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382 尼僧訪問

長くなってしまったので二つに分けました。


「おい、あれ……」


「ライフェルの……、僧兵が……」


「あの刀、まさか、朱いキツ……」


 なんだ、抱き付いてるアラの頭を撫で続けてたら、なんか辺りが騒がしくなって来たな、どうしたっていうんだ。


 この辺りの連中は俺達も含めて、夕食やその後の後始末なんかが終わってるから、後はゴブリンの夜襲に備えての見張りや即応要員以外は寝るだけの筈なんだが。


 というか、明日も戦闘なんだからとっとと寝て体力を回復させないと持たないからな、俺の場合は今晩はアラと一緒だから熟睡できるか微妙かも知れないけど、万が一寝ぼけたアラにチューとかされちゃったらシャレにならないからね。


 しかし、休まなきゃダメだっていうのにミーシアとトーウは用事があるからってどっか行っちゃったし、ハルは昼間の戦闘で崩された防壁の補修にって呼ばれて行ったから、流石に俺達だけが先に寝てるってのもあれだよな。


 特にハルは帰って来てからまた俺の魔力を取ってくつもりだろうからね。


 なにせ出発前にも、昼間の戦闘で使った魔力を回復させるってんでサミューの靴を履いて、食事中に人の足をヒールでグリグリして行ってたし。アレで、『隷属の首輪』が『懲罰』を発生させないってどういうことだよ、まあ俺自身が禁止してない訳だし、防衛線の修復は回り回って俺達の利益になるからって考えなんだろうけどさ。


 アラにばれないように俺は必死に痛がるのをこらえてたっていうのに、ハルの奴周りから怪しまれないように、俺の隣にひっついてるし。


 しかも、それが周りから自然に見える様にって俺の腕を抱きかかえた上で密着して、二人の両ひざとアラの腰に毛布まで掛けてさ、痛いんだか、腕に当たってる柔らかいのが気持ちいいんだか分からなくなっちゃうし、そんなのをここ数日繰り返しやってるもんだから、周りの目がかなりね。


 いや、今はそれよりも、この騒ぎだよ、どう考えてもこっちのほうに近づいてきてるよね。


 まあ、だからって俺に関係してるとは限らないけど、万が一巻き込まれたりしたらあれだし、それに一応俺はこの区画を預かる合同パーティーの代表って事になってるから、俺に用事だって可能性は十分に……


「師しゅ、いや冒険者リョー殿、こちらにおわしたか」


 あ、面倒事が向こうから来たっぽい、俺の名前を呼んで真っ直ぐにこっちに向かってきてるのは、どう見てもコンナだよな。うん、あの特徴的な見た目というか、ガチガチの筋肉とツルツルな頭は見間違いようがないからな。


「久しぶりだな、俺に何の用だ、もしかして何かの依頼か、悪いが俺は今子爵家に雇われている最中だぞ」


 対応の仕方はこんな感じでいいのかな、コンナが俺の事を『師叔』じゃなくて、『冒険者リョー』って呼んでたって事は、この国の騎士や貴族なんかに俺と神殿の関係を疑われないようにって事なのかな、とは言え『鬼族の町』とか『獣頭草原』なんかでの俺の噂でばれてそうな気もするけど。


 いやそうとも限らないか、『師叔』だとコンナの身内つまりはライフェル教内部の人間って事になりかねないけど、『冒険者リョー』だと、神殿からよく依頼を受ける外部の人間ってニュアンスになるから、ここの違いは大きいか。


「うむ、存じている、その上で子爵殿からは既に許可を頂いている。ライフェル神殿軍先遣隊の御用である、神殿軍野営地まで同行願いたい」


 あ、これ確実に面倒ごとっぽい、とは言えライフェル神殿の呼び出しじゃあ断る訳にはいかないんだろうな。しかし、先遣隊か、そう言えば使者達に少し遅れて部隊が到着したって話だったか。


