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408 山荘の鬼



「片付いたか」


 周囲を見回すと、もう何度目になるか分からない同じ光景が広がっている。


「リャー、終わったよー」


「え、えっと、い、いっぱいやっつけ、ま、ました」


「ふう、アラ殿達は一撃で頭や急所を破壊されて仕留められてますので、大半の原形が残っており、バラバラの死骸に比べると大変食べやすいですね」


 短時間で蹂躙されたゴブリン・ソルジャーの死骸をディフィーさんが片付けている中、戦い終わったアラがおっきなミーシアの背中に乗りながら帰ってくるけど、うーんやっぱりもったいないな。


 これまで倒してきた魔物は剣とか槍とか盾なんかを持ってたけど、よっぽど価値の有る物を除けば殆どを放置してきちゃったんだよね。


 あれだけの数を集めて売ればそれなりの額になったような気がするんだよな。まあ、これだけの量を運ぶってなると結構な労力になるからあきらめるしかないんだけどさ、材質も形状も同じような物は『アイテムボックス』に何個も入らないからね。


「前みたいに、荷車でも用意すべきだったか」


 ミーシアは、重たい物を持つのが嫌いじゃないみたいだし、いっその事、『アイテムボックス』に入ってる戦車を使うか、いやでもそれだといざって時の機動力が使え無くなるか。


「旦那、もしかしやすとゴブリンの装備品を纏めて売ろうなんて思ってやすか」


 俺の呟きを目ざとく聞き取ったのか、テトビが問いかけてくるけど、なんだろう声の感じだと、コイツは金にがめついのに反対みたいだな。


「以前『鬼族の町』近郊で似たような事をしてそれなりに稼ぎになったからな」


 あの時は、ゴブリンの持ってた銅剣なんかがかなりの数になったからね。確か金属製品は性能に関係なく、元の金属塊としての価値があるから、最低でも同じ重量の銅貨の一割引き程度の価値にはなるって話だよな。


「旦那ぁ、そりゃ『活性化』してない『迷宮』、それも『大規模討伐』が始まる前や始まってもゾンビ騒ぎで旦那以外の連中が殆ど狩りに出れなかった時の話じゃねえですかい。それにボスを倒した後に旦那の持ち帰った金属がそこそこの値で売れたのは、時期が良かったってのと、旦那がボスや変異種オーガ絡みの採集品なんぞと一緒に売ったからでしょうし」


 御祝儀相場だったってことか、いやでも高く売れる時期があるのか、いや考えてみれば、今までもそう言う事が有ったか……


「『大規模討伐』が始まりゃ、冒険者だけじゃなくそれ目当ての商人なんぞも集まりやす。人やモノが集まった分だけ取引が活発になり、その地域の景気が良くなりやすから、少額取引に使いやすい銅貨や銀貨の代わりになる金属でも物とほぼ等価で交換できやすし、装備の修繕依頼なんぞに備えて職人は素材を確保しようとしやすんで、大量に居る下級冒険者向けの装備に使える鉄や銅なんかの金属なんかは、初期の頃にはそれなりに売れやす」


 まあ、戦ってれば戦略物資が売れるのは当然か。


「ですが、『大規模討伐』ってのは大人数で大量に魔物を狩って、大量に採集しやす。まして『活性化』ともなりゃ魔物も物も大量に湧いてそれを一斉に倒すんで、アホみてえな量の同じような採取品を冒険者が持ち帰って来ることになりやす。希少な採集品以外はそのうち値崩れしちまいやすぜ」


 うん、そうだよね、同じ物が溢れて需要を供給が越えれば市場価値は下がるだけだよね。


 物流が馬車や人力になるこの世界じゃ幾ら『アイテムボックス』が有っても、基本的な消費は地元の人口分に多少のプラスα程度にしかならないんだろうから、『大規模討伐』で多少は人が増えて、物を流通させる商人も増えたとしてもあっさり物資が飽和するのか、『薬師の森』でソウラム草を売った時もそうだったよね。


「ついでに言いやすと、卑金属なんかは職人が買い込む量なんてのはたかが知れてますし、それ以外の使い方となると、銅貨代わりって事になりやすが、銅や鉄が大量に増えて溢れる上に、景気が良くなれば『迷宮採集物』以外の物資は値上がりしやす、となればねえ」


 あ、物の値段が上がるってのはインフレになるって事だから、通貨の価値が下がる。なのに銅貨の代わりになる金属塊が溢れれば、更にインフレになって銅貨の価値が下がると。つまりは銅や鉄の価値はホントにくず鉄同然になるって事か。あれ、それって住民生活もヤバいのかな。


