391 ドワーフ
ドワーフが戦下手ってどういう事なんだ。
(歴代の『勇者』達も意外そうな反応をするがの、この世界ではドワーフは個人での戦闘はともかく、集団戦、特に軍団が戦う戦争には向かぬとされて居る)
いや、そう言われてもさ、目の前のオッサンと言い引き連れてるドワーフ兵達と言い、いかにもタフな重装前衛ですって感じなんだけど、それが見掛け倒しで実は弱いって事なのか。
(確かに単純な戦闘能力だけならば、ドワーフの戦士はかなりの物じゃ。厚い金属製の全身鎧を纏い、大楯と重武器を装備したドワーフが護る通路や門を抜けられる者は早々居らぬ。強靭な腕力で振るわれる武器は生半可な相手ならば一撃で倒し、重武装の防具を貫くのは重騎兵の槍突撃でも至難じゃろうての)
ならなんでドワーフが戦下手って言われるんだ、それだけの戦闘能力があるなら戦力としても十分すぎるだろ。
(問題なのは戦闘力ではない、機動力じゃ。見ての通りドワーフは他種族と比べ背が低く、更にその身長差以上に他種族よりも手足が太く短い、つまりは一歩一歩の歩幅が短いのじゃ、しかも足が太いために速足や走るのも苦手として居り、更に人やエルフならば容易に跨いだり飛び越したり出来たりする程度の障害であっても乗り越えるのに難渋する。その上に足が短いため馬に跨る騎乗も難しい、つまりは移動速度が極めて遅いのじゃ)
まあ、あの体型なら仕方がないのか、言われてみれば他の小柄な種族みたいにちょこまか走って歩数で距離を稼ぐってのも難しそうだよな。
(もちろん腕力の有るエルフの様にスキルや高ステータスのおかげで速く跳び回れるドワーフもおるが、それはごく一部の個人の事で大半は足が遅い。そしてこれは多種族混合のパーティーで『迷宮』に入る際には移動で足手まといになるし、行軍ともなればドワーフの部隊は、他種族の部隊と比べて同じ距離でも到着までの日数が伸びる事となる)
ああ、SRPGの重装ユニットみたいな感じか。
(軍集団としてみればこれは大きな不利となるのは解るじゃろう。攻める時には相手は先に防衛拠点へと集結し十分な余裕をもって休息や陣地構築などの迎撃準備を終えた上で待ち構える事が出来、守る時にはドワーフの部隊が集結し移動するまでにかかる日数で敵はより深くまで攻め込める。戦闘が始まった後もドワーフの部隊は頑丈で不動の防壁として敵の猛攻を抑えたり、あるいはゆっくりと敵を圧迫するのには優れるが。言い方を変えればゆっくりとしか動けない集団ならば正面からまともに戦わねば良いだけの事であろう。お主であれば全く移動せぬ敵を相手に戦うならばなんとする)
そうだな、ギリギリの距離を取って、攻撃して反撃される前に下がるって感じの一撃離脱を繰り返して削るとかかな、相手が追って来れないなら、攻撃するタイミングはこっちで好きに出来るんだからやりようによれば上手く行きそうだよね。いやいっその事、動かないならまともに戦わないで迂回しても良いかも、ボスと戦わずに『迷宮核』に行く方法が有ればそっちの方が楽だろうし。
(どうやら思いついたようじゃの、遅いとはいえ堅い守備戦力は迂回の出来ない狭所に配置するなり、機動力の高い部隊と連携するなど運用次第ではかなりの使いようが有るじゃろうが、それのみではまともに戦える場所は限られようて)
まあ、そうだよね。
(そのためドワーフの国は他種族の国との領土争いでは、機動力の差が有利に働く平野での会戦の多くで騎馬隊などの機動戦力を有する国に敗れ、更に足場が悪く個々人の身軽さが求められる森林や岩場などではエルフ族の軽装弓職に翻弄されて、多くの領地を失って来たのじゃ。ドワーフの優れた採掘や工芸、土木、建築等の技術は他種族からすれば垂涎の的じゃったからの、しっかりと開発され十分な採掘の目途が立った鉱山や、石造の高層建築や舗装された道路で整備された都市等の大半が占領され、それ以外でも国の支援を受け騎馬を中心とした不正規戦力による、防衛部隊を迂回した上での貴金属を目的とした略奪や職人を狙った拉致等も横行しての、無事な領土は谷間など通行可能な場所が限られた奥地や鉱山を利用した地下都市等ばかりになってしまってのう)