 まさか、今日みたいに突撃して、ボスモンスター仕留めて来いとかじゃないよね。







「リョー殿、こちらはライフェル神殿中央軍、魔法工兵隊に属されるゴリョウ師伯に御座います。師伯はこの地域の『活性化』対策の為に派遣された隊の副将を務められており、派遣隊指揮官として機動戦力を率いられる神殿騎士団のスレッジ殿が来られるまでの事前準備に当たられる。師伯とスレッジ殿は『貴殿の事情』を御存知で有られるが、この場ではどこに誰の耳が有るか分からないため、これからもリョー殿と呼び、あくまでも有用な冒険者としての対応を取ることを御許し頂きたい」


 かしこまった様にコンナが紹介してくる先に居るのは、もしかしてドワーフか、背が少し低くてその割に頭が大きめで、がっしりというか、筋肉で出来た着ぐるみって感じの体型だから、そうだよね。この世界で見る初のリアルドワーフか。


 しかし冒険者としての扱いか、まあ当然の事だろうけど、それでありながらこの呼び出しっていうのが少し気になるところだな。


「それで、態々貴殿をこの場に呼び出した理由だが、貴殿とその奴隷達のお力をお借りしたく依頼という形を取らせて頂く。もちろん、先ほども説明した通り今の雇い主である子爵の御許可を頂いたうえでの依頼になります」


 うーん、わざわざ呼び出したうえでの依頼ってなんだろ。普通の話なら、十把一絡げで集団に話せばいいような気がするし、そうでなくても俺以外の顔役連中を集める気がするんだよね。


「では師伯、ご説明をお願いします」


「分かった、ただよコンナ、コイツは本当にそうなのか、いっちゃあ悪いが、かりにもライフェル教の第一僧兵団と神殿中央軍の隊長格が二人も居る席でこういう事をしてるってのはどうにも」


 じとっとした目で、ゴリョウが見て来るのは俺の胸元辺り、まあ気持ちはわかるけどね。なにせここに来る前からずっとアラが抱き付いたままだからさ、俺だって会社の重要な会議にちっちゃな子供、それもどう考えても親子には見えない異性の子供を抱っこしたまま入ってきたら、コイツ何考えてるのって思うもん。


「この子の事は気にしないでくれ」


 とは言え、明日の朝までこうしてるって約束だから仕方ないよね。ぎゅっと抱き付いてくるアラの後頭部を撫でながら答えると、ゴリョウは小さくため息を吐く。


「まあいい、冒険者や勇者の性癖にいちいち口出すなってのは、俺も聞いた事があるからよ。話をつづけるぞ、さっきもこの国のお堅い貴族連中に説明してやった話なんだがな。とりあえずの目的はよ、この一帯の防衛陣地をまるっと改良強化しちまって、これまでの敵の攻撃を防ぎ続ける事で緩慢と敵の消耗を期待するなんていう、消極的な戦いじゃなくてよ、積極的に敵を誘い込んで、一気に迎撃するって訳よ。そうすりゃ効率よく短期間で魔物を撃滅する事ができるだろ。今までの方法じゃ『迷宮』から溢れた魔物をまるまる駆除し終えるまで、よくて数か月、場合によっちゃ十数年もかかっちまってたがよ。他にもヤバい状況の『迷宮』が有るこの地域の状態を考えればよ、それほどの期間を掛ける訳にはいかねえだろ」


 ぶっきらぼうな物言いで、説明してくるけど、言われてみればこの戦いの目的は、ただ単に魔物を防ぐ事じゃなく防ぎ続けながら殲滅する事なんだから、積極的に打って出るのもアリなのか、まあそのせいで守りが薄くなって魔物を逃がしちゃ本末転倒だろうけど。でもさ……


「陣地を改良するだけで、そこまで出来る物なのか。そもそもの話、敵集団を目の前にしてそんな事が出来るのか、こっちが工事しているのをゴブリンどもが呑気に見守っている訳がないだろう」