「まあ、他の街に持ってきゃそれなりの値になるでしょうがね、そこまで重てえ金属を運ぶ手間の方が面倒ですし、何よりそれなりの販路が無きゃ買いたたかれて終わり、ですからねえ」


 ああ、確かに労力に見合う収益になるかと考えればそうか、考えてみれば、今『迷宮』の外じゃ万単位でゴブリン・ソルジャーが倒されてるんだから、鉄や銅の装備はそれこそ捨てるほどあるんだよな。


「そのままほっときゃ、そのうち値が落ち着いた頃にでも地元の新人冒険者が拾って小遣いにでもするでしょうさ。旦那でしたら、こんなのよりも『魔道具』や希少な採集物、フロアボスなんぞを狙った方がよっぽど稼ぎになりやすぜ」


 量より質って事か、まあ早くしないと後続の冒険者や騎士なんかが『迷宮』に入って来るだろうから、その前に値打ち物を荒稼ぎした方が良いのか。


「しかしまあ、普通はそんな心配はしねえもんですぜ、何せ『活性化』した直後の『迷宮』ってのは魔物の数が多いですからね。並の御仁ですと真正面から全部仕留めて、採集品を総浚いして堂々と大荷物を運ぶなんて考えはしねえで、金にならねえ群れはやり過ごして、隠れたり逃げたりしながら、美味しい得物だけを掻っ攫うもんですからねえ」


 まあ、今の面子だからできる真似だろうからな、こんな蹂躙は。


「まったく、魔物に見つからねえようにビビって調査してたのが、あほらしくなってきやすねえ。とは言えこうして安全に歩けるのももう少しになりやすがね。申し訳ねえんですが、目的地の山荘に着いて少ししやしたら、あっしは一旦別行動させて頂きやす。ちょいと野暮用がありやして」


 なんだ、コイツの用って、いや普通に考えれば何かの儲け話か、まあ別にいいかコイツなら危険が有っても自分でなんとでもするだろうし。









「フギュレア」


 俺達の視界の先では崖を背にした建物の窓から叫ぶトロルの姿が有るけどさ、あのトロルのスキルって……


レッド・トロル

技能スキル ゲバ棒 投石 火炎瓶 爆破

戦闘スキル 打撃 単発射撃 散弾射撃 腹爆破 集団暴行

特殊スキル シュプレヒコール 総括 自己批判 内ゲバ 勧誘


 なんかもうさ、『山荘』に籠ってこのスキル構成ってもうね、なんかさ、カップラーメンが食べたくなるような……


 まあ、普通に考えてシャレにならないんだけどさ、単発とは言えそこそこ威力の有る射撃スキルに、投石や火炎瓶なんてスキルが有るから、組み合わせれば殆ど間断なく撃ち続けて来るしさ、しかも接近すると爆破スキルを使ってるから、遠近どちらのレンジでも結構なダメージを食らいそうなんだよね。しかもさ……


(随分と厄介な特殊スキルの内容じゃのう。『シュプレヒコール』は集団で歓声を上げる事で互いの攻撃力を高めるコンナの『武威口上』等に近いスキルじゃし、『自己批判』は自傷行為によって一時的なステータス上昇効果、この二つもなかなか脅威じゃが『総括』は群れの中の弱い個体を嬲り殺しにした場合に、『内ゲバ』は同種族の違う群れの個体を殺した場合に、それぞれ群れに属する全ての個体に大量の経験値を与える物じゃ、使いようによっては短期間で高レベルの上位種を複数含む群れとなってもおかしくないのう)


 しかも『勧誘』は湧いたばかりのトロルを群れに強制的に入れるスキルらしいからさ。弱い生まれたての個体を群れに入れてから殺せば、パワーレベリングみたいなマネが出来ちゃうもんな。


「参りやしたね、あっしの調べた情報通りなら多分あの山荘の中にゃ、今回の『活性化』で一つか二つは『魔道具』が沸いてるはずなんですがねえ、かと言って下手に攻めるのも危なそうですしねえ」


「そうなのでしたか、そのような事情でなければあの建物ごと『空間除菌』するという方法もあったのでしょうが、いえ、この場にはこちらのサーレンも、リョー様のトリ魔法士も居ないのでしたね」


 ん、なんか今ディフィーさん変な単語を行ってなかったか、確か……


(おいラクナ、今言ってた『空間除菌』っていうのはどういう意味だ)


(お主は知らぬのか、あまり使う者はおらぬがかつての『勇者』が持ち込んだ言葉じゃぞ)


