403 焼肉
「ふう、終わったか、思ったよりは手こずらなかったな」
突進してきた最後の一頭にトドメを刺して周囲を見回すと、他の皆もそれぞれ自分の相手をした魔物を倒し終えていて、『人食い羊』の死骸がそこら中に転がっている。
「人食い羊は、それなりに凶暴ですし、『迷宮』外に出やすと農地を好んで群れで占拠し、農民を追い出しそこを『迷宮化』させたりする厄介な魔物でやすが、所詮は大食いで人を食う羊ってだけで、農夫にとっちゃ脅威でしても、それなりの戦闘職が数人で周辺から囲いこみゃ、簡単に一網打尽に出来やすからね」
テトビの言う通り分散してみんなで包囲したんだけど、確かに上手く行ったよね。
「コボルトの戦車集団を待ち受けるための場所を確保するのに、邪魔な群れを排除しただけだが、コイツの羊毛は結構な値で売れるんだったか」
確か、鎮圧戦が始まる前の説明でそんな話があったよね。
「へい、エンクやロージャー辺りに持ってきゃ、紳士服の材料としてそれなりの値で買ってくれやすぜ」
うーん、それなら刈れるだけでも毛を刈っておこうかな、直接俺達が売らなくてもそっち方面に行く連中にでも売れば多少の儲けにはなるだろうし、俺の資産としてはともかく、防衛戦なんかでがんばってくれたうちの子達へのボーナス代わりにもなるし、ミムズ達へも多少なりは渡せればね。
やっぱり良好な人間関係の維持にはある程度は渡すべきものを渡しておかないとさ。
「お、お肉は、ど、どうしますか」
「羊肉でございますか、やや癖の有る匂いは有りますが、それも慣れるとたまらなくなると聞きます。だ、旦那様、もしよろしければ、わたくしとミーシア様ならば生のままでもかまいませんので」
まあ、毛と違って肉は腐るだろうから、『アイテムボックス』に入れておいてもこの先の予定を考えれば無駄にするだけだろうな。というかいくらトーウでも生はさ、またサミューに注意されるんじゃなかろうか……
「そうだな、せっかくだし食糧の足しにするか、これからの予定はしばらくここに滞在してコボルトの戦車に備えるんだ、備蓄の足しにするには獣形の魔物肉は丁度いいし、処理する時間も十分にあるだろう」
「それでしたら、『ジンギスカン』にしましょうか、ちょうどこの『迷宮』は元々農村だったようなので幾つか野菜も取れましたし、先ほど倒したゴブリン・ソルジャーの使っていた鉄兜にちょうどいい形の物が数個ありましたから」
サミューが幾つかの野菜と兜を抱えてくるけど、よく見るとヘルメットというよりは帽子とか、江戸時代の笠みたいな平べったいのを選んできたみたいだな。確かにこれならジンギスカン鍋みたいに見えるけどさ。
「サミュー、ジンギスカンって……」
いや、なんとなく解るけどさ……
「過去の『勇者』様の持ち込まれた料理の筈だリョー殿、そちらの侍女殿も持たれている鉄兜を鍋代わりにして炭火などの上に乗せ、薄く切った羊肉をタレで味付けして野菜とともに焼く、屋外で行う元は騎馬隊が多用した野戦料理だと聞いたが」
あれ、サミューに聞いたつもりだったのに、なんでミムズが答えてるんだろ。というかミムズも知っているのかという事は比較的メジャーな料理なのかな、まあ予想通り『勇者』由来の料理だったか。多分北海道出身とかなんだろうな。
というか、ミムズが言ってるのはモンゴル軍がって話なんだろうけど、確かあれは根も葉もない俗説じゃなかったっけ。まいっか、ジンギスカンなら手間もかからないだろうから、ちょうどいいか。
「そうだな、サミュー用意を頼む」
「ああ、口に含んだ瞬間に広がるタレの甘みと羊肉独特のこの風味豊かな香り、そしてともに頂く肉汁をたっぷりと吸い込んだ野菜の味、これはまさにこの『迷宮』の大地が育んだ命の味、わたくしは今この『迷宮』その物を頂いているのですね」
いや、『迷宮』が育んだって言うけどさ、多分トーウたちが食べてるのは『活性化』で一気に生み出されたばかりの魔物や植物だろうに。
「お、美味しいですけど、も、もっと、大きなお肉も、あ」
「はい、ミーシアちゃん」
薄切りにされた肉をチマチマ焼くのが合わないのか、いつの間にか箸の使い方が上達したミーシアが物足りなさそうに食べてる所にサミューが丸焼きにしただろう羊の足を一本丸ごと差し出す。
ああ、あれは食い応えがあるだろうな、よく見るとプテックやディフィーさん、サーレンさんなんかも美味しそうに足を掴んで食べてるわ。
「おいしい、懐かしい、味」
「わたくしでは、まだこの味を出す事は、やはりわたくしでは到底代わりには……」
「美味しいです、すっごく美味しいです、サーレンはまだまだ食べれますよ」
うん、ホントにおいしそうに食べてるな。
「しかし良いのであろうか、幾ら食糧の節約のためとはいえ、この場で魔物を解体しさらに火で焼くなどと、これでは煙はもちろんの事、臭いが周囲に広がって魔物が寄って来るのではあるまいか、『活性化』直後の『迷宮』でこのような事をされるとは」