「ま、当然の疑問だわな、これから行う改良だけどよ、これはかつての『勇者』クニオ様の残された要塞計画の図案を元にしたもので、防衛線上に複数の『稜堡りょうほ』を築くんだ」


 またミリオタ勇者(クニオ)か、いろんな面で異世界の思想を汚染している気がするな。でも『稜堡』ってなんだろ。


「『稜堡』ってのは三角や矢じり型をした突出部分のことでよ、要塞の周囲を囲む放射状に配置して、上空から見ると星型のように見える幾何学的な形を取る防衛施設のことだ。本来は今回みてえな包囲戦なんかで使うもんじゃねえから、これを『稜堡』って呼んでいいのかは微妙な所だし、生兵法になりかねねえがよ、それでも状況や特性を考えりゃあ、無理やりにでも使った方が、よさそうだからよ」


 そう言ってゴリョウが図面を広げるけど、本人が言っている通り俺とハルが作った防衛線から鋭角気味な二等辺三角形が数本も伸びてて、真っ直ぐだった城壁が少しいびつなギザギザ模様みたいになってるな。でもなんでこんな形を取るんだろ、これだと飛び出したところが弱点になったりしないのかな。


「こいつの目的は、平面の城壁と違って攻めてきた敵を多方面から攻撃できるようにするって狙いよ。お前さんの作った防衛線は立派なもんだがよ、まっ平らで真下に貼り付かれた時に弱ええし、防壁裏の足場がそこまで広くねえから弓職や遠距離スキル持ちが二列程度に並んで撃つ分には十分だが、大型射撃兵器の床子弩バリスタなんぞを設置するには狭すぎるんだよ」


 バリスタって、確か大きなボウガンみたいな奴だよな、まあ大砲みたいなものだろうから、結構スペースを取るのかな。


「『稜堡』の中は全体的に盛土をしてかさ上げするから、床子弩や連弩なんかを配置しやすくする予定だ。もうすぐ、神殿の手配した『簡易魔道具』で強化した床子弩等の大型射撃兵器、遠距離スキルや弓矢を使えねえ連中用のクロウスボウがたんまり到着する。ついでにコンナが指揮する僧兵連中は全員遠距離攻撃手段を持ってるしな。あの床子弩なら、ゴブリンの防御スキルごと貫けるし、そうでなくても雑魚の数体を一撃で貫通できる。『稜堡』を築く事で、これらの遠距離攻撃の効果はさらに高まるって寸法よ」


 うーん、なんでこの陣形で遠距離攻撃が使いやすくなるんだろうか。


「城壁の真下に敵に貼り付かれた場合の有効な攻撃ってのは、真上から物を落とす事ぐらいだが、これは向こうも承知の上だろうし何より一方向だけだから、そっちに注意しとけば避けるのも防ぐのも何とか対応できちまう。かと言って城壁の上から弓や遠隔スキルで壁の真下を狙うってんならよ、胸壁から身を乗り出さなきゃなんねえから、敵さんからすりゃいい的だ。城や都市の城壁なんかは貼り付いた敵を横から撃つために、壁から少し張り出した『側防塔』なんかがあるがよ、こいつは貼り付いた敵への側面射撃が出来るが、あくまでも城壁下に取り付かれた時の守りの道具で、向かってくる最中の敵に対しては普通の城壁と変わらねえし、塔に貼り付かれちゃ結局は一緒だ、より積極的に殺しに行くなら『稜堡』の方がいい」


