396 ブラック・バード・〇ウン 4
今回は、別視点になります。
~トーウ~
「グギャ、ラ、シュヴゴヴ」
「ジュヴゴブ」
前方からくる数体のゴブリンを、日陰に入りやり過ごします。旦那様の『成長補正』で熟練度の上がった『隠密』スキルであれば、多少見えにくくなる日陰などで使えば、たとえ物陰に隠れる事無く真横を通り過ぎられても、相手に『索敵』や『探索』系統のスキルや『斥候』系の職、あるいは一定以上のステータスや技量の保持者でもない限りは、向こうが積極的に探してでもいなければ見つかりはしませんから。
「ヒュグブ」
全てのゴブリンがわたくしの横を通り過ぎた後で背後に回り、後ろから一体ずつ後頭部に爪を差し込み、毒を流していきます。
「デャ」
親指の爪から流された大量の毒で、短時間でわずかな声しか洩らさずに意識を失い死んでいくゴブリンの躰を残りの指で首を掴んで支えながら寝かせ、気付かれぬよう次の個体の背後に向かい仕留めます。
手早くやったつもりでしたが、この程度の数に少し時間を掛け過ぎましたね。やはり数を倒す時には爪よりも毒霧を使った方がよさそうですね。あの手のスキルは使いどころを間違えますと味方まで巻き込んでしまいますが、ここならば旦那様方やアラ様達の場所にさえ注意すればよいのですから。
全滅させたゴブリンの死骸を、遠目でも死んでいると解り血の匂いが広がる程度に切り刻んでから離れます。
旦那様の現在位置から離れた場所でこう言った異常が見つかれば、そこにも調査や敵捜索の為の人員を配置せざるを得ず、その分だけ旦那様やアラ様の方へ回されるゴブリンを減らす事が出来ますでしょうから。
わたくし自身は見つからぬよう、かつできるだけ敵の注意を旦那様以外へ分散させるように、少数の個体を殺しながら進みます。
「この辺りがちょうどいいでしょうか」
通路の他の部分より比較的狭くそして深めに掘られた部分、なおかつ今まで探索してきた経路や床にある足跡などの状況を考えれば、通路としての重要度も使用頻度もそれなりに高い場所。
「条件を考えれば理想的ですね」
大きく息を吸って『毒霧』を吐き出します。わたくしの毒霧は平野などで使った場合ですと、吐いてからしばらくすれば、徐々に毒性を失い風に流されて分散してしまい短い時間で効果を失ってしまいますが。こう言った狭く低く風のあまり吹かない場所であれば低い場所に滞留して、それなりの間は効果を保てます。
この通路を毒で覆えば、ここを通るゴブリンを殺傷できますし、この場所を通行不能とする事で敵集団の展開速度を落とす事が出来るでしょうから。
「スキルである以上、体力の残りを考えずに乱用すればそのうちに使えなくなってしまいますから、無駄には使えませんが」
とは言えスキルを惜しんだために敵が旦那様の元へ向かうのを許してしまえば本末転倒でございますから、使いどころはしっかりと判断しなければならぬでしょうが。
「あら、ここは、地下室ですか、まさか塹壕の中にここまでの施設を築いているとは」
中に気付かれないように様子を伺うと、十数体のゴブリンが寝ているようですが。
「休憩中、交代要員でしょうか、戦闘中に、いえハル様方にしても旦那様方にしても侵入したのは、この陣地の規模から見れば極少数ですから、総員での対応をするまでもないという判断なのでしょうか」
確かに総員での行動となれば、全ての兵士が疲労しその後の行動に影響し突発の事態に対応できなくなる恐れもあるでしょうから、現状で対応瀬出来ると判断したのなら予備戦力は残しておくというのは有り得ますか。
「となれば、今のうちに排除しておくべきでしょうか、敵の指揮官が、旦那様の戦力評価を上方修正して予備戦力を投入すれば、旦那様が戦闘で疲労したところで休憩を終えたばかりの敵と対峙する事になりかねませんから」
