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4 武具の社そして……

「リョー殿、夕方には町に着きますぞ、今日はそこで一泊し、明日の昼前には『武具の社』へ着く予定です」


 揺れる馬車の中でぐったりした俺に、ラッドがさわやかな笑顔と共に告げてくる。


「ああ、ありがとうございます。それじゃあ今日は宿で寝られるんですね」


「勿論です、明日に向けて英気を養ってください」


 スキンヘッド・マッチョの笑顔が天使のように見えるってのは、かなりの末期じゃないだろうか。


 まあかなり参ってるのは確かだよな、夜は数か月分の修練、昼は乗り物酔いを耐えながら座禅を組んで『闘気法』の練習、しかも食事は……


「リョー殿、昼食の用意ができました」


 差し出されたのは、パンと野菜のスープに干し果物、この数日間ほとんど変わらない食事、違いといえば果物が生か干してあるか。


「ありがとうございます」


「リョー殿には物足りないと思われますが、我ら僧兵はなまぐさを摂る事が出来ぬゆえ、食料は全て精進物になってしまうので」


「いえ、護衛していただいて食事まで出してもらえるんですから、文句など言えませんよ」


 俺の言葉にほっとしたような顔をするラッドに、頭を下げて食料を受け取ると、パンをスープに浸しながら食べる。ここのパンは固くてこうしないと食べにくいんだよな。


 これも、もう少しの辛抱だ、宿屋なら好きな物を食べていいと言われてるし、ベッドで寝られる、僧兵達は『武具の社』についたらすぐ引き上げるそうだから、それからはもう好きな物を食べられる。


 最初の給金もそこでもらえるらしいし、多少なら贅沢できるかな。聞いた分だと娼館もあるらしいし、そっち方面でもなんとかなるだろ。


 休憩を取りながら食事をする俺らの横を、別な馬車が数台通り過ぎていく。


「えらくごつい馬車だな、軍用とかか」


(奴隷搬送用の箱馬車じゃ)


 奴隷だと、ここは奴隷制があるのか。


(そういえば、勇者達の世界には奴隷が居ないのじゃったな)


「現代はそうだな、昔はどうだか知らんし他の国ではあるらしい」


 やっぱり、ファンタジーの奴隷といったらあれか、魔法で絶対服従とか、美女は定番だよね。


(フム、一応説明しておこうかの、この世界の奴隷は魔法による懲罰規定が定められており、それに抵触すれば自動的に罰を受けることになる、そのため主の命にはほぼ確実に従うようになっておるのじゃ)


 来た、来ました、てことはあれだよね、奴隷を買うことができれば、あんな事やこんな事もできるってことだよな。


 美女奴隷を何人も買ってハーレムとか、そうなったらノクターンのチート主人公達みたいに、もう好きほうだい……


「リョー殿そろそろ出立しますがよろしいでしょうか」


 俺の妄想を止めたのは、マッチョのかけてきた言葉だった。





「それではリョー殿、我々はこれで失礼します。貴方にライフェル神のご加護があるよう、日々祈っています」


 俺たちを無事に送り届けたラッド達は、俺の荷物を馬車から降ろすと、全員が馬車に乗り込み、そのまま次の目的地へと向かっていく、それを見送った俺は、とりあえず荷物を確認する。


「金は金貨が一枚に銀貨が二百枚か、貨幣価値はわからないが、結構な額なのかな」


(一月で金貨三枚分となると熟練の職人程度かの)


 てことは銀貨百枚で金貨一枚分、日本で四十手前の手取りが三十万くらいとして、金貨一枚十万円くらいかな。物価がわからないから何とも言えないけど、月収三十万ならそれなりだよな、でも勇者の給料としてはどうなんだろ。


「リュックサックの中身はっと、食料は全部野菜か、まあ解ってたけど、他は野営の道具と、指輪が三つ、これは換金用か」


(それらは勇者の為の魔道具じゃ、それぞれ『雷炎の指輪』『氷水の指輪』『風砂の指輪』といい、それぞれの名に合わせた攻撃魔法が込められておる)


 各属性そろい踏みって感じで、『闘気術』を覚えた俺には都合がいいな。いいのかなこんなに至れり尽くせりで、まあほとんどの勇者が『闘気術』を取るんだろうから、その対策なんだろうな。


「あとこれはなんだ」


 銀色のカード、なんか彫り込んであるけど。


(神殿発行の旅券手形じゃ、そこに書いてあるのは、ライフェル神殿が主の身元を保証するという内容じゃ、それがなくば流民や犯罪者とみなされてもおかしくなく、場合によっては入れぬ国や街、通れぬ関所があったり、宿や店を利用できない場合もある故、無くすでないぞ)


 ああ、パスポートみたいなものか。


「さてそれじゃあ、武具を取りに行くか」


 それぞれの指輪を右手にはめ、階段を下りていくと小さな扉が道をふさぐ。


(これが社の入り口じゃ、資格のある勇者のみが開けることができる)


 まあ、よく有るよねそういうの。片手で軽く触れるだけで、扉は左右に大きく開く。


(中に入ればすぐに『社核』がある、そこに蓄えられた霊力を使って武具が生み出されるのじゃ)


「『核』てことは、ここで若返れるのか」


(その通りじゃ、ここは迷宮の性質を応用して作られておっての、『社核』は『迷宮核』とほぼ同じものと思ってかまわん)


 よっしゃ、これで若返れる。さらば三十路の体、腰痛ともおさらば、白髪染めも育毛剤もさようなら~


 目の前にあるのは、泉の上に浮かぶ巨大な水晶玉、おいおい宙に浮いてるよ、ファンタジーしてるな~


(近づいて、触れてみよ、それだけで全て済む)


