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400 鬼たちの様子

この作品は、ファンタジーでフィクションです。実在の人物や軍隊、政治団体、犯罪者、歴史などとは一切関係ありません。


「やっとご理解いただけたようで、そんなんで旦那方が『迷宮』へ行く事になるのはもちろん、今回旦那の雇い主であるロウ子爵家も旦那のおかげで十分すぎる戦果を立てれたって事で、今配置されてる防衛線の持ち場を他の御家に譲られる事になりやした」


 え、そんなところにまで影響しちゃってるの。


「まあ機動部隊の方じゃ、あの御家のバッタ騎兵ってのは重要になりやすから外せねえでしょうがね。これから手柄を狙ってたであろう御家中の騎士様方の心情は解りやせんが、子爵家としてはデカい被害が有り得た決戦の最前線なんて、名誉だが危険な役どころを回避できて、その上で十分な発言力を持てるだけの功績をあげれたってんで、御の字どころがホクホクでしょうがね」


 あ、そうなんだ、それは良かったんだろうな、子爵家とはこの鎮圧が終わった後も『蠕虫洞穴』の攻略でやり取りしていくんだから、こっちに対する覚えが目出度いのは良い事だよね。


「だが、俺が『迷宮』に行くのは良いのか、場合によっては俺が貴重な採集物や『魔道具』なんかを独占するんじゃないかと、警戒されそうな気もするが」


 だって早い者勝ちの宝の山みたいなものだよ。


「ま、確かにそりゃそうですがね、『活性化』直後の『迷宮』ってのはお宝と一緒に大量の魔物も待ってやすからね、一山当てれば大儲けでも、一つ間違えりゃ纏めて魔物の餌って事にもなりかねやせんからね。『活性化』直後の『迷宮』に入るなんてのは、既に地位の有る騎士の方々の中にゃ分の悪い博打に思えるって考え方の方も多いんでさあ。そう言った方にとっちゃ、大集団で地の利も有る外での鎮圧、それも各貴族家や何より御当主の見ている前で華々しく手柄を上げる方が、確実で名誉な事に思えるみてえでしてね、だからこそ旦那には外してもらいてえんでしょ」


 なるほどね、確かに見えないところで頑張るより、はっきり目に見える功績の方が評価されやすいか。


「それでなんですがね旦那、『鬼軍荘園』内部の地図、魔物種類と分布、お宝の有りそうな場所の最新情報を買いたくは有りやせんか」


 ここまで言っておいて、態々それを聞いて来るかこいつは。


 うちの子やミムズ達の安全を考えるなら、危険な場所を知っておく必要はあるし、名目とは言え『迷宮』の外に出る魔物の警戒を指示されるなら、その行動パターンや迎撃しやすいポイントなんかも把握しておかないとね。


「この位でどうだ」


『アイテムボックス』から金貨を一掴み取り出して、テトビの前に放る。


「へへ、即金でこれだけ出してくださる。これだから旦那との商売は止められねえ、これからもよろしく頼みますぜ」


 そう言って、テトビがテーブルの上の金貨を一つづつ数えながら摘み上げて懐に入れた後で、一枚の紙を広げるけど、これは地図か。


「『鬼軍荘園』は横長の『迷宮』でしてね暫定的に縦を20、横を100に区分けしてるんでさあ」


 ああ、座標で示すっていうのは、誰にもでも通じて分かりやすい区分け方法だよな。ん、地図の上にテトビが駒を置いて行くけど、もしかしてこれが魔物の位置なのかな。黒いのが数個と赤いのが複数。


「まあ、色々魔物がいやしたが、とりあえずは旦那もお馴染みになっていやすゴブリンですがイヤってほどいやしたぜ、まあソルジャー化してねえような野良の群れや、小さすぎるソルジャー集団を一々説明してやすと、この地図がコマで埋まっちまいやすんで割愛しやして、とりあえず規模がデカかったり特徴があるのを幾つか説明しやすね。これらの集団はどうやら『迷宮』から出て来てるゴブリン共とは対立しているようでさあ」

 

 そう言ってテトビが黒い駒の二つを指さす。ゴブリン同士が対立か、まあ人同士でだって戦争したり派閥に分かれてたりするんだから、ゴブリンが完全な一枚岩の集団だって事も有り得ないか。


「こっちが02・26地点。ここに居るのは二千弱程度の集団でして、軍部隊で潰すならともかく少数パーティーで相手するには、おっと、旦那はこの程度の数ならとっくに潰してやしたね。とは言え防衛線の向こうにいるのとは違いやして、ちょっとした特徴があるんでさ、実はねこの集団はこれだけの数だっていうのに、指揮を執ってるのが複数のルーテナントとキャプテンでして、それらを取りまとめるはずのメジャーやカーネルなんぞがいねえんでさあ。ついでここに居る上位種どもにゃ『暴走指揮』なんて言うスキルをもってやして、そいつが強制的に部下をバーサクさせるスキルみてえでして」


