386 開戦前の狂演
ネタ回です。
「さあ、行きますぞ各々方、これより数日の拙僧らの戦働きこそが、この戦での趨勢を決めますぞ」
防壁を後方に背負う形で平地に散開する冒険者や僧兵達を見下ろしながらコンナが声を上げる。あれ、おかしいな、確かコンナはここで舞うんじゃなかったっけ、でもあの恰好は、どう見てもさ。
いや、コンナのあの見た目で、いかにもな感じの踊り子の服を着られてもアレだったけどさ、あの恰好はさ……
おそらくはなめし革なのだろう、ややくすんだ茶色の上下、太めの肩紐で吊るされた上着は臍と鳩尾の中間あたりまでの上半身にピッチりと貼り付いて、その豊満な肉体、雄々しく盛り上がる見事な大胸筋の線を隠す事無く見せつける。
下半身は太腿付け根のやや下までしかない短パンで八つに割れた腹筋も、サミューの腰よりも太そうな大腿四頭筋も隠される事なく見せつけて来る。うん、感じ的には女性格闘家って感じだよな。
ま、まあいいや、コンナの居る小学校の朝礼台みたいな木組みの足場の周りを、上半身裸のガチムチ僧兵が十数人で囲んでるって光景の方がアレな感じがするし、これから何が始まるかよくわからないけどろくなことにならなそうだし、気にしてもしょうがないか。
それにしてもこうして見てみると、周りに居るのは僧兵の他には、神殿側が選んで声を掛けた冒険者や傭兵ばかりで、正規軍である騎士とか兵士はほとんどいないな。
しかも単独で突出したとしても無事に生きて戻れそうというのが基準らしいから、パーティーじゃなく個人個人に声をかけてるせいで、参加してる連中の恰好はバラバラで、それぞれが勝手にたむろしてるから、統一感が全くないな。
僧兵連中も、坊主頭のマッチョってのは一緒だけど、装備なんかは結構バラついてて、こっちも統一感が無いんだよな。というか、みんな好き勝手な場所に立ってて陣形なんてないし、連携取る気が有るのかって感じなんだだけど、いいのかこれ。
(ラクナ、僧兵団って、こんなに統率が無い物なのか)
向こうで整然と隊列を作ってるゴブリンと比べるとさ、なんかもう野盗の集団みたいに見えて来るんだけど。
(まあ僧兵というのは、拝師による師弟関係と、信仰による神殿での上下関係はあるが、修行者、求道者としての意識が強いからのう。パーティー程度の小規模な連携ならばともかく、軍隊のような組織化された戦闘にはあまり向いておらぬのじゃ)
え、そうなの。
(そもそもライフェル教において僧とは、修行し続け自らを高める事と『迷宮の管理による救済』という教義の達成を目的として居り、神殿を運営する実務を執り行う事をもって信仰の証とする神官とは別物であり。戦闘集団としても、僧のみで構成された僧兵団はいわば武侠集団に近くてのう、能力のある個人がただ集まっているという状況に近いのじゃ。そのありようは、神殿に知行地を安堵された騎士、あるいは僧侶や神官の身分を兼ねた独立領主とその郎党を中核とし、通常の騎士団と同じ様に中小の戦闘集団の集合体である『聖騎士団』や、一部の武装神官を士官として信徒兵にて構成される神殿軍とは全く違うのじゃ)
え、要は優秀な個人の集団って事か、それってもしかして。
(という事は、一対一や、一対複数みたいな小規模な戦闘には強いが、集団戦闘、特に今回みたいな軍隊規模の戦闘には向かないって事か)
そう言えば、今まで一緒に戦った僧兵連中なんかも、連携を取るというよりは、それぞれが別々の相手に向かって行って、自分の前に居る敵をぶっ潰すって感じの、ノルマ制みたいな感じだったな。
