393 ブ〇ック・バード・ダウン 1
「しかしまあ、予想以上の戦果を挙げられたな」
今日だけで十回近くの突撃をしたけど、その度にかなりのゴブリン・ソルジャーを倒せてたからさ、まあ遠距離攻撃オンリーのヒット・アンド・アウェイしかしてないから、正確に何体倒したかを示す証拠は無いけど陣地の方からも俺らの行動が見えてるだろうからさ、まあドワーフ達の技術を宣伝するには十分だろう。
実際の所は上空からの支援付きだからこそ、上げられた戦果ではあるけれど、まだ制空権って考えがそこまでないらしいこの世界なら、派手に矢と魔法を飛ばしてる、こっちの戦車単体でも十分戦えると思ってくれるんじゃないかな。
「後二、三回突撃したら退却するか、ん」
なんだ、いきなり『術送の指輪』が何度も点滅しだしたぞ、事前に決めた符牒ではないよな、これは符牒では伝えられない情報を送る為に念のため決めたモールス信号モドキか。
「えっと『テキジンチ、コウサクブツアリ、ザンゴウジンチ、セツエイチュウ』塹壕って」
そんな西部戦線の映画じゃあるまいし。
「旦那様おそらくは攻城用の物かと、このような平地で遠距離装備を備えた敵陣に正面から突撃する危険に気付き出したのでしょう。射程距離から十分に離れた後方の安全な場所に塹壕陣地の拠点を作ってから、敵城壁方向に対して斜めに壕を掘り進める事で、射撃から身を隠しながら徐々に接近する戦術かと」
うわ、そんなもの造られたらせっかくの『稜堡』の効果が落ちるじゃねえか。
(まあ、『稜堡』は複数方向から攻撃が出来るのが強みじゃから、近付けば塹壕だけで射撃を防ぎきるのは難しかろうが、それでも撃ち削る効率は落ちそうじゃの)
「これは早めに何とかするべきか」
「はいわたくしもそう愚考いたします。攻撃用としてはもちろん、塹壕や防塁を複雑に張り巡らせた防御陣地は騎兵や戦車などの突撃に対しては機動力を奪う障害となり、歩兵集団からの接近戦を許す事となりましょう。またそこを後方拠点として救護地点や物資集積所などにされては、敵の戦力回復の速度が上がり行動の選択肢が広がる事になるかと。いえ、救護所となればメディックや薬も……」
そうなると、『稜堡』陣地と機動部隊の連携での撃退を目的にしてる神殿の作戦を考えると、放置するのはかなり不味いんじゃ。まあ、俺らだけでこれを何とかする必要はないよな。この件を子爵軍なり神殿軍なりに報告して対応して貰おう。
「とりあえず、見える範囲で状況を確認するか、報告するにしても『塹壕が有るみたいです詳しくは解りません、後はよろしくお願いします』じゃ、意味がないだろうからな。ある程度の規模や構造だけでも調べれないか」
そうでないと、信じて貰えないだろうし下手をすれば、中途半端な情報を流したせいでゴブリン陣地の規模が解らないまま、下手に騎兵隊が突っ込んで神殿軍に被害が出たりすればシャレにならないもんな。
人死にが大量に出るかもしれないし、そんな事になれば俺とライフェル教の関係にも影響しかねない。逆に良い情報を伝える事が出来れば……
「ご主人様、アラちゃんとハルさんから連絡です。上空からゴブリン陣地の状況を確認したいとの事ですが」
考え込みかけた俺にサミューが『術送の指輪』を掲げながら声をかけてくるけど上空からの偵察か、まあ映画とかじゃとっても有効な手段だよな。上から俯瞰的に見れば、それをそのまま地図に出来るし敵の配置状況も、陣地の構造なんかも丸見えだろうからな。
「そうだな、しっかりと高度を取ってやるように伝えよう」
ゴブリン達の遠距離スキルの射程や今までの戦闘を考えれば、高度さえ十分に取って射れば安全に偵察が出来るはずだからね。上手くすれば、この情報は結構な値段で売れるんじゃなかろうか。
ゴブリン集団から十分に距離を取った位置に馬車を停めて、離れていくハル達の影を見送るけど今日はもうここまでかな。
もしかしたら他にも塹壕が有るかもしれないし、そんなところに間違って馬車で突っ込もうものならシャレにならないもんな、今日の戦果としてはもう十分だろうしさ。
「ご主人様、大変ですハルさんとアラちゃんが」
なんだ、ミーシアを休ませるためにも休憩してたら、急にサミューが騒ぎ出したけどいったいどうしたんだ、いや、今の言葉だとアラ達に何かあったって事か。