 水に膝までつかりながら進むと、水晶の表面に俺の顔が浮かび上がる、少しくたびれた中年男性、それだけで大体の説明のつきそうな顔だよな~


 部下の中には渋いと言ってくる子もいたけど、半分、御世辞だろうし、まあ少しは運動してる分、体形が崩れてないのが幸いだけど。


(早くせぬか、日が暮れる前に町に戻りたくないのか)


 せかす声に、右手を当てなめらかな表面に掌を当てる。


「うわっ」


 ビリッときたビリッと、静電気かよ。


(何をしておる、しっかりと触らぬか)


 いや、んなこと言っても結構痛いぞ、コレ。


(早くせぬか、その程度の痛みに耐えられずどうする、勇者ならば多少の怪我や痛みなど日常茶飯事じゃぞ)


 まあそりゃ分るんだけどさ、でもねやっぱり痛いのはね、ちょっと覚悟が……


(お主には、勇者になるしか道がないのであろう、覚悟を決めよ)


 ええい、ままよ、深呼吸を一度し息を止めると同時に一気に水晶玉に抱き付く。


「ぐうううう」


 水晶に触れている部分全てに痛みが走る、これ静電気どころじゃないぞ、濡れた手でコンセントに触れた時より痛いって。




 気が付けば、仰向けに浮かんでいた、気絶してたのか、てかこれ下手すりゃ溺れてたんじゃ、あぶね~ここに来て溺死とか笑えないって。


(目が覚めたかのう)


「あ、ああ、どのくらい気絶してたんだ」


(ほんの数秒の事じゃ、それよりも水面を見るがよい)


 湖の中に座ったまま、言われたように水面へと視線を落とす。


「ん、お、おお若返ってる」


 しわが無い、髪も黒々フサフサ、たるみも取れてる。直接顔に触れるために腕を持ち上げると、掬い取られた水が指の間から零れ落ちる。


 おお、肌が水を弾いてる、思い切って一気に立ち上がってみる。


 痛くない、腰も、膝も、長年悩まされた関節痛が消えるなんて、肩こりもとれてる、体が軽い軽い。


 水面に映った顔の感じからすると18の頃くらいか。


(若返ったことに感動するのは良いが、そろそろいいかの)


「お、おうすまなかった、それでどうすりゃあいいんだ」


(水底、水晶の下を見てみよ、砂の中にお主の武具が埋まっているはずじゃ)


 いよいよ俺の武具が、これで俺もチート勇者か、バラ色の未来が見えてきた気がするぞ。


 ここか、砂が少し盛り上がってる、手を埋めると指先に固い感触が、これか思ったよりも小さいな、軽いし。

 

 持ち上げた掌に乗っていたのは、金色の細い輪っか、これは腕輪かな、てことは俺の職業は素手の格闘家とかか。


(これは、まさかそんな事が、いや確かに可能性は指摘されておったが、こんなことは過去数百年で一度も)


 なんだ、ラクナが戸惑ってるが、これはそんなにレアなアイテムなのかな。


(このままでは、だがどうすれば)


「おい、もったいぶってないで、このアイテムがなんなのか教えてくれ」


(す、すまぬ、お主には悪いことをした、実は、この武具だが『長命の魔法輪』という名前らしい)


 おおなんかカッコいい名前だぞ。


「長命ってどんな付加効果があるんだ」


(う、うむ、『超再生』だの、MPを消費して所有者の怪我や異常状態を瞬時に回復させる、MPさえ十分にあれば、即死状態や原形をとどめないほどに破壊されても復活できる)


 チート来た、てことはあれだろ不死身ってことだよな、『迷宮核』での若返りと合わせりゃ、不老不死、無双できる最強チート能力に不老不死ってもう完璧じゃね、バラ色の未来が見えてきたぞ。


 いやもう俺、ずっと勇者でいいよ、永遠に俺が勇者やり続ければもう全部解決できるんじゃねえか。


(それでじゃな、これは単独の時に肉薄された魔法士が、敵に殺されないための物らしい)


 ああ、それは重要だな、後衛キャラの定番みたいな魔法ユニットが物理攻撃系の敵に接近されたら、魔法を放つ前にタコ殴りされるってのは、よくある話だよな。


 たしかに、こういうアイテムがあると便利だろうな。





 ん、何かちょっと引っかかるよな。




 あれ魔法士、なんか気になる事があるような。


「おい、俺の職業はひょっとして魔法士なのか」


(そうじゃ、儂がこの役についてから初めて出た職じゃ、どうしてこうなったのかは解らぬが、もしかすると何十代にも渡って闘士が出ぬようにしていた事の反動かもしれん)


 闘士、それだ、闘士を防ぐために覚えた『闘気術』のデメリットは、たしか……


「なあ、ひょっとして俺、魔法スキルが大量にあるのに、魔法が……」


(使えぬ)


「魔法士って事は、物理戦闘系のステータスは……」


(かなり低いのう)


 こ、これむりだろ、ゲームならリセットして最初からやり直すとこだろ。


 まさか。


「詰んだ!?」



次の投稿は、仕事のからみもあるので、明後日になるかと、とりあえずしばらくはできるだけ早く投稿し続けられるよう頑張ります!


H26年4月5日誤字、句読点、三点リーダー修正

H26年9月25日誤字追加修正

H27年1月18日ステータスカードの設定を旅券手形に変えました

H27年1月20日誤字修正

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