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398 ブラック・バ〇ド・ダウン 6



「よし、行くぞ用意はいいかみんな」


「は、はい大丈夫です」


 鎧を纏った巨熊の姿のままでミーシアが背中に乗った俺達の方を振り返る。


「いつでも構いません御主人様」


「わたくしもでございます、ですが旦那様が危険を冒されるというのに奴隷風情がこのような扱いを受けるというのは、心苦しく」


 俺の後の方に乗り、普段はミーシアが使っている巨大な盾を二人がかりで頭上に支えた上に上体を前に倒して盾の陰に隠れたサミューとトーウが返事を返してくるけど、この姿勢なら頭上からの射撃で致命傷って事は無いよな。


 まあ、盾のサイズの関係上、俺だけは隠れられないんだけどさ、俺には『超再生』が有るから多少喰らっても何とかなるもんね。


「よし、ミーシア始めてくれ、道順は覚えているな」


「はい、い、いきます」


 助走を付けて全速力に達したミーシアが、トーウが事前に調べてくれていたルート通りに角を曲がり続ける。


「そこの十字路は、真っ直ぐ突っ切るが、左右の通路にゴブリンが数体ずつ隠れてる、多分俺らが通過するときに一気に撃ってくるつもりだ、注意してくれ」


「わ、解りました」


 俺が指示をした十字路の手前でミーシアが速度を少し落として一気に姿勢を低くし、そのまま斜め上に飛び上がる。四肢を前後に大きく伸ばして交差点を跳び越えたミーシアのお腹のすぐ下を左右から放たれれた遠隔スキルが流れていく。


「よしこのまま一気に走ってくれ、相手をこのまま置いて一気に駆け抜けるぞ」


 速度を増したミーシアが進む先には、頭上の塹壕の端にまばらに並んでいたゴブリン・ソルジャー達が槍を斜め下に掲げて俺達を狙い始める。


「相手はまばらだし、斜め上からなら一番鎧の防御が厚い場所で受け止められる、サミュー達も盾で十分防げる、心配も遠慮もいらない、全力で掛けぬけてくれ」


「はい」


 一気にミーシアが走る通路へ頭上から次々と遠隔スキルが降り注ぐが、その大半は高速で走るミーシアを狙いきれずに前後の地面を削るだけで終わる。


「ぐう」


 クソ、肩に食らったか、だんだん相手も慣れてきたのか、少しずつ狙いが良くなってきてやがる。大丈夫だ胸当てが防いだ衝撃だけだ。


「御主人様」


「大丈夫だ、すぐ回復する、それよりも大人しく盾の陰にいろ」


 く、今度は腹か、ん、『範囲内探知』の探知圏内にどんどん反応が増えている、これは俺達の方に向かってきてるのか。


「すまないミーシア、無理を言うが急いでくれ、俺達の戦闘に気が付いた集団の一つがこっちに向かっているようだ、ぐ、が」


 ぐうう、つ、続けざまに、二発かよ、しかも一発は、防具のない所に、だ、だがまだ、いける。


「旦那様」


「盾の下から出て来るな。俺は、下に落ちさえしなければ多少撃たれても問題ない、ミーシア、走り続けろ」


 というかこっちに向かって来てる集団が塹壕の上に展開すれば、ホントにシャレにならないからその前にここを抜けちゃいたいからさ、俺の心配とかどうでもいいから、ともかく今は急いでほしいな。


「旦那様、ご心配には及びません、おそらくもうしばらくすれば敵の行動は一時的に停滞するかと」


 ん、どういう事だって、なんだ今の音、まさか爆発か、なんでだ、幾らなんでもゴブリン達が自分達の陣地の中で強力な爆発系スキルを使うとは思えないし。


「敵の油脂類や保存食、予備武器などを保存してた部屋を見つけましたので、火縄などを利用して時間を置いて、わたくしがその場を離れてしばらくしてから、一気に燃え広がり配置したそれらの可燃物に引火するようにしておきました、敵を陽動できればと思い用意しましたが上手く行ったようです。スキル持ちのゴブリンから回収した爆発物や、わたくしのスキルで作った酒精なども配置いたしましたので」


 それであの爆発か、一気に燃えるように配置ってそりゃシャレにならないわ。


 でも確かにこれで、ゴブリン集団の意識を別方向に向ける事は出来るか、自分達の本拠地で大火事になったんだから消火作業に兵員を割り振るだろうし、動揺して逃げだすゴブリンもいるかもしれない。