少し呆れたようにミムズが呟いてるけど、まあ考えてみればそうか。とは言え俺には周辺の敵の接近を察知できる『魔道具』が幾つかあるし、平地だからアラの視力が有れば周囲を見回せる上に、ミーシアを始めとして嗅覚に優れた獣人が何人もいるからね。
それに、元々俺達はここで待ち構えてる最中だし、その点では匂いに誘われてコボルトの戦車たちがここに向かってくれた方がありがたいしね。
「ミムズ様もどうぞお召し上がりくださいませ、そのように警戒なされていても空腹のままでは十分な御働きが出来なくなるかもしれませんよ。御立場の有られる方がそのようになされていては他の方々も委縮されて食べれなくなるかもしれませんし」
いつの間にかサミューが更に焼いた肉と野菜を綺麗に取り分けて差し出すと、ミムズが少し皿を見つめてから両手で受け取る。
「そうだな、ありがたく頂こう。うん、旨い、実に旨い」
なんかしみじみとした感じでミムズが噛み締めるように肉を食べてるけど、うーんこうしてみんなの食べてるところを見るとホント旨そうだな。
ジンギスカンか、職場の懇親旅行で行った北海道のビール園を思い出すな。肉汁たっぷりのラム肉と冷えた生ビールの組み合わせが堪らなくて幾らでもいけたよな。
サミュー特製のタレで食べるジンギスカンか、絶対旨いよなあれ。ラムやマトンの焼ける独特の匂いが……
ダメだ、このままここにいたらほんとに食いたくなっちゃいそうだ。
「少し周りを見てくる、みんなはこのまま食事を続けていてくれ、何かあればすぐに戻って連絡する」
「リョー、わたくしも行きますわ、もう十分頂きましたのに、これほどの量の肉を焼かれてますと見ているだけで胸焼けがしそうですもの」
「拙僧も同行いたしましょう。生臭断ちをしている拙僧がこの場に居ては遠慮なされる方も居るかも知れぬので」
ハルとレミラウ・トレンに俺を入れて前衛二人、後衛一人ならバランスは良いか。
「やっと匂いがしなくなってきたな。平地のせいか結構はなれた所まで匂いが広がってたんだな。しかし、それなら魔物が寄ってきてもいいはずなんだが」
まあ俺らとしては、安全に食事が出来るのはありがたいのかもしれないけど、コボルトの戦車集団が予想に反して別なルートから『迷宮』外に出ててたんじゃシャレにならないからな。
そうならない為にもコボルトの現在位置を把握しておきたいからこうして索敵能力のある俺が探しに出るのは悪いことじゃないよね。
何せ俺の『聖者の救世手』の効果は周囲に何がいるのかを確認するにはちょうどいいからね。ある意味ゲームのレーダーみたいなものだからさ。
「ん、居たこの林の向こう側か、これは結構な集団だが、まさか別な集団と戦闘中か」
『聖者の救世手』の『範囲内探知』の効果で確認する分だと、結構近くで戦車に乗ったコボルトがゴブリンの集団と戦ってる。
「おやまあ、どうやら魔物の集団同士がつぶしあいになってるようでさあね。ん、おお、よく見りゃ、あのゴブリンは外に居るゴブリン・ソルジャーの群れとは別物ですぜ。あの盾や防具の意匠は先日お話した変り種のゴブリンの群れでさあね」
ん、テトビの奴いつの間について来てたんだよ、あれ、俺今『範囲内探知』を使ってたよな、何で、いつの間に、いや探知は魔物を捜すのに使ってたからこいつの存在を見落としてたのか。
まあ良い、今考えなきゃ成らないのはそれよりも、あっちの魔物のことだよな。
「テトビ、変り種ってことは、魔法に対しての先制攻撃のスキルや毒攻撃系のスキルを持ってるって話だったか」
「まあ確かに、あっしが偵察した中にはそういったのもいやしたし、それとよく似た装備ですがまったく同じではありやせんから、近い別種という可能性もありやすがね」
そういえばあれだけ派手に戦ってて、どちらかというとコボルトのほうが優勢っぽいのに、ゴブリンが毒を使っている様子は無いな、いやもしかすれば仲間を巻き込まないように毒を控えているのかもしれないな。
「おや、リョー施主、ゴブリンの一部がこちらに気が付いたようですぞ」
げ、マジだしかもこっちに向かってきやがってる、何考えてるんだよあいつらただでさえコボルト相手に不利に戦ってるってのに、戦力を分けて敵かどうかもわからないこっちにも向かってくるなんて、馬鹿なのかあいつらは、数の減った本体がコボルトにつぶされるのを早めるだけだろうが。
まあ良い、とりあえずはこっちに向かってくるゴブリンの対処か、とりあえず『鑑定』しておかないと、魔法に反応するスキルがあればハルが危険だし、毒があるなら一度引いてトーウやサミューと合流したほうが良いだろうから。
エンパイア・ゴブリン・ソルジャー LV13
戦闘スキル 遠刺突 決死突撃 自爆玉砕
エンパイア・ゴブリン・オフィサー LV11
戦闘スキル 指揮 突撃命令
特殊スキル 自爆強要 玉砕命令 部下殺し
ん、なんだこのスキルは……




