388 建築作業
「ふう、これで三つめか、思ったよりも早く作業が進んだな」
今日のノルマはこれで終わりだけど、時間的にはまだ余裕があるな。
この調子なら後二ついや、上手くやれば三つくらい追加で行けるんじゃないかな。俺ら以外にも神殿の工兵隊が別な所で作業してるはずだけど、俺らが出来るだけ作っておいた方が完成までの日数が減っていいのかも。
「いや、一人で勝手な行動をして、作業の予定を変えるのは問題だな」
俺やうちの子達で最後まで何とかできる範囲ならともかく、これは子爵家軍やその周囲に展開している貴族軍に加えて、神殿勢力も関係して予定を調整してるんだから、俺一人の都合でそれを狂わしちゃね。
俺達だけで『稜堡』の壁を作る事は出来るけどさ、そうなると、その壁沿いに配置して守備に当たる兵士を素早く展開させないとダメだからね。
そうしないと下手をすればゴブリン達が押し寄せて、先に占拠され防御陣地を攻める橋頭堡にされかねないし、これからの作戦の為には壁の中の盛土の工事やら兵器の運び込みやらの手配もできるだけ早く必要になって来るからね。
さっきまで俺達が創った壁は、今日の作業が予定されてて、そのつもりで事前用意が終わってるから、ああも早く作業が進んでるんだし。それなのにいきなり予定外の壁が出来たとして、その為の兵員や物資が直ぐに手配できるかっていうとね。
まあ、軍隊なんだからとっさの事態にも直ぐ臨機応変な対処をして展開してくれそうな気はするけど、一枚岩じゃない集団だから下手すれば面倒や責任の押し付け合いとか、手柄の奪い合いみたいな事で睨みあいになって誰も動けないなんて事態になるかもしれないし、かさ上げ用の土砂や兵器の資材の用意だって明日以降に完了するつもりで準備してるんだろうし、下手をすればそれを手配する輸送計画や予算にも影響しそうだもんね。
うん、独断でやるのは止めて置いて、とりあえず今日の夜にでも、もう少しペースを上げられるかもしれないって報告して、関係各所に調節してもらうよう神殿の連中に頼んでみるか。
そう言えば日本での仕事でもあったっけ、下請けの一社が行程表に書かれた工期を自分達の都合で無視しちゃったせいで、他の下請けや部署が迷惑したんだよな。建物の奥の作業が終わってないのに、その手前の部分の作業を始めて通路を狭くしたせいで、奥の作業が遅れてさ、その遅れが他にも影響して……
「とりあえず、今日の予定は終わったことだし、残った時間と魔力でこの場所の足場づくりや壁の補強をしておくか」
それなら、他の部署に負担はかからないし、資材や労力の節約にもなるからそれを明日以降に回す事も出来そうだし、まあ、それらを提供して儲けてる側には恨まれるかもしれないけど、そこまでは気にしてられないし、出来る事なら工事が早めに終わった方が軍としては良いはずだからさ。
それに多少でもハルの熟練度を上げておけば、明日の負担も軽減できるかもしれないし。
「さて、戦場の方はどうなってるかな」
万が一にも不利になってたりしたら、ここも危ないかもしれないし、ミーシアやアラの事も心配だからね。
「撃てーー」
床子弩や弓職たちを乗せた馬車が、距離を取りながら敵陣の側面を通り抜けざまに大量の矢を放ってから距離を取り、大きく円を描くように方向転換して敵陣に接近しまた矢を放って行く。
なるほどな、しっかり距離取って、ゴブリンの遠距離スキルが届かない範囲から射程の長い弓で一方的に仕掛けてるのか、僧兵連中は乱戦になってるから、直接そっちへの支援射撃は出来ないけど、メディックなんかの敵の後衛を削ったり、回り込もうとする敵集団の妨害をしたりと随分と活躍してるな。
「指揮を執ってる『四弦万矢』がよく見てるって事なのかな」
あのロリコ……、じゃなかった『四弦万矢』はその二つ名からして、弓戦で戦果を挙げて来たってのを示してるぐらいだし、かなり名が知られてるって事でテクニカル隊の臨時指揮官に多数決でなってたんだよな。