 なにより俺達に向かって遠隔スキルを撃ちまくってた連中も、爆発して高く上がってる火柱を見てたり、どうするべきか分からなくなったのか周囲を小刻みに見まわしたりしてて、弾幕の密度が一気に減ってくれた。


「よくやった、トーウ、ミーシアこのまま一気に行ってくれ」








「リョ、リョー様、み、見えました、この先にハル様とアラ様がいらっしゃいます」


 ミーシアが駆け抜ける先には、確かに『鳥態』を取ったままのハルの巨体が有る、ん、どうしてハルは『鳥態』のままなんだ、近距離戦が出来る訳じゃないだろうし、あの姿のままだと大きい分狙われやすいだろうし、何より魔法が使いにくいはずじゃなかったか。


「あ、リャーだ、ほらハリュ、やっぱり来てくれたでしょ」


 ゴブリンの首を切り落とした直後のアラがこっちへ振り返って来るけど、血塗れじゃないか。


「アラ、どうしたんだその恰好は、怪我は、怪我はないか」


「ん、だいじょぶだよ、それよりハリュが大変なの」


 全身血塗れのまま微笑んでくるけど、もしかしてこれは全部返り血なのか、いや周囲を見回してみると、足の踏み場が無い位に死体が積まれてて、どこの虐殺現場だってぐらいになってるから、これだけの返り血を浴びてもおかしくはないのか、いやでもアラだけでコレやったって言われると……


 いや、それよりも今はハルか、アラが大変だっていうのはどういう事なんだ。


「まさかホントに来るだなんて、全く非常識な主ですわ。ところでリョー、回復薬を一つ頂けないかしら、アラは自分の分を使ってしまったらしいですし、わたくしはこの姿のままでは『アイテムボックス』から薬を出せませんけれど、この負傷のままで『人態』に戻れば、それだけで命に関わってしまいますので、このまま待つしかなかったのですけれど」


 そう言う事か、体がデカい鳥の姿の分だけある程度のダメージには耐えられるけど、普段の華奢な女の子の姿だと、幾らステータスが高めでも耐えきれるわけがないか。


「ハリュは、お空から落っこちる時にアラを庇って怪我をしちゃったの」


「そうか、ありがとうハル頑張ったな、これを飲んでくれ、すまないが休ませている余裕はない、ゴブリンの大規模な集団がこちらに向かっている。回復して『人態』に戻れるように成ったら、ミーシアの背中に乗ってすぐ出発するぞ、サミューとトーウは、回復が終わるまでアラと一緒に周辺の警戒をしてくれ、ミーシアはハルの護衛を」


 ハルのくちばしの間に『馬のふん』を一つ差し入れる。この間、ライワ伯爵家の軍が来た時にカミヤさんから追加分が送られてきてたから。ストックは十分にあるし、うちの子達を助ける為なら惜しんでられないしね。


 さて、これからどうするか、あまり時間が無いっていうのに、ここは敵陣地のど真ん中だからどの方向に逃げるにしろけっこうな距離がある。しかも多方向から内部構造に詳しいだろう敵集団が向かってきてるってのに、こっちは道がほとんど分からない。陣地の中は迷路みたいな状況で、罠やバリケード、小規模な敵集団がそこら中にって、状況的には最悪だよな。