「どうしたんだサミュー」
「あれをご覧ください」
サミューが指さす先ではゴブリンの陣地の上空でハルが飛んでるが、なんだあの飛び方は、さっきまでは偵察しやすいように旋回してたはずなのに、細かくジグザグに方向転換しながら飛んで、まるで何かを避けているような……
「まさか」
俺の言葉を肯定するかのように、地上のゴブリン陣地から上空に向かって真っすぐに何かの光が走る。あれはスキル攻撃、まさかあの高さまで届くのか。いや実際にハルが回避行動をしている以上は届いているって事か。
クソ、ゴブリンの中にあれだけの距離を飛ばせる遠隔スキル持ちがいたって事か、いや攻撃は斉射や連射じゃなく単発で断続的だ、てことは射程の長い個体はそれほどいない筈だ、ただハルが逃げようとする方向を抑えるように撃ってるせいで、ハルがゴブリン陣地の上空から離脱できずにいる。
「ミーシア行けるか、地上から馬車の突撃を掛けてゴブリン達の意識をこちらに向ける」
ハルを狙ってる奴を仕留められれば、いや確かにそれがベストだけどそこまで期待するのは欲張り過ぎだろ、ともかく今はハルとアラを無事に逃がして俺達もそのまま味方の陣地まで逃げかえる事を目的にしないと。
「旦那様、敵が塹壕陣地を設けて居るのであれば、遠距離射撃の効果も下がるでしょうが、それ以上に機動戦力への防御力も高いはず。特に小回りが利かず深い段差などを乗り越えたり飛び越す事の出来ない車輪では……」
つまりは、効果の下がった遠距離だけで戦うしかないって事か。
「分かった、出来るだけ急ぐぞ」
不利だからってハル達を見捨てるなんて事は出来っこないしな。
「旦那様、敵陣に変化が、アレはやや粗めの密集隊形で正面からこちらへ突撃を、馬車の速度が乗ったところでこちらの動線に動きを合されました、避け切れません」
ハル達を逃がす為、速度を上げてゴブリン陣地に向けて突撃を始めていた車内に、冷静に報告するトーウの声が響き、それに合わせて視線を向けると、確かに攻撃予定だったゴブリン集団の一部がこっちに向かって突っ走ってきてる。
「グルガアア」
マズイ、トーウの言う通りこれは避けきれない。
自動車と違って、タイヤが大きく曲がらない馬車は急ブレーキも急ハンドルも出来ない、曲がるなら大きく曲がる必要があるし、スピードが乗ってるなら曲がる地点や角度なんかを事前に考えて置く必要がある。
こんな高重量高速度で急な方向転換なんてしようものなら、そのままスリップして、横転したり、下手をすればミーシアを巻き込んで大回転してしまうなんて事になりかねない。かと言って曲がるために今から速度を落としたり、この速度でも出来る様な大回りをしてたらその間に追いつかれる。
「せめてもう少し速度の出る前に気付けてれば、でなきゃもっと距離が有れば、いやこちらがスピードに乗ったこのタイミングを狙われたのか。仕方ない、ミーシアこのまま突っ込むぞ、接触の直前で『魔道具』と矢を連続射撃、相手は人数がそれほど多くない、物量で一気に防御スキルをぬいて、空いた穴をこの勢いのまま突破してから予定通り、ハル達を狙ってるゴブリンの居る辺りに矢をバラ撒いてから離脱する」
問題は、このまま突破できるかって事だけどな。
相手は、こっちを止めるとか、何らかのダメージを与えるつもりなんだろうし、今までのゴブリン軍団の行動を考えれば、その為の作戦が有るんだろうからさ。
だっていうのにこっちは遠距離特化で、普段使ってる戦車みたいな近付いた相手をズタズタにする為のぎ装は無いし、戦車とセットになってるミーシアの鎧もゴブリンのスキルに耐える程度の防御力は十分有るけど遠距離攻撃をバラ撒くようなのだから接近戦には向いて無い、爪は走るためのスパイク程度で、牙は元からついてない。まあそれでも金属の塊だから当たった時の衝撃は大型トラック並みに有るだろうけど……
「てかおい、あいつ等」
こっちに向かってきてるゴブリン、あれ全部ゴブリン・エスコートじゃねえか、しかも前のカーネルの取り巻き連中よりもレベルが高いし、ゴブリン・エスコート・ソルジャーじゃなくコーポラルやサージェントで構成されてやがる。
てことはカーネルよりもより高位のゴブリン直轄の集団が動いてるって事じゃねえのか。