 集団バーサクって、組織的な戦闘は出来なくなるだろうけど肉体系ステータスが上がって、中途半端な攻撃じゃ止まらずに一斉に突っ込んで来るだろ、それは結構シャレにならんな。


「次が、05・15地点ですが、こっちも構成はさっきの所と似ていてキャプテン以下しかいやせんが、数はもっと小規模でしてね、というか普通のソルジャーなんかが嫌に少なくて、ルーテナント、キャプテンばかりって感じですがね。で、こいつらは魔法系の職に対して強みとなるようなスキルが有りやすんで、旦那方が行かれるのはお勧めできやせんぜ」


 上位種ばかりの集団か、それはそれで手ごわそうだな。しかも対魔法スキルってやっぱり反射とかかな。


「こいつらの持ってる『問答無用』っていうスキルは、呪文の詠唱に反応して無条件でその方向に一斉射撃をする物でして、魔法攻撃をしようとすると、気付かれないよう隠れて魔法を唱えていても先に反撃されかねやせん。体力が低い事の多い魔法職にゃ危険なスキルですんで、旦那の所の『雷滅幼女』や『焦砦鴉』なんかにゃ危ねえでしょうから」


 うーん、魔法系を最優先で狙ってくる敵か確かにそれは面倒な敵だな、てことはミーシアが回復魔法使う時も狙ってくるんだろうからさ、ゴブリンの一斉射撃でミーシアがやられはしないだろうけど、それで魔法が失敗したりすれば誰かが大怪我してる時なんかは洒落にならないな。


「他には、この三か所01・00と05・16、07・31の各地点にも、それなりの数のゴブリン・ソルジャーがいやすが、どいつも複数職持ちなんでさ、一番多いのはメディックでしてほとんどのゴブリンが持ってやす」


 メディックか、トーウが喜びそうだな。何故か知らないけどメディックの薬を大量に欲しがってるんだよな。


「で、メディックの他にもバイオ、ケミカル、ポイズンなんて言う職をもってやして、多彩な毒系のスキルを持ってるようでさぁ、一度他のゴブリン集団との戦闘をみやしたが、風上から毒霧を流して一掃ってな具合でして。接近での戦闘力は低いみてえなんで、近づけりゃこっちのモンですが、それまでがきついでしょうね」


 ポイズンはともかく、バイオにケミカルって、BC兵器かよ。


「まあ、旦那のとこにゃ毒に強いお嬢さんがいやすし、旦那のツテでラッテル子爵家の騎士隊なりライワ伯爵家の『王毒蛇』の一党なりを誘えれば、それほど怖くはねえでしょうがね」


 ああ、確かにそこら辺はみんな『毒耐性』があるからな、、毒メインで戦ってるような相手だったら楽に戦えるのかも。


「取りあえず、ゴブリン関係はこんな物ですんで、他の魔物の説明に移りやしょ、あっし等が見て回った範囲で確認できたその他の魔物の大半は、オーガ、トロル、コボルト、オークてな具合でしてどれも新種が結構な集団を作ってやす」


 まあ『鬼軍』なんて呼ばれるぐらいだからな、ゴブリン以外も鬼系の魔物ばっかで、集団戦が得意ってか。


「まずはオーガ、コイツは以前からオーガ・ゲリラという変異種が知られてやしたが、更に変異してレッド・オーガという種が大半になってやす。こいつらは特定の本拠地を持たずに移動して居りやして、今『迷宮』外に出てるゴブリンと同じ系列のゴブリン集団を狙って戦い続けてやす。戦闘方法は、ゴブリンと同じ様な遠距離攻撃や爆破スキルはもちろん、森林や湿地帯なんかでの隠密、潜入、奇襲なんかに加えて、罠の設置なんかもやりやすんでかなり戦いにくいでしょうね」


 うわあ、ホントにゲリラって感じだよ、うん、こいつらとは戦わない様にした方が良いかな、いやでもトーウやミーシアの経験にはいいのかも。


「次がレッド・トロル、コイツ等の集団規模自体はそれほどデカくありやせん、少し前まで山岳で小規模な集落を作ってたのが、いつの間にか、山荘の一つを占拠してやしてね。規模で考えりゃ大した事はねえんですが、問題はこの山荘が過去に何度か『魔道具』が見つかってやして、おそらくはアイテムが沸きやすい場所だと見られてる事なんでさぁ。そこをこいつ等が拠点にして、多少なりとも要塞化してるんで、攻めるのはちょいと骨が折れそうでして」