 どこぞの映画みたいに戦車隊でも助けに来てくれないかな、いやムリなのは解ってるけどさ。


「リョー、ここから脱出するつもりですのね。それでしたらわたくしに手が有りましてよ」


 ん、ハルにか、だったらなんで今までは、いや魔法が使えなかったからか、ハルの使う手って事は多分魔法関係何だろうし。


「ここは敵の施設なんですもの、後でどうなろうと構いませんわよね。というよりも陣地をズタズタにして使い物に出来なくした方が良いですわね」


 な、なんだ、この物言い、そりゃそうできればこっちとしてはありがたい話だけど、出来るのかそんな事。


「取りあえずは、敵に囲まれている、こんな泥臭い場所から出る事にしますわね。リョー魔力をよこしなさいな」


 いつの間にかサミューと靴を交換していたハルが近づいてくるけど、これは踏む気満々って事か。


「ハル、どうするつもりなんだ」


「リョー、貴方がここ最近わたくしに何をさせてきたのか忘れたのかしら、さあ大人しく踏まれなさいな」


 ヒールを見せつけるハルの前に大人しく跪くと、太腿にヒールが当てられる。


「さあ、散々してきた建設作業のおかげで、熟練度が非常識なくらいに上がってしまった攻城魔法を見せてあげましてよ『掘地』」


 壁に手を向けたハルが呪文を唱えると同時に、壁が崩れその向こうに長い一本の溝が掘られる。そうか考えてみれば『掘地』は、防衛線を作る時に空堀を掘るのに多用したけど、構造は塹壕とほぼ一緒だもんな、となれば塹壕に道を作るのもハルにとっては慣れた作業って事か。


 高さや幅はミーシアがつっかえる事なく走れる程度って感じだな。


「さあ、行きますわよ、たとえ道が分からなくても、一定方向へ真っ直ぐに道を掘り続ければ迷う事無く外に出られるのは自明の理ですわ。後はリョーが敵の居ない場所を選んで微調整すれば、安全に脱出できるのではなくて」


 なるほど、確かにそうだな。それに相手の拠点の中に相手の把握してない通路を作るっていうのは、敵を混乱させて行動を阻害する効果も狙えそうだし。


「よし、このまま行こう、みんなミーシアの背中に乗ってくれ、ハルは適時魔法を使って道を作ってくれ」


 全員が乗ったをの確認してからミーシアが走り出すけど、魔法で作ったためか他の塹壕みたいに木板なんかで補強してないのに足場がしっかりしてるな。


「アラも頑張ったな、よくハルを守ってくれた、ありがとう」


「うん、がんばったよ、でも疲れちゃった、すっごくねむいの」


 うーん、お子様だもんな幾らステータスが高くて『吸収』系の魔道具で回復できるって言っても疲れるよな。


「そうだな、陣地に帰った沢山食べて思いっきり寝ようか」








「よし、塹壕陣地を抜けるぞ」


 ハルが気を利かせたのか、緩やかな上り坂になった溝を抜けると、敵も塹壕も無い平地の向こうに味方の防衛線が見える。


 良かった、みんな無事に脱出できた、後は追ってきてるだろうゴブリン達が諦めてくれれば……


「ミーシア、一旦止まって頂戴、それとリョー魔法を使いますので、鎧を外してそこに四つん這いになりなさい」


 四つん這いって、なにするつもりですかこのカラスお嬢様は。


「あんな目に合わされて、このままただで済ますものですか、わたくしの魔法で目に物を見せて差し上げますわ」


 うわあ、ハルさんなんかすっごくやる気になってるんだけど、ま、まあ、この陣地に損害を与えるっていうのは、俺達だけじゃなく防衛線全体にも有利になるよな。


 言われた通り四つん這いになった俺の背中にハルが仁王立ちになってヒールを食いこませながら、呪文を唱えだすけど、ん、この呪文って。


「さあ、覚悟なさい『溶岩流』」


 ハルの掲げた手の先から溶岩が溢れ出し、そのまま溝の床を流れていく。


「この魔法は操作などは一切できずただ溶岩を生み出し流すだけですけれど、その分だけ溶岩の量に対する魔力の変換効率が良いですし、何より魔力さえ続けば幾らでも使い続けられますわ。そして大半が地面よりも低い塹壕でしたら、鬼たちを焼き払いながら、どんどん地下へ広がって行きましてよ、そしてそこに溜まればそのまま水位を上げて塹壕陣地全体を焼き払いますわ」


 うわあ、もしかしてハルって『焦砦鴉』の二つ名を気に入ってたりするのかな、それでこんな、いやただ単に腹立ってるだけかな。


「それに、高熱の溶岩は、地上部分の木製構造部も延焼させますし、地下の物資も焼き尽くすなり岩の中に閉じ込めるなりして再利用不能と致しますわ。ゴブリン達の損害は多大な物になると思いますわ」


 四つん這いになったまま、首だけを動かしてハルを見上げてみたけど、溶岩の赤い光に照らされ微笑みを浮かべるハルはなんかすっごく綺麗に見えた。


 これで、生きながら焼かれるゴブリンの断末魔が響いて無ければ、絵になる光景だったのにな。


R4年3月17日 誤字修正しました。

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