「カーネルの上、まさかゴブリン・ジェネラルか」
ジェネラルっていうと、発情しておったてながらコンナと殴り合ってた変態じみたのしか思い浮かばないけど、少なくともあの強かったカーネルよりは上なんだし、考えてみればあの化け物みたいに強いコンナとサシで戦ってたんだから、俺からすればかなり格上なんだよな。
そうなると、あの集団だけじゃなく他にも動いてるって可能性があるんじゃないか。いやまて、エスコートの集団がコーポラル以上で構成されてるって事は……
「来ます」
「い、いきます」
ミーシアが四肢に力を込めて速度を増し、それと同時に鎧の全身に仕込まれた『魔道具』から魔法が発せられる。
「ご主人様、弓の方も発射可能です」
「分かった、ミーシア、弓の一斉斉射に少し遅らせて、俺と一緒にもう一度『魔道具』を使うぞ、今まで通り少しずつずらしながら相手の防御スキル消費させる」
「わ、わかりました」
今更もう、方針を変えれはしないが上手く行ってくれ。天井のハッチを空けて屋根の上へ登り、弓に巻き込まれないように姿勢を低くして『魔道具』の指輪を構える。
「行くぞ」
順番に矢が放たれて俺の頭上や左右を飛んでいき、タイミングを計って俺とミーシアが魔道具から魔法を放つが……
「シールド」「シールド」「シールド」「シールド」「シールド」「シールド」「シールド」「シールド」
クソ、やはりか、あそこにいる集団の全員が防御スキル持ちだ、これじゃあ他の連中が防いでる間に先に防御スキルを使った奴のクールタイムが終わってスキルが回復しちまう。このままじゃ、俺達の攻撃は奴らの守りを抜けない。
「だ、大丈夫です、このままの勢いでぶつかれば、ぼ、防御スキルでも」
確かに、これだけの重量と速度が有ればたとえ槍や刃が付いて無くても正面衝突の衝撃はとんでもない物になるはずだ、それならあの防御スキルを破壊して、ゴブリン・エスコートを弾き飛ばし突破できるか。
「分かった、ミーシアこのまま突っ込んでくれ」
「わ、わかりました、い、いきます」
更にミーシアが速度を上げて、ゴブリンの集団を目指す。
「衝突するぞ、サミュー、トーウ衝撃に備えろ」
足元に空いたハッチから車内に居る二人へ警告を出す。鎧を纏って『獣態』を取っているミーシアならともかく、生身の二人が、正面衝突の衝撃をもろに受ければただじゃすまないかもしれないからな。
「グギャ、グググギャ、シールド」
「え、ええ、うううううう」
密集しだしたエスコート達が一斉に発生させた防御スキルとミーシアの巨体が衝突し馬車が一気に減速しながらも、ゴブリン・エスコトートたちを弾き飛ばす。その衝撃で車上から投げ出されかけるのを何とか、両手足で踏ん張り堪えた俺の視界に何かが飛び上がったのが見えた。
「シャー、バターン」
く、ひときわゴツイ一体が馬車の上に飛び乗ってきやがったのか、まさかあのエスコートたちはこれが狙いか、コイツを無事に車上へ飛び上がらせるために守りを固め、防御スキルの一斉展開で車両の速度を落としたのか。
「コイツは……」
ゴブリン・マーシャル LV36
技能スキル 軍指令 命令強制 占領指令 士気高揚 忠誠強要 工兵指揮 築城 大槌 絞首刑
身体スキル 知力上昇 腕力上昇 速度上昇 高耐久 老兵不死
戦闘スキル 後方奇襲 敵前上陸 消え去り
特殊スキル リターン 赤狩 煙草
いきなりボスクラスが出てきたってことかよ、シャレにならねえぞおい。
「リョ、リョー様、あ、アレ」
ミーシアの慌てた声を聴きながら、彼女が見ているだろうマーシャルの後方を伺うと、羽根をまき散らしながら落ちていく巨大な鴉と、そのすぐそばでともに落ちていく童女の姿が。
「まさか、誘い込むためにワザと外してたのか」
コイツは俺とハル達の関係がどうなのかしらない、早々にハルが撃墜されれば俺達が諦めて引き揚げるかもしれない。だからこいつらは俺達の車に乗り移るまでわざとハルに当てずに俺達をおびき寄せたのか。
念の為ですが、当作品のゴブリンの嗜好はアレですので、とりあえずハルとアラがエロ同人みたいな事になる予定はありません。まあ、サブタイトルがサブタイトルではありますので……
R4年3月17日 誤字修正しました。




