404 子鬼と子狗鬼
ええと、今回ですが、去年色々と話題になった某国の転載サイト対策のネタを幾つか入れておりますのでご了承ください。
「旦那、旦那、思いっきりこっちに向かってきてやすぜ、どうなさるんで、早いとこずらからねえと、こっちは三人しかいねえんですぜ」
一瞬面白そうな表情を浮かべたように見えたが、テトビが慌てたような口調でこっちの方を見てくるけど、さりげなく自分を人員に数えていないっていうのは流石コイツだな。
「そちらの情報屋ではありませぬが、どうなさるのですかな施主殿、迎撃かそれとも撤退か、どちらでありましても拙僧は構いませぬが」
なんか両手の指をパキパキ言わせながらフレミラウ・トレンが問いかけてくるけどさ、なんか戦う気が満々なように見えるんだけど、なんだかんだ言ってやっぱりこの尼さんも、コンナやラッドたちと同じ武闘派なライフェル僧なんだな。
戦うか、逃げるかか、どっちも大変そうだよな。
この辺りはほぼ真っ平らで見通しの良さそうな場所で、俺らの背後にある林も小さなものだから、林の中を突っ切って逃げるとしても、林の先も同じような平地で身を隠すところが無いから、逃げ切れるとは思えない。というか食事中の皆の所まで敵を連れていく事になりそうだよな。
あの面子なら負ける事は無いとは思うけど、食事中の気が抜けているかもしれないタイミングでいきなり戦闘ってなれば、思わぬミスから怪我とかしちゃいそうな気がするな。
かと言ってここで迎撃するにしてもさ、こんなまばらな林じゃ遠距離攻撃を防ぐ遮蔽物にも、敵集団の連携を乱すにも不十分だし、こんな場所じゃ接近されたらすぐに取り囲まれちまう。
大人数が展開しやすい平野で多勢に無勢って、シャレにならねえだろ、岩場すらないこんな地形じゃ足場が無いから俺が跳び回って戦うっていうのも難しそうだし。
早く決めないと今も密集隊形でこっちに真っ直ぐ向かって突っ走ってきてるのに……
「ん、遮蔽物の無い平地で、真っ直ぐ突っ込んでくる敵集団って……」
振り返るとすぐそこにはハルがいる。
「ハル、出来るだけ射程の長い魔法でここから狙えるか、あれだけ纏まっているんだ狙いは多少ずれてもどれかに当たるだろうから大雑把でもいい、そのぶん手数や範囲、距離を優先してくれ。フレミラウ・トレンもあそこまで届く遠距離攻撃が有るならやってくれ」
よく考えてみれば、こんな丸見えの状況で密集隊形をとって真正面からちんたら走って来るって、もう狙ってくれと言ってる的みたいなものだよね。
「承知いたしましたわ。さあ、行きますわよ、これまでの戦闘でレベルが幾つか上がっているわたくしの力を見せてさしあげますわ」
「スキルではありませぬが、かつての『勇者』様が残された指弾という技術を手慰み代わりに習得しております。通常ならば室内戦等の中近距離での牽制、あるいは接近戦で相手の意表を突き意識を逸らせる程度の物ですが、『鋼指掌法』の修練の為に高めた拙僧の指力ならば」
腰の小物入れに手を入れて両手にそれぞれ十数枚の銀貨、銅貨を掴んだフレミラウが両腕を前に突き出し親指でコインを弾くと、集団の戦闘付近にいたゴブリンの一体の頭がはじけ飛び、そのまま崩れ落ちる。うわあ、マンガみたいな技使いやがった。
「清貧を旨とすべき僧侶がこのように金銭を文字通り使い捨てるような技を使うというのはいかがなものかと思うのですが。とは言え金銭を惜しんで魔物の災禍を見逃すが如き、吝嗇家のような真似もまた……」
ああ、確かに現金を投げてるんだもんな、そう言えば昔の有名ゲームでもそんな設定が幾つかあったけどやっぱりもったいなく感じたもんな。時代劇のあの人とかどうやって稼いでるんだろう。
「確かに、もったいねえ話でしょうがねえ、命あっての物種でさあ、んで旦那はどうなさるんで、このままお二人でだいぶ削れるでしょうが、何割かには距離を詰められますぜ、向こうの遠隔スキルの射程に入っちまえば一気に撃ち返されちまうんじゃ」
「リョジュー」
「ノーギー」
「ツッジーーー」
テトビが指摘する通り、ハルの魔法とフレミラウの指弾で徐々に数を減らしながらも、気勢を上げ続けてこっちへと向かってきてる。いや時折数体のソルジャーが怯えたように立ち止まりかけたり、俺達とは別な方法へ走り出そうとするけど、その都度、それに気が付いたオフィサーが殴りつけて、殴られたソルジャーはこちらへと全力疾走し始める。