 より積極的に殺しに行くって、目的として間違ってはいないけどさ、その言い方はどうかと思うんだけど。


「『側防塔』しかねえ、ほぼ真っ平らに近い城壁だと、向かってくる敵への攻撃はすぐ近くに来られるまで前、もしくは斜め前に撃つだけだし、角度によっちゃ狙いにくくなる、向こうにしたって前だけに盾を並べりゃいいから守りながら前進できる。だが複雑な形状の『稜堡』がある陣地なら、いろんな角度から撃てるんだよ。例えば『稜堡』の一つを狙って攻めて来たとしても、尖った頂点部分に数を向けるのは難しいから大半は側辺に取り付くだろうがよ、そうなりゃ敵は隣接する別な『稜堡』や防衛線の本体に側面や背面を晒す事になるから、攻めながらどんどん撃たれて削られてく。防衛線の本体を突こうと、『稜堡』と『稜堡』の間に入ろうものなら前と左右から狙える、そうなりゃ真後ろ以外の全方位から飛んでくる矢を防ぐのは難しいだろうよ。そんな場所じゃ今みたいにゴブリンが即席の土塁を築いて橋頭保にするなんてのも難しくなるしな、何せ守らなきゃならねえ方向が正面だけだったのが全周になるんだからよ、横から撃たれながら土木作業ってのは事だろうよ」


 なるほどね、でもさここの辺りだけ強化してもゴブリンが逃げて他の陣地に行くだけなんじゃ、たとえ攻めてきてもこっちが集中射撃をしやすい場所に来てくれるとは限らないだろうし。


「陣地の前に、空堀や罠なんぞを仕掛けて敵の行動線を制限して誘導すりゃそう言った削りやすい場所に敵を誘い込める、幸い相手は魔物だから『誘魔香』が使える」


 なんだ『誘魔香』って、まあ名前の感じだと何となくイメージが付くけどさ。


(『誘魔香』とは、周囲の魔物を引き寄せ陶酔させる効果の有る魔法薬の一種じゃ、猫類に対するマタタビのような物と考えればよいかのう。『迷宮』などで少量撒くだけで、広範囲の魔物を大量に呼び寄せる事が出来る為、『勇者』等が短期間に大量の魔物を狩ろうとするときや、お主等が『蠕虫洞穴』でやった様に、パーティーの野営地や主要経路から離れた場所に魔物を集めて安全を確保するなどに以前は使われておったのじゃがの。敵対する冒険者に振りかけて魔物に襲わさせたり、予想以上の魔物が集まったせいで『勇者』のパーティーメンバーが一度に数名も死傷する等という事も有っての、現在では製造、販売、所有、使用のそれぞれが許可制となって厳しく制限されて居るのじゃ)


 ああ、やっぱりこの手のファンタジーのお約束アイテムだったか、しかもよくあるパターンの悪用や失敗が既にされてて対策が取られてるってのが何とも。


(本来は、『魔物調教師』が捕えた魔物を馴らす為に使った物での、この香と調教師の汗など匂いが付いた物を同時に嗅がせる事で、調教師の匂いを好ましい物と魔物に思わせ調教の効率を上げる事が出来たり、魔物を売る際に新しい主の匂いを覚えさせてすぐに乗れるようにするのに使っておったのじゃ。もっとも分量を間違えて香を多く使いすぎると、好ましいを通り越して好物の獲物と思われ、どこまでも追い回される事となるらしいがの。以前あった話ではとある馬鹿貴族が、旅の『魔物使い』が連れていた高レベルの魔物を奪おうと、『魔物使い』を毒殺し、自らの手巾に『誘魔香』を浸して魔物に嗅がせたが、香の量が多かったために襲い掛かられ、多くの護衛を犠牲にして騎馬を何度も乗り換えて他国まで逃れながらも、半年にわたって数百キロを追い回され、最期には食い殺されたなどという話もあるからの。そう言えば、先ほど言った敵対者に魔物をけしかける方法として、目標が泊まった宿を出た直後に、宿から目標の使ったシーツ等を盗み、香を振りかけて魔物の巣に投げ入れれば、目標が『迷宮』に入った直後にフロアボスを始めとした魔物に囲まれた等という事も有ったらしいのう)


 うわあ、そりゃ規制される訳だわ、どう考えても危険すぎるよねこれ。


続きは、可能なら数時間後、もしくは明日投稿予定です。


H30年8月07日 誤字修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ、これ最後もしかしてテトビのやつそのためにか?
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