まあ考えてみれば、テクニカル隊自体が色んな所から弓職を集めた寄せ集め集団だし、かと言って僧兵連中みたいに力押しで行ける訳じゃないだろうから、名の知れたベテランが指揮を執った方が良いんだろうな。
たまにワザとスピードを落として逃げて、それを追って来るゴブリン集団と一定の距離を保ちながら誘い出し、敵の本隊から引き離しながら後ろに撃ち続けて数を削ってたりするし。
「あの様子なら、アラの方は心配しなくても大丈夫そうだな、ミーシアの方はと……」
「え、えい、ええい」
あれ、いつの間にか『人態』に戻ってモーニングスターで戦ってるけど、一体どうしたんだろ、あの何カブトだと言いたくなるような無双状態を止めて、なんで不利になりかねない『人態』で戦ってるんだ。
「イッゼイ、ジャゲギ」
いつの間にか二、三十体づつ三か所に整列していたゴブリン達がミーシアを半包囲するように槍を構えてスキルを放つ。
ほら言わんこっちゃない、『人態』の状態であんな密度の射撃を食らえば、いや……
「こ、このくらいなら」
ミーシアが左手に持った大楯で一斉射撃のうち一番敵が多い方向からの射撃を防ぎ、防ぎきれない方向からの射撃も姿勢を調節して、鎧の装甲が厚い部分で受け止める。そうだよな、考えてみればミーシアはタンク役でもあるんだし、盾も鎧もかなり防御力が高いんだっけ。
「こ、この武器なら、きょ、距離を取られても、だ、大丈夫、だよね」
そうか『獣態』のミーシアを警戒して、爪や牙が届かないような距離を十分に取って遠距離スキルだけで対応してたのか。テクニカル隊がやってる事が、こっちもやられるっていうのは皮肉というか、戦法っていうのはしっかり考えればみんな同じ方向を向くって事なのか。
まあ、ミーシアにはあのくらいの弾幕も効果なさそうだけどさ、でもこれで『人態』になってる理由が分かったな、クマさんの姿だと『飛斬』みたいな中・遠距離に対応できるスキルは無かったもんね。
「ミーシアは『人態』でも近距離スキルばかりだけど、今はあれが有るからな」
「リョー、まさかとは思いますけれどこの状況を想定してミーシアにあの武器を持たせましたの」
「いや、あの重量級武器ならミーシアだろうと思っただけだが、こうして見ると確かに絶好の状況だな」
「え、えええい」
頭上に掲げたモーニングスターを数回振りまわして、遠心力を付けた後で、鎖が一気に伸びてそのまま水平に回転する運動を続け、一メートル近くまで巨大化した鉄球がゴブリン達の横隊を真横から薙ぎ払っていく。
ミーシアの新装備『巨球の鎖』は自由に鎖の長さと鉄球の大きさを変えられるから、十分な膂力さえあればかなりの威力と射程を期待できるからね。
しかも今対峙しているゴブリン達は、半包囲するためにそれぞれの集団がミーシアを中心に等距離で半円状に展開してるおかげで、横薙ぎの一撃で三つの集団がほぼ壊滅しちゃってるし、しかし、こうして見るとミーシアのあの武器はやっぱり単独行動用だな、あんな攻撃じゃ後ろにいる仲間まで一緒に吹き飛ばされちゃうだろうからね。
ミーシアが『獣態』で敵陣深くまで単独突破してたからできた戦法だよな、でなきゃ巻き添えでコンナ達もタダじゃすまなかったんじゃ。
「そう言えば、ミーシアの方に気を取られてたけど、コンナや他の僧兵連中はどうなんだ」
まあ、あの集団なら怖い事は無いだろうけどさ。いや、ある意味で怖いかも、主にSAN値的な意味でさ……
「はああ、脆い、脆いぞ、この程度では我らを止める事など到底かなわぬぞ、ゴブリン共よ、我が槍に応える猛者はおらぬのか」
「ミムズ様、どうかご自重くださいませ、職に御心を振り回されぬよう、ご自制を」