それに、休憩中で油断し寝ている敵ならば、気付かれずに皆殺しにするのも容易でしょうし。
音を立てぬように戸を少し開けて滑り込み、壁に立てかけられた槍を手に取ってから地面に寝ているゴブリンの枕元に立って片足を上げ踵を喉の真上に掲げ一思いに踏みつぶし、同時に槍を心臓に突き立てます。
毒を使わずに済ませられるところでは消費を抑えた方が良いですし、ゴブリンに騒がれる事なく仕留めて行くのなら、声を出させず暴れられる事も無いように喉と脛骨を同時に踏み砕き、確実に絶命させるために心臓を貫きますが、やはり槍というのは使い慣れませんね。
「さて、ここの死体は見つからないようにした方が良いでしょうね」
ゴブリン達が毛布代わりに使っていたボロ布の位置を手早く調整し、寝ているだけに見えるようにして部屋を後にします。侵入者が休憩中の交代要員を積極的に潰していると気づかれるのはあまり芳しくはありません。もしもわたくしが指揮官であれば、無事な交代要員を起こして配備するでしょうから。
「それにしても地下室に、地下道ですか」
こうして地下の施設を作っているとなれば、その中には武器や食糧庫等も有るでしょうね。どうにかしてそれらの物資をを見つけて毒で汚染するなり、火を放つなり出来れば旦那様の支援という意味でも、これから先の戦闘を有利に運ぶという意味でも重要になるでしょうし、同時にメディックの使う薬剤でも手に入れる事が出来ればわたくしのスキルの強化が出来るかもしれませんし。
「わたくしの能力では、ハル様達だけを選別して見つける事は出来ませんが、ある程度落ちた場所や騒ぎとなっている場所は解りますから、そこへ敵が向かわぬようにする事を第一優先として、次に敵に出来得る範囲内での損害を与えるという方針で動くべきでしょうね」
わたくし一人では、数十体のゴブリンを正面から撃破する事は出来ませんから。
この身はわたくしの物ではなく旦那様の所有物である以上、わたくしの判断で傷つけるような事は出来るだけ避け、無理はせず、今まで通り不意打ちと罠で削って行くべきでしょうね。
ですが、旦那様の安全のためにこの命を捨てる必要がある時は躊躇はせずに、わたくしなど所詮は所有物でしかないのですから。
「わたくしが死ねば、旦那様は惜しんでくださるでしょうか、いえ、このような事を思うこと自体がおこがましいですね。この身、この命は、旦那様の大恩に応える為だけに有るのですから。たとえあの御方がわたくしの事をどう思っていても、あの御方のためだけに」
~アラ~
「えーい、『三連速飛斬』」
「ガグビャ」「ウビャ」
前の道から来た鬼さん達が真っ直ぐ並んでたから、スキル一回で全部切ってやっつけちゃったけど、他の道からもいっぱい来ちゃってるよ。早く次の魔法使わなきゃ。
「いっくよー『闇痺雷』」
「ヒビビビ」「ビギジジジ」
よーし、あっちから来た鬼さん達もやっつけたね。それじゃあ、後ろに行かなきゃ。
「えーい『十連瞬刺』『扇圏斬』」
ハリュのおっきな身体をぴょーんって飛んで越えて、ハリュのすぐ後ろに居た鬼さん達を連続突きで倒してから、ちょっとだけ前に出て、倒しきれなかった鬼さん達もまとめて切ったけど、リャーから貰った剣でいっぱい切ったから、ちょっと疲れが無くなったかな。魔法をいっぱい使って眠くなってたのも治ったし。
「うーん、鬼さんが一杯だよー」
ずっとやっつけてるのに、なんでこんなにいるの。いっぱいやっつけても、また別な鬼さん達が来ちゃうんだもん。
「ハリュ起きて」
「う、うう」