あれが、オフィサーの『玉砕命令』とか『突撃命令』の効果なのか。シャレにならねえな、あれだとミーシア達の威圧とかも効果ないんじゃ……
「いや、今はここの戦力には関係ない事を考えても仕方ないか」
これだけやられても逃げる事も散開する事も無く、真っ直ぐ突っ込んでくるっていうのは、こっちとしちゃ狙いやすいままで居てくれるってことだからね。
「ウヂジテヤマヌ、ヒノダバーーー」
絶叫しながらソルジャー達の後方で煽るオフィサーを眺めながら『軽速』を発動させる。
「二人はこのまま討ち続けてくれ、ただし危険を感じる距離まで接近されたら、迷う事無く退却しろ」
必要な事だけを伝えて走り出す。
俺達の方へ真っ直ぐに向かってくるゴブリン達の予想コースに対して半円を描くように、出来るだけ早くゴブリン達の側面に回り込めるように。
出来るだけの速さでゴブリンの横に回り込み、俺に気が付いた奴らがこちらとハル達の方を見比べている間に、手を掲げて指輪を向ける。
「デンジーン」
オフィサーの叫び声で俺の方へ進路を変えようとしたゴブリン達のど真ん中に『雷火の指輪』と『風砂の指輪』がそれぞれ火炎と土砂を放つ。
十数体がなぎ倒されながらも、残りのゴブリンが槍を構えてスキルを放ち、体の数か所から血が噴き出し、痛みが駆け上って来る。
「確かに痛いが、この程度なら死ぬ訳じゃねえ、なら…… ぐうう」
痛みを堪えながら、再び指輪に意識を向ける。威力も連射速度もこっちの方が早い、なにより火弾の一発で数体が死ぬ奴らと違って、こっちは『超再生』が続く限りやられはしない。
「お前らゴブリンが使う攻撃の痛みはもう慣れっこなんだよ」
体中を貫かれる痛みを堪えて、指輪で反撃を続けているとどんどんゴブリンからの攻撃が減って来る。俺の方が威力で撃ち勝っているってのも有るけど、すぐ近くから仕掛けてきた俺の方へ隊列を変えて全員で撃ち返してきたゴブリン・ソルジャーをハルとフレミラウの二人が横から狙い撃ちし続けてくれたからな。
「うん、やっぱりバカだったはこいつ等」
まあ、劣勢だっていうのにわざわざこっちに戦力を分けたってだけで、なんとなく解ってたけどね。二正面作戦とか、負けフラグとしか思えないもんな。まあ遠距離攻撃をしてたハル達に、防御や散開、遮蔽物に隠れるなんかの対策をしないで削られながら馬鹿正直に突っ込んでくるくらいだもんな。
「これが、外で戦ったあの嫌にめんどくさいゴブリン・ソルジャーと同種とは、いやよく似た亜種だったか、名前も少し違うしな」
あっちの連中は、死体を盾にしたり、塹壕や土嚢を造ったり、連携して防御スキルを使ったりしてたっていうのに。
「まるで死ぬこと自体が目的だったみたいな行動だったな、まあ『玉砕』とか『決死』なんて言葉がスキル名にあるんだし、ん、なっ、っつ」
火炎弾の爆発を、強引に突っ切って来た一体のゴブリンが一気に距離を詰めて槍を突き出してくるのを何とか避ける。
「コイツ、オフィサーか部下がやられて自分一体で突っ込んできたのか、だけとコイツこんなに強いのかよ」
連続で突出される槍の攻撃を避けながら距離を取ろうとするが、そのままオフィサーが距離を詰めて槍を突き出してくる
「ノモンハー」
クソなんだこの速さ、予想以上じゃねえか、さっき見たレベルでなんでこんな、それだけの上位種だって事なのか。
(む、もう一度こやつの『鑑定』結果を見てみよ)
あ、鑑定結果ってどういうことだ、え、これは、どういう事だよ。
エンパイア・ゴブリン・オフィサー LV22
身体スキル 速度上昇
技能スキル 槍
戦闘スキル 指揮 突撃命令
特殊スキル 自爆強要 玉砕命令 部下殺し
どういう事だよレベルが一気に上がってスキルまで増えてやがる。さっき『鑑定』したばっかだぞ、この短時間でどうやってこんな。
(『部下殺し』のスキルの効果のようじゃ、スキルの内容を『鑑定』してみたが、自分の指揮により部下を死なせると、多量の経験値や支援効果が発生する効果のようじゃ)
なんだそれ、自分の部下を使い潰せば使い潰しただけ成長するってか。現代日本ならブラック上司とか組織のガンなんて言われそうなやつだな。いやこういう奴に限って組織の経営陣とか管理職なんかからは『使える出来るヤツ』なんて風に評価されて庇われたりするんだよな。
いや、そんな事を考えてる場合じゃなかった。連続して突出される槍を必死にかわし続けながら、周囲を見回す。向こうにいるゴブリンはコボルト達に全滅させられてるけど、戦闘が終わったコボルトは一旦後退するのか離れていってる。