なんだ、ミムズが暴走気味に槍を振り回して暴れ回ってるのを、ディフィーさんがその背後で戦いながら言葉で宥めてるけど、どうしたんだ。いや、そう言えばミムズは『狂槍士』の職も有ったんだっけ、確かバーサーカー系の職で昂ると判断力が低下して戦闘力が上がるんだっけ。
まあ、あんなふうに暴れてても、他の三人が落ち着いてサポートしてるっぽいから大丈夫か。
「足らぬ、この程度の戦いでは、より高みへと至る修練にならぬではないか、もっとだ、もっと強い敵は、ライフェル神への供犠はより強き敵、より多き血こそが喜ばれる。拙僧が位階を高めるにふさわしき敵は何処ぞ」
うん、コンナの方も相変わらずか、ミムズは見た目だけは美人さんだから狂戦士って感じだけど、コンナは見た目もアレなのに全身血まみれな上に、凶悪そうな柳葉刀でゴブリンを斬り裂いていく様子は凶戦士って感じだな。
「バルククアアアアア、カアアアアットュゥゥ」
なんだコンナの目の前でそれまで戦っていたゴブリンの集団が左右に分かれて、ひときわ大きな上位種がコンナの前へと出て来るけど、いきなりどうしたっていうんだ、というかあれ。
ゴブリン・ジェネラル LV28 ゴブリン・ボクサー LV11
技能スキル 軍団指揮 指令 命令強制 士気高揚 格闘術 拳闘
身体スキル 知力上昇 腕力上昇 高耐久 強筋
戦闘スキル 強拳撃 連続拳撃 側拳撃 速拳撃
「なんだあのゴブリン、デケエ、デカすぎるだろ、アレでホントにゴブリンかよ」
「オーガ、いやレッサージャイアント並みだぞあの大きさ」
俺とハルが創った壁沿いに展開しだした弓兵や冒険者連中が、呻くように呟いてるけど確かに異様な大きさだなアレは……
あのコンナと正面から向き合って全く見劣りしない、タッパとブ厚い筋肉、そして何よりも……
「信じられるかよ、あの大きさ、さっき『虫下し』の野郎が余裕を見せる為か奴隷にまさぐらせてたブツもズボンの上から、はっきり解るぐれえのデカさだったけどよ、ありゃその倍、いや三倍は有るぞ」
まさぐらせって、いやそんな事は無いんだよ、あの行為はあくまでも、ハルに魔力を渡してただけで、やましい事は何一つ、いや今考える事はそれじゃなかったな。
ほんとは日本人平均でしかない俺、じゃなくて、サミューが両手に握ってもまだ余りが有るあの鞭のハンドグリップと比べても圧倒的な体積でズボンを押し上げているあれは本物なのか、というかこの状況であの状態って、まさか。
「フンンウヌウウウウ」
コンナの目の前で仁王立ちした、ゴブリン・ジェネラルが、上腕二頭筋の力瘤を見せつける様に両腕を曲げ、更に首を反らせながら大胸筋と腹筋に力を込めて盛り上がらせ、コンナを睨み付け威嚇するように唇を開き、強く噛み締められた歯をむき出しにすると、ゴブリンの者とは思えない白い歯がキラリと光る。
「アレはまさか、威嚇じゃなく笑っているのか、それじゃあホントに」
あのズボン、あの笑顔、何よりラクナから聞いた説明とどう見てもコンナに見せつけているとしか思えないボディビルポーズ、奴は、奴は……
「コンナに対して、アレに対して、発情して、求愛しているというのか」
俺の小さな呟きを聞いた弓兵や冒険者たちの間からどよめきが、皆、頭ではわかっていても男としてのナニカがそれを認めたがらないんだろうな。
しかも『異常状態』の『発情』とかが付いてないって事は、さっきのとんでもスキルの影響じゃなく、素でってことかよ。
「ほう、魔物風情が、人に対して、まして神にその全てを捧げた尼僧に対してそのような劣情を抱くとは不遜な。良かろうこの肢体を我が物としたくば、貴様の全てをもって奪い取って見せよ、出来ればだがな。だが覚悟するがよい、貴様にその資格なき時は、拙僧のこの手をもって貴様を逝かせてくれようぞ」
うん、なんだろう、コンナは多分お前を殺すって言ってるつもりなんだろうけどさ、ゴブリン・ジェネラルの状態を見てるとさ、なんか違う感じに聞こえちゃうのは……
H30年10月01日 誤字修正しました。




