401 侵入前
今回、後半は別視点になります。
「リョー殿、『迷宮』への先行侵入に自分らも御一緒させて頂く事となったがよろしく頼む」
テトビから話を聴かされてまだそんなに立ってないっていうのに、もうミムズ達が来てるよ、というか『四弦万矢』や『百狼割り』、フレミラウなんかも来てるから、もうその話が流れてるって事なのかな。
(まあ相手は、人や亜人の軍隊ではなくゴブリンの群れじゃからのう、間諜や情報漏洩の恐れは有り得ぬからのう、ならばあえて秘密とする事も有るまいて。むしろ情報を秘匿し、関係部署に十分な伝達がされない事による混乱を予防するには、お主等の行動について広く伝達した方が良かろうて、お主が『迷宮』へ向かうために戦列を離れた事を敵前逃亡と勘違いされては困るじゃろう)
敵前逃亡って銃殺刑とかじゃ、いやこの世界に銃殺はないか、でも前にコンナがそんな感じの事を言ってたし、それにこの防衛戦でも逃げようとした部下を切り捨てた騎士もいたっけ。
(それに、手柄の競争相手が減るというのは士気高揚にもなろうしの)
競争相手って、いや俺にそんなつもりはない、て言っても意味はないか。
「それで、『迷宮』内での行動方針ついてなのだが、基本的には今まで通り貴殿の指示に従うつもりではあるが、レッド・コボルトの戦車隊への対策が終わったのちに、自分達は毒特化のゴブリンを倒しに向かいたく、その間の自分達の離脱の許可を頂けまいか、自分達には幾つかの耐性があるのだが、それらを強化するにはそう言った特殊攻撃の出来る敵と戦うのが良いのでな」
え、何をいきなり言いだしてるんだ、まあ状況的には戦車集団さえどうにかできれば、俺らが先行する目的は果たせるんだろうから、その後は自由行動でもいいのかな。
危険はあるだろうけどそれに関しては自己責任だろうし、ある意味で宝の山ともいえる『活性化』直後の『迷宮』だっていうのに、みんなでまとまって集団行動をするっていうのは、考え方を変えれば探索できる範囲が限られてしまうから、戦利品の量も減るし、更にそれを参加者で分け合う事になるんだから手取りが減る事になるか、いやそれどころか下手をすれば戦利品が誰の物かって取り合いになる恐れもあるかも。
一応ここでの戦闘でも『蠕虫洞穴』攻略時の約束をそのまま続けるってことにはなってるけど、幾らなんでも状況が変わりすぎてるし、あの約束自体があまりにも俺に有利な内容だから他のパーティーに不満が出る可能性がありそうだもんな。
そう考えれば、失敗する訳にはいかなくて、その為にも十分な戦力が必要になりそうなコボルトの戦車対策にひと段落が付いたら、パーティーごとに別行動というのもアリか。多分ミムズは自分でも行ってる通り毒耐性を持ってるんだから、勝算はあるんだろうし。
「『迷宮』の中の出来事がこの防衛線での戦闘に影響さえしなければ、俺らはどう行動しても問題はないだろうからな。とは言え無理はするなよ、命あっての物種だからな」
一瞬ミムズ達とは別の方向に、うちのパーティーの子達の方へ視線を向けてから、思わず忠告めいたことを口にしてしまう。
「解っている、自分は今はまだ死ぬ訳にはいかないからな」
なんか引っかかる言い方だけど、まあとりあえずはいいか。
「虫下し殿、某らも戦車集団の対策後は別行動をとらせて頂きたい、某らの戦力では今の『鬼軍荘園』の奥に入るのは心もとないのでな、無理をせず外周部付近でカテン卿のレベル上げを兼ねて、安全を優先した狩りをさせていただきたい」
『四弦万矢』も別行動の方針って事か、まあ考えてみればそうか、『四弦万矢』自体は遠距離特化だし、デボランは魔法職と言っても狙撃を補助するための観測や索敵とかがメインぽいし、ピリム・カテンは駆け出しだからほぼ足手纏いだもんな、実際に近接での護衛役は重装騎士のフレウ・ミレンぐらいか、この面子で下手に『迷宮』の奥に入って包囲されたりしたらシャレにならないだろうな、そう考えれば、この判断も当たり前か。
「フレミアウ達はどうするんだ」
そう言えば、最近あまり顔を合わせて無かったなこの尼さんと解体狂。
「申し訳ない、拙僧らもやる事が有るので、『迷宮』内では途中から別行動をさせて頂きます」
あれ、てっきりこの二人の事だから神殿の指示で護衛してくれるのかと思ってたんだけど。俺達と別行動をするってことは多分重要な役割を指示されたりしたんだろうな。『活性化』直後だから珍しいアイテムなんかも有るんだろうから、それを取って来いとかそんな感じなのかな。
「俺らは、魔物が溢れてるような『迷宮』に入っちまえば、若けえ連中がどうなるか分かんねえから、このまま引き上げさせてもらうぜ。オメエさんらのおかげで貰えた、うちの一党全員分の『迷宮入り優先権』はどこぞの貴族様が高値で買ってくれるって話が合ってよ。おかげで懐も温かくなったし、怪我をして足を洗う連中が堅気の仕事を始める為の支度金も十分やれるしな。ついでに伯爵様の輸送依頼からの間に死んじまった連中の家への見舞金も見繕えるし、手足を無くしてもまだ冒険者を続けてえって奴らも『簡易魔道具』の義手を買えそうだしな」