ああ、中世風の倫理観だと国際法とかも整備されてないんだろうから、弱ければ周辺国に飲み込まれるって訳か。
(じゃがそのような場所に多数のドワーフが追い込まれれば、食糧や塩、水を始めとした生存に不可欠な物資の確保にすら困窮する事となるし、そうでなくとも他種族はドワーフを狙い続けておっての。残されたドワーフ諸国は生き残りの為にライフェル教へと身売りしたのじゃ)
身売りって、アレかなライフェル教を国教にしてほかの宗教を禁止したとかかな。
(国土と国の元に有る権限の全てを神官長殿へ寄進したのじゃ)
は、国と国の権限全てって、徴税とか軍事とか行政とか全部って事か、それってどう考えてもまずいというか、完全に属国とか植民地だよね。
(その上で神官長殿は、元々その地の王族や貴族だった者達を寄進された神殿領の統治を担当する神官に任じ全権を与えたのじゃ)
ん、それって実質は変わらないって事なのかな、支配者層の顔ぶれはそのままだし持っている権限も一緒って事だから。
(税収の幾らかは神殿に上納したり今回のように神殿の要請で出兵するなどの必要があり、地位の世襲にもライフェル教の意向が絡むとは言え、よほどの問題が無い限りはそれまで通りの統治が出来る上、名目上は神殿領となっている以上、何かあれば僧兵や聖騎士等の支援が受けられるようになったのじゃ。何より、他種族や国、貴族等が組織的にドワーフへ手を出すこと自体が神官長への敵対と取られかねぬとなればの)
ああ、そりゃ誰も手を出せないだろうな。要はヤ〇ザとかにショバ代を払って用心棒にしてるような物か、いやこれだと例えが悪いかな。
「今回の討伐では、ドワーフを中心とした魔法工兵隊は全員が馬車で移動し、アンちゃんの手伝いが有ったとはいえ、短期間で陣地構築が出来る事を示せた。ドワーフ族の動員・輸送・展開に至るまでの速度が他種族に劣る物では、いいやそれ以上であると実証したのだ。後は戦車とテクニカルによる機動戦力と固定陣地の連携戦術を見せつければ、我らは神官長猊下の庇護に縋る事しかできなかったかつてとは違うと、神殿諸軍の一翼として戦うに十分な力を有していると、誰もが知る事となろうってもんよ」
なんかずいぶん話が大きくなってるな。ただ単に『活性化』した『迷宮』の鎮圧、要は地方単位の災害対策の筈だったのに
まあ、俺は俺に与えられた役割をやって報酬をもらうだけだよな、無理はせず出来る事を出来るだけやるってのがサラリーマンって物だよね。
「て訳で、アンちゃんたちには、もう一働きして貰いてえんだ、ドワーフの兵器技術がどれだけのもんかってのを見せるのによ、これから来る戦車は『獣頭平原』で鹵獲した物を中核にしてるとは言え、俺等の造ったもんもそれなりにある、テクニカルも輸送に使った馬車の流用とは言え、集団で運用するために大きさや性能に関してはある程度揃えてある。だがよ、それじゃあ能力は『ある程度』に抑えねえとならねえ。でねえと集団から数台だけが飛び出して孤立し、狙い撃ちにされるなんて事になりかねねえしな」
ああ、正規装備の規格統一って感じか、まあそうだよね集団で動いてるんだから、一つだけ飛びぬけた性能が有っても周りに合わせて動きにくいだろうし。
「だが宣伝のためには、どこまで強力なのが出来るかってのを見せつける必要も有るだろ。だからアンちゃん達向けに特別な奴を用意した。前に言ってただろ、お前さんらの話を聞いて用意してるネタがあるってよ。単独で暴れ回れるように、制限なしの上、お前さんらようにって事でそれ用の材料もとある御方々が用意してくれてる」
この流れって事は、戦車とかテクニカルを用意してくれるって事なのかな、しかもパーツまで選抜した特注機って事か、汎用機の集団と別に行動する特注機っていうのはロマンだよな。
R4年3月17日 誤字修正しました。