(その通りじゃのう。もともと僧兵は同門の少数、あるいは単独で任地とされた『迷宮』や寺などにて、修行としての戦闘を行って居るのが通常であり、大人数が集まるのは、式典や今回のような大規模な招集、あるいは師の下で技の伝授を受けている時などだけじゃ。何より僧兵達にとって戦闘とは最高の修行であり、より強い敵とより困難な状況で戦う事が、自らを高める苦行と考えておる。戦闘を有利に戦うための協調等は邪道と考える者も少なくないのじゃ、まあ、ラッドのようにある程度の地位を持つ者で有れば、そのような考えはせず、衆生救済の為ならば効率よく魔物を殲滅する方法を取るじゃろうし弟子にもそう教えておるはずじゃ。それに、この場の様になんとしても鎮圧、あるいは鎮静化せねばならぬ事態では手段を選んだりはせぬじゃろうがのう)
うわあ、想像以上の脳筋集団だったんだ、というかどこぞの戦闘民族みたいだな。いや、今は引いてる場合じゃなかった。
コンナがこれからやる『武威口上』は言葉による支援効果を狙ったスキルで、言葉の意味を理解できないと効果が落ちるんだから、しっかりと話を聞いておかないとね。
「見よライフェルの戦士達よ、あれに見えるは神の敵、衆生の脅威、我らが試練なるぞ、我らの信仰をライフェル神に示し、我らが位階を上げるは今この時この場ぞ」
お、始まったか、しかし感じ的にはホントに前口上って感じなんだな。
「祈りを刃に込めて敵を断とうぞ、信心を拳に込めて命を砕こうぞ。我らが剣は首を断ち、我らが槍は心を穿ち、我らが拳は臓腑を潰し、我らが軍勢は悉くを殺す」
ん、あれ、なんか……
「賛美の声に変えて敵の断末魔を轟かせ、聖典の文言を敵の鮮血にて大地へ描こうぞ。骸と骨をもって祠を築き、首級を積み上げて功徳となそうぞ」
なんだろう、言ってる内容がどこの邪教だと突っ込みたくなる位に物騒なんですけれど、いいのかこれでライフェル教。
「全てを殺し、全てを倒し、この地より敵と言う物を消し去らん。偉大なるライフェル神よ、強靭なる先達、聖人たちよ我らに力を」
いやでも、周りの連中の表情がどんどん物騒な感じになって来てるし、『鑑定』でも『高揚』とか『体力強化』なんかの支援効果が付いてるから、こういうのは過激な方が良いのかな。
「さあ、踊ろうぞ戦士達よ」
『ウッウ、ハア』
コンナの声と同時に、僧兵の全員と何割かの冒険者連中が重く低い唸り声をあげながら足を大きく開いて膝を曲げ、中腰の姿勢を取る。
これは俺達も同じ姿勢を取った方が良いのかな、うん、姿勢を取ってなかった冒険者連中も、近くに居る連中を真似するみたいに同じ姿勢をしだしてるし、突撃に参加する予定のミーシアや支援にあたる予定のアラも同じ格好してるもんな。
でもミーシア白熊さんの恰好でよくあの姿勢が出来るな。
「行くぞ戦士達よ、行くぞ戦いの場へ、行くぞ我らが死地へ」
両手を掲げたコンナが叫び声をあげながら手を振り下ろし、僧兵達を指差し、更にゴブリン達を差すと、低く唸り声をあげる。
「ヴウウゥゥゥゥ」
「行くぞ、戦士達よ」
「イ、ク、ゾ、イ、ク、ゾ、イ、ク、ゾ、イ、ク、ゾ」
声に合わせる様に、僧兵や冒険者たちが、片足を地面に踏み付け、手で太腿を叩き、拳を振り上げ、手で二の腕を叩き、片足を踏み出し、地面を殴りつけるように拳を振り下ろし、両手で厚い胸板を叩く。
そうした動作を繰り返しながら、僧兵達は少しずつ前に進み、声はより太く、体に手を叩きつける音はより大きくなっていく。
「進もうぞ戦士達よ、戦おうぞ戦士達よ」