お空から落っこちてから、ハリュは鳥さんのカッコのままで気絶しちゃってるから、ここで守るしかないけど、こんなに一杯の鬼さんが色んな所からきちゃうから、あっちにスキル撃ったら、次はこっちに魔法で、そしたらハリュの右のほうに行って、それから、それから。
「頑張んなきゃ、アラが頑張るんだから」
ハリュは、落っこちる時にアラが怪我しちゃわないように守ってくれたんだから、だからアラがリャーが来てくれるまでハリュを守るんだからね。
「ガギャラ、ロリダ」「グギャヅンテデ」
「もー、鬼さん達、来ちゃめーなの」
ホントは鬼さん達がとーくに居る時に弓でやっつけちゃいたいのに、剣から弓に持ち替える前に次の鬼さんが近くに来ちゃうし、たまにすっごい近くにまで来ちゃったりするから剣じゃないとやっつけれないし。
せっかく、新しい弓の『しょく』をオジサンに貰ったのに、これじゃ使えないよ、いっぱいの弓をどんどん撃てるようになるはずなのに。
「うーうん、使えないのはしょーが無いんだから、剣で頑張んなきゃね」
それに、この剣はリャーがアラの為に作ってくれたんだし、これが有ればどれだけ頑張っても疲れたり眠くなったりしないんだから。
「う、うう、こ、ここは、『迷宮』、いえ、塹壕陣地の中かしら」
「ハリュ、起きたの」
良かった、ハリュが起きればこのまま飛んで帰れるかな。
「ええ、う、羽が、これは根元近くで折れてますわね、足も折れているようで上手く動きませんし、この痛みは内臓もいくつか傷めていそうですわね」
え、ハリュいっぱい怪我してるの、それじゃ飛べないから、やっぱりアラが頑張んばって、リャーを待たなきゃ。
「生命力や体力の上がっている『鳥態』だから、なんとかもっていますけれど、この負傷のまま『人態』に戻ればそれだけで命に関わってしまいそうですわね。ねえ、アラ、回復薬の手持ちが有ったら貰えないかしら、そうすればわたくしも魔法で支援できますわ。それに、動けるようになればもう少し戦いやすい場所に移動する事も出来ますし、流石に先ほどの対空攻撃をした個体を撃破できなければ飛んで逃げる訳にはいきませんけれど」
え、お薬……
「ごめんなさい、さっき鬼さん達をやっつけるのに使っちゃった」
落っこちてきたばっかの時は、今よりももっといっぱい鬼さんがいて、いっぱいスキルや魔法を使わなきゃなんなかったから、この剣で鬼さんから吸う分じゃ足りなくて、お薬を飲んで疲れちゃうのを治さなきゃ、アラ達負けてたかもしれなかったから。
「そう、それは仕方が有りませんわね。アラ、あなた一人で有ればこの程度の包囲を単独で突破する事も、そのまま自力で防衛線まで退却する事も可能でしょう。今すぐここからお逃げなさい」
「やー」
「我儘を言わないで頂戴、幾らあなたでもこのまま戦い続ければ、数に押し切られてしまいますわ。わたくしはこの状態では大した魔法は使えませんし、何よりこのケガでは動く事が出来ませんから、足手纏い以下の存在ですわ、どちらにしろこのままでは二人とも助からないのですから、でしたら貴方だけでも逃げるべきですわ。わたくし達奴隷とは違って貴方はリョーの養い子なのですし」
「やーなの、そんな事言っちゃめーなんだからね」
だって、サミュもミーシャもトーウもハリュもみんな仲間だもん、置いてっちゃったりしたら、リャーは絶対泣いちゃうもん、そんな事をアラがしちゃめーだよね。
「絶対リャーが来てくれるから、それまでここで頑張るんだからね、だからハリュももう変な事言っちゃめーだからね。アラおこっちゃうからね」
「全く、貴女も非常識なお子様でしたのね。分かりましたわ、最期まで出来る限り生き延びて見せますわ。あなたの言う通りあの非常識なお人好しでしたら、本当に助けに来そうですし」
R4年3月17日 誤字修正しました。