 いや、確かに日本語風の発音だったし、こっちの世界に細菌とかの知識があるのか微妙そうな感じがするからそうだとは思ったけどさ。どう考えてもこっちじゃ除菌なんて考え方まだはなさそうな気がするもんね。


 いや、でも理系だった『勇者』が公衆衛生の考えを持ち込んでたっていうし、そう言った微生物絡みの存在も知られてるのかも。


 しかし、『空間除菌』かそう言えば賃貸がメインの同業他社がそう言ったサービスを売りにしてたっけ。


(確か、汚らわしい相手数体を火炎魔法で完全に焼き尽くす事を『消毒』、そういった者達の居る部屋や建物などの一定範囲を丸ごと焼き払う事を『空間除菌』と呼ぶのであろう)


 うん、わかったわ、多分というか間違いなく『消毒』の元ネタは某世紀末覇者マンガの『汚物は消毒だ』なんだろうけど、そのネタを勝手に発展させてこの世界に広めた馬鹿勇者がいたと。


 まあいい、表現の仕方はともかくディフィーさんが言いたいのはあの館ごとトロルを焼き払う方法も有るけど、それだと『魔道具』は回収できないし、その為には強力な火炎系魔法が必要だと。


「取りあえず、中に入って探索するしかないか」


 とは言え、狭い室内であれだけのスキルを持ってるトロルの集団を相手にするってのはな。


 元がトロルだから腕力は結構高いだろうし、下手に殴られたらダメージはデカいよね。『腹爆破』は臍の辺りから前方に爆風を飛ばすなんていう至近距離でやられたらシャレにならないスキルだから、狭い通路とかだと避け切るのは無理だろうな。


 となるとアラは危険だよな、もしかするとあの子なら爆破される前に敵全てを仕留めるとかやって見せそうだけど、爆発を一回でも喰らったらそれだけで大怪我しかねないもんね。


 ミーシアにしても広範囲の爆破スキルが相手だと盾一枚じゃ、盾の端から爆風が回り込んできそうだし、かと言って『獣態』じゃ建物の中を動き回るのは難しいからな。


 以前盗賊の本拠地を襲撃した時みたいに建物を壊しながら進むのは、どうしても移動速度が落ちるから、下手をすればトロルに近寄られて至近距離から爆撃されかねないもんな。そうなればいくらミーシアでもダメージは避けられないだろうから、何発も喰らえば危険だよね。


 多分それは、ディフィーさんも一緒だろうから。


「俺が一人で探索して『魔道具』を探してくる。皆はその支援と手伝いを頼む、安全に探せそうな範囲内を探し終わるか、一定時間経過したらすぐに脱出してくる。その後はアラの魔法と『魔道具』を使って建物ごとまとめてトロルを排除するぞ」


「リョー殿、そうは言われますが、たった御一人であの建物に潜入して戦われるのですか」


「ああ、屋内での戦闘は色々と経験しているし、大柄なトロルが相手ならいくらでも戦いようが有る。それに多少の爆撃なら十分対処できるしな」


 というか、『軽速』と『斬り裂き』がメインの俺にとっては天井や壁なんかの足場が大量にある屋内の方がだだっ広い平地よりも戦いやすいし、トロルやオーガみたいな大柄な相手は懐に入りやすいからね。それに俺の『超再生』があれば至近距離で爆破を食らってもすぐに治るしさ。


「よっぽど自信がある見てえですが旦那、そもそもどうやって潜入するんですかい、アホのトロルだって仮にも変異種ってなら多少は知恵も有るでしょうから、出入口になりそうな所や見通しのいい窓なんかにゃ見張りがいやすぜ。下手に近づこうもんなら狙い撃ちにされやすし、もし無事に建物に取り付けても、入り口から入った瞬間に爆破で山荘の外に吹き飛ばされて、そこを一斉に狙い撃ちにされちまうなんて事も考えられやすぜ。弓の射撃で窓の見張りを潰そうにも、見た感じ窓の向こうには遮蔽物を置いて隠れながら撃てるようにしてるようですし、簡単には潰せねえんじゃ」


 まあ、確かに窓の向こう側にはバリケードみたいなのが見えるし、壁にも銃眼みたいな穴が開いてるからな。


「ああ、それも一応考えがある」


 この状況で、いかにもな感じのあのトロルのスキルを考えればさ、思いつくのはあの手だよね。



半端チートを評価してくださった方が450人になりました、ありがとうございます。と思ってたらさらに御一人増えて451人になっておりました、ホントにありがとうございます。

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