よし、ならコイツが片付けばしばらく余裕があるって事だな、それならもうすぐ……
「ガーダルカー、グッへ、ガッヘ」
気勢を上げて俺との距離を詰め用としていた、オフィサーが口から血を吐きながら槍を落とす、その胸元からは四本の人の指が生えていて、更に背後には左手をオフィサーの背後に着き出した姿勢のままで居るフレミラウ・トレンが。
まあ、ゴブリン・ソルジャーがあらかた片付いて、コボルトの方も仕掛けてくる恐れ無ないってなれば、ハルとフレミラウは手が空くんだから、こっちの支援に来るのは解りきってたし、別に俺一人でオフィサーを倒す理由なんてないんだからさ。
とは言え、これは……
「ふむ、心の臓を外しましたか、こうして咳と共に血を吐くという事は傷付けたのは肺臓ですか。身体の急所を把握すべき『点穴譜』の執筆者としてはまだまだ修練が足りぬという事ですか、とは言え」
いや、助けてくれたのはありがたいけど、真っ赤な血に染まった手をワキワキさせてそんな風に冷静に分析してるのってさ、ああやっぱりこの人はあのミカミの師匠なんだなーってのが……
「これでゴブリンの心の臓の位置は再確認できましたな」
フレミラウが左手を引き戻すと同時に右腕を突出すと、オフィサーの肋骨が付き出した穴から出てきた手が拍動を続ける心臓を掴み取っている。おいおいマジかよ。
「グゲ、ガバ」
「ふむ、キテシュ施主の言われる通りか、心の臓を失ってから意識を失い絶命するまでには、僅かなりとも時間差がありますな。確かに強力な物ならばこの時間で最後の一手を放つ事も、あるいは高位の回復手段で命を取り留める事も可能ですか。新たな知見を得る事が出来ましたな」
掴み取られた心臓の鼓動の変化とオフィサーの躰から力が抜けていく過程を見ながら冷静に話してるけど、この尼さん世が世ならマッドになってたんじゃなかろうか。
ま、まあ今は頼もしい仲間なんだし、何よりこう言った研究の結果がそのうちトーウにも反映されるはずだから、とりあえず気にしないでおこう。
「それよりも今は……」
辛うじてまだ姿の見える、コボルト達の方へと視線を向ける。
「最低限相手の戦力を把握しておきたい、このまま『鑑定』の出来る場所まで行って数とステータスを確認してくる。ハル達には先に戻っているように伝えてくれ」
必要な事だけを伝えて『軽速』を使い、一気に走り出す。これなら十分追いつけるし、見つからないように多少姿勢を低くしていても問題なく走れる。それに体重が軽いせいか足音もほとんどしないからな。
「しかし、平地で機動力の高い相手か面倒だな、いや待てよやりようによっては……」
昔そんな感じのアニメを見た事があるような。
「さてと、コボルトの集団は聞いていた通り戦車を中心にしてるけど、歩兵もいるのか、そう言えば確か名前がレッド・コボルトだったか、とは言え色が赤くなっているって訳じゃなさそうだな、見た感じは普通のコボルトとそう変わらないな」
気付かれないように姿勢を低くして数を数えていく、戦車は12台でそれぞれに二匹ずつ、徒歩が30匹か、戦車を曳いてるのはそれぞれ熊が一頭ずつ、ていうかあの熊さ黄色くてずんぐりむっくりでお腹の大きいミーシアと比べてはるかにかわいく見える体型と言いさ、下手に名前を出すと権利問題で揉めそうなとあるアニメ映画に居るキャラクターに似てるような。
いや、相手の見た目はどうでもいいか、問題なのは相手の能力だなんだからさ、白い猫でも黒い猫でも、鼠を捕るのが良い猫、なんて言う言葉も有るしな、見た目がどうこうって事は無いか、とは言え……
「赤くなったから、通常の3倍のステータスとかそんな事は無いよな」
レッド・コボルト LV18
技能スキル 操車 突撃
戦闘スキル 戦車轢殺 無差別射撃
特殊スキル 実効支配 既成事実化
ルージュ・コボルト LV9
技能スキル 暴動 暴走
戦闘スキル 集団暴行 虐殺
特殊スキル 造反有理 殺戮領域
ハニー・ベア
技能スキル 牽引
特殊スキル 蜂蜜捕り
あ、これ赤くなるはなったけどそう言う意味での『赤くなる』かよ……
「そう言えば、マーシャルのスキルに『赤狩』って有ったけど、まさか、こいつら対策か。確かテトビがレッドとかルージュの付く魔物がドミノ倒しみたいに増えてるって言ってたけど……」
H31年1月13日 誤字修正しました。