「イ、ク、ゾ、イ、ク、ゾ、ヤ、ル、ゾ、ヤ、ル、ゾ」
これは、俺が知ってるのとはちょっと違うけど、もしかしてウォークライか。ラグビー国際試合とかで南太平洋系のナショナルチームなんかが、試合前にやる奴。多分何処かの『勇者』が持ち込んだ風習なんだろうな、もともと戦いの前に踊る事もあったらしいから間違いじゃないんだろうけど、なんかな。
「ヤ、ル、ゾ、ヤ、ル、ゾ、殺、ル、ゾ、殺、ル、ゾ」
なんだろ、だんだんと、僧兵や冒険者連中の声や目付きが、怖い感じになって来たし、『熱狂』とか『闘争心向上』なんかの異常状態が付き出してるんだけど、これって集団催眠とか自己暗示みたいな感じなのか、いやまあ試合とか戦闘前のこの手の儀式とかルーティンなんかは、そういった物か。
「しかしこれはな」
ただひたすらに言葉を続け、威圧感を増しながら踊り続ける漢達に向けていた視線を、遠く前方で隊列をまったく乱す事無く整列し、号令に合わせて整然と前進してくるゴブリン達へ向ける。
「こうして見比べると、帝国主義を掲げて植民地支配に乗り出した列強軍と、それを迎え撃つ現地部族みたいに見えて来るな」
おかしいな、俺達の方は、中世とは言えヨーロッパ風異世界の軍隊じゃなかったっけ。何で向こうの方が近代的に見えちゃうんだろう。
「まあ、向こうは武装も統一されてるし、指揮系統も明確そうだからな」
それに比べてこっちは、さっきラクナが言ってたように、踊りだけはそろってるけど、隊列なんかなく各自バラバラの位置にいるし、装備もバラバラ、というか僧兵連中は武器はごついのが多いけど防具は軽装ばかり、というか胸当ての他はほぼ布地だったり、筋肉がむき出しになってたりと防御考えてるのかと言いたくなるな。というか上半身裸の連中も結構いるし。
うん、なんかもう頭が痛くなって来たわ。
「わ、わあ、わわわ、ま、間違ってないかな」
「うんしょ、うんしょ、あってるかな」
うん、白熊さんの姿で一生懸命に踊ろうとしてバランスを取れずに左右にふらつくミーシアと、ちっちゃな体を大きく動かしてるアラの姿はとっても癒されるな。
うん、それ以外がマッチョな漢達の集団だからさ、二人がマスコットみたいでとっても癒しになるんだよ。
「え、えっと、こ、こうか、あわわ」
やっぱり、くまの姿で二足歩行ってだけでも大変なのに、あんな不自然な姿勢の踊りを踊るのは大変だろうな、可愛いけど、うん普段の『獣態』の凶悪さが嘘みたいだな。
「うん、しょ、うんしょ、ミーシャがんばろうね」
うーん、たどたどしく踊るアラもかわいいよな、本来ならマッチョしか似合わないような動作だけどさ、それをちっちゃい子が一生懸命踊ってる姿がさ。
「いざ行かん、我らが修行場へ、我らが死地へ」
「ソイヤ」
うちの子達の踊りでほっこりした気分を吹き飛ばすかのように、コンナの声が響き、それと同時にスキンヘッドマッチョ狐尼の朝礼台を囲んでいた、上半身裸のマッチョ達がしゃがみ込み何かを掴み、一斉に立ち上がるとコンナのスキンヘッドが更に高い所へあがって行く。
「おいおい、あの朝礼台、神輿だったのかよ」
コンナの朝礼台の台座部分が井桁に組まれていて、それを担ぎ棒にした僧兵達が担ぎ上げるけど、堂々と腕を組んで仁王立ちしてるコンナは揺らぐことなく敵の方を睨み付ける。
うーん、神輿はパーが良いとは言うけど、コンナじゃ軽くないだろう。いやあれだけの人数のマッチョで担ぐなら重さなんて感じないのかな。
「さあ、存分に戦い、命を捧げようぞ、はああああああああ」
H30年10月01日 誤字修正しました。




