢密にも関わる内容となります。知ってしまえば、いえ知ったかもしれないと疑われるだけでも危険かと、リョー殿に一国を敵に回す御積りが無いのであらば、それ以上はお聞きにならない方がよいかと」
うん、とりあえず今の言葉だけでも、いくつか解る事が有るな、やっぱりディフィーさんも多少テンパってるんだろうな、個人的な事情ではなく、ミムズの実家やリューン王国にも関係しそうな内容だと言っちゃってるし。
とは言え、深入りはしすぎないようにしておこうか、ディフィーさんの言う通り、さぐり過ぎは面倒な事になりそうだからさ。
次の投稿は3月5日を予定しております。