 うーん、『魔道具』か。せっかく『迷宮』に入るんだから、多少なりとも収穫が有った方が良いよな。となるとここを攻めるのもアリかな。


「で、一番シャレにならねえのが、レッド・コボルトでしてね」


「なあ、テトビさっきから、『レッド』のつく変異種ばかりだが、どういう事だ」


 多分『赤色レッド』って事なんだろうけど、もしかしてあれか、色が赤くなると角が生えて、性能というかスピードが三倍になるなんて事が、いや鬼だから最初から角は生えてるか。


「へい、流行りって言うのもおかしな話ですがね、今『鬼軍荘園』の中じゃ『レッド』とか『ルージュ』の付く変異種が増えてるんでさあ、色が変わる訳でもねえんですがね。まるで疫病、いやドミノ倒しみてえに、群れの中にレッドの付く変異種が出ると、その群れ全体にあってまに広まって同じ変異種に、更に近くの別な群れにまでレッドの付く変異種が出始めるってな感じでしてね。今じゃゴブリンの群れにもレッド・ゴブリンなんてのが出だしてやす。まあレッド・ゴブリンはすぐにゴブリン・ソルジャーに処分されてる見てえですがね」


 そんな、変異種の伝染なんてのが有るのか、いや、考えてみればゴブリンも、ゴブリン・ガニーは普通のゴブリンをソルジャーに出来るっていうんだから似たような物か。


「レッドになると、能力自体はどうなるんだ」


 三倍ってのだけはマジで勘弁してほしいからな。


「へい多少は上がりやすが、そこまで極端な物じゃありやせん、スキルも新しく付きやすが元になった種で違いが有りやすんで何とも言えやせんね。で、話を戻しやすがレッド・コボルトですがね、こいつらは当初は06・04地点辺りにいたんですがね。こいつらの一部が戦車を持ってやして、その戦車59台を中心とした集団が『迷宮』の入り口付近へ向かってるんでさあ」


 あー、もしかしてそれが俺達の派遣される名目になるのかな。確か、決戦中に他の魔物が乱入するのを防ぐって理由になるらしいからさ。


「おや、お気づきになったようですね。あっしが、このレッド・コボルトについて報告したんで、旦那を『迷宮』に送るって話が本格化したようでして、まあ考えて見りゃ敵軍を狙って機動中の部隊が思わぬ方向から側撃され様ものなら、決戦の勝敗を左右しかねやせんからね」


 うん、確かにそうだろうな。でもさ、それだけの軍勢を俺らだけでどうにかしろって言うのはどうなんだろ、だって戦車が数十台だろ、ん、あれ……


「まあ、旦那でしたら、戦車集団をぶっ潰したというか丸ごと鹵獲した実績がありやすから、今回も何とかなるんじゃねえですかい」


 あ、そうだよね、確かに戦車は突進スピードと破壊力は有るけど、小回りが利かないし平地じゃないと使えないから戦いようはあるかも。


「それでですね、コイツに付いて旦那に一つ儲け話が有るんですがね」


 ん、儲け話か、まあ金があるに越した事は無いよな。でもこの状況でって事はもしかして。


「もしかすると旦那も噂なんかで聞いてるかもしれやせんが、ライフェル神殿傘下のドワーフ族が戦車やテクニカルを中心とした大規模な機動部隊を編成しようとしてるらしくて、今回の鎮圧戦に参加してるのはその先行編成部隊の御披露目と実戦での威力確認を目的にしてるらしいんでさあ」


 コイツはホントに耳が早いな、ドワーフ達がライフェル教の為に機動部隊を作ってるって話はまだそこまで広まってない筈じゃなかったっけ、テクニカルはともかく、戦車隊はまだ到着してないんだし。


「でね、神殿はこの鎮圧戦の後もムルズ王国との戦争が控えてやすからね。それに向けての戦力増強なのか、おっと、ムルズ王国の御貴族様や騎士団が集まってる所でしていい話題じゃありやせんでしたね」


 あからさま、というかわざとらしく周囲を見回したテトビが少し声を落として話を続ける。


「それででしてね、『イザって時』を前にした色んな勢力から『迷宮』産の戦車が欲しいって話が内々に出てるらしくて、取引価格は日に日に上がってるてっんでさあ。旦那、これを逃す手はありやせんぜ、今なら一台でもひと財産、それが59台も来るってんですからね」



R4年3月26日 誤字修正しました。

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