随分と嬉しそうな顔なのに言ってる事が、引退者への支度金や見舞金についてかよ。まあそうだよなこの防衛戦でも何人か死んでるし、ミーシアの治療では治せないような後遺症が残った連中もいたもんな。集団の頭なら、そう言った事にも気を回さなきゃならないのか。
「ま、俺らは一足先に『蠕虫洞穴』に戻って、地ならしをしとくぜ、何せ向こうの攻略は子爵家直々の依頼になったからな、もう一儲けさせてもらうさ」
そっか、この後は『蠕虫洞穴』の攻略が有るけど、休憩所の整備とか物資の持ち込みとかいろいろやる事があるもんな。それを先にやっといてくれるっていうのなら、ありがたい話か。
「分かった、よろしく頼む。『迷宮』に入るのは明日の昼頃になるだろうから、中に入る連中はそれまでに必要な用意をしておいてくれ」
~傭兵ラック~
「おい、本当に間違いないんだな」
「おや、あっしを疑いやすんで」
いや、この情報屋は金に意地きたねえ上に、色々とやり口もアレだが、少なくとも商売に関しては客に嘘を吐いたり、偽物を掴ませるような真似は、いや、たまにはヤルらしいがそれだって客が約束通り適正な金さえ払ってさえいればしねえ。
そう考えりゃ、この話も疑う必要はねえんだろうが、あまりにこっちに都合が良すぎるだよな。
「いや、お前がこれだけのデカい取引で、自分の信用を落とすようなマネをやらかすアホじゃねえのは解ってるがよ」
確かにこいつの持ってきた権利は、俺等というかバカ様の目的を達成する腕で考えりゃ願ってもねえもんだし、どうにかならねえか色々と手を回していたところに飛び込んできた話だから、コイツにかなりの額を吹っ掛けられても飲むつもりだったし、実際吹っ掛けてきやがって信じられねえ額を払う事になったがよ。
「なんで、俺等のとこにもってきたんだ、他にも売り手は有っただろ」
この額で、あの権利が買えるんだったら他の貴族家だって出すところは幾つかはあるだろうし、何よりそれだけの金のある家ならこの辺りでも影響力の有るそれなりの貴族だろうから、そう言った所との顔つなぎなんかの、金以外の目に見えない旨みだって色々と狙えただろうによ。
「そりゃあ、まあそちらの子爵様の覚えをよくしときてえってだけでさあ、何せ今この鎮圧戦に参加してる幾つもの御家の中で、一番アレを欲しがってるのは、そちらの貴族様でしょう。『手に入ればいいな』程度の御方に売るよりも、そちらの貴族様みたいなお人に売った方が、あっしの事をよく覚えて貰えやすでしょうし、借りとも思って貰えそうですしね」
あのバカ殿さまが、コイツみてえな流民相手に貸し借りだなんて考えるかねえ。貴族以外が下手な口をきこうものなら、めんどくさいから殺しておけ、女なら楽しんでから殺すから捕まえてこい、てな感じになるじゃねえかね。
まあ、それをコイツに教えてやる必要はねえか、だがそれにしたって態々俺の所に話を持って来るもんか。
どう考えたって、あのバカ様は落ち目だぞ、御乱行のツケのせいでこの国に来る前からライフェル教を始めとした色んな所に睨まれて、ここに来てからだって、この『活性化』を起こしたのが俺等だってのがほぼバレてるようなもんだからな。
まあ、どれも状況証拠だけで確実な物証がない上、バカ様が一応は貴族だってんで、ギリギリのところで踏み込まれちゃいねえが、これで『虫下し』を仕留めそこなって『薬師』にまで見限られちまえば……
「それに、あっしとしやしては、子爵様ご自身より、その後ろにいらっしゃる御方との繋ぎが欲しいんでさあ」
「な」
まさか、コイツ俺らが『薬師』の指示で『虫下し』を殺りにこの地方へ来たってのを知ってるのか。
「あっしの耳の良さは、御存知でしょう。『あの御方』と取引を始めたって話じゃねえですか、裏筋の方じゃ『あの御方』の『薬』ってのはどこでも大人気でさあ、あっしもほんの少しだけでもその御利益にあやかりてえと思いやして。イヤイヤ、そんな顔しねえでくだせえよ、あっしだって自分の分ってもんは心得てやす。贅沢はイイやせん、そちらの御貴族様が『薬』を下ろして頂けるように成ったら、ほんの少しだけでもこちらに売って頂けるなり、顧客を開拓する時にあっしを利用して頂くなりして貰えりゃ」
なるほどな、確かにこいつの人脈がありゃ、そう言ったヤバいブツを捌くのにも丁度いいか、その過程でコイツ自身も美味い汁を吸いたいと。
「分かった、どうなるかは解らねえが、軽く若様には話しておいてやろう。それがダメでも俺の裁量出来る範囲内でなら、多少は分けてやらあ。その代わり解ってるな『耳無し兎』」
「へい、『百狼割り』の旦那が売りに出す予定の『鬼軍荘園』への優先侵入権の60人分は、間違いなくそちらにお渡しいたしやす。それと、『虫下し』のリョーの『迷宮』内での動向も定期的にお伝えいたしやす。ですんで、『薬』の件はお忘れなく」
まったく、高い買い物になっちまったが、この一件さえうまく終わらせられりゃ、新しい身分と遊んで暮らすのに十分な金が手に入るんだ、もうひと頑張りしねえとな。




